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二人だけの調理

 翌朝、依頼達成の祝いと、久々の飲酒という事でカインとドマルと共に遅くまで飲んでいたため、シャオの御機嫌は斜めになっていた。

 朝になり頭に響くシャオの言葉と、ガンガンと痛む二日酔いの辛さに、瑞希はもう絶対に飲み過ぎない様にしようと、何度目かわからぬ誓いを立てていた。


「だから飲み過ぎるなとあれ程言ったのじゃっ!」


「わ、わかった……わかったから……手を繋がせてくれ」


 瑞希は回復魔法を求めシャオに手を伸ばすが、シャオはそれを察知して瑞希の手を避ける。


「少しは反省するのじゃっ! わしのブラッシングもしておらんのじゃっ!」


「御無体な……」


 瑞希は項垂れながら呟く。

 その姿を見たチサが助け舟を出した。


「……シャオ、偶には飲み過ぎもあるて」


「うぬぬぬ……それでも反省するのじゃっ!」


 シャオはそう言うと部屋の扉を乱暴に閉め、部屋を出て行く。


「今日は仕事も無いのに……何であんなに怒ってるんだよ……」


「……昨日飲んでる時にシャオと市場に行くって約束してたで? 覚えてないん?」


「……まじか?」


 チサは一つ溜め息を吐くと、瑞希の額に絞った布を乗せる。


「……ほんまや」


「はぁ……じゃあ何とかして起きなきゃな……」


 瑞希はそう言いながらもうとうとと、意識を手離してしまう。

 チサは瑞希の顔を見ながらもう一つ溜め息を吐くと、シャオを探しに部屋を出た。


「……近くに居るんやったら出て行かんかったらええのに」


「……五月蠅いのじゃ」


 部屋を出て直ぐの所に足を抱え、丸くなっているシャオの姿をチサが見つける。


「……なぁなぁ、今からミズキに朝食作らへん?」


「作らんのじゃ……」


「……でもうち等だけで美味しい物作ったらミズキも驚くかもしれんで?」


 チサもなんだかんだとシャオと一緒に居る内に、シャオの扱い方を分かってきている。

 そしてシャオもついつい怒りのまま出て来てしまった手前、すぐに戻るのはばつが悪い様だ。


「……簡単な料理やし、失敗もせぇへんで?」


「別にわしが手伝わんでも、チサが作れば良いのじゃ……」


 シャオはふてくされているのか、素直に返事をしない。


「……シャオが作った料理ならミズキも喜ぶのにな~、シャオのおかげで治ったらミズキはシャオを甘やかすかもしれんで~?」


 シャオはふてくされながらも、チサの言葉を聞き、ぴくぴくと耳を動かしている。


「……シャオが手伝ってくれたらすぐ出来んのにな~?」


 シャオは急に立ち上がり、チサの手を引く。


「チサ! 早く厨房に行くのじゃっ!」


「……そない急がんでもっ!」


 チサはシャオに引っ張られながら、走るシャオの背中を見て、やっぱり心配だったんじゃないかと苦笑してしまうのであった。


◇◇◇


 シャオとチサは、使用人達の朝食の用意で忙しそうな料理人達に事情を説明して、厨房の隅を借りていた。


――本当に手伝わなくて大丈夫?


――二日酔いならシャクルの果汁が良いよ!


「大丈夫なのじゃ。竃だけ借りるのじゃ」


「……何作るかわかってんの?」


「くふふふ。お粥じゃろ? ミズキが病に伏した時や二日酔いにはお粥が良いと言っておったのじゃ」


「……むぅ。覚えてたんや」


 瑞希はこの二人と料理をする時や、誰かと料理を作る時等、今作っている料理とは関係のない料理の説明をする時がある。

 二人は以前瑞希が負傷させてしまったグランの為に雑炊を作っている時、何の気なしに説明していたのを覚えていた。


「確か、粥はペムイを研いでから出汁ではなく水を多目に入れて炊くのじゃったな?」


「……そう。水の量で柔らかさを調整するねん。ほなお粥は任せてもええ?」


「それは構わんが、チサは何を作るのじゃ?」


「……うちはミズキが残してたマク(昆布)の出し殻でツクダニを作ってみようかと思うねん」


「それもミズキが出汁を取る時に言っておったの。ミズキはおむすびに入れておったが、チサは作れるのじゃ?」


「……細かく細切りにしてからペムイ酒とジャルと砂糖で味付けるだけって言ってたから大丈夫やろ?」


「くふふふ。ならツクダニは任せたのじゃ!」


 シャオの先程迄の不機嫌はどこに行ったのか、瑞希と共に何度もやったやり方でペムイを研いでいく。

 チサもまた、出汁を取り終えたマクを束ね、包丁で細切りにしていく。

 二人の背中を見ている厨房の使用人達の反応は、微笑ましく見ている者、心配そうに見ている者と、半々に別れているのだが、楽しそうに料理をする二人の少女は輝いて見えていた。


――ミズキさん、これで不味いとか言い出さないよね?


