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リーンの店

 城に荷物を置き、売上の確認が終わった瑞希はドマルを誘い、キアラ達の三人とミミカ達の四人を連れて一軒の店にやって来た。

 瑞希は鍋を手に持っており、作成途中は少し嫌な匂いもしていたが、調味料が加わってからは食欲をそそる香りに変わっており、シャオとチサには屋台が終わってから晩御飯に食べようと言って我慢させていたが、食事に出る事になったのでその料理を持ってきたのだ。

 人の店に料理を持って行くのは普通なら出来ない様な話なのだが、到着した店に見覚えのあるシャオとドマルは納得していた。


「くふふ。ここの料理は久しぶりなのじゃ!」


「ミズキが商材のペムイ酒とジャルを何本か持って来て欲しいって言うからどこに行くかと思ったらリーンちゃんのお店か」


「そうそう。この料理をついでにリーンにも教えてやろうかと思ってな! チサが狩ったオーク肉のバラ肉が余ってたし」


「ミズキとドマルの知り合いのお店なんな?」


「知り合いというか、ミズキが料理を教えたお店だよ。僕も商談の時とかに何度か使ってるけどね」


「という事は、ここにもミズキの弟子がいるんな!」


「弟子ではないかな~? 元々お母さんが作ってた料理を再現してみただけだしな。そう言えばジーニャとアンナもここには食べに来た事があるんだよな?」


 急に話を振られたジーニャとアンナが反応する。


「以前ミズキ殿を探していた時に立ち寄りましたね」


「モーム肉煮込みのお店っすよね!」


 その言葉にミミカが思い出したのか、声を上げる。


「あ~! ここって二人が前に言ってたお店なんですね!? 私に黙って美味しい物を食べた時の!」


「ミミカ様……声が大きいです」


「そうっすよ。一応お嬢はお忍びなんすよ?」


「だって、思い出したらあの時の悔しさが戻って来たんだもん!」


「まぁまぁ、ミミカ様も今から食べれますから落ち着いて」


「そうそう。じゃあ席の予約もしてあるし入ろうか!」


 ドマルがミミカを宥め、鍋で両手が塞がっている瑞希はシャオに頼み扉を開けて貰う。

 扉を開けると鈴の音が響き、満面の笑顔のリーンが出迎える。


「いらっしゃいませぇ~! お待ちしてましたよぉー!」


「お待たせ。急に大人数の予約を取って悪かったなリーン」


「良いんですよぉ! ミズキさんはこの店の救世主なんですからぁ! 今日はもう貸切にしてますので、ささっ! どうぞ入って下さいぃ!」


 リーンの案内にぞろぞろと入って行く一行の中に普段着の様な服を着ているが、気品のある出で立ちと、その背中を見守る様にキョロキョロとしている大男の姿をリーンが気付き、リーンは座る前の瑞希を捕まえ問いただす。


「(あの、ミズキさん……私の勘違いならそれで良いのですが、あそこに居られる女性の方ってミミカ・テオリス様に似ている様な……いやいや! そんな訳ないですよねぇ?)」


