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シャオの正体とは

 時は少し遡り、瑞希と合流する前のカインとヒアリーは、カエラの応対が終わったバランが待つ応接間へと案内される。

 カイン達は洞窟から連れて来た女性を引き連れ歩いて行くが、バランに対し負の感情を持っている女性が何かをしでかさない様に気を張っていた。


「待たせて悪かったな。ミズキ君からは二人の事は聞いているが、まずは調査に協力してくれて感謝する」


 部屋に入ると椅子から立ち上がり、出迎えてくれたバランがカインとヒアリーに対し感謝の言葉を伝える。


「とんでもないですっ! 冒険者の仕事を請け負っただけですのでっ!」


「そうそう。ミズキの頼みとあっちゃ断る気もなかったしな」


 敬語すら使わぬカインの後頭部をヒアリーが思いきり叩く。


「いてぇっ!」


「あんたねっ! 人を選んで話しなさいよっ!?」


 痛がるカインに詰め寄りヒアリーは注意をするが、バランはその光景を見て笑い出す。


「はっはっは! ミズキ君に聞いていた通りの二人だな。そう畏まらなくても構わんから楽にしてくれ。危険な仕事を頼んだのはこちらの方だからな」


「話の分かる領主様じゃねぇか! 俺はカイン・ガイアス、こっちは相棒のヒアリー・カストルだ!」


「知ってるとは思うがバラン・テオリスだ」


 カインがバランに手を差し出すと、バランは快く握手を交わす。

 その横ではヒアリーがハラハラとしているのだが、カインはその事に気付かない。


「帰って来て早々で悪いが、君達二人にも話を聞こうと思ってな。まずは腰を掛けてくれ」


 バランが着席を促すと、カイン達は誘導のままに腰を掛ける。


「まずは報酬の件だな。金銭は必要経費とは別に成果報酬という形で渡そうかと思っていたが、素晴らしい成果を上げて貰った様だ」


 バランはそう言うと、ヒアリーの腕に絡みつく女性に視線を送る。

 ヒアリーが女性に肘打ちを食らわせると、痛がりながらも言葉を吐き出す。


「この痛みも私の為なんですねお姉様……」


「全然違うわよっ! 良いからミタスの事を話しなさいっ!」


「ミタス様は……」


 その言葉にギロリと殺気を込めた視線をヒアリーが送る。


「あん……素敵……じゃなくて、ミタスは貴方が仕組んだ魔物の襲撃からコバタを救ってくれた魔法使いで、私達の先導者よ」


「私が仕組んだ? ミタスがそう言ったのか?」


「ミタスもだけど、ダマズ・アスタルフもそう言ってたわ。それを信じたコバタの魔法使い達や素質のある人はミタスについて行ったのよ。勿論私もね」


 バランは椅子の背もたれに体重を預けると口に手を当て考える。


「この子が言っている様に、以前のバラン様のお噂は私達も知っていました。魔法使いの中には魔法至上主義の者も多いのでそう云った連中はコバタを拠点に冒険者活動をしていたのは事実です」


「私達魔法を使える人達はコバタに追いやられていたのよっ!」


 ヒアリーは女性の頭を叩く。


「――いや、確かに元凶を作っていたのは私だな……。本当に済まなかった」


 バランは女性に向け真摯に頭を下げる。

 その行為に焦るのはカインとヒアリーだ。


「お止めくださいバラン様! 領主が民衆に頭を下げる等っ!」


「そうだぜっ! それにバランさんがコバタの復興にどれだけ尽力してたか良い歳をした奴等なら皆知ってる事だろ!?」


「それでもだ……。それでも、私の魔法嫌いのしわ寄せがコバタに向かったのは事実なのだ。魔法が嫌いという理由で、コバタにも、そして自身の娘すら目に入っていなかった……」


