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異世界で始める飲食巡り~誰でも使える魔法の作り方~  作者: 正岡千之
第一章 瑞希の長い一日、さよならココナ村
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テミルの事情

 飛び込んできたテミルを落ち着かせ、当事者の瑞希は事情を聞く。


「大丈夫ですか? 何かありましたか?」


「助けてくださいっ! 領主様の娘であるミミカ・テオリス様がこちらの村へ向かう途中にゴブリンの大群に襲われたらしいんです!」


「それは一大事ですが、なぜ私を探してたんですか?」


 事情が良く呑み込めない瑞希に、テミルが肩を掴んで近寄る。


「キリハラさんが現在この村にいる唯一の冒険者だからです!」


 鬼気迫る迫力のテミルに瑞希は一歩後ずさりながら話を聞く。


「そ、そう言われましても、私に出来ることなんてありませんよ?」


「ゴブリンの群れの討伐をして来られた方が何を言ってるんですか!?」


 テミルはそう言うと腰のポーチから地図を取り出した。


「二か月程前、そちらにおられるタバス様の奥様がこの村周辺で襲われましたが、三か月程前からゴブリン被害の報告は小さい事ながらも受けておりました。領主様が住まうキーリスは北にあるここなのですが、北西にあるウォルカも距離的にはキーリスとそれほど変わらず、街道より東に位置するココナ村から冒険者を派遣したほうが早いと判断しました」


 広げられた地図を指さし、現状の位置の確認をする。


「そのテオリス様が襲われたとして、酷い事を言うようですが……生きてるんですか?」


「……ゴブリンは……若い娘なら生かして巣に連れ込み、子種を植え付ける習性がありますので、生きていると思われます……」


「(うわぁ……)護衛は居なかったのですか?」


「それが……テオリス様の独断で向かって居られたため、最低限の護衛しかつけておらず、多勢に無勢だった事に加え、魔法を使えるゴブリンメイジが統率をしていた様で……命からがら切り抜けてきた侍女の一人が街道で人を捕まえ事情を説明したようです」


「ゴブリンの巣に見当はついてるんですか?」


「この辺りに行商人達が野営をする場所があり、そこに向かう途中の行商人が東へ向かうゴブリンの群れを見たという情報があります!」


 瑞希は地図を確認しながら、東にある森を指さす。


「その地点から見て東だと、この森が怪しいと思いますが、巣がわかるような特徴とかはありますか?」


「ゴブリンメイジがいた場合、収穫があったゴブリン達は巣の近くで収穫の祈祷を捧げると言われています。なので、夜になったこの時間ですと魔法によって明かりをつけて行われていると思います!」


(上空から見たらすぐにわかるか……でもシャオの魔法を使うとなると……)


「ミズキよ。どうせ助けに行くのじゃろ?」


 話を聞いていたシャオが二人の話に割って入ってきた。


「まぁ……助けられるなら当然助けるんだが……」


「しょうがない奴じゃな……まぁ腹ごなしにはちょうど良いのじゃ」


 瑞希自身の戦闘能力がない事を知らないテミルは、シャオが発した瑞希の余裕とも取れる発言を聞き……。


「お願いします! キリハラさん! どうか……! どうかミミカを!」


 テミルは涙ながらに体をくの字に折り曲げ、瑞希に懇願する。

 そんなテミルを見た瑞希は、深いため息をつき言葉を続ける。


「わかりました。とりあえずその森に向かいます……が! 私が助けに行ったという事は他言無用という確約は頂けるでしょうか?」


「……と言いますと?」


「私は冒険者家業で生計を立てるつもりはありませんでしたので、あまり依頼などをこなすつもりはありません。助けに行った本人には私の事がばれますが、冒険者としては変に目立ちたくもないんです。できれば貴方からテオリス様への口止めもお願いできませんか?」


