魔法の調理
瑞希がギルドの前でしゃがみ込み、シャオは瑞希の背中にへばりついている。
瑞希は魔法を使い、辺りを照らす光球を出してから、鍋が置ける様に、そして串焼きが出来る様に二本の平行線を地面に長く隆起させる。
その光景を見た周りの者達は驚きの声と、恐怖の声が入り混じっているのだが、瑞希はその声を気にしないように用意を続ける。
大きな鍋を隆起させた簡易竈に鍋を置き、魔法を使い水を張り、火球で火をつける。
瑞希は届けられた鶏ガラを水球で洗い、手羽先と共に大鍋に入れる。
周りの者達からは捨てる食材で料理をしている瑞希に対しがっかりした様子だが、瑞希の事を知っているドマル達は微笑みながらその姿を見ている。
「じゃあ時間を短縮させるために今回はちょっと変わった料理の仕方をしようか!」
瑞希はそう言うと風魔法を使って、鍋から蒸気が逃げない様に抑え込む。
「これは何をしておるのじゃ? 蓋ならここにあるのじゃ」
「この蓋だと密閉は出来ないからな! 今回は蒸気を逃がさないってのが大事なんだ」
「蒸気を逃がさないとどうなるのじゃ?」
「水は沸騰する温度になると蒸発する。でも蒸発が出来ないと水に圧力が加わるんだよ」
「……それにどういう意味があんの?」
「蒸発が出来ずに圧力が加わると、蒸発してしまう以上の高温になる。食材は温度が高いと早く火が通るんだよ。圧力鍋っていう便利な鍋が在れば良いんだけど、それを魔法で代用したんだ!」
「訳が分からんのじゃ!」
「まぁ早く料理が食べれるって思えば良いよ(シャオ、俺が魔法を使ってる様に見せるから洗った野菜を一口大に切ってくれ。パルマンは櫛切りで頼む)」
「(くふふ、わかったのじゃ)」
「すみませ~ん! 今から風魔法を使って野菜を切るので少しだけ離れてて下さい! チサはそこで大ザルを持っててくれ」
「……魔力が残ってたらうちも手伝えたのに」
「そうだな……お、さっきの坊やちょっと手伝ってくれるか?」
「ママぁ! 手伝ってきても良い?」
瑞希が治療した母親は快く瑞希の願いを承諾し、少年は瑞希の近くに寄ってくる。
瑞希はにこりと微笑み、少年に野菜を手渡す。
「じゃあ俺の頭の上にこうやって野菜を投げてくれるか?」
瑞希は野菜を手に持ち腕を下から上に投げる様に少年に指示を出す。
「じゃあまずはカマチから行こうか!」
「うんっ!」
少年が大きく両腕を振り、カマチを瑞希の頭上に投げる。
瑞希がカマチを指差すと、カマチは一口大に切れ、そのまま風に流される様にチサが持つザルに収まっていく。
周囲からはパラパラと拍手が生まれる。
「よっしゃどんどん来い!」
「行くよ~!」
少年は瑞希に言われた通りにカマチをどんどん投げ、瑞希が魔法で野菜を切っている様にシャオが魔法を使う。
楽しくなってきた少年は手元からカマチが無くなると、パルマンを手に持ち、次々と投げてくるが、数が増えてもすぐに細かく切れていく野菜をチサが受け止める。
ついに野菜は無くなり、大きなグムグムだけになった事で、少年が持ち上げられずにいると、瑞希が少年に手を添え、持ち上げる。
「これで最後だな。じゃあせぇので目一杯上に放り投げるぞ~!」
「うんっ!」
「せぇ……のっ!」
上空に大きく上がったグムグムを瑞希が指差し、一口大に細切れると、目の前で起きた理解できない出来事に歓声が上がり、瑞希は少年の手を掴み、一緒に手を振る。
「お兄ちゃん凄いねぇっ!?」
「お兄ちゃんは魔法使いだからな! 手伝ってくれた野菜は美味しく料理するからちゃんと好き嫌いせずに食べるんだぞ?」
「うんっ!」
瑞希は少年の頭を撫で、母親の元に返すと、少年は嬉しそうに母親に自慢をしている。
瑞希が鍋に掛けていた魔法をゆっくりと解くと、鍋からは大きく蒸気が上がる。
その光景にまたも周囲からは歓声が上がる。
