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幼女とテリヤキチキン

 幼女の着替えを済ませた瑞希は、屋台の準備を進めていた。

 昨日噂になった二つの屋台の前には既にちらほらと開店を待つ客の姿が見え始め、瑞希は仕込んで来た食材を取り出し調理を始める。

 ジュウジュウと鉄板の上で音を立てて焼かれるハンバーガーのパテの香りに客は鼻をひくつかせ涎を垂らす者、隣の屋台から発せられる香辛料の複雑な香りに誘われる者もいる。

 焼き上がったパテとパンをミズキからシャオとチサに渡ると、二人の少女が手際よく組み立て包み紙で包んで行く。

 本日最初のハンバーガーを受け取った客は屋台を離れながらも齧り付くのであった。


 件の幼女は馬車内で聞こえてくる客の声を聞いていた。


 ――噂通り見た事もない料理だな!


 ――うめぇぇぇ! 何で四個しか売ってくれないんだよ……


 ――お前みたいな客が買い占めちまうからだろうが!


 買った客は個数制限に不満を持ちながらも、味については絶賛している様だ。

 そんな声を聞いていた幼女、安心感からの空腹感と、どんな料理かが気になってしまい、目深にフードを被り馬車から降りて瑞希の屋台へ移動し、屋台の後ろ側から三人の姿を見ている。


「悪いっ! 腹減ったよなっ! もうすぐこのピークも終わるからもうちょっと待っててくれ!」


「良い。馬車内で聞こえておった料理が気になっただけだ」


「そうかっ! シャオ、チサ、このパテを売り切ったら一旦休憩にしよう!」


「わかったのじゃ」


 シャオとチサが瑞希からパテを受取り、次々にハンバーガーを完成させると、瑞希は屋台の前に休憩中の札をかけ、旗を下げる。

 二人の少女が完成させたハンバーガーを完売させると、瑞希はホロホロ鶏のモモ肉を焼き始めた。


「今日ははんばーがーじゃないのじゃ?」


「毎日同じハンバーガーってのも味気ないだろ? 今日はチサの好みに合わせたハンバーガーだ」


「……ペムイを使うん!?」


「ペムイは使わないけど、中の肉と具材を少し変えるんだ。それで中のソースはケチャップじゃなくてこれを使う」


 瑞希は小瓶に入れた液体をシャオとチサに見せる。


「……これはジャル?」


「正解。ジャルとペムイ酒と砂糖を混ぜた物で、テリヤキソースって言うんだよ。肉が焼き上がったらこのソースを肉にかけて、香ばしさと照りを出す」


 瑞希は焼き上がった鶏肉にテリヤキソースをかけ、じゅわじゅわという音と共に、辺りには香ばしい匂いが漂った。

 瑞希は照りが出たモモ肉をバットに乗せ、鉄板で軽く表面を焼いたパンに、たっぷりと照り焼きダレを付けた鶏肉と、キャムの外側のレタスみたいな葉を乗せ、その上にマヨネーズをかけて再びパンを乗せ、包み紙で包む。


「ほい。これでテリヤキチキンバーガーの完成! 商品にするつもりはないけどな」


 瑞希は何個か作り、シャオ達に手渡した。


「腹減っただろ? 待たせて悪かったな」


 幼女は瑞希からテリヤキバーガーを受取ると、どう食べて良いのかわからず、上下左右に持ち上げ首を傾げていた。


「庶民の食べ物は食べ方がわからん。これはどうやって食べれば良いのだ?」


「庶民て……紙を開けてあぁやって食べれば良いんだよ」


 瑞希はシャオとチサを指差し、大きく口を広げて齧り付いている姿を見せる。

 その顔はとても幸せそうに頬張っている。


「口の周りが汚れるではないか……ああやって食べるしかないのか?」


「ハンバーガーは齧り付く物なんだよ。味は良いはずだから試してみろって」


 幼女はしぶしぶと云った様子で、包み紙を広げ小さな口で齧り付く。

 その味は今までの短い人生では未だに体験したことのない味だった。

 幼女は目を大きく開き、確認のためにもう一口齧る。

 二口目もすぐに飲み込んでしまい、三口目は味わおうとしたが、すぐにもう一口を入れたくなり、四口目、五口目と次々と頬張った所で、喉が詰まる。

 瑞希は幼女の様子を見て察していたのか、素早く水の入ったコップを幼女の前に差し出し、幼女は慌ててコップを受取りごくごくと水を飲みほした。


「どうだ? 美味いだろ?」


 瑞希は二ッと幼女に微笑みかけたが、幼女は目の前のテリヤキバーガーに再び齧り付いた。

 食べた事の無いパンの柔らかさ、鶏肉の溢れんばかりの肉汁、シャキシャキとした野菜に、甘辛いタレ、そしてどうやって作るのか想像も出来ないとろりとした濃厚な旨味を持つ何か、幼女はあっという間にテリヤキバーガーを食べつくし、もう一度味わいたいと思ったが躊躇う。


