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アリベルとマリル

 屋台の仕事を終えた瑞希達は、城へと戻る道中、モモが曳く馬車の中でマリルの事情を聞いていた。


「ほぉ。つまり偉そうなこやつがマリルで、時折見せる子供らしいのがアリベルなのじゃ?」


「……同じ人やないの?」


「体は一つだけど精神が二つあるんだろ? マリル、記憶の共有とかはあるのか?」


「こんな面妖な話を其方等は信じるのか?」


「ミズキが言うのじゃったら信じるのじゃ」


 シャオの言葉にチサも頷く。

 マリルはふっと笑い、瑞希達の言葉を信じた様だ。


「元々の人格はアリベルだ。わらわはアリベルが泣くのが嫌で表に出て来たみたいよの」


「泣くのが嫌なのじゃ?」


「……どういう事?」


「シャオ、今はもう無いけどマリルの背中に傷があっただろ? ……そういう事だ」


 チサはその現場に居合わせていなかったため、何の事を言っているのか理解が出来なかったが、シャオはマリルの背中を思い出した。


「人間はな。どうしようもない絶望とか、辛さとか目の当たりにすると、そこから逃げ出したくなる。でも体が逃げられない時にそういう状況になると、精神に異常が出る。こんな辛い目に在ってるはずがない、これは自分じゃないって思い込むと別の人格が生まれる時があるらしい」


 瑞希は御者をしながら自身の気が滅入る様な言葉で説明をする。

 真っ先に瑞希を心配したのは手綱を引かれているモモだ。


「キュー!」


 元気を出せと言わんばかりにモモが鳴く。


「くふふ。モモの言う通りじゃ! ミズキが気に病む事ではないのじゃ」


「左様。其方達に出会って久々にアリベルが表に出て来た。いくら問いかけても泣いてばかりの子だったが、其方等と触れあってみたかったのだろうな……感謝する」


「俺達はいつも通りに過ごしてただけだよ。アリベルが楽しんでくれたなら良かった」


「先ほど其方が言っていた記憶の共有という事だが、アリベルが知った事はわらわも知っておるが、わらわが知った事は一部だけがアリベルにも共有されておる」


「ややこしいのじゃ。ミズキ、どういう事じゃ?」


「つまり、アリベルはマリルが体験した事でも意識すれば共有出来るって事か?」


「少し違うな。悲痛な事が起きれば当然アリベルは己の中に籠る。籠っている時に起きた出来事は記憶の欠片すら残っておらん。しかし、わらわが表に出ている時でも興味を持っていれば記憶する事が出来ておる」