――あの人は人が作った料理を無下にしないでしょ?


――大丈夫だって! 二人の愛情があれだけ入ってるんだから!


 くつくつと炊かれる真っ白なペムイ粥と、くったりと照りが出ている真っ黒な佃煮を二人の少女が眺めながら、瑞希の事を考えている。

 二人の少女がふと顔を合わせると、お互い何を考えていたのかが分かったのかクスクスと笑い合うのであった。


◇◇◇


 二人が厨房で料理をしている中、浅い眠りから再び目覚めた瑞希は喉の渇きを覚え、いつもの様にシャオかチサに魔法をお願いしようと思ったのだが、部屋の中で二人は見当たらず、チサから聞いたシャオとの約束の為にも何とか起き上がる決心をして、水を求め厨房へと歩を進めた。

 

 すると途中で同じ様に壁に体重を預け、這いつくばる様に歩を進めるドマルと、普通に歩いてはいるが、どこか体調の悪そうなカインの二人組を見つけ合流する。


「おはよう……」


「あはは……その様子だと瑞希も二日酔い?」


「そうなんだよ……回復魔法を掛けようにもシャオに怒られてな……水もないから厨房迄行こうかと……いてて」


 瑞希は頭を抑えながら痛みが落ち着くのを待つ。


「僕も水が飲みたくてね。部屋の水をカインが飲み切っちゃったんだよ……」


「だから、カインだけ少し元気そうなのか……」


「まぁな。それにあれだけ飲めばさすがに二日酔いにもならぁな。俺はそれより腹が減ってよ」


「あぁ~……無理やりにでも食った方が良いんだろうけど食欲がな……そういやシャオ達の朝食もまだだったな……」


 三人は会話をしながら厨房へと足を運ぶと、忙しなく朝食を取る兵士や使用人達の視線を浴びる事になる。


「……なんか注目されてないか?」


「覚えてないの? 昨日、いつもの如くカインが脱ぎだしたら、夕食を取る兵士さん達も混ざって体比べをしてたんだよ……」


「何だその地獄絵図は……」


「一番爆笑してたのはミズキだけどな?」


 カインは呆れながら瑞希に突っ込む。


「……まじか……」


「うん。そして瑞希も脱がされて……」


「よし。そこまでにしよう。とりあえず水だ」


 瑞希は記憶にない状況を想像しながら、心の中で昨晩の自分に叱咤をする。

 よろよろと食事を受け渡されるカウンターにたどり着いた瑞希は、カウンターに顔を突っ伏しながら近くに居る使用人と思わしき人物に声をかけた。


「すみません……水を下さい……」


「もう酒は程々にするのじゃ?」


「はい……飲まれない様にします……」


「……お酒を飲んでても約束は守る?」


「守ります……って、なんで知ってるんです……か……?」


 瑞希が顔を上げると、瑞希に気付いた使用人が二人の少女に気を使って受け渡しの場所に立たせてくれたのか、シャオとチサが瑞希の目線の高さに合わせ、腕を組んで立っていた。


「くふふふ。ほれ、水じゃ」


 シャオは瑞希の為に小ぶりな水球を出し、瑞希に近付ける。

 瑞希はいつもの様に水球に顔を近づけて飲み干す。


「はぁ~……生き返る……」


「朝食はどうするのじゃ?」


「今から作ろうにも元気が……」


「違うのじゃ。食べるのじゃ? 食べんのじゃ?」


「軽いのなら食べたいけど……」


「……お粥なんかどうや?」


「お粥か……お粥なら食えるな」


「くふふふ! ならさっさと食べて二日酔いを治すのじゃ!」


 瑞希の前に、シャオがどんと音を立てながら突き出す。

 その器の中には、真っ白くトロリと滑らかな粥の真ん中に、真っ黒なマクの佃煮が鎮座しているのであった――。

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