「くふふふ! ミズキもう一個貰うのじゃ!」


「……にへへ! うちも!」


「そこにあるからどうぞ。お前もお代わりするか?」


 瑞希にそう聞かれた幼女は取り繕う事もなく、条件反射の様に答えた。


「うんっ!」


 幼女は答えてからハッと気付いたが、瑞希はクスクス笑いながらテリヤキバーガーを手渡した。


「子供は素直が一番だ。足りなかったら言ってくれ。シャオ、チサ、食べ終わったらモモにも野菜を食べさせてやれよ~」


「くふふ! わかったのじゃ!」


「……二個目やのに美味しい。パンにも合うジャルは偉大や!」


 シャオとチサが食べ終わると、口の周りの汚れが気になった瑞希はハンカチを出していつもの様に拭ってやり、シャオとチサはモモに野菜を持って行く。

 ソースでべとべとになったハンカチを洗い、新しい乾いたハンカチを手に持った瑞希は幼女の前に膝をつく。


「自分で作っといてなんだけど、子供の口でテリヤキを食べると絶対に汚れるよな~。ほら、こっちに顔向けろ」


「わぷっ! 何をするっ!」


「ソースで口の周りが汚れてるんだから大人しくしてろ……よし、綺麗になった。俺達は夕方まで仕事だから、腹が膨れて眠たくなったら馬車で寝てて良いからな」


「……ここに居る」


「そうか。ならまぁ俺達の仕事っぷりを暇潰しにでもしてたら良いさ……さて、じゃあ後半戦もバリバリ頑張ろうか!」


 瑞希はそう言いながらパテの準備をし始めたが……。


「キュー!」


 普段は大声を出さないモモが雄叫びを上げる。

 その声に反応した瑞希は疑う事なく屋台を飛び出し、鳴き声の元に走り寄る。

 そこには昨日のならず者達が積み重ねられており、シャオが埃を払う様にパンパンと手を鳴らし、駆け寄った瑞希に微笑んだ。


「モモに水を出したらこやつらが急に襲い掛かって来たのじゃ」


「……シャオがあっという間に気絶させた」


 瑞希はほっと胸を撫でおろし、シャオとチサを確認する。


「どこも怪我してないか? 痛い所は?」


「くふふ! 心配せんでも何ともないのじゃ!」


「……にへへ。大丈夫!」


 二人の笑顔に安心した瑞希は両手で二人を抱きしめる。

 シャオとチサは嬉しそうにまた笑う。


「良かった……シャオ、パテの焼き方は分かるよな? チサと一緒にハンバーガーを作ってくれ」


「それは構わんが、ミズキはどうするのじゃ?」


「俺はちょっとこいつ等と大人の話があるから……すぐ戻るから準備は任せた」


 抱擁から離れた瑞希は近寄り難い雰囲気になり、チサはたじろぐが、シャオは笑う。


「……ミズキ? 大丈夫?」


「ミズキは大人じゃからな。大丈夫じゃ。わしらはハンバーガーの準備をするのじゃっ!」


「……う、うん」


「ミズキ、程々にしておくのじゃ? くふふ」


 シャオの言葉に瑞希は承諾したのか手をひらひらさせる。

 瑞希はシャオとチサが屋台に入った事を確認すると、一番上に重なっているボスの顔を軽く叩き起こす。

 慌てて起き上がったボスは地上に降り立ち、直ぐに臨戦態勢になり、周りを確認する。


「ど、どこに行きやがった!?」


「……おい」


「はっ!? ……なんだてめぇか。おい、あの子供をどこに隠した?」


 ボスはシャオに一瞬にして意識を刈り取られたのであろう、状況が分からず目の前にいた瑞希に絡みだした。


「何でうちの子達を狙った?」


「はっ! 何でてめぇに……「質問してんのはこっちだ」」


 瑞希はならず者の衣服を左手で掴み、力任せに引っ張りボスの顔を近づけ確認する。


「何でうちの子達を狙った?」


 瑞希はもう一度同じ言葉を告げる。

 しかし二度目の言葉には明確な怒気が込められていた。

 怒気に反応したボスはグランの言葉を思い出し、冷や汗を流す。


「た、頼まれたんだっ! 幼い子供を探せって! そいつは魔法を使ってるかもしれないって!」


「お前に頼んだ奴はどんな奴だ?」


「わ、わからねぇ! 深くフードを被って顔を隠してやがったから!」


 瑞希は同じ体勢のまま少し考えていると、ボスが焦りながら瑞希に質問をする。


「な、なぁ、あの化け物……」


 男の意識はそこで途切れた。

 化け物というシャオを指すであろう単語に瑞希は怒りのままボスの顔面を右手で殴り、ボスの体を吹っ飛ばした。

 瑞希の握った拳はぼんやりと光り輝いていた――。

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