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白粥と相乗効果

 食堂の一画に座って食事を取っていたヒアリーとジョセを見つけた瑞希達は、シャオとチサが用意した白粥が入った器をテーブルに置き着席する。

 熱々の粥は湯気を立て、ペムイの嗅ぎ慣れた優しい香りが、瑞希の弱った胃を呼び起こす。


「あんた達ね……酒に飲まれて恥かかすんじゃないわよ……」


 三人の姿を見たヒアリーはバターを塗ったパンを齧りながら悪態を吐く。

 ジョセはと言えば、ヒアリーの横でバターの美味しさに無言で朝食を楽しんでいた。


「小言は腹が膨れてから聞くからよ、まずはこれを食べさせてくれや」


「あははは。記憶がある分質が悪いよね」


 ヒアリーの悪態に記憶のない瑞希が冷や汗を掻きながらチラリと二人の少女を見るが、二人は恥ずかしそうにしていた。


「良いから冷めん内に食べるのじゃっ!」


「待って……俺は何をしたんだよ……?」


「……ええから早く食べて!」

 

 シャオは純粋に早く食べて貰いたいのだが、チサは恥ずかしそうに瑞希に粥を進める。


「わかったよ……では、ありがたく頂きます!」


 瑞希は透き通る様な白い粥に匙を入れる。

 まずは佃煮の味が染みていない、真っ白な粥の部分を口に近付け啜る。

 塩味は付けておらず、シャオの出す水の美味さと、チサの実家で作られたペムイの甘さがとろりとろりと柔らかく口に広がる。


「あぁ~……美味ぇぇぇ~……」


「くふふふ!」


「……ツクダニは?」


「佃煮まで作ったのか……」


 瑞希は粥の真ん中に鎮座する佃煮を少しほぐし、粥と共に口に運ぶ。

 ジャルと砂糖の甘じょっぱさが粥に染み、ペムイの甘さを引き立て、いくらでも啜れるような錯覚を起こす。


「佃煮も美味いな~。俺抜きで作ったのに良い塩梅だな。俺の味にちゃんと似てるな!」


「……にへへへ! ミズキの料理をいつも食べてるから!」


「粥もシャオの水とチサのペムイだから美味いんだろうな!」


「くふふふ! 当たり前じゃ!」


 食欲がなかった筈の瑞希はするすると粥を胃に落として行く。

 カラカラだった胃は、粥が入った事でじんわりと温まり、それと共に瑞希の頭も冴えて来た様だ。


「美味いっ! シャオ、チサ、お代わりを貰えるか?」


「くふふふ! 待っておるのじゃっ!」


「……にへへへ!」


 二人は自分の食事をそこそこに、瑞希から器を預かると、テーブルまで持って来ていた鍋から嬉しそうに盛り付ける。

 二人が盛り付けに集中している中、カインとドマルは粥がお気に召さないのか、微妙な顔をしていた。


「どうした二人共?」


「いや、この料理は大分薄味だな……」


「真ん中のツクダニ? って云うのを混ぜたら美味しいんだけどね」


「あぁそんな事か。二人共ペムイに慣れてないからだよ。試しにそこにある塩を軽く混ぜてみろよ」


 カインとドマルは卓上に置かれていた塩をサラサラと粥に入れ、再び粥を口にする。


「あ! 甘味が増した!?」


「単純に味が濃くなったのもあるけど、ペムイの甘みが際立つな!」


「ペムイの味に慣れてなかったら薄く感じるからな。出汁を使って雑炊にしたりすると旨味も濃いし単純に美味しいって感じるんだけど、白粥はちょっと上級者向けだな」


「でも何でペムイの味が濃く感じるのさ?」


「味の対比効果って言ってな、塩味を感じた後に甘さを感じると、同じ甘さでもより鋭敏に感じるんだよ。二人はペムイに慣れてないから塩味を感じさせてから甘味を鋭敏に感じさせたって訳だ。果物とかでも軽く塩をかけると甘みが強く感じられるぞ」


 二人は瑞希の話に感心しながら粥を啜っていく。

 その話を聞いていたシャオとチサは瑞希の前に器を置くと、気になっていた事を質問する。


「何で病の時にこの粥が良いのじゃ?」


「……もっと栄養の多い料理でええやん?」


「例えばな、さっきまでの俺みたいな奴がハンバーグとかカツ丼って食えると思うか?」


「はんばーぐなら余裕なのじゃっ!」


「……いや、無理やろ? 高熱の時とか噛むのも面倒臭い……成る程」


 瑞希はチサが気付いた事が微笑ましいのか、粥を啜りながらも嬉しそうな顔をしている。


「まぁ噛むのもしんどいというよりかは、そもそも食欲が湧かないんだよ。だからこそ粥の様に飲むだけでも腹が膨れるのは楽だし、もう一つ理由があるんだ。むしろこっちが大事だな」


