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キアラ達の課題

 キーリスの収穫祭ではモームや、布等の繊維品、そしてそれらを育てる人、作る人に感謝をする。

 キーリスの住民は外から来る人に売るために、そして外部の人間はキーリスの名産を手に入れるためにこの三日間はキーリスに人が集まり、テオリス城の兵士達は憲兵として駆り出される。

 その極一部の選ばれた兵士達はミミカとバランの警護にあたる。


 ――お祭り当日。

 朝食を終えたミミカは自室で、バランの付き添いの準備をしていた。

 午前の内に祭りの開始の挨拶を行うためだ。

 ミミカはテミル達にドレスをあてがわれながら、愚痴を溢していた。


「結局ミズキ様ったら私の警護はしてくれなかったな~」


「初めっからそう言ってたじゃないっすか」


「それでも淡い期待は持ってたのっ!」


「ここ最近のミズキ殿は忙しそうでしたしね。三日間の屋台であんなに食材が必要なのでしょうか?」


「ミズキ様の料理が食べられるのよ? 充分に用意しなきゃすぐに売り切れちゃうわ!」


「でも街の人の殆どはミズキさんの料理が美味しい事なんて知らないっすよ?」


「そうですね……知ってる者は絶対に買うでしょうが、知らない者はどうなんでしょう? それにミズキ殿の場所もキアラ殿に合わせて主な街道からは少し外れていますし……」


 ミミカの言葉にジーニャとアンナが答えるが、テミルは新たなドレスをミミカに合わせていた。


「お母様はどう思う?」


「私はこっちのドレスの方が似合うと思うわよ? やっぱりミミカには赤色が似合うわね」


「もうっ! ドレスじゃなくてミズキ様の事っ!」


「あら? ミズキ様の事は心配する必要ないでしょ? 貴方の先生なのよ?」


「それはそうだけど~……あ、髪形はこの前ミズキ様にやって貰った髪形が良いわ!」


「はいはい。じゃあドレスはこれにしましょうか? それなら髪型とも合うわね」


 テミルはドレスを決めると、ミミカの髪の毛をいじり、瑞希に教えて貰った髪形を作っていく。

 瑞希も本格的な髪形は出来ないのだが、髪の毛を留めたり、まとめたりするだけのこちらの世界よりは、瑞希の手慰みで作る髪形は新しかった。

 テミルは瑞希に作り方を教えて貰い、自分でも出来る様になったのだが、それはミミカの為というのもあるが、ミミカが瑞希にあまり迷惑を掛けない様にするという目的もあった。


「はい、これで良いかしら? じゃあこのドレスを着せるわよ?」


「やっぱり可愛い! でもどうせならミズキ様にやって貰いたかったわ」


「あんまりわがままばっかり言わないの。それに、ドレス姿を見たらミズキ様だって綺麗って言ってくれるわよ」


「本当に!?」


「えぇ。とっても綺麗だもの。胸元にはアイカ様のネックレスを付ける?」


「うふふふふ。ミズキ様に褒めて貰えるかなぁ~」


 テミルはミミカにドレスを着せると、ミミカの亡き実母の形見でもあるネックレスをミミカの首元に付けた。

 普段からのおてんばなミミカとは違い、貴族でありテオリス家の一人娘という気品が醸し出されている。


「お嬢って黙ってれば貴族様っすよね」


「黙ってればってどういう意味よ!?」


「御綺麗ですよミミカ様」


 着飾ったミミカは姿見で自身の姿を見て、御淑やかな雰囲気を作り出す。

 そこには亡き母であるアイカの影が写る様な気がした――。


◇◇◇


 街の広間で開会の挨拶を行うバランもミミカの姿を見た時に少し目頭が熱くなる。

 娘の成長と、妻であるアイカの姿を重ねたのであろう。

 バランは例年通り、恙無く挨拶を終えると、二人の姿を見ていた瑞希達は拍手をしながら屋台へと移動していた。


「いや~ミミカのドレス姿って初めて見たけどやっぱり貴族なんだな~」


「……綺麗やった」


「でもミミカの中身はアレなのじゃ」


「二人も今度ミミカに言ってドレスを着せて貰うか? きっと似合うぞ?」


「いらんのじゃっ!」


「……え~、うちは着てみたいけど?」


 三人は人混みの中をわいわいと騒ぎながら、街の外れにある屋台の近くまで歩いて来ると、すっかりと人気が少なくなり、ふわりとカレーの香りが漂って来た。

 キアラ達は開会式に参加する事なく、屋台の準備をしていた様だ。

 瑞希はキアラの屋台を覗き込み、キアラのかき混ぜているカレーを確認する。


「良い香りをさせてるな?」


「もう出来たんな! 味見して欲しいんな!」


 キアラはそう言うと、木で出来た小皿にカレーをよそい、瑞希に手渡した。

 瑞希はカレーを啜ると、以前は感じなかった味の深みに気付いた。


「お? 苦みが少し足されてる……もしかしてポッカの実を入れたのか?」


「良く気付いたんな? 最近親父からミズキがポッカの実に嵌ってるって聞いてかれーにも使ってみたんな! ポッカの実はそのまま食べたら苦いけど、かれーに入れたら味に深みが出たんな!」


「本当に色々試してるんだな! 偉いぞ!」


 瑞希は屋台越しにキアラの頭を撫でると、キアラは嬉しそうに顔を綻ばせている。


「けど、美味しいだけに惜しいな……」


 瑞希の独り言の様な呟きを、じっと見ていたサランが聞き取った。


「ミズキさん……やはり何か問題があるんですか?」


「この前ヒントは出しただろ? このカレーは間違いなく美味い。そこは俺も保証する」


「兄ちゃん、美味いなら問題は無いだろ?」


「ん~……キアラ、今日はナンは用意してないのか?」


「今日はしてないんな……もしかしてそれが問題なんな!?」


「いや、それ自体は問題じゃない。カレーを初めて食べた人は衝撃を受けるだろうし、間違いなく美味いとは言って貰えるはずだ」


「じゃあ質問になりますが、ミズキさんならお客さんとして買ってくれますか?」


「勿論っ! 初めて見た美味そうな物なら食べてみたいからな!」


 サランの質問に答えた瑞希の言葉を聞いてクルルが頭を抱える。


「わけわかんねぇよ! 客としても買ってくれるなら尚更良いじゃんかよ!」


「お前等はこれが売れると思って作ってるんだよな?」


「勿論なんな! ウォルカでも大人気な味なんな!」


「問題はどれぐらい売れるかを想定してるかって所だ」


「いっぱい売れるに決まってるじゃんかよ!」


「俺もそう思うぞ? おっと、人もちらほら見え始めたし俺達も準備するか。困ったら手伝ってやるから声を掛けてくれ」


 瑞希はキアラ達にそう言うと、隣にある自身の屋台に入って行く。


「ミズキさんの言葉が気になるね……」


「お客としては買うし、美味いとも思うって言ってたんな……他に何が問題なんな?」


「兄ちゃんの強がりだって! 弟子のキアラちゃんがあまりに美味しいかれーを作ったからきっと苦し紛れに俺達を悩ませようとしてんだろ」


「ミズキさんはそういうふざけた事は絶対にしないよ?」


「そうなんな。きっとミズキが工夫した事が私達は出来てないんな……」


「そうは言ってももう間に合わないじゃんか。お客さんもそろそろ来そうだし……とりあえずはこのかれーを売りながら考えよ!」


 クルルがそう言った傍から、本日最初の客がキアラ達の屋台へやって来た。


「「「いらっしゃいませ!」」」


 三人の娘達は笑顔で初のお客様を出迎えるのであった――。

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