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マリルの記憶

 マリルを出迎えたバランは応接間にて当事者の瑞希達と共に、テーブルを挟み椅子に腰を掛けていた。

 テミルが用意したお茶は程好い温度に入れられており、当事者のアリベルはミミカが作ったというクッキーに食いつきサクサクと美味しそうに食べていた。


「……で、どういう事なんだミズキ君?」


「今朝屋台の近くにいたアリベルを保護しました。そこで事情を聴こうにもバランさんに会わせて欲しいと言われ、バランさんが忙しいのは承知で連れて来たんですが……」


「このお菓子美味しいねぇ!」


 アリベルはニコニコとしながらクッキーの感想を述べていた。


「……これ、このくっきーのせいでマリルが出てこれてへんのとちゃう?」


「多分そうだろうな。子供にしたら興味があるだろうし、実際上手く出来てるからな」


 瑞希もクッキーを食べ、ミミカの菓子作りの上達に驚いていた。


「ミズキ君……こう見えて私も忙しいのだが……それに君達は不可解な事を言っているぞ? この子はマリルという名ではないのか?」


「この子はアリベル・カルトロムという名です。マリル・ルベルカというのはもう一人の名で……」


「もう一人? 私はそのマリル・ルベルカという名を知らされて驚いているんだ。この子は一体何者なのだ?」


「それが……多分この子は人攫いに遭った子供だと思うのですが……」


 瑞希の言葉にビクッと体を跳ねさせたアリベルは、手に持っていたクッキーを下ろし、テミルに用意されたお茶を啜るため、カップに手を付ける。

 その所作はとても子供がするような所作ではなかった。


「当たり前だが老けたなバラン……」


「……子供だから多目にみるが、私を呼び捨てにするのは失礼ではないか?」


「そう言うなバラン。わらわも実際にお前に会うまではこの様な奇跡とも云える現象は想像できなかったのだから」


「マリル、お前やっぱりアリベルの中から生まれた人格って訳じゃなさそうだな?」


 マリルの会話を聞いていた瑞希が言葉を挟むが、何を言っているか訳の分からないバランは怪訝な顔をしながら瑞希の顔を見ている。


「私には君達が何を言っているのか全く分からんのだがこの子は一体何を言っているのだ? マリルという名をどこで聞いた?」


「どこで聞いたもなにもわらわの名前だ。バランに会いたいとは思ったが実際に話せるとなると何を話せばいいか存外言葉が詰まるな……」


「戯けた事を言うな。マリル・ルベルカは私の姉の名だ。貴様の雇い主がどこで調べたか知らんがこの様な子供を使って下らん事を吹き込んだのか?」


 バランは怒りを隠そうともせずに、幼女を相手に怒りを露にする。


「そう怒るな。昔は姉ちゃん姉ちゃんと可愛らしかったのに、むさ苦しいおっさんになったばかりか短気になったのか? わらわは悲しいぞ?」


「ではお前が仮に姉ならば、私達しか知らない事を何か言ってみろ」


「ふむ……二人で木登りをしていて調子に乗ったバランが下りられなくなってわらわに泣きついた事。バランが苦手なカマチを口の中に含んで捨ててた事。右尻に三角形の黒子がある事……そうさな……」


 瑞希は笑いを我慢していたが、シャオとチサは笑っている。

 バランは半信半疑で聞いていたが、マリルの言葉は記憶にある出来事と重なる。


「……甥か姪かわからんが、お前の子供は抱いてみたかったな」


 マリルは苦笑しながら出来事ではなく願望を話すが、その言葉にバランが涙を流す。


「……本当に姉さんなのか?」


「だからそう言ってるであろう? 姿形は変わってしまったが、わらわの記憶にあるのはマリル・ルベルカの記憶。……命を亡くした亡者の記憶だ」


「……ミズキ君は知っていたのか?」


「マリルの事を知っていた訳ではないのですが、アリベルが知らなそうな言葉まで知っていた事に違和感がありました」


「……そうか」


「ようやくわらわの言葉を信じて貰えたかの?」


「信じられない様な話だがな……。姉さんが亡くなったのは二十年以上前になるか。あの時の言葉を再現してやりたいがその体だと抱かれる側だな」


 バランはマリルの幼い容姿を目にして、ふっと笑う。


「先程の娘がバランの娘だな。ミズキに詰め寄る姿にバランに小言を言われた事を思い出したわ。くっくっく。世代は変わっても受け継がれるものだな」


「姉さんがだらしなかったからだろ?」


「後でやろうと思った事を其方が見つけてはやってくれてただけだ。今更生前の事をぐちぐち言うな」


 その後も幼女と中年男性が話し合う内容ではない、姉弟の他愛ない会話が続く。

 瑞希はその姿を眺めながらシャオの頭を撫でる。


「どうしたのじゃ?」


「不思議な事もあるもんだと思ってな。まぁ俺達が言う台詞ではないけどさ」


「……ほんまやわ」


「でもこういう事を実際目の当たりにすると生まれ変わりっていうのは本当にあるのかもしれないよな」


「わしはお爺さんに会ってみたいのじゃ」


「俺はお袋かな~?」


「……うちもおかんに会ってみたい」


「まぁでも本来なら生まれ変わりってのは記憶を綺麗さっぱり無くすみたいだから、もしも生まれ変わって出会ってもお互いに分からないんだろうな」


「……なんやそれも悲しいな」


「それでもバランさんみたいに出会えてるかもしれないよな。そう考えると奇跡ってのは意外に身近に起きてるかもしれないぞ?」


 瑞希は笑顔でそう話していると、応接間の扉が開き、ミミカ達が倒れこむ。

 テミルがにこやかにしながらも明らかに怒気を放ってミミカ達を起き上がらせた。


「ミミカ様? 何をしてらっしゃいますの?」


「み、皆が何を話しているか気になって……」


「……あなた達は?」


「お嬢を止めようとしたんすけど、止めきれなくて……」


「二人を引っ張っていたのですが二人の力に敵いませんでした……」


 テミルは三人の顔を見ながら一つ息を吐いて言葉を続けた。


「ミミカ様とジーニャは後でお説教です」


「だって、だって~!」


「だってじゃありません。ジーニャもミミカ様を止めるならまだしも、一緒に混ざるなど言語道断です!」


「ごめんなさいっす……」


「ミミカを呼ぼうと思ったから丁度良い。ミミカもこちらに来なさい」


 バランに招かれたミミカはおずおずとバランの元に近付き椅子に座る。

 テミルはジーニャとアンナにカップを用意させミミカの分のお茶を注ぐ。


「其方がバランの愛娘か? つまりはわらわの姪っ子に当たる訳だ」


「え? え? どういう事ですか?」


 マリルは席を立ち、ミミカに近づくとミミカの頬に両手を当てる。


「口元等はバランに似ておるな。奥方は亡くなったそうだがちゃんとバランに可愛がって貰っておるか?」


「えっと……あの……少し前までは愛されてるか信じられなかったのですが、ミズキ様のおかげで最近のお父様からは愛されてると感じています……」


「……わらわに詳しく話してみよ」


 その後ミミカから事情を聴いたマリルは少し前までのバランの話を聞き怒り出す。

 幼女が中年男性を叱っている姿を見せられた面々はテミルから今日見た事を忘れる様に命ぜられるのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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