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マリルの頼み事

 シャオとチサの朝食に加え、回復魔法の許可を貰えた瑞希は、爽快な気分でシャオとチサのブラッシングを終え、二人の髪形を作っていた。


「――よし! 今日は二人共お揃いのリボンにしたぞ」


 二人は瑞希に鏡を見せられ、同じ様な位置で結ばれたリボンを嬉しそうに眺めていた。


「じゃあ約束通り市場に行こうか!」


「くふふふ! 今夜の食事が楽しみなのじゃ!」


 瑞希が食材を買いに行くのも理由が在る。

 朝食を終えた瑞希は、自室に戻る前に二人の娘に呼び止められた。

 カエラとミミカである。

 

 カエラは折角瑞希と会えたのに瑞希の料理が食べれてない事を嘆き、ミミカはアンナとジーニャだけ瑞希の料理を食べた事をずるいと恨んだ。

 そんな二人にせがまれた結果、暫くは急ぎの仕事もない瑞希はのんびりと料理でもしようと思っていたので今夜の夕食を作ると約束したのだ。


「何作ろうかな~? シャオとチサは何が食べたい?」


「はんばー……「それは昨日食べただろ?」」


 シャオが言い終わる前に瑞希が止める。


「……和食っ!」


 瑞希の言う和食を理解してきたチサが答える。


「和食か……寒くなって来たし鍋とか食べたいけど、さすがに今日の夕食では出せないか……」


 瑞希がぼやきながら考えていると、その言葉を聞いたシャオが首を捻る。


「何で鍋は駄目なのじゃ?」


「俺達の食事にミミカ達が参加するなら鍋でも良いけど、今日は貴族の方達に食事を作るって体だろ? それなら以前の様に色々な料理を少しずつ出す方が話す間も生まれるだろ?」


「そんなもんなのじゃ?」


「それにコース料理の方が次にどんな料理が来るかも楽しみだろ? ミミカにも最近そういう料理を作ってなかったしな」


「……コースってのはどんな料理でもええの?」


「ん~、多少は何でもありでも良いけど、何かテーマがあると作りやすいかな? 例えばミミカとバランさんの晩餐を作った時は『乳製品と魔法』がテーマだったし、カエラさんの時は『和洋折衷』だったろ?」


「じゃあ今回は『和食』にするのじゃ?」


「それだとバランさんとミミカの口に合わなかったら意味ないだろ? 和食はあっさりしてるからな。今日のカインとドマルも最初はお粥に慣れてなかったろ?」


「……確かに……じゃあどないするん?」


「ん~……」


 瑞希が悩んでいると、部屋の扉からノックの音が響く。


「ん? どうぞー!」


 カチャリと開かれた扉からはボサボサ頭のアリベルが現れた。


「アリベル……か?」


「わらわじゃ」


「マリルか、どうしたんだ?」


「ミズキはミミカと王都へと行くのか?」


「あ~、婚約者役の依頼か? 多分行く事になるけど、それがどうしたんだ?」


「うぬぬぬっ! ならんのじゃっ!」


「……それは許してへんで!」


 シャオとチサはまだ許してないのか、瑞希を止めに入る。


「でも王都の料理は気になるし、食材だって色々あるかもしれないぞ? それにシャオとチサも俺の妹として連れて行けば問題ないだろ?」


 瑞希の言葉にまずチサが早々に折れる。


「……にへへへ。妹としてうちも行くなら……」


「ミズキに婚約者が出来るのが嫌なのじゃ!」


「あほ。あくまでそういう役なだけだ。ミミカに連れ添ってニコニコしてるだけで、王都に行けるんだから楽なもんだろ? それに俺は結婚したからってシャオと離れるつもりはないって。シャオが嫁に行くってんなら……」


