瑞希と妹達
「これで売り切れです! 三日間ありがとうございました!」
瑞希は最後の袋を手渡し、三日間の屋台に終止符を打つ。
瑞希の料理を食べた客からは、次はどこで出すのか、店を構えないのか等の質問が瑞希にされるが、瑞希は当たり障りのない言葉を返していた。
それと同時刻、キアラの屋台からも大きく声が聞こえた。
「「「ありがとうございましたー!」」」
どうやらキアラの屋台でも食材が無くなったのか、まだ時刻は早いのに片付けをし始めている。
「最終日だからたっぷり食材を用意したけど、朝からずっと行列が続いてたから思ったより早く売り切れたな!」
「キアラの屋台も同じ様な状況じゃな。この後はどうするのじゃ?」
「この後か……ん~、アリベルの事は俺達の手に負えないし、さっきのミタスって奴の事はもう報告したからな……どうせなら俺達も祭りを楽しもうか!」
「……街をまわるん?」
「屋台をまわっても良いし、何か掘り出し物もあるかもしれないだろ? シャオのリボンとかも新調したいしな!」
「べ、別に今のでも構わんのじゃっ!」
「……うちも欲しい!」
「ちゃんとチサにも仕事を手伝って貰った分の給料は渡すから買いたい物を買えば良いさ」
「……そうやないねん!」
祭りを楽しめるという事でチサのテンションが徐々に高くなっていたからか、関西弁に似たマリジット地方の言葉で瑞希に盛大に突っ込む。
「わはは! わかった! じゃあ小遣いとは別にシャオとお揃いのリボンを買ってやるよ!」
「……にへへへへ!」
そんな会話をしていると、キアラが物凄い勢いで近寄って来た。
「私も欲しいんなっ!」
キアラは飛び切りの笑顔で瑞希に要求する。
「キアラにはもう経験という名の知識を与えただろ?」
「それは弟子としてしっかり受け取ったんな! リボンは瑞希の妹としてシャオとチサのお揃いに混ぜて欲しいんな!」
「俺の妹はシャオだけだ。ん~、シャオが三人でお揃いにしたいなら買ってやるけど……」
瑞希がチラリとシャオを見ると、シャオはすまし顔しながらそっぽを向いた。
「別にどっちでも良いのじゃ」
「シャオ! お揃いにするんなっ!」
「……せやでっ! 折角やんか!」
シャオは二人からわいわいと詰め寄られると、シャーっと猫の様に怒り出す。
「うるさいのじゃっ! ミズキ! うるさくて敵わんからこやつ等にも買ってやるのじゃ!」
「「やったー!」」
チサとキアラはシャオに抱き着き、シャオは煩わしそうにしながらもどこか嬉しそうだ。
「じゃあ荷物を置きに城に戻ろうか! キアラ達は今日も泊って行くんだろ?」
「今日は泊って、明日の朝一番で帰るんな!」
「そうかそうか。じゃあゆっくり祭りを楽しめるな! 早く片付けないとどんどん遅くなっていくから急ごうか!」
瑞希は急いで片付けると、三日間屋台を出した場所に頭を下げた。
シャオとチサは瑞希が何をしているかわからなかったが、真似をして屋台に向かってお辞儀をするのであった。
◇◇◇
時刻は夕刻前。
祭り最終日の為かどこを歩いても人、人、人、人が溢れていた。
その光景に嫌気を差したのがシャオだ。
人にもみくちゃにされる前に瑞希の背中をよじ登ると、第二の定位置である瑞希の肩に乗る。
瑞希自身もさすがにこの人混みの中を対策をせずに子供を連れて歩こうとは思わなかったので、シャオに金の入った鞄を渡し、キアラとチサに手を差し伸べる。
キアラとチサは嬉しそうに瑞希の手を掴み、可憐な少女達に囲まれる瑞希を見た周りの男共からは何とも言えない視線を瑞希に送られていた。
「うぅ……そりゃこうなるよな……」
「……にへへ。離さへんで」
「私もしっかり握っとくんな!」
「まぁ迷子になったら連絡手段も無いしな……。チサとキアラもスリとかに遭わない様に金目の物はシャオの持ってる鞄に入れとけ」
