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赤面のカエラ

 ミズキの帰りを待つミミカは、瑞希が城を離れてから毎日の様に城門の兵士に話しかけに行っては、まだ馬車は見てないという報告を受けてとぼとぼと城に戻って行く。

 アリベルもまたミミカと同じ様にがっくりと肩を落としながら、テミルの元に戻り、勉学やマナー等を教えられていた。

 ミミカとしては今までも瑞希がいなかった時間は何度もあったのだが、バランの話もあり今回も不安を感じていた。

 そう、ミミカの不安とは生死の安否ではなく、また女性を連れて来るのではないかという不安だ。

 シャオの魔法の凄さを知っているミミカからすればそこら辺の魔物等に対して不安になれという方が難しい。

 しかし、瑞希が人を惹き付けるのは天性の物だろう。

 こうして待っている間にも知らぬ女性と……と、考え込んでは不安を感じているのだ。

 やきもきとした日々を過ごしている中、侍女の一人が瑞希の馬車が帰って来たという報告を受けて、ミミカとアリベルは一目散に走りだしていた。

「あっ! モモちゃんとボルボ君だっ!」


 アリベルが馬車を曳くモモとボルボに気付く。


「ミズキ様ー! お帰りなさいませー!」


 ミミカが大声を出し、笑顔で手を振りながら馬車を出迎える。

 瑞希達を乗せた馬車は城の入り口の前で止まり、馬車から人が下りる。

 チサとシャオ、そして瑞希が御者台から降りると、馬車の中からは以前一緒に食事をしたカインとヒアリー、そしてヒアリーにへばりつきながらもう一人見知らぬ女性が馬車から降りて来た事で、ミミカの笑顔がピシリと固まる。


「只今戻ったのじゃ……」


「……疲れた」


「俺達も来て良かったのか?」


「というより、こいつが私から離れないんだから仕様がないじゃないっ!」


 ヒアリーが腕に絡みついた女性を剥がす様に足蹴にするが、女性の方はどこか恍惚の表情を浮かべている。


「お姉さま痛いです! でももう少し痛くても我慢できます!」


「気持ち悪いからさっさと離れなさいよっ!」


 ヒアリーが女性の頭にげんこつを落とすと、げんなりした瑞希にアリベルが駆け寄る。


「お兄ちゃんお帰りっ!」


「……おぉアリベル、良い子にしてたか?」


 飛びついて来たアリベルを瑞希が受け止め、持ち上げると、アリベルは元気のない瑞希が気になった様だ。


「疲れたの? 何か元気ないね?」


「あぁ、ちょっと疲れたかな……「それよりミズキ様? あちらの女性はどなた様でしょうか?」」


 ムウの時も怒っていたが、あの時からそれ程日が経たぬ内にまた女性が増えた。

 何故この男の周りにはすぐに女性が寄って来るのかと呆れつつも、ミミカは笑顔を保ちながら瑞希に質問する。


「あぁ、あれな……魔物の活性化の重要参考人を連れて来たんだけど、馬車内でずっとあの調子でな……ヒアリーに懐き過ぎたんだよ」


 ミミカはチラリとヒアリーの方に視線を向けると、丁度その女性はヒアリーにビンタをされていた。

 ビンタをされた女性の方は何故か嬉しそうにしている。


「と、止めなくても良いのですか?」


「良いんだよ……むしろあの為にやってる節もあるからな……。あまりに煩くなったら……」


「いい加減煩いのじゃっ!」


「あ、やった」


 シャオが女性に向け風球を放ち気絶させ、瑞希の背中をよじよじと登る。


「全くっ! 何じゃあいつはっ! さっさと牢屋へと放り込むのじゃ! アリベルもさっさとその場所を変わるのじゃ!」


「久々だからいやー!」


「うぬぬぬぬっ! ミズキっ! 早くはんばーぐを作るのじゃ!」


「少し休ませてくれよ……とまぁ、あいつはミタスの関係者だよ。とりあえず魔物の活性化も抑えられたと思うし、その辺りの事をバランさんに報告したいんだけど会えるか?」


「それが、先程お客様が見えられまして、今はドマル様と父で応対しているのです」


「ドマルと? 商売の話か?」


「いえ、それが……」


 ミミカの説明で誰が来ているかを聞いた瑞希は納得するのであった――。


◇◇◇


 応接間ではバランを向かい座らせ、嬉しそうな笑顔でドマルの横に座るマリジット地方の領主、カエラ・ウィミルの姿がそこにはあった。


「あの、何故僕がこの場に呼ばれているんでしょうか……?」


 たじろぐドマルをよそに、カエラはドマルに話しかける。


「久々に会うたのにつれへんこと言うなぁドマルはんは? こっちに来る途中に祭りに行ってたうちの者に会って聞いたで~? ありえへんぐらい美味い料理を出すって言う屋台があったて! あれ、ミズキはんやろ? どんな料理出したん? ドマルはんも一枚噛んでたんやろ?」


