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生レバーと修行の成果

 岩山のふもとからシャオの感知を頼りに進む一行は、事前に聞いていた成人男性の腰位の大きさの、何故か獲物の手を狙う鳥型の魔物、手食い鳥や、人よりは一回り小さな体躯の片手剣を持つ二足歩行のトカゲ、リザードマン等に襲われたが、難なく撃退していた。


 一行が手食い鳥を仕留めた際、瑞希が食べてみたいと言い出し試しに捌いて焼いてみたようだ。

 その際、食べる前からえもいわれぬ臭みが漂ってはいたのだが、毒はないというシャオの判断の元、瑞希は意を決して口に入れたのだが、血なまぐさい臭みに顔をしかめながら飲み込んだ。


「――魔物が全部美味いって訳じゃないんだな……」


「くふふふ。ミズキでも駄目な食材はあるんじゃな?」


「癖が強いってなら良いんだけど、これは単純に臭みがあるからな……これだけでかい鳥だから美味かったら良かったのにな~……」


 瑞希はそう言いながら捌いた内臓を見ていた。


「手食い鳥は羽が綺麗だから飾り物としての価値はあるのよ。今は荷物になるから……ってミズキ、何をまじまじ見てるのよ?」


「いや、手食い鳥の身が不味いのはわかったんだけど、内臓はどうかなって思ってな?」


 瑞希の言葉にシャオ以外の面々がぎょっとする。


「え~っと……あれか? ミズキの故郷では内臓まで食うのか?」


「ん? 普通に食うぞ? 肝臓とか心臓は生で食うしな。試しに肝臓を……」


 瑞希の生で食べるという言葉に一同が言葉を失う。

 内臓に突っ込もうとした瑞希の手をチサが止める。


「……それはやめとこ?」


「えぇ〜……じゃあ試すのはレバーだけにしとくか……」


 諦めきれない瑞希は制止するチサを振りほどき、内臓の中から肝臓、即ちレバーを取り出し、シャオが出した水球で血を洗い流す。

 レバーから血が取れるとつやつやとした輝きが現れ、シャオの鑑定をクリアしたレバーを薄く切り分け、瑞希が匂いを嗅ぐ。


「えっ!?」


「どうしたのじゃ?」


「臭いんでしょ? 早く捨てなさいよ!」


 瑞希は驚いたまま、手に持ったレバーをそのまま口に入れる。

 その行動に近くに居たチサが目をぎゅっと瞑り、顔を背ける。


「美味ぁ! なんだこれ! もしかして他の部位も……」


 瑞希は居てももたってもいられず、他の部位を洗ってみるが、どこの部位も身と同じ様な匂いを放っていた。


「駄目だ……レバーだけだな。何でレバーだけ匂いが消えるんだろ? 肝臓の役割は解毒とか分解だから……」


 ぶつぶつと考察する瑞希に、心配しているチサが話しかける。


「……大丈夫? お腹痛ない?」


「ん? 大丈夫大丈夫! 手食い鳥はレバーだけは美味い鳥かな? もしかしたら捌き方とかがあるかもしれないけど、今は時間もないからレバーだけは確保だな!」


「そんなに美味いのじゃ?」


「美味いぞ~! これだけ臭みがないレバーは久しく食べた事ねぇよ! レバ刺しは勿論、串焼きでも美味いだろうな! レバニラ炒めを作ってペムイと一緒に……あぁ、胡麻油があればなぁ~!」