「(ん? あぁ……そのミミカで間違いないぞ?)」


「(え? 領主様の娘の? 今日の開会式で真っ赤なドレスを着ていた?)」


「(リーンも来てたのか? そうそう。そのミミカだ)」


「ミズキさんっ!? 何処にどなたを連れて来てるんですかぁ!?」


 リーンは慌てふためき声を大きくしながら瑞希に詰め寄る。

 その姿を見ていたミミカはむっとしていた。

 勿論歓迎されてないからという訳ではなく、瑞希に若い女性が近づいているからだ。


「(ミズキ様ったらあんなに女性に近づいてっ!)」


「(いや、多分そういう事ではなくて、ミミカ様の素性をミズキ殿が説明されて驚いてるんですよ)」


 そろりとミミカの姿を見たリーンと、瑞希に近づくリーンを見ていたミミカの視線が重なる。

 ミミカはむっとした顔のままリーンを見たので、それを見たリーンがさらに焦る。


「(ほら、ほらぁ! こんな所に連れて来たからミミカ様が怒ってますよぅ!)」


「大丈夫だって! モーム煮込みは作ってるんだろ? それを食べさせたらミミカも驚くからっ!」


 瑞希は声を潜める事を止め、リーンに鍋を渡して背中を押す。

 リーンは渡されるままに鍋を受取り、瑞希に押されるままに厨房へと入って行く。


「(もうっ! あんなに仲良さそうにっ! でも、話題は私の事だったんだよね……うふふ)」


 ミミカはミミカでむっとした表情から、締まりのない顔になっていた。


「ミミカ、顔がにやけてるのじゃ」


「……何を想像してんの?」


「な、何でもないよ!? ここの御料理の想像をしてただけっ!」


「お~い、シャオ~! サラダのドレッシングを作るからちょっと手伝ってくれ~!」


 瑞希はカウンター越しの厨房からシャオに声を掛ける。

 シャオは嬉しそうに返事を返す。


「くふふ。今行くのじゃ~! ミズキはわしがおらんと駄目なのじゃな」


 シャオはそう言い残し、席を離れてカウンターの中に入って行く。

 すると、呼ばれなかったチサとキアラがむっとした表情をする。


「……むぅ。うちも手伝えんのに」


「私は料理を教えて欲しいんな!」


「私も最近ミズキ様と料理してないわ……」


 その声が聞こえていたのか、瑞希がカウンター越しから三人に言葉を掛ける。


「もう殆どリーンが作ってくれてるから皆は座っとけって! 特にキアラ達とミミカ達はお客様なんだから料理を楽しみにしとけよ。俺も大した物は作ってないけどな!」


 瑞希はそう言いながらシャオと手を繋ぎ、ハンドブレンダー魔法を使ってドレッシングをかき混ぜながら、食材を揚げている。


「ミズキさん的に大した事が無くても、うち等は毎回驚かされるっすよね?」


「でも今回はこの店の料理だろうし、食べた事のある物だろうから、心の準備が出来てはいるな。でもそうなるとミズキ殿の料理をあまり食べてない兄さんは……」


 アンナとジーニャが会話をする中、グランは目を瞑りながらじっとしている。

 しかし、じゅわじゅわと食材を揚げる音と、ふわりと香ってくる煮込み料理の香りに口元からは涎が垂れそうになっていた。


「ミズキの料理は久しぶりなんなっ! 今日はどんな料理があるか楽しみなんなっ!」


「でも、今日はリーンさんのお店で出される料理だよね? ミズキさんが持ってたお鍋の中は気になるけど……チサちゃんは見てないの?」


「……見てない。でも匂いはジャルの匂いがしてた」


「ジャル? ジャルってどんな調味料なんだ?」


「ジャルはね、チサちゃんの地方で作ってる調味料なんだけど、ミズキさんの故郷にも似た様なのがあったんだって。この前キアラちゃんの家で皆で食事をした時は使ってなかったけど、料理にすると美味しいんだよ? ねぇ、チサちゃん?」


「……ジャルは美味い。ミズキが料理すると……やばい」


「兄ちゃんの料理ってジャルを使ってなくてもやばい美味さじゃん……何か食べるの怖くなってきた……」


 クルルが瑞希の料理に恐怖している所で、深めの皿に盛られたモーム肉煮込みが皆の目の前に置かれて行く。


「これがうちの看板商品のモーム肉のルク酒煮込みですぅ! お、お口に合うかどうか……」


「リーン様、そこまで畏まらなくても大丈夫です。本日は領主の娘ではなく、ミズキ様の弟子として扱って頂いて大丈夫ですので……」


 ミミカはモーム肉煮込みを置いていくリーンに、にっこりと微笑みながら告げる。

 しかし、リーンはその気品から逆に畏まってしまう。


「そ、そ、そ、そ、そんなっ! 滅相もないぃっ!」


「わはは! 大丈夫だって、普段のミミカは可愛らしい女の子だから。ちょっと食いしん坊で、甘い物に目がないけどな」


 瑞希は完成した料理を持って、悪戯っぽい顔でリーンに言葉を掛けながら次々と料理を並べていく。


「く、食いしん坊ではないですっ!」


 ミミカはその言葉に赤面しながら俯き、何とか言い返すが、その言葉には力はなかった。

 その顔を見てリーンもミミカの少女な一面を見て、緊張が少し和らぐ。


「食いしん坊でも良いじゃねぇか? 男でも女でもいっぱい食べてくれる人は料理人からしたら嬉しい事だぞ? シャオとチサなんかいつも笑顔で食べてくれるしな!」


「「ミズキの料理が美味しすぎるだけ(なのじゃ)!」」


「わはは! じゃあこれが今日もって来たオーク肉を使った料理だっ!」


 テーブルの上にはリーンに教えた簡単な料理の他に、瑞希が用意した揚げ物とゴロゴロとしたオーク肉の料理が並び、集まった面々はゴクリと唾を飲み込んだ。

 瑞希の合図と共に食事を進めて行くのであった――。

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