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瑞希の提案

 瑞希のハンバーガーを買った人達は知人達に自慢気に広める。

 どこで買えるのかと問い詰められれば、この絵の旗が出てる屋台だと包み紙に書かれた絵を見せる。

 購入した人間は地元の者も居るが、外部の者もいる。

 外部の人間は通り名を言われても分からないので、歩きながらその旗を探す。

 ドマルが知り合いの行商人に出会い、渡した時も問い詰められる事となったが、ドマルは料理の価値を高めるために、少し大げさに伝えた。


 曰く、領主お抱えの料理人がこっそりと屋台を出している。


 曰く、祭りの期間しか店を出さないため、今しか食べられない。

 

 希少だと思った行商人達はこぞって買いに出向くのであった。


◇◇◇


 休憩時間とも言える穏やかな客入りの状況で、キアラはシャオと交換したハンバーガーを食べながら考えていた。


 少しするとシャオは渡したカレーを別の料理に変えて再び持って来た。

 シャオは師匠からの提案だという伝言を残し、再び自身の屋台に戻って行った。

 キアラは手渡された料理を見てみると、瑞希が食器代わりに使っている絵が入った紙に頭を出す様に包まれていた。

 渡したカレーは炒めたミンチ肉と混ぜられ、水分は無くなっており、薄く焼いたカパ粉焼きで棒状に包まれていた。


「これは私が作るきーまかれーに似てるんな?」


「でもかれー自体はキアラちゃんの作ったやつだよな?」


「ミズキさんの提案……とりあえず頂きましょうか!」


「「「頂きますっ!」」」


 口に入りやすい形をしている棒状の料理を三人娘はパクリと齧り付く。

 食べ慣れたカレーの味に、ミンチ肉の旨味と、中からはトロリとチーズが伸びる。

 チーズのコクが合わさり、カレーの辛みは少し柔らかくなるが、その分他の旨味が加わり、一つの料理としてはより美味くなったと感じる。

 何より……。


「キアラちゃん! これなら食べ歩きも出来るし、ある程度の作り置きも出来るよ!? この生地だけなら焼き置きも出来るし!」


「でもかれー本来の香りは少し弱まってるだろ!?」


「けど、これもかれーと言われればかれーなんな……」


 キアラは瑞希の提案した料理を食べながらチラリと瑞希の屋台を見る。

 そこには美味しそうにチーズを伸ばしながら、自分達と同じ物を食べるシャオとチサの姿が写る。


「ちょっとミズキの所に行って来るんな! お客さんが来たら宜しく頼むんな!」


 隣の屋台までそう距離は無いが、キアラは急いで瑞希の元に走って行く。


「いってらっしゃい!」


 サランは快くキアラを送り出したが、クルルの方は少し悔しそうだった。


「美味いかれーを作れば勝てると思ったのに!」


「クルルちゃん。それは誰に勝ったって言えるのかな?」


「兄ちゃんだよ! それ以外にいねぇだろ!?」


「でもミズキさんは初めから私達を負かそうとはしてないよ? それこそ勝ち負けを意識してるとしても、まずはお客さんが喜ぶ事を前提に考えてると思わない?」


「私達のかれーだってお客さんは喜んでるだろ!?」


「でもミズキさんの料理は誰かに買って行く事が出来る。それってここに買いに来れない人も喜ばす事も出来るでしょ?」


「それはそうだけどよ……」


「ミズキさんの出してくれたヒントの時点で気付けたら良かったんだけど、私達の料理は店で出すのと何にも変わらないんだよ? 屋台で食べるってのはそこの料理だけじゃなくて、他のお店の料理も食べれるのが楽しいんだよ」


「う~……」


 サランの言葉を言い返す事が出来なくなったクルルは小さく唸り、サランは言葉を続ける。


「それにミズキさんはちゃんと私達の仕事も残してくれてる。キアラちゃんとクルルちゃんが作るかれーはミズキさんが作ったのより美味しく作れると思わない?」


「当たり前だっ! この料理は確かに美味しいけど、もっと香り高く作れる!」


「だからミズキさんのこの料理はあくまでも提案であって、これを作れって訳じゃないんだよ。キアラちゃんはそれが分かってるからミズキさんの所に行ったんだよ」


「でも今更この調理場を作り替える事なんて出来ないだろ!?」


 クルルの言葉にサランが笑う。


「うふふ。どうかな? 私達のお師匠様はそこまで考えてるかもしれないよ?」


「そんな先の事まで考えてたらそれこそ魔法使いみたいだよ……」


「知らないの? ミズキさんは魔法使いだよ? それに、ミズキさんが教えてくれる魔法は誰にだって作れるんだよ? クルルちゃんだってかれーが作れるでしょ?」


 サランは瑞希と旅した事を思い出す。

 サランからすればあの旅自体も不思議な経験の連続だった。

 そんな瑞希がこうなる事を予測してても何も不思議ではないと思っていた――。


◇◇◇


 瑞希の屋台に飛び込んで来たキアラは開口一番にこう言った!