「な、なによ……今更謝られたってお父さんやお母さんが帰って来る訳じゃないじゃないっ! 私だって……もっと早く真実を知ってればあの男の手伝いをする事も……」


 女性の言葉が消え入る代わりに、溢れ出る涙が押し寄せ、女性は膝の上に乗せた手を握りしめていた。


「事情はどうあれ、あんたがミタスの言葉に騙されて魔物を操る研究を手伝っていたのは事実よ。それが罪となるなら受け入れなさい」


「……はい」


 女性はヒアリーの言葉に対し、素直に返事をする。


「まだ名前を聞いていなかったな。名を教えてくれるか?」


「ジョセ。ジョセ・フィラン……もしくはジョセ・カストルでも良いわ」


「人の名字を勝手に使うなっ!」


 ヒアリーは横に座るジョセの側頭部を腕で締め上げる。


「も、もう少し強くても……!」


「気色悪い事言うなっ!」


「お姉様から愛の抱擁をやって来たんじゃないですか!」


「愛なんかないわよっ! あんたはさっさと牢獄にでも入ってろ!」


「なんか……すんません……」


 二人の代わりにカインがバランに頭を下げる。

 呆気に取られていたバランは咳ばらいを一つして、話を続ける。


「まず此度の魔物の活性化は魔力に引き寄せられてという事だが、それは間違いないか?」


「シャオの話からすれば間違いないと思います。ジョセ、ないしミタスが魔物に魔力を分け与え、膨れ上がった魔力に呼応する様に魔物も進化していました。元々種族の上位種等も魔力の保有量で進化しますので」


「ふむ……。ジョセ、君はどの魔物でも操れるのか?」


「無理無理! あそこにいた魔物はミタスがいじくった魔物だし、私はミタスが扱いやすい様にした魔物を操れただけだから! あの洞窟の周りに居た魔物は、どこからかミタスが集めてただけだし」


 ジョセは大袈裟に手を振りながら否定する。


「ならばウォルカをオーガに襲わせたのは何故だ?」


「襲わせたというよりは南方面にオーガ達を放っただけ。ウォルカの方に行ったのは偶々よ。それもお姉様達に討伐されたみたいだけど……」


「ミタスと最後に会ったのはいつだ?」


「オーガ達が討伐された後に会ったわ。魔物は所詮魔物かって言われたわ。何か成果があれば教えろって言われてたけど、その後は会ってないわね」


「この辺りの話はジョセから馬車の中で問い質した通りです」


 ヒアリーも馬車内で同じ様な質問をしていた様だ。


「ジョセはその操り方以外にミタスから魔法の使い方は聞いてないのか?」


「その他の魔法は一つだけ。いざという時に使えって言われたのがあるわ」


「何故それはミズキ君達に使わなかったんだ?」


「あのシャオって子に止められたのよ。あの子何なの!? ミタスが言ってた化け物そのものじゃない!」


「どういう事だ……?」


「私はあの子が動物になる姿を見たの! あれはミタスが言ってた竜の話にそっくりなの!」


「その話は聞いてなかったわ。詳しく聞かせなさい?」


 ヒアリーも聞いていなかったのか、ジョセに問い質す。


「ミタスは竜の研究もしていたんです。竜は唐突に生まれるのか、魔物から進化するのか。それとも人間から進化するのかって話をしてたんです。だったら魔物に人の魔力を合わせたらどんな進化をするのか、人でもない魔物でもない化け物か、それこそ竜が生まれるんじゃないかって言ってたんです……」


