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ダッチオーブンとリザード肉

 草原地帯を超え、岩場まで移動した所で日が暮れ始めたので、調査は日が昇ってから始める事にした一行は、野営の準備に取り掛かる。

 瑞希は途中の草原で出くわしたオークの肩ロース部位を塊のまま調理し始める。


「いや~! でかいオークが居て良かった! ボアグリカへ行く道中で使えればと思って作って貰ったこの鍋も初披露だな」


 瑞希はそう言いながら鉄製の蓋付の分厚い鍋を取り出した。


「普通の鍋とは違うのじゃ?」


「ダッチオーブンって言ってな、分厚い鉄で出来てるんだけど、蓋が付いてるだろ? 食材を入れて、炭を蓋に置くことで窯みたいに上火からも調理できるんだよ」


「普通に火で焼くのとは違うのじゃ?」


「直火よりゆっくりと火を通すから塊肉なんかはジューシーに焼きあがるんだよ。先ずは肉に切れ目を入れて……っと」


 瑞希はオークの塊肉に切れ込みを入れ、塩と胡椒を塗り込み、切れ込みにオオグの実(にんにく)と香草を差し込んでいく。


「こうやって味を付けて香草を挟んで置くと、味と香りが染み込むんだ」


「……ミズキが香草を使うん珍しいやんな?」


「カイン達がいるから香草焼きの方が親しみがあるかと思ってな。折角なら好きそうなのを食べさせてやりたいだろ?」


「わしとの約束のはんばーぐはどうしたのじゃ!?」


「ハンバーガーが続いてたからちょっと間を空けさせてくれよ……そのかわり前に約束したようにチーズと目玉焼きを乗せた特別な奴を作るからさ!」


 瑞希は肉の用意が出来たのか、グムグム(じゃがいも)パルマン(たまねぎ)カマチ(にんじん)を大振りに切り分けていく。


「……でかっ! こんなに大きいままでええの?」


「じっくり焼くから、あまり小さく切ると焦げるんだよ。それにグムグムやカマチなんかはホクホクになって美味いし、パルマンも甘くなって美味いんだ! さて、じゃあ鍋の用意をしようか」


 瑞希はそう言うと、ダッチオーブンを簡易竃に置き、炭を用意すると、シャオが魔法で火を入れる。


「何でわざわざ炭を使うのじゃ?」


「鍋が温まれば後は放置しておくだけだからな。魔法を使いっぱなしってのも魔力が勿体無いだろ? さっきみたいにリザードが出て来るかもしれないし……」


 瑞希はダッチオーブンを放置し、いつも使っている鉄鍋を手に持ち、シャオの魔法で塊肉の表面を焼き固めていく。

 その間に、熱くなったダッチオーブンにオリーブオイルの様な植物油を塗り、ローリエの様な香草を鍋底に敷く。


「……ん~? もう肉は焼いてるやん? こっちの鉄鍋は結局使わへんの?」


「これは肉の表面を焼き固めただけだよ。こうすると肉汁が中に閉じ込められるんだ。んで、焼いた肉をダッチオーブンに入れて……」


 瑞希はダッチオーブンに塊肉を入れ、その周りに大振りに切った野菜を敷き詰めていく。


「何で葉っぱを底に敷いたのじゃ?」


「直接鍋に肉や野菜が触れてると焦げるんだよ。後は蓋をして、鍋の蓋にも炭を置いたら後は焼き上がるまで放置するだけだ。さて、じゃあ問題のリザードの肉を試食してみるか……」


