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祭りの騒動

 夕刻を過ぎる頃、瑞希達の屋台の周りには料理を買いたい客に囲まれていた。

 しかし、食材が尽きるという事で店じまいだと伝えると、殆どの人は残念だ、という声を上げ諦めていたのだが、祭りでは付き物のならず者が怒りに身を任せて瑞希に食って掛かっていた。


「てめぇ! 散々期待させといてもう出来ませんはおかしいだろうが!?」


「最初から言ってましたし、十個減る毎にお知らせしてたでしょ? また明日店を出しますからまた来て下さい」


 瑞希は居酒屋で培われた営業スマイルで応対するのだが、瑞希の見た目と、連れているのが幼子だけだと侮っているならず者はここぞとばかりにごねだした。


「知らねぇなぁ! 俺達はちゃ~んと腹を空かせて待ってたんだぜ? それが目の前で売り切れですじゃあ筋が通らねぇだろ?」


「そう言われても無い物は無いんですよ。また明日お待ちしてます。シャオ、チサ、さっさと片付けるぞ?」


 瑞希は真面目に対応するのも面倒臭くなったのか、ならず者を放置して、他の客に詫び、屋台の片付けをし始めた。

 しかし、飄々とした態度が気に食わなかったのか、ならず者達は屋台を囲い瑞希達を脅す。

 瑞希は大きく溜め息を吐き再び応対する。


「何をするつもりか知らんけど、ここまでするんならもう客でも何でもねぇぞ?」


「たかが料理人が何をデカい口叩いてやがんだ! この屋台を潰しても良いんだぜ!?」


「あ~! もうめんどくせぇなぁ! こっちには子供も居るんだから無闇に怖がらせんなっ! 今ならまた明日ちゃんと作ってやるからさっさと帰れっ! 嫌ならもう売らねぇぞ?」


「子供を口実に逃げようってのか? てめぇこそさっさと誠意を見せて謝れば許してやるぜ?」


 瑞希とならず者の会話を黙って聞いていたシャオとチサだが、いよいよ我慢の限界の様だ。

 瑞希は少し気温が下がったのを感じ取り、大事になる前に片を付けようと、先程から絡んで来ているならず者のボスの肩に手を置き告げる。


「痛い目に遭いたくなかったら悪い事は言わないから早く帰れっ! なっ!?」


 瑞希のその言葉に苛立ちを隠せなくなったならず者は思わず瑞希に殴り掛かる。

 キアラ達も片づけをしながらその光景を見ていたが、キアラとサランはならず者を哀れみ、瑞希の事をあまり良く知らないクルルは一人慌てていたが、瑞希はならず者の拳をするりと避け、相手の手を取り、背中に回して抑え込み、一言言い放った。


「待てっ!」


 その言葉にならず者の取り巻きがたじろくが、瑞希の目的はそこではない。

 今にも魔法を使って、言葉そのままに痛い目に遭わせようとしていたお子様二人への言葉だ。


「(ん~……とは言ってもこのままこいつ等の相手をするのも面倒くさいし……どうしよう)」


 瑞希は考え事をしながらボスの腕を締め上げ、鈍い悲鳴が聞こえている。

 ならず者の仲間が、男を助けようと思ったのか、角材で瑞希を後ろから殴り掛かり、それに気づいていた瑞希はパッと手を離し、仲間が放った角材は綺麗にボスの頭に当たってしまう。


「俺に殴りかかってどうすんだこの馬鹿がっ!」


 ボスは子分の男を殴り飛ばし、騒ぎが大きくなった所で聞き慣れた声が聞こえて来た。


「ミズキ様~! 食べに参りました~!」


 屈強なごつい男の兵士達と、侍女であるジーニャとアンナを引き連れたミミカその人だ。

 騒ぎに気付いた兵士はミミカを守る様に立ち、兜で顔の見えない兵士の代表者が瑞希とボスの前に立ちはだかった。


「これは何の騒ぎだ?」


 声の主に気付いた瑞希は、ほっと一息を付き後は兵士達に任せようと思ったが、ボスが先に声を出した。


「こいつの料理が不味いから文句を付けたら逆上して俺の仲間を殴りやがったんだっ!」


 食べもしていないボスの言葉に瑞希は呆れたのだが、シャオとチサは再び魔力を高めるが、瑞希が二人を両手で抱え込み宥める。


「ぐぬぬ……こやつらは死にたいらしいのじゃ……」


「……ミズキの料理が不味い……ミズキの料理が不味い……こいつら人間?」


「怒るな怒るな! 甘い物食べるか? チョコならあるぞ?」


「「食べる(のじゃ)!」」


 瑞希の言葉に魔力を抑え、瑞希にチョコレートを貰い、二人はその甘味に怒りも忘れ、事の成り行きを見ていた。

 ボスはへらへらと被害者顔をしてのらりくらりと顔のわからぬ兵士に説明しているのだが、徐々にミミカの魔力が高まっていく。

 しかし、ミミカよりも早く話を聞いていた兵士が素早い動きで剣を抜き、ボスの首で寸止めをする。

 状況に気付いたボスは慌てながら後ずさる。


「それ以上戯言を抜かすなら次は止めんぞ?」


「ひっ! 何で俺が嘘を吐いてるって言うんだよ!?」


 兵士が兜を取り、顔を見せる。

 そこには怒りの形相をしているグランの顔があった。

 見覚えのある兵士の顔にボスも含め、ならず者達の顔に脂汗が浮かぶ。

 

