エクマヨと晩餐のテーマ
厨房でシャオとチサがお子様ランチを作り上げると同時に、瑞希はカエラに頼まれていたエクマを使い、一つの料理を作り上げた。
「それにさっきの甘い乳を使ったのじゃ?」
「そうそう。マヨネーズとシャクルの果汁、それと練乳を混ぜたソースに衣を付けて揚げたエクマに纏わせるとエビマヨ……エクマヨの完成だ! そっちもお子様ランチが完成したみたいだし、二人はアリベルにその皿を持って行ってあげな」
「その前にその料理を一つ食べてみたいのじゃ!」
「……うちもうちも~!」
「まだ熱いから気を付けてな……ほら」
瑞希は皿に盛り付けていないエクマヨをシャオとチサの口に入れる。
咀嚼する二人の口の中では、甘酸っぱく、こってりとしたソースの味と、衣の中から現れるエクマのぷりぷりとした食感の虜になる。
「どうだ? 練乳を使ったのに美味いだろ?」
「美味いのじゃ! ただのまよねーずよりもこってりしておるのじゃ!」
「……なんか不思議に美味しい!」
「意外な組み合わせだけど、美味いんだよな! それにこれなら冷やしたエールとも合うしな!」
瑞希の言葉にピクリと反応をしたのはシャオだ。
シャオは今回の晩餐のテーマを聞きそびれていた上に、アリベルの食事作りに熱中していたため、聞き直すのを忘れていたようだ。
「ミズキ……もしや今回のテーマは酒なのじゃ?」
びくりと菜箸を持っていた瑞希の腕が震える。
「ま、まぁ……そういう事になるな……」
「お~ぬ~し~は~! 昨日酒で失敗したのに良い度胸なのじゃっ!」
シャオは拳を振り上げながら瑞希に突撃をするが、チサに羽交い絞めをされ、止められる。
なおもじたばたと暴れるシャオに瑞希が弁明をする。
「カエラさんが飲みたがってたんだから仕方がないだろ!? それに酒と料理は切っても切れない関係なんだし!」
「うぬぬぬ! それでも昨日の今日なのじゃ!」
「……まぁまぁ、ミズキが飲むわけやないんやから」
チサに抑えられるシャオはじろりと瑞希を睨みながら確認する。
「……本当に今日は飲まんのじゃ?」
「今日は仕事が終わったら風呂に入ってゆっくりするよ。それに昨日の分のブラッシングもしなきゃだしな?」
その言葉を聞いてシャオは嬉しい顔を抑えきれない様な、むずむずとした表情をしている。
「くふ……ふんっ! わ、分かっておるのじゃったら良いのじゃ!」
「……うちもしてな?」
「はいよ。じゃあ二人はアリベルに冷めない内に料理を持って行ってやりな! 熱いってのも美味い事の大事な要素だぞ」
「わかったのじゃ! チサ、早く行くのじゃ!」
「……急ぎすぎて落とさんといてや」
二人は気を付けながらも、急いで厨房から料理を運ぶ。
静かになった厨房では、瑞希がエクマヨとは別の料理の味見をする。
「よし。この料理から酒を切り替えてもらって……」
「次の料理を取りに来たっす!」
「次はどんなお料理ですか?」
現れたのはジーニャとアンナだ。
二人はカウンター越しに瑞希に話しかける。
「良いタイミングだな! 次の料理は――」
瑞希が二人に料理と酒の説明をしていると、ふと、称賛された様な気がした――。
◇◇◇
「美ん味ぁっ! お嬢ちゃんのエクマ料理も美味しそうやったけど、何やねんこれっ! ドマルはんこれもう食べたっ!?」
エクマヨを口にした、エクマ好きのカエラが絶賛する中、急に声を掛けられたドマルは驚き、エクマで喉を詰まらせてしまう。
「ちょっ! 驚かせてしもてごめんやで? ほらエールでも飲みぃな」
