ギルドでの治療
時刻は夜と言って差し支えのない程、辺りは薄暗くなってきていた。
怪我人を治すべく、瑞希達は城から街に移動し、キーリスの冒険者ギルドに到着する。
瑞希達が街に向かう前にバランの指示で怪我人が居たら冒険者ギルドに集めるよう、兵士に早馬を駆けさせていたのだ。
瑞希達が冒険者ギルドに入ると負傷者の数はそこまで多くはないが、火傷を負った者、走って転んだであろう者達が布を敷いたエントランスに蹲っていた。
「ミズキさん! 領主様から話は伺っています! 本当に回復魔法を使えるんですか!?」
以前瑞希を担当してくれた受付が瑞希の顔を見るや否や、飛び出して来た。
「大丈夫です。怪我人はこれだけですか?」
「軽い怪我の方達は治療院で受け持って貰っています。こちらの方達は冒険者ギルドの方が近かった方や、回復魔法を必要とする方々を集めています」
「やけに用意がいいのじゃな?」
「駐屯兵の方達が領主様の命でそうしろと触れ回っておられましたので……」
「じゃあ回復魔法をかけていきたいのですが……何か睨まれてる様な気がするんですが?」
「いえ、あの……」
「……なんか視線を感じる」
瑞希の背中におぶさっていたチサが何かを感じたのか、眠たそうに眼を擦る。
「お主はさっさと目を覚ましてそこを変わるのじゃ!」
シャオは瑞希と手を繋いだまま、小さな水球をチサの顔に当てる。
チサは冷たい水を被り、怒りながら瑞希の背中を下りた。
「ひぃっ!」
それを見て悲鳴を上げたのは近くに居た怪我人達だった。
瑞希はその反応を見て、睨まれている原因が分かり受付嬢に目配せをする。
「これ、回復魔法をかけても大丈夫なんですか?」
「普段魔法の使い手を見てる方は少ないですし、今回の騒動は魔法を使ったものでしたので、皆さん怖がられているんです……」
「ですよね……生死を彷徨う様な怪我をされてる方は居ないんですか?」
「重症の方はあちらに数名居られますが、死ぬ程の方はおられません」
「じゃあとりあえずその重症の方達にかけましょう。軽症の方達は自己判断に任せます」
瑞希は受付嬢に案内され、冒険者ギルドの奥へ歩いて行くと、横になっている怪我人と、その身内の者達であろう者が近くで泣いている。
瑞希は見知った顔であるその者の側に行き、慌てて声を掛ける。
「八百屋のお姉さん!? 大丈夫ですか!? 親父さんも!」
「いててて、ミズキちゃんかい? 逃げてる時に屋台が倒れて来てこの様さね」
瑞希を知る八百屋の婦人は折れ曲がった腕と、包帯で頭をぐるぐる巻きにされている痛々しい姿が目に入る。
親父の方は足が折れている様だ。
「回復魔法をかけます! すぐに良くなりますから! シャオっ!」
「わかったのじゃ!」
シャオは瑞希の背中に飛び乗り、瑞希は空いている両手で二人の患部に触れようとした。
「「止めろっ!」」
近くに居た十五歳ぐらいの男と、その弟と思しき少年が瑞希の手を止める。
「お前等魔法使いが今回の騒動を起こしたんだろ!? 親父とおふくろに触れるな! 怪我が深まったらどうしてくれるんだ!?」
「あほかっ! 治すんだよ! 良いから見てろ!」
「止めろって言ってんだろ! 母ちゃんから離れろっ!」
「お止めっ! この馬鹿息子達がっ!」
八百屋の婦人が息子である男に一喝する。
「ごめんよミズキちゃん。私はミズキちゃんの事を疑ってないからね。早くやっておくれ」
「けどよおふくろ……」
「ミズキちゃんはうちの野菜をあんなに美味しくしてくれる人だよ!? あんたも成人を迎えたんなら商品から職人の気概ってもの感じる様になりなっ!」
「わははは。料理の腕と治療は関係ないですけど、すぐに済みますからじっとしててください……」
