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バランの調査依頼

 ムウがマリルとの出会いを話し終えると、バランは広げた地図を確認しながらムウの言う盗賊のアジトの位置に印をつける。

 ムウがアジトの内部を分かる限り書き記し、ミタスの事を話し始めた。


「あの不気味な笑顔を取って付けた奴は、無気力な奴隷の様な者を連れていました。今考えると、私が抵抗できなかった場合は同じ様になってたと思います」


「ん~……でも、アンナとジーニャを襲った奴は気色悪かったけど会話は出来てたぞ?」


「ムウの言う優秀な手駒であろうな。おそらく気付いてなかっただけで、元々魔法の才能がある者が突如として魔法を使えれば全能感が生まれる。そういう魔法に偏り切った者を唆す事など容易であろう?」


「俺が捕まえた奴も……」


 瑞希は言い辛いのか、言葉尻を濁すが、その意味を汲み取ったバランがこくりと頷く。


「ミズキは気にする必要ないのじゃ! 元はと言えばあ奴等が勝手に巻き込んできおったのじゃ!」


「それは言えるな。あっ! けど魔力で操られてない人も加担してるかもしれません!」


「どういう事だ?」


 瑞希の言葉にバランが反応する。

 以前ミズキが助けた魔法至上主義の男と、街で魔法を放とうとしていた男が同一人物であった事を瑞希が伝える。

 その伝えられた出来事にバランはこめかみを抑え深く溜め息を吐いた。


「……元を正せば私のせいだ」


「魔法をないがしろにしたからじゃろうな」


「どういう事?」


 バランとシャオの言葉でピンと来ていない瑞希にマリルが説明を始める。


「この愚弟は魔法嫌いであったであろう? 民にもそれは伝わっており、魔法使いが迫害をされていた訳ではないだろうが、キーリスでは暗黙の了解で伝わっていた。ではその魔法使い達はどこに行くと思う?」


「キーリス以外の街か?」


「その通りだ。元々魔法使いはどこの地方でも特別扱いをされていたのは事実。しかし、愚弟が治めるこの街では魔法は殆ど使われていなかった……いや、使おうとしなかったのだろう」


「でもそれならさっき言ったみたいに他の街で過ごせば良いんじゃないか?」


「だがキーリスは経済的にも潤っており、治安も良い。これはバランの領主としての手腕であろう。魔法使いとしてもこの街は良い街なのだ」


 瑞希はマリルの言葉に頷く。

 だが、バランは自身の行って来た事を振り返っているのか、組んだ腕に頭を置き項垂れている。


「けど、バランさんだって魔法を認め始めただろ?」


「それも話を聞いてみれば最近の事。ミズキと出会ってからであろう? 他の街に伝わるには時間が足りておらん。恐らくミタスはどこからかその話を聞きつけて魔法使い共を唆したのであろう」


「だからと言ってこんな事を起こす意味があるか? 街の人は魔法に恐怖するだけだろ?」


「元々魔法とはそう云う物だ……。権力者からすれば力を誇示するのにうってつけの才能であろう?」


「ん~……でもキーリスにも魔法使いはいるんだろ? その人達がキーリスを離れないのは……」


「くふふふ。わし等と同じ様な奴等じゃろうな」


「あぁ。魔法を特別視していない人達か」


「左様。魔法使いとして冒険者になる者は多いが、普通の職業に就いてる者もいる。ムウとてそのつもりであろう? そう云う者からすればキーリスと云う街は居心地が良いのだ」


「じゃあ案外魔法使いってのは身近に居るかもしれないのか……。それならミタスのやろうとしている魔法使いにとって良い世界ってのは、全ての魔法使いが望む世界でもないんだな……」


 瑞希の呟きに項垂れていたバランが反応を示す。


「奴はそんな事を言っていたのか?」


「ええ。そう言ってシャオを勧誘していました」


「わしは普通の魔法より、ミズキの作る料理の方が面白いのじゃ! 料理こそ皆を幸せにする魔法なのじゃ!」


 シャオは鼻息荒く瑞希の膝の上で熱く語る。

 瑞希はシャオの頭を撫でながら嬉しそうに微笑んでいる。


「ムウも聞き取りが終わったらリーンの店で色んな人を幸せにしろよ? 料理の悩みなら助言も出来るからさ。キーリスに戻ったら顔を出すから頑張ってな」


「はいっ! ……ってミズキさんはどこかに行くんですか?」


「俺達はもう少ししたら旅に出る予定だよ。友達の行商もあるしな。ミタスの事は気持ち悪いけど俺にはどうしようもないからな」


 瑞希はそう言いながらテミルが入れ直した茶が入ったカップを手に取り、茶を啜る。

 バランは何か思い詰めた様な表情で瑞希に視線を合わせ、言葉を紡いだ。


「ミズキ君……今回の首謀者におおよその予想は付いた。そこでミズキ君に指名依頼を出したいのだが構わないだろうか?」


「依頼? 冒険者としてですか? ……まさかここの軍に参加して欲しいとかですか?」


 瑞希は至極嫌そうな顔をするが、バランは首を振る。


「そうしてくれるなら心強いが、料理人の君を戦場に駆り出すつもりはない。君に頼みたいのは魔物の方だ」


「魔物?」


「最近の魔物の活発化というのが気になるのだ。ウォルカに行くという話は聞いている。そのついでに以前オーガの群れが居た辺りを調べては貰えないだろうか?」


「それぐらいなら構いませんけど……人手はこちらで増やしても構いませんか?」


「知り合いの冒険者が居るのか?」


「オーガキングを一緒に討伐した銀級冒険者がまだキーリスにいると思うんです。キーリスを出る前に冒険者ギルドに寄って、もしそこで見つけられたら協力してもらおうかと思います」


「成る程……。ならば報酬は調査の情報毎に出すから宜しく頼む。道中の魔物の素材とかは好きにしてくれて構わない」


「それは構いませんが、その依頼を普通にギルドに出せば冒険者が群がるんじゃないですか?」


「……考えたくもないが冒険者の中にもミタスの息のかかった者はいる可能性が高い。それに魔物相手は兵士達より冒険者の方が慣れている。ミズキ君と、その知り合いならば内密に調査をできるだろう?」


 瑞希は納得が云ったのか、バランの言葉に頷きを返した。


「わかりました。調査期間はどれぐらいですか?」


「一先ず何か報告がある場合か、何も見つけられなかった場合は三日で戻って来てくれて構わない。耐久力のある馬車も貸そう。ウェリーは……」


「ウェリーはモモとボルボが居るから大丈夫です。ドマルもボアグリカに行くまではボルボを使う予定は無いって言ってましたし――」


 瑞希とバランの商談にシャオは口に手を当て嬉しそうな表情を隠していた。


「(くふふふ。ミズキの訓練の再開じゃ……)」


 瑞希は何かを感じ取ったのかぶるりと体を震わせるが、辺りを見回しても悪寒の正体は見つけられずにいるのであった――。

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