「ミミカが無事で帰って来れる可能性があるならこの事は他言致しません!」


 テミルは瑞希に詰め寄って手を取り必死さが伝わるぐらい力を込めて握る。


「ドマル! 丸腰で行くのも怖いから何か武器になるものを貸してくれないか?」


「わかった! 馬車まで取りに行ってくる!」


 ドマルは急いで店を出て、走って行った。


「タバスさん。僕は料理が好きです。出来れば料理の仕事をしたいと思っているので、良かったらこの事を内密にしていただけませんか?」


「当たり前じゃ! わしは小僧に恩がある! 小僧の不利益になる様な事はせんよ! それに、わしもゴブリン共には頭に来とるんじゃ! わしからも宜しく頼む!」


 店の扉が勢いよく開くと、ドマルが息を切らせながら戻ってきた。


「ミズキ! 良いのがあった!」


 ドマルが持ってきたのは刃渡りが50cmぐらいのショートソードと言われる細身の短い剣である。


「質はそこまで良い物じゃ無いけど、ナイフよりは距離も取れるし使ってよ!」


 ドマルは瑞希の腰に剣帯を回し、取り付ける。


「鉄で出来てるから、ゴブリンの木の棒ぐらいなら防げるはずだよ! ……よしっ!」


 瑞希は装着されたショートソードのずっしりとした重さを腰に感じるが、違和感は感じなかった。


「くふふ。なかなか様になっておるのう!」


「おだてたって明日はハンバーグじゃないからな」


「そんなつもりで言ってないのじゃ!」


 ぷんすかと怒るシャオをそこそこに、瑞希はテミルの方に視線を戻す。


「ならとりあえず行ってきます。全力は尽くしますが、最悪の想定もしておいてください」


「わかりました! ミミカを……どうか宜しくお願いします!」


 スタスタと店の出入り口に歩いていく瑞希にシャオがとことことついて行く。


「嬢ちゃんは行かんでも良いじゃろ!?」


「何を言っておる? ミズキだけに行かせる訳ないじゃろ? お主達はゆっくり茶でも飲んで待ってるのじゃな」


 そう言うと二人は店を出て、扉を閉める。


「……小僧! ウェリーも無しでどうやって行くつもりじゃ!」


 タバスは慌てて扉を開けるのだが、二人の姿はすでにそこには無かった……。



◇◇◇



 昼間ドマルを助けた時と同様に、シャオは猫の姿で瑞希の肩に乗り、風魔法で空を飛んで東に向かっているのだが、その首には雑貨屋で買ったリボンが巻かれていた。


「だぁぁぁ! 断れる雰囲気でも無かったし、流れに乗って店を出たは良いものの! シャオが付いてきてくれなかったら本当にどうしようかと思った! てか、やっぱ空飛ぶの怖えぇぇ!」


「にゃんにゃ~ん!」


 久々に猫の姿に戻れたシャオは、開放感からかノリノリで速度を上げていく。


「ちょちょちょっ! 速い速い! もうちょっと慣れさせて!」


 瑞希の泣き言はシャオの耳には入らず、首に巻かれたリボンがパタパタと揺れている。


「これがさっき言ってた森か? シャオ! もう少し上空に上がってくれないか?」


 瑞希に言われた通りに、シャオは魔法を調節する。


「明かり……明かり……! あった! シャオとりあえずあそこの上空まで向かってくれ!」


「にゃ~ん!」


 猫を肩に乗せた一人の男は森の中で踊るゴブリン達の上空に浮いているが、ゴブリン達は気付いていない。


「うわぁ……昼間の数より全然多いな……手に持ってるのは木の棒ばかりだけど、ゴブリンメイジってのはどれだ? シャオ? わかるか?」


 ぼふんと人の姿になり、瑞希は慌てて肩車をする。


「ん~……ここにはおらんみたいじゃな。あそこに洞穴があるから、そこが巣じゃろ。ミミカというのもあの中じゃろうな」


「こいつら全員を相手にしても問題ないか?」


「わしを誰だと思っておるのじゃ?」


「……俺の頼りになる相棒だよ!」


「わかってるのじゃったらさっさと行くのじゃ! 明日も美味い飯を頼むのじゃ!」


「いつでも作ってやるよ!」


 シャオは猫の姿に戻り、瑞希と共にゴブリンの大群へと突っ込んで行った――。

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