ドマルはカエラに渡されたエールを受け取ると、ごくごくと飲み干し、苦しみから解放され安堵の息を漏らす。
「もう~、驚かせないで下さいよ。それにしてもこの料理はこってりしてるからかエールに合いますね!」
「確かに口を洗い流すのにエールを使うと不思議ともう一つ食べたくなるな」
バランもエクマヨを気に入ったのか、エールと料理を交互に食している。
「うちはまだエールと合わせてへんかったわ。ドマルはん、グラス返して」
ドマルは手に持つグラスとカエラを交互に見やると、理解したのか慌てふためく。
「え? あ……このグラスってカエラ様のですか!?」
「せやけど……何や、嫌やった?」
「と、とんでもないですっ! むしろカエラ様に悪いかと……」
「ええて、ええて、気にせんで。ほら、うちもエール飲みたいから!」
カエラは半ば強引にドマルからグラスを取ると、何かを察したテミルがそのグラスのままエールを注ぎ、間髪入れずにカエラがごくごくと飲み干した。
「ほんま料理もお酒も美味しいわぁ! エクマ料理を頼んだ甲斐があったわぁ! お嬢ちゃんの料理も美味しそうやな?」
カエラはどこか照れ臭かったのか、話題をアリベルの料理に持って行く。
「すっごく美味しいの! このお肉の料理も、卵の料理も全部、ぜぇ~んぶ美味しいんだよ!」
アリベルの顔はその言葉通りに、幸せ一杯の顔なのだが、口の周りを汚している。
それに気付いたミミカがアリベルに注意しながらも、ナプキンで綺麗に拭き取る。
「もう、綺麗に食べないとテミルに怒られるわよ?」
「だって美味しいから~……」
「くふふふっ! 焦らずともゆっくり食べるのじゃ! そのはんばーぐはわしが作ったのじゃ!」
「……おむらいすはうちが作ったんやで」
「お姉ちゃん達すごいねぇ! この絵を描いたのはだぁれ?」
「それはミズキ様が描いてくれたのよ。良いなぁ~アリーだけだねぇ?」
「お兄ちゃんも凄いねぇっ! ミミカお姉ちゃん、私もそのお料理食べてみたいなぁ」
アリベルはミミカの手元にあるエクマヨをじっと見つめる。
「じゃあ私にもはんばーぐを一口頂戴? 私もはんばーぐ好きなんだ」
「良いよ! はい、あ~ん!」
「じゃあアリーも……あ~ん!」
二人は仲良くお互いの料理を口に入れ合う。
「「美味しいっ!」」
お互いの料理の美味しさに思わず声が合わさってしまい、思わず笑ってしまう。
傍から見れば本当の姉妹と言っても誰も気付かないであろう。
「二人共仲良しさんやなぁ~? ドマルはんもしよか?」
「とととと、とんでもないですっ!」
「別に初めてやないんやし、そないに否定せんでもええのに~」
酒も入り、ぐいぐいと攻めるカエラにドマルはたじろぐが、バランはその光景を楽しんでいた。
ミミカもカシスオレンジの様な酒を飲みながら眺めていたが、徐々に顔が熱くなり始める。
「どうやらミミカはアイカに似て酒は強くないようだな?」
「お母様も弱かったの?」
「アイカはグラス一杯で酔っ払っていたな……酔うとずっと笑っているからそれだけで場が賑やかだったが……今もそう変わらんな」
バランは含み笑いをしながらエールの入ったグラスを傾ける。
「へえ~! お父様がお母様の事を話すなんて珍しいわね! もっと聞きたいわ!」
「ミズキ君の料理は舌を滑らせ過ぎるな。そうだな……アイカは――」
瑞希の料理のせいか、酒の魔力のせいか、食卓の場は賑やかだ。
その光景を見たシャオはくすりと笑い、瑞希の魔法の行方を見守るのであった――。
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