「わしにも一切れ欲しいのじゃ」


「ん? よし、ちょっと待ってろよ……」


「シャオ! 止めときなさいって!」


 ヒアリーが慌てて制止する中、瑞希は切り分けたレバーを、シャオが開けている口に放り込む。

 トロリとした舌ざわりと、噛めばザクザクとした食感に加え、口の中には甘味が広がる。


「おぉ! 内臓なのに甘いのじゃ! これは中々美味いのじゃ!」


「だろ~! 生レバーは血の味もあって苦手な人も多いけど、鉄分が豊富で血を作るにはすごく良い食材なんだぞ。貧血になりやすい女性なんかにはオススメだな」


「……ほんまに美味しいん?」


「美味いのじゃ! もうちょっと食べたいのじゃ」


「チサも食べてみるか?」


「……う~……目瞑ってるから口に入れて」


「嬢ちゃん、そこまでして食うのかよ……」


 カインが呆れるが、両手で目を覆いながら口を開けるチサは、レバーを口に入れられ噛んで行く内に閉じていた目を開いてそのまま飲み込んだ。


「……ほんまミズキと居ると何が美味いかわからんなるわ」


「わはは! 良い食材に出会えてよかったな! 二人も食べてみるか?」


 瑞希はレバーを指で摘まみながらカインとヒアリーに確認する。


「戦闘前に腹を壊したくねぇから今は止めとくわ」


「生で食べるなんて絶対に嫌っ!」


「じゃあ今晩は串焼きにでもするか……」


「火を通しても嫌よっ!」


 瑞希はムルの葉でレバーを包み鞄に入れる。

 岩山の為、土が少ないので残滓は火球をぶつけ炭にする。

 一行が目的の川に向け歩を進めると、因縁深い魔物に遭遇する。


「あれは普通のオーガだよな?」


「そうだ。オーガはああやって単独でいる事が殆どなんだ。前はオーガキングも居たから群れを成してたけど、今回は普通のオーガっぽいな」


「今回はミズキ一人でやって来るのじゃ! わしは手伝わんのじゃ!」


「無理だって! あいつの皮膚はめちゃくちゃ固いんだぞ?」


「無理じゃないのじゃ。あの時とは装備も技術も違うのじゃ! 早く行くのじゃ!」


「待て待て待てえええぇぇぇ~!」


 シャオはそう言うと風魔法で瑞希を押し出し、オーガの目の前まで瑞希を運ぶ。


「シャオはミズキに対しても本当に容赦ねぇな……」


 飛んでいく瑞希の姿を見ながらカインは呆れながら頬を掻く。

 当の瑞希は地面に着地するとたたらを踏み、瑞希が目の前を見上げると、相対するのは二度目となるオーガが吠えた。


――ボアァァアァァ!


「だぁぁ! シャオの馬鹿野郎! 近すぎるって!」


 オーガは手に持った棍棒で瑞希に殴り掛かるが、瑞希は剣を抜き受け流し、ある異変に気付いた。


「あれ? こんなに遅かったっけ?」


 瑞希は剣を持ち直し、横薙ぎに振るわれた棍棒をスウェーバックで避けると、一気に距離を詰め胴体に向けて剣を振るう。


――ボアァッ!?


 オーガが何をされたかわからぬまま声を上げ、反転しようとしたその時、胴体から大量の血を流しそのまま倒れた。


「死んだよな? おーい! 終わっ……いっでぇぇ!」


 瑞希がシャオ達に向け手を上げると同時に、シャオの風魔法が瑞希の額に命中する。

 瑞希は額を触りながら再び辺りを警戒すると、周りからゴブリンが現れた。


「いててて、オーガにゴブリンって、懐かしい面々だな畜生!」


――ギギッ!

――ギッギギ!


 瑞希が剣を構える同時に、ゴブリン達が合図を送り、ゴブリン達の後方から火球が飛んで来る。


「バレバレだっつーの!」


 魔力を感じていた瑞希は、火球を打ち落とすとそのままの勢いで駆けだした。

 斬りかかろうと思っていたゴブリンの頭には見慣れた水槍が命中し倒れていくので、チサの訓練も始まったと確信した瑞希はそのまま奥にいるゴブリンメイジに集中する。


――グギー!

――ギギギー!


「(オーガに、ゴブリンメイジ……いよいよこの辺になんかありそうだな)」


 瑞希は考えながらもゴブリンメイジから視線を切らさず、ゴブリンメイジの詠唱を終えさせぬ様に、近くに落ちていた石を拾い投げる。


――グギギッ!


 詠唱が邪魔されたゴブリンメイジから放たれた火球は勢いも弱く、瑞希は気にせずに火球に飛び込んだ。


――グギーギー!

――ギギギー!


 火に包まれた瑞希を見て喜んだゴブリン達だが、怪我一つ負ってない瑞希の姿を見ると同時に、頭がポロリと落ちて行った。

 瑞希は先程の事もあり、警戒をしたままでいると、後頭部に魔力を感じ、しゃがみ込んで避けると、そのまま反転してシャオ達の元に戻って行った。


「良く避けたのじゃ!」


「後頭部に受けたら死ぬわっ! チサも上手い事魔力の温存は出来たみたいだな?」


 ふわふわと浮かぶショウレイで呼んだ金魚がチサの上を優雅に泳いでいる。


「……威力を間違えへんかったから大丈夫!」


 一部始終を見ていたカインとヒアリーは瑞希の成長に驚いていた。


「オーガキングの時より随分太刀筋が安定してんな!」


「何でわざわざ火球に突っ込むのよ!」


「え? だってその方が効率的だろ? この革鎧のおかげであれぐらいの火球なら避けなくても良かったし。それに怪我しても治せば良いしな」


「勝負度胸がすげぇついてんな……」


「くふふふふ! わしの修行にかかればこんなもんじゃ!」


「兄を死地に送る妹なんて聞いた事ないわよ……」


「こりゃうかうかしてらんねぇな……」


 ヒアリーは呆れ、カインは少しばかり焦りを感じながら、一行は辺りの散策を再開するのであった――。

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更新は土日or金土日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] オーガに勝ったことよりも、レバーが美味しかったことが印象に残る。そんな作品。 やっぱりバトルより食事してるほうがミズキとシャオには似合うなぁ
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