「あはは、その通りです。僕はミズキに頼まれて消耗品を用意しただけですよ」


「それだけやないやろ~? すれ違った行商人連中がドマルはんの噂してたで? ドマルは何であの屋台と知り合いなのかとか、テオリス家に出入りしてるの見たとか、言うてなんや行商人の中では一目置かれてるみたいやったで?」


「バラン様やミズキ、それにカエラ様のお陰ですよ。商人として新しい商材を真っ先に扱えるのが一番の武器ですからね」


 ドマルが照れ笑いを浮かべると、カエラはその顔を何やら嬉しそうに眺めている。

 バランは目の前の二人に対し、ごほんと咳払いをして注意を引く。


「して、ウィミル嬢は何故わざわざこの地に?」


「せやった! まずはキーリスがこない大変な時にのこのこやって来てしもて堪忍え?」


「こちらとしても今はその主犯格を追っているのだが足取りを掴めなくてな……ダマズに書状を送っても返ってこんから今は使いの者をやっている最中なのだ……」


「ほな、あのあほの反乱か? せやけど、あいつにそんな度胸ないやろ?」


「ミタス・コーポ……こいつが今回の件の主犯だ。おそらくダマズの所に潜んでいたと思うのだが、詳しい話をダマズに聞こうと思ってな」


「そのミタス言う奴がダマズを扇動してるんか?」


 バランは椅子に腰を深くかけ、大きく息を吐いた。


「扇動……というより洗脳されている可能性がある。あいつはなんだかんだで自分の不利益になる事はしないからな」


「洗脳? ミタス言う奴はそこまで人を惹き付ける物があるん?」


 バランはゆるゆると首を振る。


「洗脳する魔法らしい。もしもダマズの気が確かならば立て直しも出来るのだがな……」


 バランがそう言い淀むと、話の内容的にますますこの場にいて良いのか緊張し始めるのがドマルだ。


「あ、あの、この話を私が聞いても構わないのですか?」


「ミズキ君にも言うつもりだし、君達の事は信用しているからね。勿論他言はしないでくれ」


「それは勿論ですが……なら僕がここに呼ばれたのはどの様な件でしょうか?」


 バランはチラリとカエラに視線を送ると、カエラはにんまりと笑みを浮かべる。


「バランはん、娘さんに王家から求婚の書状は来うへんかった?」


「来たな……まだ娘を嫁がせる気はないと返事を返したが……」


「それなぁ、うちは年齢もあるからかもっと前から連絡来てたんやけど、最近はなんや何回断ってもしつこく連絡来るで。貴族が未婚で家督はどうするつもりなのかとか、何やら大層な理由付けてな」


「このくそ忙しい時に……大体ミミカはまだ十五歳だぞ……」


 バランはそう言いながらマリルから聞いた跡目争いの事が頭に過ぎる。

 テオリス家もウィミル家も王家ではないが有力貴族のため婚姻を結べばそれだけで拍が付く。

 バランは頭を抱えながらも跡目争いに巻き込まれる事は想像していた。


「そこでや! うちにはもう相手がおる言うてきっぱり断りに行こうかと思ったんやっ! おとんが亡くなってからそういう話がうっとうしいから良い機会やしな!」


 これも自分に関係ある話ではないかと、ドマルはテミルに出された茶を飲もうとカップに口をつける。


「せやからドマルはんを借りてってもええやろか?」


 カエラの言葉にドマルは思わず茶を噴き出してしまう。


「きちゃないな~。どないしたんドマルはん?」


「いやいやいやっ! 僕を借りるってどういう事ですか!?」


 驚きのあまり一人称すら取り繕う事が出来なくなっている様だ。


「そのまんまやで? 一緒に王都に行くのについて来て欲しいねん。婚約者としてな」


「僕がですかっ!? 無理に決まってますよっ! だって僕貴族じゃありませんし、只の商人ですよっ!?」


「かまへんかまへん! うちは相手の家柄なんか気にせぇへんし、只の婚約者役やんか! ドマルはんが適任やねん!」


「無理ですって! カエラ様と僕なんかじゃ釣り合う訳ありませんよっ!」


「大丈夫やて。うちとドマルはんの仲やんか~うちを助ける思って、この通りやっ! それともうちなんかが相手やったら嫌なん? もうドマルはんから見たらおばはんやから?」


 カエラはドマルに頼み込んだかと思えば、顔を伏せ手で隠し泣き真似をする。


「そ、そんな事はありませんよっ! カエラ様だって僕と二つぐらいしか違わないじゃないですか!?」


「ほなうちが不細工やから嫌なん?」


 涙ぐむ様な声でカエラはドマルに問いかける。


「カエラ様が不細工なら世の中の女性の殆どが不細工になるじゃないですか……」


 その言葉に思わず顔を綻ばせそうになってしまうカエラだが、何とか平常心を保つ。


「ほな、婚約者役は任せても問題ないやんね! バランはん、ドマルはんを借りてもええやろかっ!」 


 ドマルに顔を見られぬ様にテーブルを挟んで、バランに詰め寄るカエラの顔は熱っぽく赤みが差している事でバランはふっと笑ってしまうのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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