二人の異変
ゴブリンメイジ等の応対を終わらせた瑞希達一行はシャオの誘導の元歩を進め、川近くの岩壁の前で佇んでいた。
最近の訓練で体力が付き始めていた瑞希は、訓練をしていて良かったと心の底から思っているが、やはり息は少し切れていた。
その横には涼しい顔で岩壁を調べるカインとヒアリー、そしてシャオとチサも普段通りの姿だ。
「カ、カインとヒアリーは分かるけど、何でチサ迄そんなに体力あるんだよ……」
「……普段から田畑を走り回ってるからちゃう? うちの田んぼは広いから走らな日が暮れるもん」
ジト目でチサを見つめる瑞希に、チサは自慢げに胸を張る。
「ミズキは少し走って体力を付けた方が良いのじゃ。キーリスに戻ったらグランに……」
「待て待て待て! グランなんかに頼んだら倒れるまで付き合わされるだろ!?」
「だから良いのじゃ? 体力は何時いかなる時でも役に立つのじゃ」
「それはそうだけどさぁ……「おぉ~い! ここの岩壁が何か変だぞ!」」
瑞希のぼやきに被せる様にカインとヒアリーが発見した違和感を指差しながら瑞希達を呼ぶ。
瑞希は息を整え、カインの呼ぶ場所へと向かう。
カインの指差す岩壁は、見た目からは何の違和感も感じられないのだが、瑞希はわずかに魔力を感じた。
「なんか嫌な感じの魔力だな?」
「魔力からしてミタスが絡んでおるという事で間違いなさそうじゃな。カイン、少し退くのじゃ」
シャオの言う通りに岩壁から離れたカインとヒアリーが離れると、シャオは風球を生み出し岩壁に向けて放つ。
風球が当たった岩壁はボロボロと崩れ去る。
崩れると言うには分厚い岩なのだがシャオからすれば些細な事であった。
「ここじゃな。嫌な魔力が溢れておるのじゃ」
岩壁が崩れた奥は広い洞窟になっており、日の光は奥まで届かず、暗闇で覆われていた。
「じゃあここを調べたら終わりで良いかな。カイン、ヒアリー準備は良いか?」
「ミズキと違って体力はあるから大丈夫よ」
ヒアリーはくすくすと笑いながら瑞希に返答する。
瑞希のばつが悪い表情の中、チサは魔力を練り上げ、ショウレイを行い水で出来た金魚を生み出す。
「……うちも準備できた!」
「じゃあ行くか! シャオ、頼む」
シャオが生み出した光球は辺りを眩く光照らす。
入口から見る洞窟内は広く、そして深かった。
瑞希達はカインを殿に、チサとヒアリーを挟むような形で歩いて行く。
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道中何度か魔物に襲いかかられる場面もあったが、瑞希が気になったのは全て人型の魔物という事だ。
瑞希達は今いる広い空洞になっている場所で、腰を下ろし、警戒しながら休憩を取っていた。
「なぁ、洞窟内って人型の魔物が多いのか?」
「巣にしてる奴等は多いがここまでじゃねぇな。ゴブリンとかオーガは洞窟を根城にしてるから分かるが、リザードマンまで居たのは変だ」
「それに、さっきのリザードマンは水魔法を使って来たわよね? 当然そういう個体も居るけど、ゴブリンメイジといい、さっきのリザードマンといい、固まり過ぎね。きな臭くてしょうがないわ」
「……お腹すいた」
大人組が話し合う中、警戒しながら進むのに疲れたチサは自身の腹をさすりながらぼやく。
シャオもチサの言葉に同意したのか、瑞希の服を引っ張り、食事を強請る。
「わしも腹が空いたのじゃ。幸い辺りに魔物の気配もないから、何か作って欲しいのじゃ」
「作って欲しいったって、食材なんか持って来てないぞ?」
「さっきの手食い鳥のがあるのじゃ!」
「手食い鳥の……あぁ、レバーか? 串焼きにでもするか?」
シャオとチサはキラキラと目を輝かせるが、カインとヒアリーはげんなりとした表情を溢す。
「あんた達といると気が抜けるわ……」
「まぁまぁ、すぐ出来るからさ!」