瑞希の言葉に素直に従い、二人はシャオに金を預ける。
シャオは鞄に渡された金を仕舞うと、瑞希の頭に鞄を乗せた。
「シャオ、重いんだけど?」
「仕方ないのじゃ。これが一番安全なのじゃ」
シャオはそう言うと鞄と瑞希の頭を抱え込む。
「まぁ確かにそうだけどよ……じゃあとりあえず店を見て回るか」
瑞希達は人混みの中に入って行き、布等を主に扱っている屋台や店に向かって歩いて行く。
「シャオ、リボンとかが置いてそうな店が見えたら案内してくれ。チサとキアラははぐれるなよ?」
「……大丈夫!」
「わぷっ! 私達が店を出してた所とは人通りが段違いなんな?」
キアラは人にぶつかった事で、瑞希の手ではなく腕に捕まる。
チサはそれを見て納得したのか自身も瑞希の腕に捕まった。
「俺が身動き取れねぇじゃねえか……」
「ミズキ、あっちに女共が群がってる屋台があるのじゃ!」
「じゃあ目指すはその店だな! てか店に着いても人混みか……」
瑞希は屋台を頑張ったシャオ達が喜ぶならと、気合を入れ人混みを掻き分けて行く。
シャオは瑞希の頭を掴みながら誘導し、何とか全員無事に店に到着した。
その店は優しそうな『お姉さん』と呼んで差し支えない女性が店番をしており、店前の人混みがマシになった所でシャオを下ろし、二人から手を離した。
「ふぅ……じゃあ三人でどのリボンが良いか決めろ~」
瑞希がそう言うと、二人の少女がシャオを引っ張り楽しそうにシャオにリボンを合わせていた。
瑞希は自身でもシャオに似合いそうな髪留め等を選んでいる。
周りのミミカぐらいの年齢の女性からは成人男性が髪留めを選んでいるのが珍しいのか、チラチラと瑞希に視線を送られていた。
「(今日は人に良く見られる日だな……)お~い、シャオ~?」
瑞希はシャオを呼ぶがシャオはチサとキアラにリボンを合わせられイライラし始めていた。
瑞希はそれに気付き、店員に聞き、色違いの同じデザインのリボンを出して貰う。
瑞希は三本選び、三人の元に歩いて行った。
「ミズキ! さっさと選ぶのじゃっ!」
「ミズキはどれが良いと思うんなっ!?」
「……シャオにはこれも似合うと思う!」
「店員さんにこのリボンを出して貰ったけど、これはどうだ?」
瑞希はそう言うと、手早くリボンを使って髪を括る。
シャオには赤色のリボンを使い背中側で三つ編みに。
キアラにはオレンジ色のリボンでサイドテールにして。
チサには青い色のリボンを使いうなじから通して側頭部で括る。
「こんな感じかな。どうだ?」
三人は店に有った鏡で瑞希がセットしたリボンを眺める。
「くふふふふ」
「……にへへへ」
「あっは! 可愛いんなっ!」
「二本ずつあればツインテールにも出来るか……お姉さぁん! これと同じ奴をもう一本ずつ下さい!」
店員の女性は手早くリボンを括りつけた瑞希の手腕に見惚れており、瑞希に言われ慌てて瑞希にリボンを手渡した。
「じゃあ各自二本ずつで良いよな? 今着けてる奴はどうする? そのままにしとくか?」
三人共瑞希の言葉に頷く。
瑞希は会計をしようと思ったが、ふとアリベルの事を思い出した。
「すみません。六、七歳の女の子が着けるような可愛らしいリボンってありますか?」
女性の店員は頷き、シャオ達に買った様なシンプルなリボンではなく、少し太い目のピンク色のリボンを出した。
「あぁ、可愛らしいですね! じゃあそれも一つ下さい!」
瑞希は会計を済まし、三人の少女を連れて店を後にした。
残された客と店員の女性は、男が可愛らしい髪形を作るのにも驚いたが、それ以上に三人の少女の嬉しさを隠し切れないという可愛らしさに心を打たれるのであった――。
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