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前菜とお子様ランチ

 本日の晩餐の場にはバランとカエラは勿論、ミミカ、アリベル、そして何故かドマルまでもがカエラの側に着席をしていた。

 マリジット地方の領主であるカエラとは何度も食事を共にしたドマルだが、バランとの食事は意外と初めてであり、場の空気感に緊張したのか、薄っすらと汗を掻いている。


「なんやのドマルはん? 緊張してんのかいな? うちと何度も食事してたやん?」


「そ、そうは言ってもこういう貴族様方が集まる場での食事というのが初めてで……」


「せやからバランはんに頼んで誘って貰ってん。ええ練習になるやろ?」


 微笑みながらドマルに話しかけるカエラだが、カエラの婚約者役という大仕事が控えているドマルにとっては、緊張する場でしかない。


「ドマル君、君からすれば私達は貴族かもしれないが、知らない仲ではないだろう? 今日は友人との食事会だと思ってくれれば良い」


「は、はいっ!」


「そうですよ! 折角ミズキ様がお料理を用意してくれるんですから楽しみましょう!」


「アリーお腹すいたぁ……」


 お腹が空いてぶうたれるアリベルや、緊張をしているドマル、瑞希が用意する晩餐が楽しみなで笑顔が溢れているカエラ達の姿に、かつての寂しい食事風景を知っているテミルの胸中は嬉しさで満たされていた。