瑞希の両手が光出し、瑞希は婦人の患部に触れていく。
婦人は次々と痛みが引いて行く事に驚きながらも、折れた筈の腕を上げ、ぐるぐる回す。
「あんたっ! ミズキちゃんっ! 旦那にもかけておくれ!」
「任せて下さい!」
親父も痛みが引くと、その場から飛び起き、屈伸をして状態を確かめ、息子達はあんぐりと口を開けていた。
「すげえなこりゃっ!」
「ちっとも痛くないよっ! なんなら怪我する前より調子が良いみたいだっ!」
「それなら良かったです」
瑞希が八百屋の夫妻ににっこりと微笑んでいると、小さな男の子が瑞希の服を引っ張る。
「ん? どうした?」
「お兄ちゃん、ママの怪我も治して」
「お前のママはどこにいるんだ?」
男の子は小さな手を母親に向ける。
母親はぐったりとしているが、荒い息を繰り返している。
瑞希は布団をめくり、損傷個所を見る。
「風魔法が当たったのか? 切り傷が酷いな……」
「ママ治る……?」
「心配すんなって! 兄ちゃんに任せとけって!」
瑞希は三度、傷に向け手を翳し、治療をしていく。
傷が塞がると息も整い、表情も和らいでいく。
「よしっ……と。もう大丈夫だぞ~!」
「ママぁ~!」
「ばっ……! あぁ……呻き声と共に起き上がれたし良かった……のか?」
母子はお互いの姿を確認すると、抱き締め合い喜んでいる。
「とりあえず重症の方は以上でしょうか?」
「は、はいっ! 回復魔法ってここまで治るものでしたっけ……? それに詠唱も無しで……」
「さぁ? 他の人のを見た事ないですし……こんなもんじゃないのかシャオ?」
「くふふふ。まぁミズキじゃからな!」
「えぇ~……と、とにかく他の方も治療を受けてください! この方は悪い魔法使いではありませんから!」
受付嬢は怪我人達に瑞希の事を説明して回る。
瑞希はその姿を見ながらある事を考えていた。
「……どうしたんミズキ?」
「お、もう酔いは冷めたのか?」
「……シャオに水ぶっかけられたせいで目ぇ覚めたわ。んで、何を考えてんの?」
「俺の回復魔法だけなのかわからないけど、回復した後って……」
すると、どこからかお腹が鳴る音が聞こえてくる。
「何故か腹が減るんだよ。多分お姉さん達も結構重症だったから腹減ってるだろうな……と思ってな」
「わしも魔力を使って腹が減ったのじゃ!」
「だよな~。と言っても馬車にあんまり食材持って来てないし……そうだ! お姉さぁん!」
瑞希は八百屋の夫婦に手を振りながら近づいていく。
「……どうすんねやろ?」
「何を作るか知らんが今から作るとしても時間がかかるのじゃ」
二人の少女が瑞希を眺めていると、八百屋夫婦と会話をしていた瑞希からとても良い笑顔が溢れていた。
八百屋の息子達は夫婦から指示を出されたのか、慌ててギルドを飛び出していく。
受付嬢に促された怪我人達はシャオ達の元に集まって来ていた。
それを見た瑞希は八百屋夫婦との会話を切り上げ、シャオ達の元に戻って来た。
「ミズキさん! 皆さん治療を受けてくれるみたいです!」
「それなら良かった! では皆さん! 回復魔法をかけていきますので順番に並んでください! あと、もし宜しければ後でお願いを聞いて頂けると助かります!」
瑞希の言葉に金を取られるのではないかと怪我人達がざわつく。
「あ、お金なんかは頂きませんので安心してください! では始めます!」
瑞希は並んだ怪我人達を順番に治療していく。
始めは恐れていた怪我人達も傷が治ると元気になり、瑞希達を疑う者は居なくなっていくのであった――。
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