瑞希はムルの葉で包んだ手食い鶏のレバーを取り出し、一口大に切り分けてから串に刺す。
「串と塩があるだけで肉を現地調達出来れば魔法ですぐに焼けるから便利だよな~」
串に刺したレバーに塩を振り、シャオが出した火球から少し遠ざけながらレバーに火を通していく。
「その火の中に突っ込んじまえば直ぐに焼けるんじゃねぇのか?」
「そんな事したら折角の食材が炭になっちまうって。焼き物の基本は強火の遠火。焦がさない様にじっくりと火を通していくんだ……よし。生で食べても美味いレバーだからこれぐらいで良いだろ。二人も食べるか?」
「食うならせめてもっと落ち着いた時に食いてぇな。何かあったらたまったもんじゃねぇし……」
「そうよ。それになんか食欲が湧かないのよね」
二人はどこか表情を曇らせつつも返事をする。
「騙してないんだけどな……じゃあ俺達だけで食うか。頂きまぁす!」
「くふふふ。頂きますなのじゃ!」
「……頂きます」
瑞希に習い、食前の声掛けを行い三人は串焼きを口に運ぶ。
じんわりと焼かれた手食い鳥のレバーは、焼いた事で風味が強くなるのだが、臭みという点においては感じる事はなかった。
古いレバーにありがちなもろもろとした食感ではなく、ぷりぷりとした舌触りに、歯を立てるとさっくりと噛み切れる。
そしてレアに焼いた事で、中心部は温かいが生の様な柔らかさを残しており、口の中にはレバー特有の濃厚な旨味が口に広がる。
「……美ん味ぁ。これが食べれただけでもここに来たかいがあるな」
「くふふふ。内臓とは臭いだけじゃないのじゃな!」
「……にへへ。美味いわ~。他の内臓も食べれんの?」
「獲物によりけりだけど、牛と似たモームなんかだと、大体どこでも食えるんじゃないか? 肉にしたって部位によって味わいとか、脂の量も変わるし、柔らかさも違う。内臓も脂が多い所もあれば、臭みが強い所もあるしな」
「臭いのは嫌なのじゃ!」
「わかってねぇな~シャオは。臭みと風味は紙一重なんだぞ? このレバーだってこの風味が強くなれば血生臭く感じるし、逆にその臭みを好きになると、どんどんその臭いに慣れてくるもんなんだぞ? そうだ! 今度納豆作ってみようか! あれも最初はくっさいぞ~!」
瑞希は笑いながら故郷で良く食べていた納豆を話題に出すが、シャオは嫌そうな顔をしている。
「いらんのじゃ! 臭い物は不味いのじゃ!」
「シャオ、偏見は良くないぞ? 俺の故郷には臭い果物があるけど、果物の王様って言われてたし、魚を発酵させて作る料理もあるし、チーズだって青かびが付くまで放置するのだってあるんだぞ?」
「……それって全部臭いん?」
「そうっ! 全部臭いんだ! でも俺が生まれる遥か昔から伝わる手法だから、今でも食べ続ける人がいるって事だ。料理は味も大事だけど匂いも大事なんだ。それが良い香りか悪い香りかは置いといてもな」
「何で一々臭くするのじゃ!?」
「匂いってのは癖になるもんなんだよ。そのうち臭い食べ物も作ってやるから楽しみにしてろって!」
瑞希は笑顔でシャオの頭を撫でながら宣言するが、当の本人は複雑な表情をしている。
三人が談笑をしている中、ピリッと空気が変わる。
カインは剣を構え、ヒアリーの前に立つと、瑞希達も臨戦態勢を整えた。
「おいおい、もしかしてこんな奴までいじくってんのかよ……」
「ミズキが作った串焼きの匂いにでも釣られたのかしらね」
カインとヒアリーがそう呟くと同時に、現れた魔物はどしんと足を踏み下ろす。
――グルルゥアァァァッ!
現れた魔物は四つ足を着く獣なのだが、大きさはオーガの比ではない。
魔物の咆哮と共に瑞希達が動き出そうとした矢先、カインとヒアリーはどさりと倒れるのであった――。
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