休憩の練乳トースト
食材を仕入れ、城に戻って来た瑞希達は早速厨房に入り、野菜などの皮を剥き始める。
瑞希が取る出汁の匂いを嗅ぎながら、シャオとチサは瑞希に手伝う事はないかと、瑞希の体を揺する。
「こら! 包丁を持ってる時は揺するなって!」
「何か作りたいのじゃ」
「……今日はペムイ炊かへんの?」
「今日の晩餐はペムイよりパンにしようかと思ってるんだけど……そうだ! じゃあ二人でアリベルにお子様ランチを作ってくれないか? 今日の献立だとアリベルはちょっと楽しめなさそうなんだよ」
「はんばーぐを作っても良いのじゃ!?」
「……うちはペムイ料理が作りたい!」
「良いぞ~! じゃあ小さなオムライスを作るために早速ペムイを炊こうか! シャオはハンバーグを任せた! エクマはこっちの料理でも使うから、アリベルにはエクマフライも作ってやってくれ! 野菜は……カマチでグラッセでも作ろうか!」
「ぐらっせとは何かわからんがわし達に任せるのじゃ!」
「……にへへへ! アリベルの驚く顔が楽しみや!」
二人は瑞希の下で料理をする内に、料理を作る楽しみを覚えた様で、楽しそうに調理に取り掛かる。
瑞希は二人の仕込みを眺めながらも、カエラ達の晩餐の仕込みを進めて行く。
デエゴを下茹でしたり、シャマンを切ったり、干しブマ茸を戻したりと、次々と用意したかと思えば、魚屋から買った魚と、おまけとして付けてもらった小魚を取り出した。
「そっちの小魚も晩餐に使うのじゃ?」
「折角貰ったんだから鮮度の良い内に使わなきゃな! こっちの大きなメイチは別の料理に使うけど、小魚の方は前菜に使おうと思ってたんだ」
「ミズキの魚料理は久々なのじゃ!」
「小魚の方は内臓と鱗を取ったら水気を取ってカパ粉を軽く付けたら低い温度の油でじっくりと揚げるんだ!」
「……骨も頭もとらへんの?」
「これぐらいの小ささなら骨ごと食べれるから大丈夫! こっちのメイチは捌いてから塩を振っておいて……」
瑞希が魚を捌く姿に二人は見惚れる。
先程迄は頭が付いた魚だったのが、瑞希が手を動かせばすぐに切り身へと変化していく。
瑞希は切り身にしたメイチをバットに移すと、塩を掴み、全体的にまぶしていく。
「もう味付けするのじゃ?」
「味付けというよりかは、臭み抜きかな。今日はシンプルな料理にするから臭みが在ったら誤魔化せないからな。……ほらこの匂いだったら食べたくないだろ?」
瑞希は捌き終えた手をシャオの鼻に近付ける。
「くちゃいのじゃ!」
シャオは鼻を摘み、後ずさる。
瑞希は笑いながらシャオが出した水球で手を洗い、シャオ達の料理を確認する。
「ハンバーグと、オムライス、エクマフライの準備もちゃんと出来てるし、フライドグムグムも付けるか。野菜はサラダにするか?」
「アピーの飾り切りをやってみたいのじゃ!」
「ん~……デザートはアリベルも食べれるのを作るから……そうだ! リッカの飾り切りを作ってみるか? ゆっくりやれば二人でもできるからな」
「やってみたいのじゃ!」
「……どうやってやるん!?」
「まずはこうやってリッカを切ってな……」
瑞希はリッカの曲がっていない部分をある程度の長さで切り分けると、まずは中心の部分からV字に何度も切り取っていく。
「綺麗に切り分けるとこうやってずらせば……」
「す、すごいのじゃ!」
「……葉っぱみたいや!」
「正解! 葉っぱを作るんだ。んで、もう一つはさっきみたいに切り分けてから、薄くスライスしてくるくると巻いていくと……」
「「花や(なのじゃ)っ!」」
「最後にこの二つを組み合わせれば綺麗に見えるだろ?」
「チサっ! 先ずは葉っぱに挑戦するのじゃっ!」
「……その後は花やな!」