「鶏ガラを取り出して野菜を入れてっと……んで、また魔法で蓋をする……」
「もう出汁が取れておるのじゃ?」
「魔法の火力と圧力鍋のおかげでな」
「ほほぅ、すなわち誰のおかげじゃ?」
「可愛いシャオのおかげだな!」
瑞希はシャオの頬っぺたを両手で捕まえ、シャオの顔はむぎゅっと不細工に潰れる。
「うむむむっ! 頭を撫でて欲しいのじゃっ!」
「わははは! ほら、次はオーク肉を捌くぞ~!」
瑞希とシャオの楽しそうな光景に周囲の者達はぷっと吹き出し笑いだす。
瑞希は楽しんでくれている周りの光景を視野に入れながら、オーク肉を細かく切り分けていく。
瑞希は切り分けたオーク肉と先程櫛切りに切ったパルマンを準備し終わると、ドマルとリーンを呼び寄せた。
「ここからは串の隙間が空かない様に串を刺して欲しいんだけど、手伝ってくれないか?」
「勿論ですぅ!」
「わかったよ。でもどうせなら……すみませぇん! 皆さんのお力を貸してもらえないでしょうか!?」
ドマルは唐突に大声を出し、周囲の者に声を掛ける。
すると、先程の少年と母親が手を上げながら、ドマルに近付き、ドマルとリーンは丁寧にやり方を教える。
その姿を見た他の者達もわらわらと集まり、ドマルとリーンと共にオーク串を作っていく。
瑞希はドマルが自分の考えを理解してくれている事に感謝する。
次々と出来上がるオーク串に、味付けを施し、平行線に隆起させた地面に網を置いて行き、網の下に魔法で火を流し、辺りは火の明るさに包まれさらに明るくなる。
「じゃあ味付けをしたオーク串は各々焼いて食べて下さい! 鳥のスープも直に出来ますので!」
瑞希にそう言われても、魔法を怖がる者達は動けなかった。
しかし、ドマルとリーン、チサがしゃがみ込み、網に串を置き、じゅうじゅうと焼け始めると当たりには香ばしい香りが広がる。
すると先程の野菜を投げた少年とその母親が、八百屋の一家がすぐに場所を取り、肉を焼き始める。
「じゃあミズキ、お先に頂くね~!」
「おうっ! 後で俺のも焼いといてくれ!」
「うぬぬ、わしも食べたいのじゃ!」
「大丈夫だって、チサが焼いてくれてるだろ?」
シャオはチサを見やると、チサはシャオに親指を立て合図をする。
ドマルは周りに見せる様に脂が滴る串焼きを口に運び息を吹きかけ、熱そうにしながらも串から肉をぐいっと引っ張り外し、咀嚼を始める。
口の中では噛むほどに肉汁が溢れ出し、塩と胡椒、そしてある香りが食欲を掻き立てる。
「あははは! ミズキが串焼きを作ると単純な味付けでもすごく美味しいよ!」
「むぐっ! 何ですかこの香り!?」
「わははは! 隠し味程度にオオ……「ママっ! 僕も食べたいっ!」」
少年は涎を垂らしながらドマルを眺めていると、我慢ができなかったのか、大きな声を上げ母親にねだる。
母親が焼き上がった串焼きを冷ましてから少年に手渡すと、少年は目を輝かせながら串焼きを頬張る。
「美味しいっ! お肉を焼いてるだけなのにすごく美味しいっ!」
「……オオグの実を使っとるのにバレへんもんやね?」
焼き上がった串焼きを皿に乗せたチサは、シャオとミズキに手渡しながらそう呟いた。
シャオは受け取った串焼きをいつもの様に大きく口を開けて、食べ始める。
「くふふふ。ふわりと香るオオグの実の香りがたまらんのじゃ!」
シャオが感想を述べながら串焼きにパクついているが、その言葉を聞いた周囲の者は固まる。
――あの子今、オオグの実って言ったか?
――冗談だろ? あんな臭い物食べようとする奴がいるかよ?
そんな事を言いながらも恐る恐る串焼きを口にする。
一口食べたら美味さに気付いたのか、次々に焼き始め、次第に賑やかになり始めるのであった――。
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