ハンバーガーと二人の少女
昼前の屋台街は人で溢れかえっていた。
祭りの初日という事もあり、めぼしい商品が売り切れる前に行商人達が我先にと買い付けに来るからである。
しかし、瑞希達が屋台を出している場所はまだ人もまばらで、地元の住人達は歩いているが、行商人や旅行者みたいな連中はまだ来ていなかった。
瑞希は客も少ない内からせっせと料理を作り始めている。
そんな中、ドマルが瑞希の屋台に顔を出した。
「お待たせミズキ! 紙はモモちゃんの馬車に積んどけば良いかな?」
「待ってたぞドマル! 丁度今第一弾が焼き上がったから食べてみてくれよ! ドマルの好きなポムの実を挟んだのを作ったからさ!」
「試食の時のでも充分美味しかったけど、まださらに具材を足したの?」
瑞希はドマルから渡された自身の書いたロゴが入った紙で商品を包み、ドマルに手渡した。
「ちゃんと絵が入ってるんだな!」
「紙を切り分けてからこの絵の判を押して貰ったんだよ。少し値上がりしたけど許容範囲内だったよ! じゃあ早速頂きます!」
ドマルは包み紙を広げて、ふっくらとしたパンに挟まれたハンバーグとポムの実、そして溶けたチーズを確認した。
以前試食したのはパンの間にチーズとハンバーグ、そして刻んだパルマンとケチャップを挟んだ物だったのだが、今日のはそれに加えてドマルの好物であるポムの実が挟まれていた。
ドマルは大きく口を開けて齧り付く。
ふっくらとしたパンにジューシーなハンバーグとチーズのコク、そしてポムの実の爽やかな酸味と甘味が咀嚼する毎に相乗効果で美味くなる。
パンを使っているので喉がパサつくかと言えばそうではない。
間に挟んだポムの実の果汁が潤いを加えてするりと喉を通って行く。
ドマルは嬉々とした表情で料理に齧り付いて行くと、真ん中辺りに鋭い酸味とカリッとした食感を感じる。
ドマルはじっと中を確認するとリッカと思われる食材を発見して、次は意識してその部分を口に放り込み咀嚼する。
外側では感じなかった酸味が、味に慣れて来た口を一新させ、後半も味に飽きる事無く食べ進めさせるのであった。
「どうだった?」
瑞希はドマルが食べ終えたのを見計らい声を掛けた。
「これはポムの実好きにはたまらない味だよっ! 絶対に売れる味だ!」
「わははは! それなら安心だな!」
瑞希はそう言いながらチラリとキアラ達の屋台を確認する。
ポツポツと現れた客がカレーの香りに誘われ、何人か購入している様だ。
食べた客の顔を見れば、驚きの顔で、手に持った器を傾け、お代わりをしている者もいた。
「ドマル、紙ってどれぐらい用意した?」
「僕の見立てだと三日間で千個は軽く超えると思ったから念のために千五百枚ぐらいは用意したよ?」
「おぉ~! 強気に出たな! わかってると思うけど、これ一個五百コルだぞ?」
「ミズキこそ最初に値段を聞いた時は屋台なのに強気に出たと思ったよ。でも完成品を食べたら五百コルでも安いぐらいだよ! 何より他の屋台では絶対に作れないしね!」
「おかげで仕込みの量が大量だったから、パンの仕込みやら、パテの仕込みやらはシャオの魔法に頼りっきりだったけどな!」
瑞希はそう言うと傍でドマルの試食を涎を垂らしながら見ていたシャオの頭に手を乗せる。
「ドマルばっかりずるいのじゃっ! わしも早く食べたいのじゃ!」
「わかったわかった! じゃあドマル、何個か渡すから知り合いの行商人にでも配ってくれよ!」
「折角作ったのに貰って良いの?」
「良いの良いの。行商人ならこの美味さと便利さに気付くだろ?」
「あはは。そうだね! これなら御者をしながらでも食べれるからね!」
「まぁ日持ちはしないから早めに食べる様に言ってくれよ?」
「わかった! じゃあ僕はついでに掘り出し物がないか探して来るね!」
ドマルはそう言うと、瑞希の屋台の近くに居たウェリーのモモを一撫でして去って行った。
瑞希は手早く次々に料理を紙で包むと、再び鉄板で新たなパテを焼き始める。
「はいよ、お待たせ! これが完成品のハンバーガーだ! お前等、モモの後ろの荷馬車に腰かけて食べてくれよ? 後、忙しくなったらすぐに手伝ってくれ!」
「待ちに待ったのじゃ! チサ、早く座って食べるのじゃ!」
「……それはええけど、何で食べる場所を指定するん?」
「くふふ。どうせミズキの良からぬ計らいじゃ! 気にせずわしらははんばーがーを食べるのじゃ!」
シャオはそう言いながら、チサの背中を押し、荷馬車に腰を掛けてから、大きく口を開けてハンバーガーに齧り付いた。
「くふふふ! 美ん味ぁいのじゃ!」
チサも紙を広げ、シャオに続いて齧り付く。
「……にへへへへ!」
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二人の美少女が店先で美味い美味いと幸せそうにハンバーガーに齧り付いている姿をキアラ達も眺めていた。
「兄ちゃんの所はまだ売れてないみたいだけど、何か余裕そうだな?」
「でもミズキさんは次々に商品を作ってるよ?」
「お客も来てないのに作るなんて変わってるんなぁ?」
三人娘はそう言いながら、カレーの調理をして客に振る舞っていた。
カレーを食べた客がキアラ達に話しかけた。
――初めて食べる味だけど、これは美味いなっ!
「ありがとなんな! 普段はウォルカで店を出してるからまたお店にも来て欲しいんな!」
「他のかれーも色々あって、どれも美味しいんですよ!」
――いや、本当に美味かった! 良かったら知り合いにも食べさせたいんだが持ち帰りは出来るかい?
「ごめんなんな! 器があるからそれは出来ないんな」
サランはキアラが謝っている姿を見た瞬間、瑞希の言っていた問題に気付いた。
キアラが応対していた客が去り、カレーを器によそっていたクルルがキアラに話しかける。
「やっぱりかれーはどこでも美味いって言って貰えるんだよ!」
「ふふふ。自分の料理が美味いって言って貰えるのは嬉しいんなぁ!」
「ねぇ、ミズキさんが言ってた問題ってこれじゃないかな?」
「どれだよ?」
「このかれーって器を返して貰わなきゃならないから、ここを離れながら食べられないんだよ!」
「でもそういう屋台だっていっぱいあるじゃんかよ?」
「それはそうだけど……」
サランは瑞希が自分達の様な料理を選ばなかったのが気になる。
サランは何故瑞希がカレーみたいな料理を選ばなかったのかを考えながら、瑞希に食べさせて貰った唐揚げを思い出した。
唐揚げを食べた時に瑞希は「食べ歩きが出来る唐揚げもある」という事を言っていた。
「あぁっ! 食べ歩きだっ!」
「何だよ急に! どうしたんだよサランちゃん?」
「食べ歩きだよ! かれーは器があるから食べ歩きが出来ないけど、ミズキさんの料理は……」
サランはそう言いながら瑞希の屋台に目を向けると、パラパラと瑞希の屋台に客が入っていた。
瑞希は事前に作り置いていた商品と、お金を交換すると、客はどこかに向かいながら包み紙を開け、ハンバーガーに齧り付いた。
その客は立ち止まり、目を見開いて美味いと叫ぶのであった――。
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