「だが結局は多少変異した魔物しか生まれなかったと?」


「そういう事ね。だからこそシャオって子を見た時は固まったわ。あの子は人なの? 魔物なの?」


「……彼女はミズキ君の妹だ。それ以外の何者でもない」


 バランは言葉と同時に無意識に威圧する。

 その威圧感に耐えられなかったのか、ジョセは冷や汗を垂らしながらたじろいだ。

 バランがジョセに気付き、軽く頭を振ると、落ち着いたのか場の空気が戻る。


「(さすがにかつて兵士の頂点に君臨してただけはあるぜ……)」


 カインはバランの過去を知っているため一人納得をしていた。


「ミズキ君には今聞いた話を私から言っておこう。この場に居る者は他言無用で頼む」


「畏まりました」


「わ、わかったわ」


「ところで、ジョセが使おうとしていた魔法はどんなものだ?」


「私がシャオから聞いたのは自爆魔法の様でした。己の魔力を全て使い切り、その場を吹き飛ばすような……だからこそシャオは放つ前に止め、この子を助けたんだと思います」


「そうか……。カイン君、ヒアリー君、この子の処罰なのだが、少し待って貰えないだろうか?」


「……というと?」


「順を辿るとコバタが魔物の襲撃に遭ったのはミタスの仕業だろう。故意か、研究の副産物かはわからんが恐らく奴はコバタ周辺でその研究をしていたと思われる」


 バランの言葉にジョセの顔が青ざめ始める。


「そして襲撃の中で、コバタを救った様に見せかけ、魔法至上主義であるダマズに取り入り、自身の手駒になり得る魔法使いを集めて行った……。その際に私の名を出し、意思の統一を図ったのだろう」


 カインとヒアリーは黙ってバランの話を聞く。


「そして魔物の運用に見切りをつけたミタスは、次に人を操り始め、キーリスを襲撃した……というのが一連の流れだろう。奴の目的は魔法使いを優遇する世界にする事。そのためにはキーリスと云う街は邪魔なのだろうな」


「そ、そんなでまかせ……じゃあ私は家族を殺した研究を……」


 バランの言葉にジョセがガタガタと震えるが、そっと重ねられたヒアリーの手の温もりを感じ、徐々に平常心を取り戻し始める。

 バランは再び言葉を続ける。


「あくまでも予想の範囲だがな。だが、そう考えるとこの子も被害者だと言える。処罰するにしても少し時間が欲しい。幸い君達やミズキ君のおかげで、街に魔物関係の被害は出ていないからな」


「それは構いませんが……」


 ヒアリーは返事をしながら嫌な予感に襲われていた。


「見た所ヒアリー君に懐いている様だし、暫くは二人の監視下に置いといて貰えないだろうか? 勿論その分報酬に色を付けさせて貰おう」


「……報酬によります」


 ヒアリーは嫌な予感が的中した事により、がくりと肩を落とすが、領主の願いという事で断りはしないが交渉を始めた。


「そうだな……まずは調査報酬とは別に金貨を二十枚ずつをそれぞれに渡そう。そして、今回の調査報酬と合わせて冒険者のランクを一つ上げるというのはどうだ?」


 ヒアリーは黙り込んで考える。

 報酬額もさることながら、冒険者ランクが一つの依頼で上がる事などありえないからだ。


「……それならばミズキ達のランクも上げて貰えませんか? チサは銅級の強さではありませんし、ミズキに関しては私達と比べても遜色ありません。それに、シャオが加わればそれ以上の強さです」


 ヒアリーは銅級のチサと、鋼鉄級の瑞希のランクに納得が云っていなかった。

 少なくとも自分が知る冒険者にあの様な強さの下位冒険者がいないのだ。


「ではその通りにしよう。ではジョセは暫く二人の監視下に置き、処罰は決まり次第下す。ジョセもそれで良いな?」


「お姉様と一緒に居られるのならば本望ですっ!」


 ジョセはヒアリーの腕に絡みつく。


「あんたもバラン様の寛大な処置に感謝しなさいよっ!? これでもこの方がコバタを襲撃したと信じ込んでいるなら本気で焼き殺すわよっ! 分かったならバラン様に謝りなさい!」


「わ、わかっています! バラン様、先程迄の数々の無礼をお許し下さい!」


 ジョセはヒアリーから離れ、バランに頭を垂れる。

 バランはその姿を笑いながらも許すのだが、その一方ミタスへの憎悪を燃やすのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

本当に作者が更新する励みになっています。


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