二人は早速小さな包丁を使い、飾り切りに挑戦する中、瑞希は薄くスライスしたパルマンや、モロン、極細に切ったカマチを合わせ酢と混ぜ、じっくりと揚げた小魚を漬ける。
瑞希は悪戦苦闘をしている二人の姿に笑みを浮かべながら、カマチを輪切りにしてねじり梅と呼ばれる、梅の花に見える飾り切りを作って行く。
そして、アリベルに作るカマチグラッセのために兎を模した飾り切りを作り終えると、モーム乳を取り出し、小鍋に移し、砂糖を加えて加熱をし始める。
ふわりと漂う甘い香りに、飾り切りに熱中していた二人の少女はふらふらと瑞希の傍に誘われて、瑞希がかき混ぜる鍋の中を二人並んで覗く。
「今日の甘い物なのじゃ?」
「……ぷりんでも作るん?」
「これは練乳って言ってな、お菓子作りにも使えるんだけど、今日は料理の味付けに使うんだよ」
加熱を続け、元の量から半分ぐらいまで煮詰まった所で、瑞希は瓶に練乳を入れる。
練乳を冷やすために水を張ったバットに入れた練乳瓶に、味見をしてみたいシャオがそぉっと指を伸ばすが、瑞希がシャオの頭に手を乗せる。
「めちゃくちゃ熱いから火傷するかもしれないだろ。もう少し荒熱が取れてからな?」
「うぬぬぬ。気になるのじゃ」
「粗方仕込みも終わったから片付けてから休憩にしようと思ったんだけどな~……」
「……シャオ! 早く片付けるでっ!」
「急ぐのじゃっ!」
ドタバタと洗い物をし始める少女達の為に、瑞希は苦笑しながらパンを切り分ける。
瑞希は切り分けたパンを炭火で軽く焙ると、バターを塗りつけ、荒熱が取れた練乳瓶に匙を入れ、バタートーストにトロトロと練乳をかける。
「終わったのじゃ!」
「……急いだから余計に魔力使った気がする」
「良くできました! ほら、練乳の味見。トーストにしたから食べてみな」
二人は瑞希に手渡された練乳トーストを受け取ると、近くにあった椅子に座り、おもむろに齧り付く。
香ばしいトーストに、バターの香り、そしてとろとろの濃厚な甘さが口の中に広がり、二人の少女は笑顔になる。
「甘いのじゃ!」
「……濃厚な甘さや!」
「美味いだろ? コロンの実みたいな果実にかけても良いし、パンに練りこんだり、お菓子にも使えるんだ。プリンの砂糖の代わりに練乳を使っても美味いぞ。今度ウォルカに行ったらモンドさんに作ってあげようかな」
瑞希は練乳の用途を説明しながらも、練乳トーストを頬張る。
「今日の食後の甘味はこの練乳を使うのじゃ?」
「使わないぞ? これは料理に使うんだよ」
「……こんな甘い物を料理に? 美味しいん?」
「俺も初めてこのレシピを知った時は驚いたけどな。でも作り慣れたらやっぱりこの甘さが欲しくなるんだよ」
「……どんな料理なんやろ? そうや、今回の晩餐のテーマはなんやったん?」
「あぁ今回は……」
瑞希はチサの後ろで幸せそうに練乳トーストを頬張るシャオを見ると、少し言い淀む。
その瑞希に目聡く気付いたシャオは、パンパンと手に付いたパンくずを払うと、瑞希に近付いて質問する。
「ミズキよ……何か後ろめたい事でもあるのじゃ?」
「いや……さてとっ! 休憩も終わったし、そろそろ晩餐の料理を完成させていくか!」
「……誤魔化したな」
「ミズキっ! 今回のテーマを早く言うのじゃ!」
「ミっズキっはぁーん! 今晩の料理はもう出来たぁー!?」
「カエラ様! うち等がちゃんと運ぶっすから、部屋で待っとくっす!」
ジーニャと共に突然厨房に現れたカエラの言葉を皮切りに、瑞希はこれ幸いと、本日の晩餐の料理を仕上げていくのであった――。
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