「貴様がミズキの料理を食べてないのがわかるからだ! こいつの料理を食べたら嘘でも不味いとは言えん! それとも何か? お前はテオリス家がお抱えしている料理人の作った料理が不味いとでも言うのか!? そんな料理人を抱えているテオリス家の味覚がおかしいとでも言うつもりか!? それと俺の顔を忘れたとは言わさんぞ?」


「め、滅相もないっ! 俺達がグランさんの顔を忘れる訳ないじゃないですか!? じゃ、じゃあ俺達はこれでっ!」


 そそくさとその場から離れようとした、ボスの肩を掴み、グランは自分の背後にいる瑞希を親指で差す。


「お前、ミズキとやりあわなくて助かったな? あいつは俺より強いぞ?」


 そう説明されたボスは瑞希の顔を見て、滝のような汗を掻いて逃げる様に去っていった。

 瑞希は呆れながらグランに話しかけた。


「何だよあいつら? グランの知り合いか?」


「ふざけた事を抜かすな! あいつ等は質の悪いタカリだ! 俺が憲兵をしている時に何度か痛い目に合わせたのだが、懲りずにまだやってたのか……」


「どこにでもいるんだなあぁ言う奴等は。それよりミミカもそんなに怒るなよ」


 グランの陰に隠れながらも怒りのままに魔法を使ってしまいそうだったミミカを瑞希が宥める。


「あ、あの人達はミズキ様の料理を馬鹿にしましたっ! 不味いなんて言って! あの人達にミズキ様の料理の何が分かるんですかっ!?」


「あぁ、あいつ等は俺の料理を食べてないから出まかせ言って助かろうとしただけだ。それよりもこんな騒ぎを起こして明日からの営業が心配だ……」


「明日から? 今日はもう営業してないんですか?」


「もう売り切れたからな! 今日はもうお終いだ」


「そんな~! 挨拶周りも終わって折角買いに来たのに~! ミズキ様の料理を楽しみにしてたのに~!」


 ミミカの叫びにドマルから紹介され、騒ぎの最中に来ていた行商人達は確信を持った。

 ドマルが言っていた言葉は真実であった事を。


「ん~それならこの後荷物を置いたらキアラ達と御飯を食べに行くけど、ミミカも行くか?」


 瑞希は何の気なしにミミカを誘うが、当然グランが間に入る。


「馬鹿者っ! ミミカ様をそう簡単に祭り途中の街を歩かせられるかっ!」


「それもそうか……じゃあミミカは城でお留守……「行きますよっ! グランもついてくれば良いじゃないっ! それにミズキ様達もいるんでしょっ!? どこよりも安全じゃない!」


「で、ですが、バラン様のお許しを頂かなければ……」


「なら一度荷物を置きに城に戻るからその時にバランさんに聞いてみな。それで無理なら、ミミカも諦めろよ?」


「絶対に認めさせますっ!」


 ミミカが断言していると、片づけを終えたキアラ達が瑞希の元に寄ってきた。


「兄ちゃん大丈夫だったのかよ!?」


「ん? 何でもなかったよ」


「クルルは心配しすぎなんな。私はシャオがやり過ぎないかが心配だったんな」


「あれはあやつ等が悪いのじゃっ!」


「それでもあんな怖そうな奴等に兄ちゃんが勝てるわけないだろ!?」


「……ミズキが本気を出したら全員這いつくばってたで?」


「……嘘だろ?」


「クルルちゃん。ミズキさんなら本当にやりかねないんだよ?」


「するかっ! サランは人を何だと思ってるんだよ……」


「分からないですよ? シャオちゃん達に手を出してたら見るも無残な姿になってたかも……」


「あぁ~……それは……」


 サランの言葉に瑞希は言葉を濁す。


「ふんっ! 出来るんじゃからさっさとやってしまえば良かったのじゃ」


「あほ。話し合いで解決できるならそれに越したことはないだろ?」


「……でもむかついた!」


「まぁまぁ、こうやってグランが助けてくれたんだからもうこの話は終わり! さっさと荷物を置いて飯に行こう! 腹が満たされたら怒りも治まるだろ?」


 瑞希はそう言いながら荷物を馬車に乗せる。

 ミズキと食べに行く食事が楽しみになり、上機嫌になったミミカはキアラ達に話しかける。


「キアラちゃんもお城に泊まってね! 仕込みも厨房を使ってくれて良いよ!」


「お言葉に甘えるんなっ! そうと決まればミミカの城に行くんな!」


「じゃあとりあえずは荷物を下ろしに戻ろうか!」


 瑞希達は馬車に乗り込み、屋台を後にした。

 城に戻る前に瑞希は一軒の飲食店に寄り、席の予約を取るのであった――。

 

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