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テオリス城と魔法使い

 突如襲われたキーリスの街と時を同じくしてテオリス城でも騒ぎが起きていた。

 街の警備や、バラン達の移動により手薄になっていたテオリス城にも魔法と思われる攻撃が上空から襲い掛かって来ていたのだ。

 兵士が魔法の出所を探していると、フードを被った魔法使い達を見つけ、取り押さえた。

 魔法使いのフードを取ると、虚ろな目をした男が現れ、ぶつぶつと何かを呟いていた。

 取り押さえていた兵士は詠唱だという事に気付くと、男から距離を取り、槍を構えるが、男からは魔法が生まれる事無く、糸が切れた様に倒れ伏した。

 城の一室でサラン達を寛がせ、アリベルに絵本を読んでいたアンナとジーニャは城の異変に気付き、辺りの警戒を強めた。


「な、な、何事っすか!?」


「ミズキ殿の言っていたミタス・コーポという輩の仕業か!?」


 アンナとジーニャは窓から外を覗くと、兵士に向かい魔法を使う賊に気付く。

 その賊も何度か魔法を放つと、糸が切れた様にこと切れる。


「城が襲撃されてるっすよ!?」


「馬鹿な!? 警備の兵士達は何をしているんだ!?」


 アンナとジーニャは窓から離れ、三人が座る椅子の近くに立ち、気を張り詰める。

 先程迄の空気が一変した事で、アリベルが怯え、隠れたのであろう、小さな身体でも大人びた雰囲気を出しているマリルがそこに座っていた。


「アリベルを取り返しに来たか……」


「(怖いよ~……お兄ちゃん……お姉ちゃん……)」


「マリル様! あいつ等なんなんっすか!?」


「すまぬ。原因はわらわ達にあるであろう。わらわが囚われていた所にも魔法を使う者は居た。そやつ等の目は虚ろで、命令を忠実に実行する様だが、他人の魔力で自身の魔力を強制的に使われているのか、魔力が枯渇すれば倒れる……」