 瑞希がその言葉を言いかけたその時、猛烈な父性本能が生まれる。


「相手の男は少なくとも俺より強くないと許さん!」


「……出た。これは過保護や」


「嫁になどいかんのじゃっ!」


「まぁでもシャオが幸せになれるなら許さん事も……」


 ぶつぶつとシャオの幸せについて考え込む瑞希に、シャオは恥ずかしそうに手を繋ぐ。


「ミ、ミズキと居れるならそれで良いのじゃっ!」


 照れたシャオの可愛らしさに瑞希は思わずくしゃくしゃと髪を撫でる。


「折角綺麗に出来ておったのに崩れるのじゃっ!」


「……はっ! ごめんごめん!」


 瑞希が手櫛でシャオの髪形を治し、呆れるマリルはコホンと一つ咳ばらいを落とす。


「……もう良いかの? 王都に行くのであれば人探しを頼みたいのだが……」


「アリベルの母親だろ?」


 言い辛そうなマリルに代わり、瑞希が即答する。


「察しが良いな……。アリベルの記憶ではアリベルの母君がアリベルと会いたくないという記憶があるが、わらわにはどうしてもあの母君をそんな風には思えぬのだ」


 マリルはアリベルの記憶にある母の顔や愛を覗く。

 アリベルに似て美しい母親の笑った顔、怒った顔、別れる時の顔を見るとどうしてもマリルには母がアリベルに会いたくないというのがありえないと思うのだ。


「まぁ大方王族の連中がアリベルと母親を引き離す為の嘘を吐いてるんだろうな」


 瑞希は率直な感想を話す。


「そうであろうな……わらわ達は身を隠している立場故、一緒に王都へ行けぬが、アリベルの母君をどうか探し出して貰いたい……」


 マリルは三人に向かって深く頭を下げる。

 その姿は子を思う母の様な慈しみが溢れていた。


「仕様がない。乗りかかった舟だ! 空いてる時間はアリベルの母親を探そうか!」


「……おかんに会えるのに、会えへんなんてかわいそうやもんな」


 チラリ、チラリ、と瑞希とチサがシャオの顔色を伺う。

 シャオとて二人の言わんとする事を拒否するつもりもないのだが、王都に行けば瑞希が嘘とはいえ人の者になるのが寂しさを刺激する。


「シャオ? 俺が誰の婚約者になろうが、お前は俺の大事な家族だ。シャオからすれば家族が増えるってだけだよ。それに今回は振りなんだからそんなに深く考えなくて良いって。そうだ! 折角だからシャオもうんとお洒落してもっと可愛い姿になってみるか!」


「う、うるさいのじゃっ!」


 シャオはそう言うとそっぽを向くが、耳が真っ赤になっている。


「わははは! 照れなくてもいいじゃねぇか? 市場のついでに可愛い髪飾りでも買うか! 服はミミカが貸してくれるだろうしな」


 瑞希はそっぽを向くシャオの頭をポンポンと優しく叩くと、シャオが口を開く。


「こ、今回はミズキに変な虫がつかぬ様について行ってやるのじゃ!」


「シャオもこう言ってるし、アリベルの母親の特徴を教えてくれ」


 瑞希の言葉に胸を撫でおろしたマリルは、記憶にあるアリベルの母親の特徴を伝える。


「目鼻立ちと髪色はアリベルに似ておる。名は、シャルル・ステファンという名で、歳は其方と同い年くらいだ」


「てことは……十七、八歳でアリベルを生んでるのか? そりゃまた若いお母さんだ。ステファン? カルトロムっていう苗字じゃないのか?」


「カルトロムはアリベルを引き取った王族の姓だ。王の名はガジス・グラフリー。グラフリー家が現状の王家となっておる」


「あぁ成る程……じゃあアリベルママの居場所は?」


 マリルは言い辛そうに答える。


「……アリベルの記憶だと覚えがない。覚えているのは名と顔ぐらいなのだ……」


「そりゃそうだよな。わかった! とりあえずは名前と顔で探してみるさ! あんまり期待はするなよ?」


「わかっている。どうか宜しく頼む」


 マリルはそう言い終えると、きょとんとした顔をする。


「あれ? お兄ちゃん? あれれ?」


 マリルがアリベルの寝ている隙に頼みに来た事を悟った瑞希は渡し忘れていたプレゼントを荷物から取り出した。


「ここの所バタバタしてすっかり渡し忘れてたけど、良い子にお留守番をしてたアリベルにプレゼントがあるんだ」


「お兄ちゃんがアリーに!? 何々~!?」


 瑞希からプレゼントという言葉を聞いたアリベルは何故ここにいるのかという事を忘れて喜ぶ。


「付けてやるからこっち来い」


「はぁ~い!」


 アリベルは手を上げ、瑞希の側に近付く。

 瑞希はアリベルに背を向けさせ、シャオの魔法を使い寝癖を直すと、後ろ髪を束ね、祭りで買った大き目のリボンを付ける。


「おっ! 似合ってるなぁ!」


「見せて見せてっ!」


 アリベルは瑞希から鏡を受け取ると、大きなリボンを見てはしゃぐ。


「可愛いリボンだー! アリー、貰って良いの!?」


「勿論、アリベルの為に買ってきたリボンだからな! 今日もこれからテミルさん達と勉強だろ? しっかり御飯を食べて元気に受けて来い!」


「わかったー!」


 瑞希がポンとアリベルの背中を押すと、アリベルは三人に手を振り、元気に部屋を後にする。

 あの無邪気な子を喜ばせるためにも、マリルの頼み事を叶えようと瑞希は思うのであった――。

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