祭り二日目
瑞希はキアラ達と共に朝早くから城の厨房で仕込みと朝食を済まし、瑞希達の愛馬であるモモが曳く馬車で屋台に到着する。
元々場所も良くない上に、まだ時間も早いので、周りに人は少なく、瑞希達とキアラ達は広く場所を使い準備を始めた。
シャオとチサが馬車内から瑞希に食材を渡し、瑞希が屋台に荷物を下ろしていると、瑞希が何やら視線を感じた。
キョロキョロと視線の原因を探していると路地裏から元は小綺麗な衣服なのだろうが、くたびれ汚れてしまっている髪は赤毛でボサボサ頭な七、八歳ぐらいの幼女を見つける。
「お前、何してんだそんな所で? 父ちゃんか母ちゃんは近くに居ないのか?」
「其方、誰に向かって口を聞いておる?」
「誰って……親は近くに居ないのか? キーリスの子か?」
「わらわがキーリス出身に見えるのか? 戯けたやつよの……」
「いや、知らんけど……キーリス出身じゃないなら朝っぱらから迷子か? 帰り道はわかるか?」
「其方、わらわが分からんのか?」
「わからんわ! 生憎俺はキーリスぐらいしか知らねぇんだよ」
「……田舎者か」
「憎まれ口が大層なガキんちょだな全く……」
「ミズキっ! 何をしておるのじゃ!? 早く荷物を受け取るのじゃっ!」
瑞希が少女と会話をしていると、馬車の中からシャオが怒り心頭で飛び出してきた。
「あぁ、悪い! ちょっとそこの子供と喋っててな!」
「また子供に懐かれておるのじゃ!?」
「懐かれてるというかは、馬鹿にされてるかな?」
「ほう? ミズキを馬鹿に……良い度胸じゃな……」
シャオは瑞希の視線を辿り、赤毛の少女に目をやる。
赤毛の少女は隠れながらも、少女をこき使う瑞希に怒りを向ける。
「其方、斯様な少女をこき使うとはこの痴れ者めっ! 其方も人攫いの類いの者かっ!」
「何を言っておるのじゃこの馬鹿者は? ミズキも拾い物ばっかりするでないのじゃ」
「別に拾ってないけどな……お前、今人攫いって言ったか?」
「そうであろうっ!? 可憐な少女に労働を強いているのが何よりの証拠ではないか?」
「……もー、二人共何してんの?」
お次はチサが馬車から荷物を持って現れた。
再び少女が現れた事で、幼女の怒りはますます強くなる。
「……誰なん?」
「其方っ! 恥ずかしくはないのか!? 良い大人が子供を攫い、ましてや労働を強いるなどっ!」
「……何言ってんのこの子?」
「わからん。とりあえず言いたい事はわかったから一旦落ち着け。こっちの銀髪の子はシャオって言って俺の妹だ。こっちの黒髪の子はチサ。理由有って俺達兄妹の元に預けられて一緒に生活している子だ」
「……むぅ。うちも妹でええのに」
瑞希はシャオとチサの頭に手を乗せ優しく説明をする。
赤毛の幼女は二人の少女と瑞希見比べながら、瑞希の言葉を聞く。
「どちらかと言えばそっちの黒髪の者が妹ではないのか?」
「……この子は良い子!」
「馬鹿な事を抜かすでないのじゃ! ミズキの妹はわしだけじゃっ!」
「その会話には私も混ざるんなっ!」
「またややこしくなる……」
屋台が近くなので自身の屋台の準備をしながら四人の会話を聞いていたキアラが待ったをかける。
瑞希は顔を手で覆いながら、走り寄って抱き着いて来るキアラを受け止めた。
「私こそが真の妹なんなっ!」
「あほ。俺の妹はシャオだけだ。……という訳で、俺は人攫いでもないし、この子達には俺の仕事を手伝って貰ってるだけだ。今俺に飛びついて来たこの子は俺の料理の弟子で向こうの屋台の店主だ」
「其方……幼子ばかりをはべらせて恥ずかしくはないのか? さては変た……「サラーン! 助けてくれぇっ!」」
赤毛の幼女からあらぬ疑いをかけられる前に、瑞希はサランに助け船を求めた。
慌ててやって来たサランが赤毛の幼女に懇切丁寧に説明をすると、幼女も納得がいったのか怒りは治まった様だ。
「――という訳で、ミズキさんが少女に囲まれているのはたまたまだよ?」
「何で朝から変態呼ばわりされなきゃいけないんだ……」
「ミズキが幼子ばっかり拾うからじゃっ!」
「人聞きの悪い事を言うなあほっ!」
「でもミズキさんが普段女の子に囲まれてるのは事実ですよね?」
サランはクスクスと笑いながら瑞希に問いかける。
「今物凄く、カインとドマルとグランに会いたい……なんならバランさんでも良い……」
「バラン? バランとは、バラン・テオリスの事か?」
「お前な~? いくら子供でも領主さんの事を呼び捨てにするのは止めとけ?」