「強制的に魔力を……」


「どうやってあいつ等から逃げたんすか?」


「直接触れ、詰め込まれた魔力を無理やり引きずりだした……が、そんな方法を取れる者はわらわ以外に知らぬ」


「……シャオ殿なら出来る!」


「シャオというのはあの男の妹君か?」


「そうっすよ! ミズキさんの魔法の使い方の逆っすもんね!」


「どういう事かわからんが、その者がおれば……」


「(ミズキさん早く帰って来て下さい!)」


「(頼むぜ兄ちゃんっ!)」


 サランは祈る様に瑞希の帰りを願っていると、突如として窓が割れ、人が飛び込んで来た。

 アンナは帯刀していた剣を抜き、ジーニャは拳を構える。

 しゃがみ込んでいた男は立ち上がり、マリルの顔を見るや否や大笑いしだした。


「ケヒャヒャヒャっ! ツイてるっ! ツイてるなぁ俺はぁ! ツキ過ぎて怖いぜぇ!」


「何者だ貴様っ!? それ以上近寄れば切るぞっ!」


 男はアンナの言葉を無視し、マリルに向かって歩く。

 アンナとジーニャは男の前に立ちはだかり、マリルを背に隠す。


「サラン殿! こいつの狙いはマリル様です! マリル様を連れて城の者にこの事を伝えて下さい!」


「それまではうち等が相手しとくっす!」


「ケヒャヒャヒャ! 大人しくそいつを渡せば楽だぞ? 楽に……死ねるぞ?」


 その言葉と共に男は殺気を放つ。

 アンナとジーニャは冷や汗を掻きながらも何とか堪え、吠えた。


「せぇあぁぁぁ! ――サラン殿!」


「頼んだっす!」


「は、はいっ! クルルちゃん! マリル様! 逃げますよっ!」


「二人共死ぬでないぞ! 援軍を呼んですぐ戻るでな!」


「サランちゃん! こっちだっ!」


 男は邪魔する事なく部屋から出て行くサラン達を眺めていた。


「そうかそうか。お前等は楽に死にたくないって事だよな~? そうだよなぁ? ケヒャッケヒャッ!」


「貴様が死ねっ!」


 アンナは両手で握った剣を左から右に横薙ぎに男の首を狙い、ジーニャは男の腹を目掛けて回し蹴りを放つ。

 男は二人の攻撃を躱し、笑いながら何かを呟き、男の右手に大きな火球が生まれ、男はその火球を浮かせると、火球に目掛けて拳を放つ。

 衝撃を受けた火球は形を変え、いくつものナイフの様な形が生まれ、二人に迫っていく。


「速っ!?」


「どういう魔法っすか!?」


 アンナは剣で火のナイフを斬り落としながらも、左肩に一つナイフが掠ってしまう。

 火で出来たナイフはアンナの肩を焦がし、アンナも苦痛に顔を歪めるが、剣を手離さず、そのままの勢いで男に斬りかかるが、躱される。


「良い~顔だぁ~! 痛いか? 熱いか? 次はどこに当たるかなぁ~?」


「うるさいっすよ!」


 二人は連携の訓練もしていたのだろう。

 男に魔法を使わせる前に攻撃を繰り出すのだが、致命傷となる様な攻撃は通らない。


「こいつ!? 魔法使いなのに!」


「もう楽しんだよなぁ~? もう良いよなぁ~?」


 男がアンナに対し魔法を放とうとした時、ジーニャがアンナの陰から現れ、男の腕を掴み、肩を極めるが男はぶつぶつと呟いている。

 すんなりと極める事が出来たジーニャは少し気を緩めてしまったのか、男の詠唱に気付くのが遅れた。


「ジーニャっ! 離れろっ!」


 ジーニャが慌てて男から離れようとしたが間に合わず、ジーニャの腹部には火球が命中し、吹き飛ばされてしまう。

 アンナはジーニャに走り寄り、ジーニャの燃えている衣服を破り捨てる。

 アンナは視線を男に合わせたままジーニャに話しかけた。


「大丈夫か? 動けるか?」


「い、痛すぎてちょっと無理そうっす……」


 ジーニャの腹部は焼けただれ、出血もしている。


「ケヒャヒャヒャッ! 痛そう、痛そうだなぁ~? 避けなきゃ痛い思いはしなくて済むぞぉ? ケヒャッケヒャヒャッ!」


 男はそう言うと、生み出した火球に拳を突き刺し、火のナイフを再びいくつも生み出しアンナとジーニャに向けて放つ。

 アンナは剣を構え、迎え撃つつもりだったが、目の前にナイフと同じ数の氷柱が生まれ、火のナイフを相殺していく。

 アンナとジーニャはその氷柱の形を知っている。

 あの二人が来てくれたと分かってしまう。


「「ミズキ殿 (さん)!」」


「大丈夫か二人共!?」


 部屋に飛び込んで来た瑞希は、左手でシャオと手を繋ぎながらやって来た。


「ジーニャが腹部に火傷を負っています!」


「待ってろ、今行く!」


「ケヒャッケヒャッ! 待つ必要はねぇですよ!」


 男は先程とは違い片手剣の様な炎を五本程アンナとジーニャに向け放つ。

 得意気な顔をしていた男の表情は、驚きのまま固まる事となる。

 自身で放った炎が目の前で凍り付き、消え去ったからだ。

 瑞希はアンナとジーニャの元へ到着すると、二人の患部に手を当てる。


「あはは。恥ずかしいっすね」


「すみません……私達は何も出来なかった……」


 ジーニャは上半身下着姿なのを恥ずかしがり、アンナは自分達の力不足を悔しがる。


「そんな事ないさ。サラン達がここの場所を教えてくれた。その時間を稼いだのは二人だろ? 三人は無事だし、二人共治る怪我で良かった」


 瑞希は二人の手当を終え、肌を露出させているジーニャに自身の上着を渡す。

 ジーニャは照れ臭そうに上着の袖を通し、アンナと共に瑞希の背に隠れた。


「お前もミタスって奴の仲間だよな? あいつにはちゃんと俺の周りに手を出すなって言っといたんだけどな?」


「ケヒャヒャッ! お前も魔法使いだよなぁ? やっぱり俺ぁツイてる! ついでにお前も連れて行こう……ケヒャヒャッ!」


 下卑た笑いを瑞希とシャオに向けるが、シャオは心底呆れた様子でため息を吐く。


「こいつはアホなのじゃ。自分がどういう状況に置かれておるかわかっとらんのじゃ」


 ぶつぶつと詠唱をした男は間違いなく魔法を放った。

 放ったのだが、現れた火球はナイフの形を模る前に消えてしまう。

 男は訳も分からず自分の右手を見るが、視線を切った隙をついて瑞希の右手が男の顔面を殴り飛ばした。


「どういう事だぁ!? さてはそっちのガキが魔法使いか!?」


「残念。俺が魔法使いだよ!」


 いつの間にか瑞希と手を繋いでいたシャオは、瑞希のイメージした魔法をシャオの魔力で押し出す。

 料理の時でも、野営の時でも、シャオからすれば瑞希が魔法を使うタイミングは手に取る様に分かる。

 本日瑞希がイメージしたのはスタンガン。

 媒介とするのはシャオが買ってくれたオーダーメイドの片手剣だ。

 瑞希が片手剣を男に素早く押し当てると、男の体がビクンと跳ねあがり、白目を向きながら口をだらんと大きく開け気絶する。


「気絶してるしもう大丈夫か……? シャオ、念の為にこいつの魔力を枯渇させられるか?」


「出来るけど……後で御褒美が欲しいのじゃ」


「ん? それは構わねぇけど……」


 シャオは気絶した男に触れ、男の魔力を風に変え外に放り出す。

 男の顔は心なしか青ざめている。


「う~……やっぱりこやつの魔力は気持ち悪かったのじゃ! ばっちぃのじゃ!」


「ばっちぃって……あぁ魔力の相性があるって言ってたな……シャオにしか出来ない事だから頼むよ。事が済んだら何でも作ってやるから」


「わかったのじゃ! とりあえずこやつは捕獲しておくとして、チサ達と合流して、マリルの言っていた方法で他の魔法使いの目を覚まさせるのじゃ!」


「そうするか。アンナ、ジーニャ、一先ずマリル達と合流しよう。バランさん達もこの状況ならすぐ戻って来るだろ?」


「わかりました」


「ミズキさん達が来てくれてなかったらやばかったっす」


「何だってんだよ一体……」


 瑞希はアンナが持ってきた縄で気絶させた男を縛り、身動きを取れない様にしてから担ぎ込む。

 四人はマリル達と合流するべく部屋を後にするのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

本当に作者が更新する励みになっています。


宜しければ感想、レビューもお待ちしております!


諸事情で更新が遅れています。

二、三日に一度更新はするつもりですので、落ち着くまでは暫しこのペースを御了承ください。

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