「成程……入れ替わりは自由な感じか?」


「比較的自由だが、アリベルが興味を持ちすぎたりするとわらわが押し退けられたりもする。逆にアリベルが嫌だと思うとわらわが押し出される事もある」


「それにしては……いや、バランさんに会えば分かるって言ったんだからこれ以上の詮索はバランさんを交えてにしようか。もう城にも着いたしな」


「キュー」


 瑞希は城の兵士に事情を話し、マリルの姿を見せる。

 マリルは馬車から降り、フードを外し、兵士はマリルの持ち物等を確認するが、危険物等は見つからなかった。

 しかし、瑞希やキアラ達の様にミミカが連れて来た訳ではなく、瑞希が連れて来たという事で、子供と言えどおいそれと兵士の独断では判断が出来ず、立往生を余儀なくされる。

 兵士は判断を仰ぎにバランの元に駆けようとするが、当の幼女から一言発言された。


「マリル・ルベルカと言えば分かる」


 瑞希とシャオが馬車から降り、モモの首を撫でていると、後ろからキアラの馬車が追い付いて来た。

 城への入り口で立往生している瑞希の姿を見て、キアラが馬車から降りてくる。


「どうしたんな?」


「さっきの子供を連れて来てるから、城に入れて良いかの判断を待ってるんだ」


 キアラは瑞希の陰に隠れていたマリルを覗き込み、笑顔を向ける。


「詳しい事情は知らんけど迷子なんな?」


「迷子ではないわ。帰る場所も分かっている。帰れるとは思わんがな」


「ん~? どういう事なんな?」


「色々事情があるみたいでな。とりあえずはバランさんに任せようかと思う。正直俺だと話が複雑すぎて手が出せん……」


 瑞希の言葉にショックを受けているのはマリル改めアリベルだ。


「……お兄ちゃんもどっか行っちゃうの?」


 じわっと泣きそうになるアリベルの顔が、急に険しくなる。


「戯けっ! アリベルを泣かせるなっ!」


 一人で二人の感情を行き来する幼女を見たキアラは首を傾げながら反応する。


「んん~? どうしたんなこの子?」


「人間には色々あるんだよ……よいしょっと」


 瑞希は幼女を抱きかかえ、背中をポンポンと叩くと、アリベルは嬉しかったのか笑顔になり瑞希の首に抱き着く。

 それを見て恨めしそうにしているのはモモの背中に跨っていたシャオだ。


「うぬぬ……ミズキっ! わしも抱っこするのじゃっ!」


「二人同時になんか出来るかっ! アリベルが落ち着いてからにしてくれ」


「えへへ~! 高ぁいっ!」


「昼間に見た時と全然違う反応なんな~?」


「楽しい時とか嬉しい時は素直になる子供なんだよ」


「ぐぬぬぬっ! 瑞希の抱っこを……わしの場所を取るなんぞ許せんのじゃ……」


「キュー……」


 モモは悔しそうなシャオの声を聴いて、瑞希に叱る様に、加減して瑞希の足を踏む。


「いてぇっ!」


「キュー!」


 お姉ちゃんが拗ねてるわよ、とでも言いたげにモモが鳴き、首を振ってシャオを指す。

 瑞希は過保護なモモに溜め息を吐きつつも、シャオに背中を向けて話しかける。


「シャオ、お姉ちゃんだから我慢しろとは言わないけど、背中は空いてるから、お姉ちゃんなら工夫しろ」


「くふふ。我慢してやるのじゃ」


 シャオはモモの背中から瑞希の背中に飛び移り、瑞希の体は一人の幼女と一人の少女に挟まれる。

 子供とは云え二人分の重量を受け止めるのは瑞希でもさすがに重いらしいのだが、それを見て反応したのはキアラとチサだ。


「……ミズキ、うちも」


「私も飛びついて良いんな?」


「止めてくれ! 絶対に支えきれないからっ!」


「そうじゃそうじゃ! お主等は我慢するのじゃっ!」


「あほっ! 揺らすなっ!」


 シャオはシャーと怒り出すが、その姿が面白いのかアリベルは瑞希に抱っこされながらクスクスと笑っている。

 瑞希は前後に二人の重みを抱えながら、左右からも引っ張られ遂にはバランスを崩して倒れてしまう。

 瑞希が地面に到達する前にシャオが魔法を使いふわりと受け止めるが、立ち上げられた瑞希はアリベルをゆっくり下ろすと、衣服を直し、瑞希の顔を覗き込んでいた四人の少女に顔を向ける。


「おーまーえーらー!」


「瑞希が怒ったんなー! 逃げるんなー!」


「待てあほ共! 一回説教してやるっ!」


 逃げ惑う少女達に紛れ幼女も捕まらない様に瑞希から逃げる。

 瑞希とて本気で怒っている訳ではないが、幼女が捕まらない様に三人の少女が結託しているため、中々捕まえられない。

 アリベルはそれが楽しかったのか声を出してはしゃぎ回る。


「キャー! あはははははは!」


 その光景を兵士に呼ばれて自ら出向こうとしていたバランとミミカが見ていた。


「ま、また女の子が増えてる!?」


「ミズキ君は良い親になりそうだな? しかし、何故あの様な子供がマリル・ルベルカという名前を出して来たのかわからんな……」


 瑞希に追い回される幼女の姿を見て、バランはポツリと呟くのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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