 瑞希はダッチオーブンに炭を乗せ、放置している間に、ムルの葉で包んでいたリザードの肉を取り出し、リザード肉に鼻を近づけひくひくと匂いを嗅ぐ。


「ん~……別に癖がある様な匂いじゃないな……。シャオ、これは食べても問題ないんだよな?」


「大丈夫じゃな。しかし、肉としては大して美味いもんでもないのじゃ」


「まぁとりあえず少し焼いてみるか……シャオ、頼む」


 瑞希はリザード肉を薄く切り、シャオの魔法で焼いてから口に入れる。

 シャオとチサも欲しがったので口に入れてやると、二人はむぐむぐと噛み締めた。


「パサついておるのじゃ」


「脂肪分が少ないんだ。味も淡白だし鶏のささみに似てるな……」


「……あんまり美味しないな~」


「オーク肉みたいに脂の旨味を感じれないからな。でもその分さっぱりしてるだろ?」


「焼いて食っても固いだけなのじゃ」


「おっ? 良い所をついてるぞ? シャオが言う様に、こういう肉はそのまま焼いても脂が少ないから固くなるんだよ。少ないとは言っても肉汁はあるから、焼けば肉汁は落ちるしな」


「……じゃあどうやって食べるん?」


「ちょっと反則かもしれないけど、今日はこってりしたオーク肉もあるし、シンプルにしゃぶしゃぶにしようか? 炒める料理もあるけど、それはまた今度作ろう! 二人共今日の主食はペムイで良いか?」


「「もちろん(なのじゃ)っ!」」


「じゃあペムイはチサに任せるから美味しく炊いてくれ! 俺はこっちでオーク肉のソースと、しゃぶしゃぶ用のポン酢を作ってるから」


「……任された!」



「キュー」


「キュイっ!」


 瑞希達が調理を進めていると、モモとボルボが一鳴きする。

 魔物避けの匂い袋を設置してきたカインとヒアリーが戻って来た様だ。

 

「おかえり~。魔物はいたか?」


「ストーンリザードが居たから一応肉は持ってきたけどよ……本当に食うのか?」


「だから食べれる訳ないじゃない! ミズキもさっきのリザードを本当に食べたの!?」


 ヒアリーは瑞希の為に、カインが律義に持ってきたリザード肉を見て、鳥肌が立っている様だ。


「食べたぞ? 淡白な肉でそれなりに美味いぞ?」


「それなりなら別に食べなくても良いじゃない!?」


「まぁまぁ、肉としてはって話だ。料理したら美味しく食べれるからさ! 冒険者なら食べれる食材を知っとくのも一つの勉強だろ?」


「違ぇねぇな……。ヒアリー、ミズキを信じてみようぜ? それにこっちの炭が乗った鍋からは良い匂いがしてんだからよ」


 カインに窘められたヒアリーはすんすんと鼻をひくつかせる。


「香草の良い香りね……もしかして香草で誤魔化したんじゃないでしょうね!?」


「わはは! こっちはオーク肉だから大丈夫だって! もうすぐ焼き上がるしちょっと待ってな? チサ、ペムイは炊けたか?」


「……にへへ。良い感じに炊けた!」


 チサは得意気につやつやと炊きあがったペムイを瑞希に見せる。


「おぉっ! じゃあカイン達が食べやすいようにおむすびにしようか。二人共手を洗ってから、ちょっと熱いけど頑張って握ろうか」


 瑞希はシャオが出した水球で手を洗い、手に塩を付けて手早くペムイを握っていく。

 シャオとチサも瑞希を真似て握る。

 二人共何度か握っているが、シャオはまだ苦手な様だ。


「ミズキみたいに三角にならんのじゃ……」


「……にへへ。うちはもう綺麗に出来る様になったで」


 チサは握ったおむすびを手に乗せシャオに見せる。


「シャオは手が小さいから、俺と同じ量で握ったらそりゃ三角形にならないって。チサみたいに小さ目のを握れよ?」


「おむすびは大きいのを頬張る方が美味いのじゃ!」


「まぁ……一理あるな。じゃあシャオには特別大きいのを作ってやろう!」


 瑞希はシャオのために先程迄握っていたおむすびより、二倍ぐらい大きいおむすびを握る。

 シャオは瑞希が作るおむすびの大きさを見て嬉しそうにしながら目を輝かせるのであった――。

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