アーモフ商会での再会
以前ドマルが縁を紡いだ、キーリスにある布や衣服を主に扱う商会に到着した瑞希達は、使用人の案内の下、商品が並ぶ部屋へ案内されていた。
普段着から貴族が着る様な物までが置いてあり、奥には今回の目的の髪飾り等の貴金属類までもが置いてある。
「……なぁ? この部屋って入っても大丈夫なのか?」
「最初は僕も代表が見せてくれる商品を買ってたんだけど、カエラ様が全部買ってくれたって話をしたら、この部屋に案内してくれる様になったんだよ」
ドマルは照れ笑いの様な、誇らしい様な表情を浮かべながら瑞希に説明をする。
「そりゃあ貴族とのパイプになってくれると分かればなぁ……」
「ただ、ここの商会の生地は評判も良いし、値段も庶民が手を出せるのも多いんだよ? この服なんか銀貨一枚で買えるしね」
「……一万円か……確かにブランド品なら手頃っちゃあ手頃か……こっちのは?」
「それは金貨二枚ぐらいかな? 布も良いし……ほら、ここの縫い方が特徴的でね――」
ドマルは服を手に取り、瑞希に縫い目の説明をする。
瑞希にすれば服はそれなりに着れれば頓着がないため、ドマルの言う事は理解が出来ないのだが、職人という観点からすれば、目に見えない場所にこだわりを感じる仕事がある商品は高くなるのも必然かと納得する。
「――それに、ここの商会は挑戦心も忘れてないのが良いんだよ! ほら、この服だって……」
「ガハハハハッ! ドマルっ! そんなにうちの商品を褒め過ぎんなよ!」
瑞希達の元に現れたのは強面のガタイの良い男性だ。
「ドマルは本当に細かい所まで見てやがんな! いっその事うちの職人になりゃ、良い職人になりそうなのによ!」
代表と思われる男性は笑顔でドマルの背中を叩く。
ドマルは背中の衝撃に、よろめきながらも瑞希の紹介をする。
「いたたた……紹介します、僕の友人のミズキです!」
「うおぉー! 兄ちゃんが噂のミズキさんかっ! ドマルからも、リーンからも聞いてるよ! ドマルからはんばーがーの話も聞いてたんだけどよ! 生憎祭りの間は違う街に出ちまってて食いそびれたんだよ!」
声が大きい代表の声に、瑞希の側に居たシャオとチサは軽く耳を塞ぐ。
瑞希は慣れた手付きでにこやかに手を伸ばす。
「どうも初めまして。ミズキ・キリハラです」
「シープ・アーモフだっ! アーモフ商会へようこそっ!」
ぐっと力を込められた握手と、距離が近い笑顔に瑞希はたじろぐ。
「ミズキさんは冒険者でもあるんだよな? もしかしてストーンワームなんかも狩ったりしてるかい?」
「ストーンワームですか? この子の訓練の時なんかに出てくれば狩ってますね。この子もこの前狩りましたよ?」
瑞希はチサの頭にポンと手を乗せ紹介する。
チサはシープに視線を送られ、照れ臭そうにはにかむ。
「おぉ! あの固いストーンワームをこんな小さな子が!? 鋼鉄級の冒険者でも苦労する魔物だぞ!?」
「この子もさっき立派に鋼鉄級に上がったんですよ。そのお祝いも兼ねて妹達に可愛い髪飾りでも買おうかと思ってドマルにここを紹介して貰ったんです」
「……そうやったんや……にへへへへ」
「わしの指導の賜物じゃな!」
シャオは得意気に腕を組み、大きくふんぞり返る。
「ミズキさん達冒険者がストーンワームから取れる糸を納品してくれるからこの服達も作れるんだよ! あいつ等固い上に、糸も丈夫で切れないだろ? 俺等衣料品を扱う職人からすりゃ大喜びな素材なんだぜ!」
「くふふふ! ミズキならストーンワーム如き一刀両断なのじゃ!」
瑞希の代わりにシャオが自慢気に言い放つ。
「そいつぁ~頼もしいな! これからもストーンワームを見かけたら宜しく頼むぜ! ……っと、世間話はここまでにしといて、髪飾りだよな? そっちは俺の嫁の管轄だからちょっと呼んで……「呼ばなくても貴方の大きな声は聞こえてます」」
シープの大きな声で、ドマルとチサはその気配に気付いていなかったが、見覚えのある女性と、その手を握り恥ずかしそうに母親に隠れる息子が現れた。
「ミズキさん、その節は大変お世話になりました。おかげでこの通り元気に働けております」
シープの奥方は深々と瑞希に頭を下げた。
その顔を見た瑞希が気付き、その後直ぐに二人の姿に気付いたドマルが声を上げた。
「あぁ~! あの晩の! シープさんの奥様だったんですか!?」
「恥ずかしながらそうなんです……私もドマルさんの話は主人から聞いていたのですが、今日まで御顔を拝見できてなかったので、あの晩はドマルさんという事に気付けなかったんです……」
奥方とドマル達の会話を不思議そうに聞いていたシープは、三人の間に立ち、視線を右往左往させる。
「ん? ん? 二人はうちの嫁と知り合いだったのか?」
「貴方にも言ったでしょ? お祭りの最終日に私が怪我をした話! あの時の怪我はミズキさんが綺麗に治してくれたのよっ!」