「ミズキさん……ミズキさんが言うと説得力ないですよ?」
最もな突っ込みをサランが入れると、一人の妹と、二人の自称妹の話し合いの決着がついたのか、シャオは満足そうに瑞希の背中に飛びついた。
「わしがミズキの妹代表の妹なのじゃっ! お主等は只の妹止まりなのじゃっ!」
「え? 俺に妹が増えてんの? お前等は一体何を話し合ってたんだよ……」
「たまには私とチサにミズキを譲るんなっ!」
「……シャオばっかずるい!」
「知らんのじゃ~! ミズキはわしの物じゃ~」
「いつまでもあほな事やってないで仕事に戻るぞ。サラン、キアラを連れてってくれ」
「うふふ。わかりました。お嬢ちゃんもあんまり仕事の邪魔しちゃ駄目だよ? ミズキさんはこの通り悪い人じゃないけど、怒ったらすっごく怖いからね?」
「サラン待って欲しいんな~! まだ話は終わってないんな~!」
「はいはい。早く戻らないとクルルちゃんが怒りだすよ」
キアラはサランに引きずられる様に自身の屋台へと戻って行く。
瑞希は視線をキアラから幼女に戻すと、しゃがんで話しかけた。
「まぁグダグダな説明になっちまったけど、俺は人攫いでも変態でもないからな。お前もさっさと帰る所があるなら帰れよ?」
瑞希がそう告げると、幼女は少し考え返事を返した。
「其方、わらわを匿ってくれまいか? そしてバランに会わせて欲しい。そうすれば其方の無礼も妹君達の無礼も不問に致す」
「あほ。俺達は今から仕事だからお前の遊びに構えないの。仕事が終わるまで待ってるなら考えてやるよ」
「ならそれで良い。……む。安心したら腹が空いた。何か食べさせてたも」
瑞希の背中で幼女の言葉を聞いていたシャオは怒りよりも呆れていた。
「ここまで来ればこやつも大した者じゃな?」
「厚かましいとも言うけどな……その前に汚い恰好のまま店の周りをうろちょろされたら迷惑だから先に風呂に入れ」
「風呂? 何処に風呂がある? 例え風呂があったとしても……」
「あーもう! ごちゃごちゃうるせぇ! とりあえずこっちに来い!」
「むっ! 何をするっ! 離せっ! 離さんかっ!」
幼女は瑞希に担がれバタバタと抵抗空しく、瑞希にモモが居る馬車へと連れ込まれ、服を脱がされた。
幼女の背中には鞭で叩かれた様な痛々しい傷跡が瑞希の目に入り、瑞希は顔を歪ませた。
「お前……これ……」
瑞希の背中越しに幼女の背中を見たシャオも確認する。
「鞭の痕じゃな。人間は痛々しい事をするもんじゃ……」
「見世物ではないぞっ! 早く服をかえ……」
瑞希は何も言わずに幼女の背中に手を当て、回復魔法をかける。
幼女の体に暖かな温もりが伝わり、傷の箇所から痛みが引いていく。
「其方、治療士か?」
「……只の料理人だよ。さぁ風呂も用意したからとっとと入れ!」
「馬車の中に風呂などある訳が……」
瑞希はそう言うと、馬車内に温水の球体を出し、幼女を抱え突っ込んだ。
幼女は訳も分からず、瑞希に体を委ね、されるがままに洗われる。
瑞希の手慣れた洗い方に心地よさを感じていた幼女だが、瑞希はものの数分で幼女を洗い終え、大きな布で幼女の体を拭く。
「着る物はシャオの替えがあるからこれを着ろ」
瑞希はシャオの下着とフード付きローブを幼女に手渡す。
「うぬぬ。わしの服なのじゃ……」
「しょうがないだろ? チサのだとデカいだろうし、シャオの方が小さいんだから。髪の毛も乾かすぞ?」
「よ、良きに計らえ……」
瑞希はドライヤー魔法で幼女の髪を乾かし、手櫛で髪を整えると、紐で髪の毛を束ねてポニーテールを作る。
「良し。さすがにシャオの櫛を使うと怒り出すからこれぐらいで良いだろ? 後で飯を持って来てやるからここでじっとしてろよ? 考えたくないけど、誰かに追われてるならフードを被って隠れてろ。何かあったらすぐに呼べよ?」
「あ……うん……」
「それと、憲兵が見回りに来たら渡す事も出来るけど、どうする?」
「それは駄目っ!」
幼女は瑞希の言葉を即答で返した。
瑞希は何かを察したのか大きく息を吐いた。
「わかった。事情は後で聞くからな?」
「……うん」
「よし! じゃあ腹減ってるだろうけど、ちょっと待ってろよ? 落ち着いたら飯を持って来るから。モモ、何かあったら教えてくれ!」
「キュー!」
瑞希は幼女とモモにそう伝え、馬車を離れて屋台の準備を続ける。
幼女は瑞希の後ろ姿に頼もしさを覚えるのであった――。
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