ドマルとの再会
治療を終えた瑞希達はギルドの前で大鍋を使って調理をしていた。
野菜は八百屋から、ホロホロ鶏とオーク肉は別の怪我人から、大鍋は金物屋をやっている者からの提供だ。
瑞希は煮込んでいる大鍋の中に、水で溶いたカパ粉をお玉でスルスルと棒状に流し込んで行く。
「只のスープじゃないんですかぁ?」
「それだと満腹感がいまいちだろ? これなら団子状に固まったカパ粉がスープを吸って美味いし、腹にも溜まるんだ!」
「ミズキは本当にどこでも料理してるね?」
「ドマルだって人助けの為に奔走してたんだろ? これだって人助けだよ」
鍋を覗くリーンと、瑞希と会話をするドマルがここに居るのは少し前の話に遡る。
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治療を終えた瑞希は、元怪我人達にお願い事を持ち掛けた。
「この中で食材を扱ってる人はおられませんか? 後、大きな鍋なんかも貸して頂けると助かります!」
「ミ、ミズキさん? 一体何をされるおつもりなんですか?」
急な瑞希の発言に受付嬢が慌てる。
「回復魔法を受けた後ってお腹減りませんか? どうせなら空いたお腹迄回復させようと思うのですが、手持ちの食材が乏しいんですよ」
瑞希の言葉を聞いて、一人の男がおずおずと手を上げる。
――ホロホロ鶏で良かったらすぐに持って来れるけど……。
「良いですね! じゃあ骨とか手羽先とか売り物にならない所で構いませんので分けて下さい!」
また違う男が手を上げる。
――オーク肉でも良いか?
「ならオーク肉は串焼きにしましょう! 誰かお鍋は有りませんか」
一人の女性が手を上げる。
――うちは金物屋だから祭り用の大きな鍋があるけど……。
「やった! それをお借りしたいです! 串焼きもしますので網なんかも使わせて頂けると嬉しいです!」
次々と欲しい物が集まり、瑞希のテンションが上がっているのだが、男が料理を出来るのかと疑わしい目を向けられている所で、ギルドの扉が開く。
「すみません! 通してください! 怪我人を連れて来ました!」
そこに現れたのはドマルに抱えられたリーンであった。
「ドマル!? それに怪我してるのはリーンか!?」
「ミズキっ! 良かったっ! 早くリーンちゃんの怪我を治してあげて!」
瑞希はシャオと手を繋ぎ、ぐったりとしながら頭から血を流しているリーンに回復魔法をかける。
すぐに顔色が良くなって来たリーンの顔を、濡らした布で拭く。
すると、気が付いたのかリーンが目を覚ました。
「――あ、あれ? ここは……、ミズキさん!? それにドマルさんも!」
「間に合って良かった……僕が怪我人を探しながら街中を馬車で走らせてたら、倒れてるリーンちゃんを見つけたんだ。覚えてる?」
「えっとぉ……逃げている最中に人混みでこけた子を見つけてぇ……その子を起こそうとしたらぁ……そういえばその子はぁ!?」
「大丈夫。一緒に連れて来たよ。その子の叫び声が無かったら僕も気付かなかったしね」
ドマルはそう言うとリーンの側にチサ位の年齢の少女を連れて来た。
「良かったぁ……痛い所はない?」
「別に……」
「ん? お前も膝を怪我してるだろ? 治すぞ?」
瑞希は少女の承諾を得ぬままに少女の膝に魔法をかける。
暖かな温もりが怖かったのか、しゃがみ込んでいる瑞希の頭を目掛けて、少女は拳を振り下ろした。
「ほい、終わり。急にやったのは悪かったけど、何も殴ろうとする事はないだろ?」
瑞希は振り下ろされた拳を片手で受け止めながら立ち上がるが、いつの間にか背中にへばりついていたシャオは怒り心頭の様だ。
「こやつ……良い度胸なのじゃ……」
「あほ。こんな事で怒る事ないって。ビックリさせて悪かったな。もう痛くないだろ?」
少女は爪先を地面にこつこつと当てながら確かめる。
「ごめん……もう痛くない」
「良かったねぇ~! ミズキさんも魔法使いだったんですねぇ!?」
「まぁ料理の方が得意だけどな!」
瑞希はリーンに二ッと笑顔を向け、リーンはその言葉に嬉しそうに頷く。
――おい、あの娘って、最近噂の店の……。
――あのミズキって奴もどっかで見た事あるんだよな……。
「いつまでくっちゃべってんだい!? あんた達はミズキちゃんの屋台のはんばーがーは食べなかったのかい!?」
八百屋婦人にそう言われて、ハンバーガーを思い出した怪我人達は瑞希を指差し叫び声を上げる。
――あのめちゃくちゃ美味かった屋台か!?
――変わった絵の店の!?
「お前さん等、やっとわかったのかい? ミズキちゃんの料理が食べたきゃ食材を持って来な! 食材がない奴は体を動かしな! もう怪我は治して貰ったんだろ! 少しぐらい働かなきゃ罰が当たるよっ!」
八百屋婦人に入れられた喝によって、元怪我人達は慌てて動き出す。
瑞希はその光景を見て面白かったのか笑い、料理の準備に取り掛かる。
「じゃあここで作る訳にもいかないし、外で作ろうか! ギルドの前で作っても構いませんか?」
「ギ、ギルドマスターに聞いてみますので少々お待ちください!」
受付嬢は慌てて事務室がある二階へと駆けあがって行く。
それと同時に野菜を取りに行っていた八百屋の息子達が戻って来た。
瑞希の前に根菜等が入った籠を置く。
「これで良いか!?」
「グムグム、カマチ、パルマン、デエゴ……充分充分! ありがとうございますお姉さん!」
瑞希の嬉しそうな顔に八百屋婦人が手を振る。
二階からは受付嬢と、キーリスのギルドマスターであろう恰幅の良い中年男性が下りて来る。
「キリハラ君だね? 挨拶が遅れて申し訳ない。この度は皆の怪我を治して頂き感謝する」
「いえいえ! バランさんに頼まれましたしね! それに知り合いが傷ついてたのに気付けて良かったですよ!」
「そう言って貰えると助かる。……して、ギルドの前で料理を作りたいというのはどういう事だね?」
「私の回復魔法を受けた人ってお腹が空くんですよ。どうせ回復させるならお腹迄しっかり回復させようと思ったのと……」
「まだ何かあるのかね?」
瑞希はギルドマスターに近付き、こそこそと耳打ちをする。
「成る程……。それは一理あるな。本当にそれで調理ができるのか?」
「普段からそうしてますからね! 何においても使い方って大事でしょ?」
「ふふっ。そんな使い方する奴は聞いた事がないけどな。わかった! 祭りの最終日だ! 嫌な事を忘れるぐらいの美味い物を作ってくれ! 勿論私達の分もあるんだろ?」
「もちろん! じゃあギルドの前をお借りします!」
瑞希がギルドマスターと会話していると、次々に食材が届く。
瑞希は元怪我人達に指示を出し、ギルドの前に運ばせる。
ドマルやリーンも楽しそうな瑞希に続き、リーンが助けた少女は面白くなさそうについていくのであった――。
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