瑞希の策略
時刻は昼も過ぎ、一人の男は人で溢れかえる主な街道から弾き出され、外れの道を歩いていた。
さすがは大都市であるキーリスと云うべきか、外れであってもしっかりと石畳で出来ており、屋台もそれなりに出ている。
男の腹は屋台街で食べそびれたため、ぐぅ、と一鳴りし、腹から何か食わせろという欲求が生まれ始めている。
男はふわりと香る魅惑的な香辛料の香りに誘われ、歩いていると、二人の美少女が何やら屋台の近くで楽しそうに美味そうな物を食べていた。
美少女達の食べている物を良く良く見てみれば、何やらパンの間に何かを挟んでいる様だ。
香りを放っているのは横の屋台の料理の様だが、美少女達の食べている姿と、嬉しそうな表情を見ていると、そちらの商品が気になり始めた。
パンを使っているのであれば、男の腹から訴えられる欲求にも応えられると思い、似た様な包み紙で包んだ商品を重ねている屋台の前へと足を運んだ。
その屋台の暖簾の端には、猫と魚と見慣れぬ料理の絵が描かれており、商品の値段は一個五百コルと、屋台にしては少し高い値段を設定してある。
男は食べた事も無い料理に五百コルかと悩んでいたが、屋台に近づいた事により、美少女達の美味いという声が耳に入り、そのまま屋台へと歩を進めた。
「いらっしゃいませ! おいくつ要りますか?」
男が作る料理なのかと、いささかがっかりとした男は、ここまで来たのだからと、指を一本立て、瑞希が手渡す商品と金を交換する。
男は瑞希に会釈をして屋台を離れ、少し歩いた所で包み紙を開け、齧り付いた。
◇◇◇
――うまぁっ! 何だこりゃっ!
瑞希は男が立ち止まり絶賛している声を聞き、にやつく。
シャオとチサの可愛さと、今の声を聞いた周りの人間が瑞希の料理に興味を持ち購入していく。
――なんだよこの柔らかい肉は!?
――それよりもこのパンでしょ!?
――いやいや! 中に入ってるこのタレも凄いだろ!
――おい、これ、今買わなきゃ今後食えないんじゃないのか?
ハンバーガーを購入した客達が屋台を見ようと振り返ると、既に二つ目をパクついているシャオとチサの幸せそうな顔を見て、自分ももう一つ、いや、何個でもこの料理を食べたいという想いに駆られ、屋台の方に戻って行く。
「あれ? どうかしましたか?」
瑞希の尋ねに客達は我先にとハンバーガーを求める。
「わははは! ありがとうございます! 順番に詰めますから少々お待ちください!」
瑞希は出来上がっているハンバーガーを手際よく紙袋に詰めていくと、客達に渡していく。
購入できた客は喜び、瑞希は作り置きが無くなったので、再び調理を再開する。
「お~い! 二人共そろそろ手伝ってくれ! ここから忙しくなるから!」
「わかったのじゃ!」
「……何で瑞希は忙しくなるのがわかるんやろ?」
瑞希は調理をしながら、屋台の近くに建てて貰った柱に取り付けた旗を上げる。
その旗には包み紙のロゴにもなっている絵が描いてあり、パタパタと風に揺れながらもその存在感を示している。
◇◇◇
客が群がった瑞希の屋台を見ていた三人娘の反応は、一人は誇らしくなり、一人は悔しがり、一人は納得していた。
「さすがミズキの料理なんなぁ! 誰が食べても驚くんな!」
「うちのかれーも負けてないだろ!?」
「そうか……作り置きが出来るから次々に渡せるんだ……でも冷めないのかな?」
瑞希の屋台を見ていると、空になった作り置きを継ぎ足す様に瑞希が調理を進めていると、ある程度商品が貯まった頃に再び人が押し寄せて来ていた。
キアラの屋台も香しい香りに引き寄せられた客が押し寄せ、次々とカレーが売れ始める。
しかし、瑞希との屋台の違いは、明らかである。
「ありがとうございました! キアラちゃんかれーはまだ大丈夫だよね?」
「大丈夫なんな! まだまだたっぷりあるんな!」
瑞希の屋台の客は商品を買うとすぐにその場を離れ、歩きながら食べるのに対し、キアラの屋台にはカレーを食べる人で人だかりが出来ている。
次々に売れるのだが、器を洗う暇がなく、多い目に用意していた器がそろそろ底を着こうとしていた。
「キアラちゃん! そろそろ器が無くなる!」
「クルルは洗い物して欲しいんな! サランは食べ終わった人の器を回収して欲しいんな!」
「「はいっ!」」
キアラが指示を出し、カレーを器に入れるのと、会計を一人でするためどうしても手が回らなくなり始める。
香りに釣られやって来た客は、中々出てこない料理にやきもきし始めていた。
中には他の所で食べようと云う声が出始めて来た所で、ひょっこりとチサが顔を出した。
「……ミズキから伝言。そろそろこっちを手伝ってやれって。洗い物は任せて」
「助かるんなっ! でもそっちは大丈夫なんな!?」
「……ミズキがお客さんと喋りながら納得して待って貰ってるで? 一人四個までしか買えへん様にしてたから、次の回で今待ってるお客さんに行き渡るから大丈夫やって」
「チサちゃん! 洗い物はこれで全部だよ!」
「……魚さん、大き目の水球をお願い」
チサの登場に安堵した三人娘は、洗い物をチサに渡し、チサは【ショウレイ】を使い金魚を呼び出した。
金魚が大きな球体を作り出すと、チサはそこにカレーで汚れた木皿を突っ込み、水球をかき混ぜる。
「すっげぇ! あっという間に綺麗になっていく!」
クルルがカレーを注ぎながらチサの魔法に感心していると、綺麗なった木皿を水球から取り出し、サランに渡す。
「チサちゃんもすっかり魔法使いだね!」
「……まだまだやで? シャオかミズキなら皿を乾かす事も出来るもん……」
「それでも助かったんな! 落ち着いたら御礼を言いに行くんな!」
チサは食器を洗い終えると、三人に軽く手を振り瑞希の屋台に戻って行った。
◇◇◇
瑞希の屋台に戻って来たチサは瑞希に尋ねられる。
「どうだった? 洗い物が溜まってただろ?」
「……ミズキの言った通りやった。こっちは洗い物無いのに不思議やな」
「そりゃ食器が無いからな! シャオ、焼けたパテはこっちに置いとくから、チサと一緒に挟んで行ってくれ!」
「くふふ! 売れ行き好調で何よりなのじゃ!」
シャオは楽しそうに次々とハンバーガーを完成させていく。
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昼も過ぎ、夕刻にはまだ早い状況の中、何度かチサを手伝いに出し、お互いの屋台が少し落ち着き始めて来たからか、瑞希はカパ粉を水に溶き生地を作り、次々と焼き始めて行く。
「シャオ、キアラ達に少しカレーを分けて貰って来てくれないか? こっちの商品も持って行って交換してもらってくれ」
「わかったのじゃ。くふふ。本当にお人好しな師匠じゃな?」
「可愛い弟子が困ってるんだから解決策ぐらい提案してやりたいだろ?」
シャオは何かを察しているのか、瑞希に手渡されたハンバーガーを手に持ち、キアラの屋台に出向くのであった――。
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