「なにぃっ!? そうなのかミズキさん!?」
驚いたシープは瑞希に詰め寄る。
「ここで会えるとは思ってませんでしたけど、お元気そうで何よりです……ところで、息子さんは何で隠れてるんですか?」
チラチラと母の後ろから瑞希の顔を見る子供に違和感を覚える。
瑞希の記憶では無邪気に遊ぶ様な子供なのだ。
「この子からすればミズキさんは英雄ですから。あの後からこの子ったらミズキさんみたいに魔法が使ってみたいって、良く真似をしてるんですよ?」
母親はそう言い、笑いながら、照れ隠れる息子を前に押し出した。
「英雄って! そんな大層なもんじゃないですよ!? 出来る事をしただけですから!」
「それでもミズキさんが治療してくれなかったら私は今でも治療院にいるか、下手をしたらこの世にいなかったかもしれませんから。私達からすれば英雄ですよ」
にっこりと笑顔で伝えられた瑞希は、気恥ずかしそうに頭を搔く。
瑞希の後ろではその姿を見たシャオとチサが笑い声を隠す様に、口を手で隠しながら笑っている。
「御礼が遅れちまった! 俺も嫁から話を聞いてたんだが、俺はその時キーリスにいなかったし、こっちに帰って来てからぴんぴんしてる嫁が言うから、話半分で聞いてたんだよ……その話の主がミズキさんだったとは……こいつらを救ってくれて本当にありがとうっ!」
「あの時はお名前を聞かずに申し訳ありません。本当にありがとうございました」
「ありがとうござーますっ!」
父と母が頭を下げて御礼を言う姿を真似て、息子も並んで頭を下げる。
その姿に瑞希が慌てふためく。
「止めて下さいって! 俺達は出来る事をしただけですから!」
「それでもあの悲惨な出来事の日が、素敵な思い出の日に塗り替えられたのは間違いありませんわ? あの料理を食べて以来この子も野菜を食べる様になりましたの。ね?」
息子は興奮しながら瑞希に伝える。
「お兄ちゃん達が作ったスープ美味しかった!」
「そりゃ良かった。宜しかったらスープの作り方をお教えしましょうか? あの時は魔法で短時間で作りましたけど、時間をかければ誰でも作れますから」
「本当ですか!? 是非御教え願えますでしょうか? 主人にも食べて欲しいんです」
「じゃあ何か書く物を貸して頂けましたら書いておきますよ。その間にこの子達に似合う髪飾りを見繕って貰っても宜しいですか?」
「畏まりました。うふふ。こんなに可愛い子達なら髪飾りでさらに可愛さが映えますわ」
母親は嬉しそうにそう言うと、シャオとチサの背中を押し、部屋の奥へと歩いて行った。
残された瑞希にシープが紙を手渡し、まだ簡単な文字しか書けない瑞希はドマルに頼み代筆をしてもらっている。
「――で、塩と胡椒で味を付けたら完成。野菜は好きな物に代えても良いって書いといてくれ」
「了解。……これで良いかな?」
ドマルによって書かれた文字を確認すると、瑞希は何故か翻訳される文字を読取り頷いた。
「それにしても鶏ガラスープは何度か食べてるけど、これは手羽先スープなんだね?」
「骨で出汁を取るのは一緒だけど、この料理は最後に手羽先を食うからな。同じ食材でも少し調理が変われば料理名が変わるしな。グムグムなんかも――「ミズキさん、こちらはどうでしょうか? 二人に合わせて仕上げてみました」」
瑞希がドマルに言いかけた所で、話しかけられる。
瑞希は髪飾りだけだと思っていたのだが、ドレス迄見繕って貰い、二人の顔には薄く化粧迄されている。
「おぉ……」
瑞希は見慣れている筈の二人の少女を前に感嘆の声を漏らす。
シャオはふわふわとしたフリルが付いた白く輝くドレスに身を包み、ストレートに下ろされた髪形にはティアラが光輝く。
チサはシックな黒いドレスに、短めの髪の毛を装飾品の付いたピンが留められており、それがチサの黒い髪の毛に映える。
「シャオちゃんは可愛らしく、チサちゃんは綺麗に見える様にしてみました。勿論このお二人でしたら逆の魅力も出せますがいかが致しましょう?」
「凄いな二人共! どこぞの御姫様みたいだ!」
「くふふふふ! けど髪形はミズキにやって欲しいのじゃ!」
「……にへへへ! うちもミズキにやって欲しい!」
「うふふ。二人共元の髪形も可愛らしかったですものね」
「じゃあシャオは髪の毛をアップに纏めて綺麗さも出してティアラを乗せて……チサは分け目を作って片側の耳にかかる様な所でこの髪飾りを使って恰好良さも出す……こんな感じでどうだ?」
「ミズキは本当に器用だね! 二人共すっごく可愛いよ!」
瑞希は素早く髪の毛をアレンジし、ドマルはその姿を褒める。
鏡で見せられた二人はその姿を眺めながらニヤニヤと笑みが隠し切れない様子なのであった――。
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