屋台の準備
市場で食材を購入して二日後、キーリスの街では祭りの準備が始まっていた。
普段から屋台が並ぶ街道もあるが、市場も徐々に屋台へと様変わりし始めている店もある。
市場や屋台街の様な普段でも人が歩くような一等地は、当然昔から商いをしているキーリスの住民に割り当てられており、瑞希達はキアラの近くという要望を出していたため、外部の人間が割り当てられる中でも、少し外れの場所が割り当てられていた。
瑞希達は屋台を組み立てている職人と話しながら、自分達の調理がしやすい屋台を調整して貰っている。
「……で、ここの辺りに高い棒を立てる事は出来ますか?」
「そりゃ出来るけど、そんなもん屋台に関係ねぇだろ?」
「いやいや! 場所がそんなに目立たない所なので必要なんですよ! 後はロープか何かでこんな風にして貰えると……」
瑞希は己の考えを職人に伝えると、職人は納得が行ったのか感心していた。
「はぁ~! 成る程なぁ!」
職人はそう言うと、作業に戻る。
そこに聞き慣れた声と共に、見慣れた馬車がやって来た。
「ミズキ~! シャオ~! 元気にしてたんなぁー!」
「チサちゃ~ん!」
御者をするクルルの後ろから、キアラがクルルを押しのけ手を振りながら大声を張り上げている。
馬車は瑞希達のそばに止まると、荷台からキアラとサランが下りて……。
「久しぶりなんなー!」
「チサちゃんも元気にしてた? ミズキさんにいじめられてない?」
いつもの如く瑞希とシャオに向かって飛び込んで来るキアラに、シャオは瑞希の後ろに隠れ、瑞希を盾にした。
サランの方は、チサを抱きしめると、チサの頬っぺたを両手で包み、チサの元気な顔をまじまじと確認していた。
キアラに抱き着かれた瑞希はよろける事もなく、キアラを受け止めると、キアラの頭を軽く叩いた。
「キアラ、危ないから飛びつくな。別に俺達は逃げないから」
「久しぶりだからしょうがないんな! それより瑞希は前よりこう……しっかりしたんな?」
「城にいる間で鍛えられたからかな? そんなに変わったつもりもないんだけどな。サランとクルルも元気にしてたか?」
瑞希にそう声を掛けられた二人はにっこりと微笑んだ。
「元気だぜ! サランちゃんが来てからはお店が繁盛しすぎてすごいんだぜ!?」
「元々キアラちゃんのかれーが人気なんだよ? 私は配膳してるだけだって」
「サランはすっかり看板娘になったんな!」
「三人娘がやってるカレー屋なんて全員が看板娘みたいなもんだろ?」
「それでも配膳をするサランが一番人気なんな! ところで瑞希達は何で私の屋台の近くにいるんな?」
キアラの質問に、瑞希の後ろに隠れていたシャオが嬉しそうに答えた。
「くふふ! お主等の屋台の隣で店を出すことになったのじゃ!」
「本当なんな!?」
「本当じゃ。瑞希の頑張りのおかげじゃな」
「嬉しいんな! じゃあ祭りの間は一緒にいれるんな!」
キアラはシャオの手を取り、嬉しそうに飛び跳ねている。
そんな二人を尻目に、瑞希はサランとクルルに話しかけた。
「お前等の所はカレーを出すんだよな?」
「はい! ウォルカでも定着して来ましたし、かれーを流行らすのはキアラちゃんの夢ですからね!」
「私も屋台は初めてだけど頑張って売るぜっ!」
「もしかして三人とも屋台は初めてなのか?」
「そうですけど……何か拙いですか?」
「いや……出すのはカレーだよな?」
「何回聞くんだよ兄ちゃん!」
瑞希は二人の言葉に嫌な予感が過るが、苦い経験も必要かと思い、言葉を噤んでしまう。
もちろん助け船は出すつもりなのだが。
「まぁお互い頑張ろうなっ! 何か手伝える事が有ったら言ってくれ」
「むむむ……ミズキさん何か隠してますよね?」
「それに気付く事も勉強だな。ヒントは屋台の料理と、店の料理を一緒にしちゃいけないって事だ」
瑞希達の会話を聞こえたキアラも会話に混ざる。
「かれーじゃ駄目なんな?」
「そうでもないぞ? 俺もシャオの好きな物を商品に選んだしな! 但し工夫は色々してあるぞ」
「シャオとチサはその料理をもう食べたんな?」
「食べたのじゃ! 美味いのじゃ! でもミズキはもう祭りの日まで食べさせてくれんのじゃ……」
「……でも祭りの日は食べさせてくれる約束やん」
シャオは大好きなハンバーグを使った料理なのに、試作で作った物しか食べていなかった。
瑞希にしては珍しく、二人には我慢させ、祭りの日に食べさせる約束をしていた。
無論、瑞希の考えがあっての事なのだが。
「ミズキさんがシャオちゃん達に食べさせないって珍しいですよね? 何か理由はあるんですか?」
「勿論あるさ! とは言っても効果があるかはわからないけどな」
瑞希は笑いながらシャオとチサの頭に手を置く。
シャオとチサは瑞希の企みがどう云ったものかは知らないのだが、祭りの日には料理が食べれるならと瑞希の言葉を承諾していた。
「な、なんか不安になってきた。兄ちゃん、私達の屋台大丈夫かな?」
「どうなんだろうな~? 売れるかな~?」
「ミズキさんのこの顔は悪い事を考えている顔です!」
「大丈夫なんな! 私達のかれーは美味いんな! ミズキ達の屋台より売ってやるんな!」
「わしらの料理も勿論美味いのじゃっ!」
「……負けへんで」
お子様三人はすっかりやる気になっているのだが、サランは瑞希の言葉に引っかかっていた。
サランの知る瑞希は意味もなく隠し事をしない。
そういう人物という事は、以前のマリジット地方への旅でも重々わかっていた。
「ミズキさん……「お~い、兄ちゃん! こっちの鉄板はどうするんだ!?」」
「あ、今行きます! ちょっと職人さんと打ち合わせてくる! また後でな」
瑞希が職人に走り寄っていくと、サランは残されたシャオとチサに話しかけた。
「シャオちゃん、チサ、ミズキさんの作った料理ってどんなのでしたか?」
「わしの好きなはんばーぐなのじゃ!」
「……パンと一緒に食べるねん」
「でもミズキはまだ完成してないって言ってたのじゃ」
「……リッカの酢漬けが出来たら完成って言うてた」
「パンとはんばーぐに、リッカの酢漬けなんな? ミズキの作る料理は相変わらずわからないんな~」
サランはシャオとチサの言葉を纏めながら考える。
何故瑞希はわざわざ単体で食べられる料理を組み合わせる必要があるのか。
何故シャオとチサに祭りの日当日までその料理を食べさせていないのか。
サランは考えれば考える程わからなくなっていくのであった――。
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