「ミズキっ! 食材を分けて欲しいんなっ!」


「キアラならそう言うと思って、用意できてるぞ? チーズもいるか?」


「欲しいんなっ! お金は後で払うんな!」


「わかった。後は屋台の件だけどそれはどうする?」


 キアラは瑞希の前に置かれた鉄板を見やる。


「鉄板は欲しいけど、今からじゃ間に合わな……「おぉ~兄ちゃん! 買いに来たぜ!」」


 瑞希とキアラが会話をしていると、瑞希の屋台を作ってくれた職人がやって来た。


「丁度良かった! 料理は驕りますから、打ち合わせしてた件はお願いできますか?」


「打ち合わせしてた件ってあれかい? 隣の屋台に鉄板を置いてやって欲しいって件かい? でも隣の店主とは話はつけてんのかい?」


「その店主がこの子です。小さいですけど俺の弟子なんですよ!」


「よ、宜しくなんなっ!」


 瑞希はキアラの背中を軽く押し、紹介する。


「はぁ~可愛らしい店主だっ! 嬢ちゃん鉄板ならすぐ取り付けられるけど今すぐ付けるか?」


「お願いするんな!」


「よっしゃ任しとけ! 兄ちゃん、売れ行きはどうなんだ?」


「まだ集計はしてないですけど、百個以上は売れてますよ!」


「おいおいっ! こんな場所でもうそんだけ売れてんのかっ!? 値段を見ても結構高いだろ!?」


「一人一人のお客様が四個ずつ買ってくれますからね。今日の分は少な目に用意したので夕方にはなくなりそうですけど……」


「どうやってそんなに集客したんだよ!?」


「それはこの妹達の可愛さと、付けて貰った旗のおかげですよ!」


 瑞希の言葉を聞いてキアラが瑞希の服を掴み質問する。


「どういう意味か知りたいんなっ!」


「最初はシャオ達に試食させてたのは知ってるだろ? こんな可愛い二人が美味しそうに食べてるのを見たらどんな料理か気にならないか?」


 瑞希が可愛いと言った事で、シャオは得意気に胸を張り、チサは嬉し笑いをこらえながら照れている。


「……にへへ」


「あれはそういう事だったんな!? じゃあこの旗は……」


「簡単に言えば目印だよ。俺が作ったハンバーガーは持ち帰る事が出来るだろ? 買った人が屋台の場所を教える時に、包み紙に書かれた絵の旗がある屋台だって言えばわかりやすいだろ? お祭りの期間は地元じゃない人も多くいる訳だし」


「そこまで考えてたんな!?」


「当たり前だ。美味い料理を作っても売れなきゃ意味がない。それにどうせ店を出すなら色んな人に食べて欲しいしな!」


「ただかれーを出せば売れると思ってたんな……」


「人が勝手に集まる様な場所ならそれでも良い。でもここは少し賑わってる所から離れてるだろ? じゃあ人を集めるにはどうすれば良いのかも考えなくちゃいけない。キアラはウォルカで有名だから、ウォルカで店をやるならそれで充分名前は売れてるけど、別の街でやるなら料理以外にも考える事はたくさんある」


 キアラが瑞希の言葉にしょげているとシャオがキアラに言葉を掛ける。


「くふふふ。ミズキが言うに、ここら辺には時間が経てば人が料理を求めて集まって来るのじゃ」


「ミズキはやっぱり凄いんな……」


「その通りじゃが、言いたいのはそういう事ではないのじゃ。ここら辺に人が集まるという事はキアラの店も忙しくなるのではないのじゃ?」


「え?」


 瑞希は己の考えていた事を当てているシャオの頭を撫でながら、言葉を続ける。


「その通りだ! 要はこの辺りに人が来る様になれば、キアラの店にも人を惹き付ける物があるだろ?」


「人を惹き付ける物……香辛料の、かれーの香りなんなっ!」


「その通りっ! キアラの料理は匂いを嗅げば引き寄せられる。それは俺の出しているハンバーガーには無い武器なんだよ。だからさっき食べて貰った料理を提案したんだ。あれならすぐにタネは作れるし、手が空いた時にカパ粉焼きを焼き貯めれば良い。包み紙はこっちのを分けてやるから使え。そうすればこの絵に気付く人もどんどん増えるし、またこの旗を目指してお客さんが来てくれる」


 瑞希の策略に納得し、その考えの深さに身震いをしたキアラは、思わず瑞希に抱き着いた。


「あはっ! ミズキは本当に凄いんなっ!」


 瑞希は軽くキアラの頭を叩き、キアラは瑞希から離れると職人の男に話しかけた。


「おっちゃん! 私の屋台にも早く鉄板を取り付けて欲しいんなっ!」


「おうよっ! 任せとけっ!」


 瑞希は職人の男と駆けだして行こうとした、キアラの腕を掴み引き留めた。


「ど、どうしたんな!?」


「お前のカレーは間違いなく美味い! さっきの俺が作ったキーマカレーもどきなんかじゃなくて、お前のキーマカレーを作れ。そうしたらお前のカレーが好きな奴がこぞってカレーを求めて来るからな!」


 瑞希はキアラが凹まない様に、自信を持たせる様に、真剣な表情でそう伝えた。


「わかったんなっ! 今日の営業が終わったら一緒に御飯を食べるんなっ! 約束なんな?」


「わかった! じゃあお互い頑張るぞっ!」


 瑞希は表情を崩し、笑顔でキアラに喝を入れる。

 キアラは瑞希達に手を振り自身の屋台へ戻って行く。


 少ししてから噂を聞きつけた人達が瑞希の屋台に料理を買いに来た客が、辺りに広がる香りに惹き付けられ、キアラの屋台にも足を運ぶのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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