「それにしてもやけに暖かいな? テミル、暖炉の火をもう少し減らしても良いのではないか?」


「ミズキ様が室温をいつもより暖かくしておいて欲しいと仰られておりまして、お料理が始まりましたら少し室温をお下げ致します」


「ミズキ君が? 本日の料理と何か関係があるのだろうか?」


「なんやろな~? ミミカちゃんは今日の献立はなんも聞いてないん?」


「本日のお料理はお手伝い出来てないんです。なので私も献立が分からなくて……」


「ドマルはんも聞いてないん?」


「僕も仕入れをしただけで料理の内容までは聞いてないですね。心配しなくてもミズキの事ですからカエラ様を楽しませてくれますよ」


 ドマルはにっこりとカエラに微笑むと、卓上の水に口を付ける。

 スッキリとした飲み口は以前飲んだことのある、シャオの魔法だと気付いた。

 それに加え、薄っすらと感じる酸味に頭を捻る。


「これは……シャクルの果汁が少し混じってるんですか?」


 ドマルはテミルに尋ねた。


「ミズキ様が念の為にと……どういった料理を御用意されたんでしょうね」


 テミルはクスクスと笑いながら、少なくなったドマルのグラスに水を注ぐ。


「念の為……?」


 ドマル達が会話をしている中、部屋の扉が開かれる。

 料理を持ってきたのはアンナとジーニャである。


「お待たせしました! まずは前菜っす!」


「大人の皆様にはこちらのお飲み物をとミズキ殿が勧められております」


「じゃあ私も?」


 成人を迎えているミミカがアンナに尋ねる。


「ミミカ様には飲ませて良いか判断が付かないのでバラン様に委ねるそうです」


「私にか? という事は酒か?」


「その通りです。最初のお飲み物はエールです」


「エールっちゅうたら酒場とかで飲まれてる奴やろ? それをミズキはんが勧めるんかいな?」


「ミズキさんは好きで良く飲むそうっす。ミズキさんの飲み方を試して欲しいとの事っす」


 大人の前に置かれたグラスにはとくとくと音を立ててエールが注がれる。

 そして前菜として置かれた皿は長方形の皿が使われており、左から小魚、豆、ポテトサラダが盛り付けられている。

 瑞希からすれば珍しくもない所謂、付き出しとして良く見かける物だ。


「お料理は左から南蛮漬け、焼きモトーチャ、グムグムサラダです」


「モトーチャを焼くんですか? 茹でたのは食べた事ありますが」


「まぁまぁええやんええやん! ほな皆グラスを手に持って~……って冷たっ! なんやこれ!? エールの入ったグラスが凍っとるで!?」


「シャオちゃんの魔法でエールもグラスもキンキンに冷やしてあるっす! アリベルちゃんはジラの果汁のジュースっす! お嬢は……」


「良い機会だ。ミミカも少しは飲んでみろ。貴族の集まりで飲む機会も増えるだろうしな」


「そ、それじゃあ頂きます……」


「ほんじゃあ気を取り直してマリジット地方とモノクーン地方の友好に乾ぱぁい!」


 カエラが笑顔でグラスを高く掲げ、各々もつられてグラスを掲げる。

 部屋が暖かい事もあり、少し喉も乾いていたカエラはエールを一口飲むと、ぐびぐびと飲み干してしまう。


「めっちゃ飲みやすい! 苦味もええな!」


「ここまで飲みやすいのは冷えてるからでしょうね。普通に酒場でのむ時は常温ですから、もっと苦味を感じるんですが」


「(に、苦ぁい……)」


 初めて口にしたエールが、ミミカには合わなかったのか、舌を出しながら顔を顰め、ムルの蔦を差したグラスからジラのジュースを飲む隣のアリベルをチラリと羨ましそうに眺めた。


「お姉ちゃん大丈夫?」


「だ、大丈夫よ! お姉ちゃんは大人だもん! それよりアリーの料理は?」


「アリベル様のお料理はシャオ殿達がもうすぐお持ち致します。それとミミカ様が苦手そうな顔をしてたらこれをとミズキ殿が……」


 アンナはミミカの前に氷が入ったグラスを置く。

 少し濁った色なのだが、香りはジラの香りがする。


「これは?」


「コロンの実を潰した物に、ジラの果汁と蒸留酒を少しだけ混ぜております。ミズキ殿はかしすおれんじというお酒だと仰られておりました」


「かしすおれんじ……? あっ! 甘くて美味しい!」


「お酒は飲みなれていないと飲みにくいですからね。それでもこの飲み物にもお酒は入っておりますので飲みすぎには注意して下さい」


「何でミズキ様にばれちゃってるんだろ? 美味しい~」

 

 ごくごくと嬉しそうにカシスオレンジを飲むミミカにアンナが説明を終える頃、カエラ達は前菜の料理に手を付ける。


「この小魚頭から食べても全然気にならんな! 甘酸っぱい味付けがエールに合うわ!」


「モトーチャも焦げ目が付いてないのに香ばしさは感じますね! どうやって調理したんだろ?」


 ドマルは空豆の様な食材を口にしながら、調理方法に首を捻る。


「ふふふ……」


 バランはポテトサラダを口に含みながら微笑んでしまう。

 酒と料理を楽しむ皆の姿をみたアリベルがますますぶう垂れてしまう。


「お腹すいたぁ……」


 その言葉と同時にバタンと部屋の扉が開かれた。


「くふふふ! 待たせたのじゃっ!」


「……頑張って作ったで!」


「お姉ちゃん達が作ってくれたの!? どんなお料理!?」


 シャオとチサと入れ違うようにアンナとジーニャが部屋を離れ、次の料理を取りに行く。

 アリベルの目の前には一枚の大きなお皿が置かれた。

 皿の上には小さ目なオムライス、エクマフライ、ハンバーグ、フライドグムグム、ポテトサラダ、そしてリッカの飾り切りに添えられたのは、兎のカタチをしたカマチグラッセだ。

 当然オムライスには似顔絵入りの旗が刺さっていた。


 アリベルはキラキラした目でお子様ランチを眺めている。


「お子様ランチだ! 良かったねえアリー?」


「……何これー!? 食べていいの!? 全部アリーの!?」


「くふふふ! 全部お主のじゃ! 心して食べるが良いのじゃ!」


「凄いねー! このお花もハクトみたいなのも食べれるの!?」


「……にへへへ。それはリッカとカマチで作ってんで。ちょっとミズキに手伝って貰ったけど」


 アリベルはフォークでエクマフライを突き刺すと、がぶりとフライに齧り付く。


「おぉいしいー!」


 最高の笑顔を見せるアリベルの顔を見て、シャオは得意気な顔でふんぞり返り、チサもまた嬉しそうな顔でアリベルを眺めていた。

 そんな中、好物のエクマを食べるアリベルを羨ましそうに眺めるカエラの元に次の料理が届けられるのであった――。

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