「うぬぬぬ……ヒントが欲しいのじゃ!」


「ヒントはな、チサを助けた時はスープを、グランの見舞いの時は雑炊を食べさせただろ? それには共通する理由がある。それが答えだよ」


 瑞希はヒントを出し終えたのか、二杯目の粥を再び口に運び、ドマルとカインも二杯目が欲しくなったのか、チサにお願いをしてお代わりを入れて貰う。


「凄いねこれ、さっきまで胃がむかむかしてたのに、食べ始めたらなんだか落ち着いて来たよ」


「薄味だけどいけるなこれ。温まるし、酒を飲んだ次の日には持って来いだな……ありがとよ」


 ドマルとカインはチサから器を受取り、二杯目の粥を啜り始める。

 その顔は最初顔を合わせた時よりも少し顔色も良くなっている。


「わかったのじゃ! 吸収しやすいのじゃっ!」


 二杯目の粥を食べ終えた瑞希は横に座るシャオの頭を撫でる。


「ほぼ正解だ! 要は消化しやすいかどうかなんだ」


「……どういう事?」


「白粥はペムイをドロドロにした物だろ? 俺達は普通に炊いたペムイを咀嚼して、細かくして胃に運ぶ。その噛むって云う過程が粥にはないし、胃の中でも消化する前から溶けてくれてるだろ? だからこそ、酒で荒れた胃や、食べ物を食べれずに消化する力が弱まった胃には消化の良い料理を作るんだ。その分すぐに消化されるから腹持ちは悪いけどな」


 撫でられているシャオは嬉しそうに、撫でられていないチサは少し物悲しそうな顔をする。

 それを知ってか瑞希は立ち上がり、この朝食を作ってくれた二人の間に立ち、両手を広げ、二人の頭を撫でる。


「二人のおかげで気持ち悪さも解消されたし、元気も出て来た! ありがとうな!」


 瑞希とて食べて早々に具合が良くなる訳ではない。

 しかし、妹達が頑張って作ってくれた朝食はとても美味しく、二人の成長が見れてたまらなく嬉しいのだ。

 その喜びで気分が晴れやかになったのは嘘ではない。


「くふ、くふふふふっ! 当たり前なのじゃっ!」


「……にへへへ! あんまり飲み過ぎたらあかんで?」


「飲まれない様に気を付けるよ! それにしても真っ白な粥に、真っ黒な佃煮か……まるで二人みたいな組み合わせだな! 組み合わせると相乗効果が生まれるのもそっくりだしな」


 瑞希は笑いながら二人の髪をくしゃくしゃと撫でる。

 銀髪少女のシャオと、黒髪少女のチサは、瑞希に撫でられているお互いの髪を見て意味が分かったのか嬉しそうに笑い合う。


――くそっ! 朝っぱらから美少女達の笑顔が眩しい!


――ミズキ~! 次は負けねぇからなっ!


――あんまり過保護だと妹達が行き遅れるぞ!


「うるさいのじゃっ! わしは嫁になどいかんのじゃっ!」


「……ミズキは過保護やなくて守ってくれてんのっ!」


 周りの兵士から瑞希に向けて、昨晩の様に嫉妬に満ちたブーイングが起こる。

 その光景を目の当たりにした瑞希は、朧気ながら昨晩の事を思い出し始めた。


「あははは! ミズキ、昨日みたいに「シャオ達に触れるなら兄である俺に勝ってからにしろ!」って言わないの?」


「そうそう。いくらシャオ達が可愛いからって独占しちゃうなんてねぇ~?」


「そんで、シャオ達もミズキを手伝うから質が悪ぃやな」


 昨日の事を覚えているドマル達三人が面白がって瑞希をいじる。

 瑞希は周りの状況から、恥ずかしい台詞でも吐いたのを察したのか、ブーイングの中で一人納得していた。


「あ~……こういう事か……ん? でもチサが恥ずかしがる意味がわからん……」


「何言ってんのよ? 仕事が終わった兵士の皆と酒盛りになって、この馬鹿と一緒になって脱ぎだしたと思ったら、シャオ達に絡む人達にスモウで勝負を仕掛けたのはあんたじゃない?」


「そうそう! パンツ一枚でね!」


「何してんだ俺ぇぇぇー!」


――わはははっ! でもスモウは面白かったぞ!


――良い訓練にもなるしな!


「あんまり酒に飲まれて馬鹿な事をするでないのじゃ!」


「気を付けます……」


 瑞希は人生において何度目かの、記憶が無くなるまで酒を飲むのは今後控えようという事を、気持ち新たに決意するのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 佃煮ですか、いいですね。ミズキがイナゴに似た虫を手に入れた時にチサのジャル愛が試されそうですね。 イナゴの佃煮は美味しいんですけどね。
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