市場の人気者
瑞希達が準備を済ませ市場へと向かおうとした矢先、ドマルを引き連れたカエラと遭遇する。
「あっ! ミズキはん! 出かけんの?」
「そうなんですよ。今日の晩餐の献立を考えようと思って」
「何が出て来るか楽しみやわぁ~! せやっ! エクマやったら仰山持って来たさかい遠慮のう使てや?」
「エクマですか……じゃあ一品はエクマの料理をお出ししますね!」
「やった! エクマはどんなお酒でも合うから楽しみやわぁ!」
カエラの言葉にシャオがじろりと瑞希を睨む。
その視線を感じた瑞希は先程迄の二日酔いの事を思い出し、愛想笑いが出る。
「今日はミズキは禁酒なのじゃ」
「そうなん? そういえばドマルはんも酒の匂いが残ってる様やけど……」
「あははは……昨日はミズキ共々飲み過ぎちゃいまして……」
「やったら何でうちを呼んでくれへんのぉ!? うちも飲みたかったわぁ!」
「さすがに昨日の様な場所にカエラ様は呼べませんよっ!」
「……裸の男だらけやったで?」
「ミズキはん! チサちゃんをどこに連れてってんの!?」
「はいっ! 真に申し訳ありませんっ!」
瑞希は姿勢を正し、平に謝る。
その姿が面白いのか、シャオとチサはくすくすと笑っている。
「まぁええわ……。ほな今日の晩餐はよろしゅう頼んだで?」
「承知しました。ドマルはこの後仕事はあるか?」
「特にないけど、どうしたの?」
「まとまった金も入ったし、シャオ達の服とか髪飾りを買いにも行こうかと思うんだけど、良い店を教えて欲しいんだ」
「それなら良い店を紹介するよ! ミズキの懐事情なら問題ないしね!」
瑞希が売り上げた屋台の売上を知っているドマルは、諸経費を引いた金額を瑞希に渡している。
それに加え、瑞希はバランの依頼報酬も貰っているので、こちらの世界に来てから過去最高に裕福な状態だ。
「助かるっ! じゃあカエラさん、ドマルは一旦お借りします!」
「ちゃんと返してや~?」
カエラは冗談交じりで返事をすると、馬車へと乗り込む瑞希達を見送るのであった――。
◇◇◇
キーリスの冒険者ギルドから出て来た瑞希達は手に持つギルドカードを眺めていた。
カイン達の手元には白く輝く銀色が、瑞希には鈍い銀色が、チサの手元には鈍色のカードがそれぞれ発行されている。
「うわ~……本当に銀級冒険者になっちまった……」
「……にへへ。鋼鉄級や!」
「白銀級になったら受けられる依頼も増えたぜ」
「しばらくは危険な仕事は受けないわよ? この子に冒険者のイロハを叩き込むから」
カインのぼやきに、ヒアリーがこつんとジョセの頭を叩く。
そんなジョセの手元には銅級冒険者のカードが握られている。
「監視だけで良いのにわざわざ冒険者にしたのか?」
「働かざる者食うべからずでしょ? 一緒に居るんだから最低限の仕事はして貰うわ。どちらにせよキーリスを暫く離れられないわ」
「お姉様っ! 私はこう見えても薬草とかの調合は出来ます! 痺れ薬や……睡眠薬も……ぐへへ」
気持ち悪い笑みを浮かべているジョセに対し、瑞希とドマルの顔が思わず引きつると同時に、ジョセの頭はヒアリーに寄って叩き落とされた。
「私達に使ったら焼き殺すからね?」
「あん……お姉様ったら容赦ないんですから……」
「なんて言うか……ごめんなカイン?」
「まぁ冒険者の育成をするのも、先輩冒険者の仕事の内よ。とりあえずは報酬もたんまり貰えたし、暫くはキーリスでのんびりさせて貰うわ」
「そっか。じゃあまた何かあったらお願いするかもしれねぇけど、そん時は宜しく頼む!」
「おうっ! ドマルも護衛の依頼があれば言ってくれ!」
「あはは! その時は瑞希達も交えて大勢で旅したいね!」
瑞希達はカイン達と握手を交わし別れる。
瑞希達は馬車に乗り込み、市場へと向かうが、賑やかだった馬車内は少し静かになっていた――。
◇◇◇
場所を移動し、市場へとやって来た瑞希達は、馬車を止め、市場内にある八百屋を訪れていた。
「ミズキちゃんじゃないの! お礼がしたかったのに全然顔を出さないんだからこの子は~! お嬢ちゃん達は今日も可愛らしい髪形でベッピンだね~!」
髪型を褒められ嬉しそうにしているシャオとチサに、いつもの様に八百屋の旦那が、中身をムルの蔦でかき混ぜるとジュースになるレデの実を手渡し、二人は美味しそうに飲んでいる。
「あの後すぐに別の仕事が入っちゃって。旦那さんもお元気そうで何よりです!」
「がはははっ! ミズキに治して貰ってから逆に体調が良くなっちまったよ! 今日もポムの実かい?」
瑞希の側に居たドマルがこそこそと瑞希に耳打ちをする。
「(ミズキ、カエラ様はポムの実が苦手だよ)」
「(えっ? じゃあポムの実は外すか……) 今日はポムの実は無しで。ジラの実は在りますか?」
「あるぜ。料理に使うんかい?」
「果物は甘い物に使えますし、絞ればジュースにも出来ますしね。丁度切れてたので買っとこうかと思って」
「あいよ! ……そうだ! ミズキならこれも料理に使えるんじゃねぇか?」
八百屋の主人はそう言うと、手のひらサイズの小さなグムグムを取り出した。
「グムグムですか?」
「そうだ。グムグムはでっかく育てるために途中で育ちの悪いのを間引いちまうんだけど、これはこれでねっとりしてて美味ぇんだぜ!」
「ちょっとあんた! そんなのより、ちゃんと育ったグムグムをおやりよ!」
「ねっとりしてるんですか……あっ! それならデエゴとかカマチも頂けますか? 後はパルマンと……」
瑞希の注文に八百屋の主人は野菜を詰めていく。
「こっちの間引いたグムグムは買い手も見つからねぇからおまけしとくぜ! にしても今日は野菜ばっかりで良いのか?」
「今日は友人の馬車もあるので、肉とか魚も買おうかと思います!」
「くふふふ! 今日の夕飯はなんじゃろうな?」
「……肉とか魚言うてるし……それより、ジラの実の甘い物が気になる!」
「あんた達はミズキちゃんに美味しい物作って貰えて良いねぇ! ミズキちゃんも早く料理屋を出しなよ! 毎日だって行くからさっ!」
「わははは! もう少し食材の勉強が終わってからですね! このグムグムだって食べた事なかったですし!」
瑞希が井戸端会議をしていると、違う店から瑞希を見つけた者が大声で声を掛ける。
――ミズキちゃーん! うちの魚はどうだー!?
――ミズキー! 今日はモーム肉もあるぞー!
「あははは! ミズキは人気者だね?」
「くふふふ! 相変わらずここは賑やかなのじゃ!」
「今行きまぁーす! 野菜ありがとうございます! また来ます!」
八百屋の夫婦は瑞希達に手を振り、瑞希達はその後肉や魚等を購入し、市場を後にした。
シャオとチサは瑞希が何を作るのかを議題に、会話しながら、ドマルの勧める商会へと足を運ぶのであった――。
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