もっちりドーナツと屋台の料理
以前も瑞希がドーナツを作った時にもお邪魔した部屋なのだが、来客が多い時に使用するのか大き目なテーブルとソファーや椅子が並んでいる。
テーブルの中心には瑞希が今し方作ったドーナツが鎮座しており、シャオとチサの目の前には団子を繋げ、チョコレートを付けたもっちりチョコドーナツが取り分けられていた。
「くふふふ! 食べんでもわかるのじゃ! これは絶対美味い奴なのじゃ!」
「……団子でどーなつでちょこれーと!」
「じゃあ皆さんもどうぞお召し上がり下さい」
瑞希はそう言うとカップに入ったお茶を啜った。
大きく口を開き、バクリと三分の一程を口の中に突っ込むシャオとは対照的に、チサは小さく口を開け、プチっと一つの団子を噛みちぎった。
二人の口の中ではさっくりとした表面生地の食感と、噛む毎に歯を気持ちよく跳ね返す様なもっちりとした食感に加え、生地自体の甘さとチョコレートのほろ苦い甘さに破顔させるしかなかった様だ。
「くふ、くふ、くふふふ! これはいかんのじゃ。思わず笑ってしまうのじゃ」
「……にへへへへへへ! むっちゃ美味しい!」
「気に入ってくれた様でなによりだ! たっぷり砂糖を使えたのはグラン達のおかげだから感謝しないとな!」
瑞希は二人の喜ぶ顔を嬉しそうに眺めていると、ミミカ達も衝撃を受けていた。
「ミズキ様! レシピが欲しいですっ! 私も作れる様になりたいです!」
「ちょこれーとが美味しいとはお嬢から聞いてたっすけど、どーなつとの組み合わせはやばいっすね!」
「う~……美味しいよ~……」
やはりと云うべきか、アンナはポロポロと涙を流しながらドーナツを食べている。
瑞希はその姿にアンナの兄であるグランを重ね笑いが込み上げて来る。
「わはは! やっぱりアンナとグランの反応は似てるな!」
「くふふふ! 美味い物を食べて泣くとは変な兄妹なのじゃ」
「でもグランが泣き出した時はちょっと怖かったけどな」
瑞希とシャオがグランの光景を思い出しながら笑っていると、ミミカが二人の話に寄って来た。
「私もアンナが泣く所なんて、ミズキ様の料理を食べるまで見た事なかったんですよ?」
「まぁでも事情も知らずにグランみたいな大男が食事しながらいきなり泣いたらちょっと怖いけど、アンナみたいな可愛い子が泣きだしたら心配になるよな?」
瑞希は冗談交じりに発した可愛いという言葉に、アンナは狼狽え、ミミカとジーニャの顔はピシリと笑顔で固まる。
「ミ、ミズキ殿! 冗談はお止めください!」
「そうか? アンナは可愛いというか綺麗な顔立ちだろ? シャオとチサは可愛いだな! まぁまだお子様だしな」
瑞希はシャオを撫でながら感想を述べていると、シャオは得意気に踏ん反り返り、チサは可愛いと言われて嬉しいのだが、自分の年齢に少し落ち込んだ。
それを聞いて黙ってられないのがミミカとジーニャだ。
「ミズキ様っ! 私はどうですか!?」
「うちも言われてないっすよっ!」
「へ? ミミカとジーニャも可愛らしい顔立ちだろ? テミルさんは綺麗って感じだな」
瑞希は何の気なしに、するりと可愛いという言葉を返し、ミミカとジーニャは急に恥ずかしくなったのか赤面しながらドーナツを口に含み、黙ってしまう。
テミルはにっこりと微笑みながら瑞希にお礼を言う。
「あら? ありがとうございます。 ミズキ様も素敵ですよ?」
「わはは。お世辞でもそう言って貰えると嬉しいですね! というかこっちの人皆顔立ちが良いですよね? 世界の差かな?」
「おばさんにもお姉さんと言う瑞希の言葉は信用ならんのじゃ」
「いやいや! 皆美人だろ? ドマルだってイケメンだしなっ!」
「あはは。ありがとう。それよりミズキ、屋台の出店で出す料理は決まったの?」
ドマルは、このままではミミカ達の気が気でなくなってしまう会話をずらし、近々行われる祭りの話を持ち出した。
「あぁそれはもう決めてあるんだ」
「聞いてないのじゃ? 何を出すのじゃ?」
「お前の大好物だよ! どうせならシャオの好きな料理を出そうと思ってな」
「はんばーぐなのじゃ!?」
「もう少し食べやすくするけどな。だからドマルに頼みたい事があるんだけど、紙を仕入れて欲しいんだ」
「紙? どんな紙で、どれぐらいいるの?」
「ソースとかが染みない様な紙なら薄い紙で構わない。後で料理を試食してもらうからドマルが売れると思った数だけ用意してくれると助かる」
「僕が量を決めていいの?」
「俺の料理を知ってるのはドマルだし、俺は祭りの規模もわからないから予測が付かないんだよ。だからドマルが食べてみて、バランさんから出店の場所を聞いたらドマルが代わりに出食数を予測して欲しいんだ! もちろん紙の仕入れ代は色を付けて俺に請求してくれよ?」
「そんな! 瑞希から利益は貰えないよ!?」
「違う違う。俺から貰うんじゃなくて、俺がドマルを雇ってると思ってくれ。ドマルの商人としての知識を買いたいんだ。ドマルが売れると思った商品がどれぐらい売れるのか、俺はドマルを信じるからさ! もちろん俺も売れる様に努力はするけど、それはある程度の予測が立たないと意味がないだろ?」
「本当に僕が決めていいの? 的外れな量を予想するかもしれないよ?」
「ドマルだから良いんだよ。信頼してるからな!」
「わかった! なら紙の事は任せてよ!」
ドマルと瑞希はがっちりと手を握り、チサは率直な疑問を投げかけた。
「……屋台で出すんやったらこれはあかんの? 美味しいやん?」
「そうですよミズキ様! 甘い物にしましょうよ! 私も食べたいですし!」
「バランさんからのお願いで、乳製品を広めるためにチーズとかヨーグルトを使った料理を頼まれたんだよ。ヨーグルトは料理にも使えるけど分かりにくいだろ? その点チーズはわかりやすいからな! それにチーズとハンバーグって組み合わせもまだシャオに作ってなかったし丁度良いかと思ってさ。もちろんその料理に決めた理由は他にもあるけど、概ねシャオの好みに合わせたんだ」
「くふ、くふふふ!」
シャオは恥ずかしかったのか、ドーナツで顔を隠しながらも嬉しい悲鳴は隠せていなかった。
「まぁシャオがキアラと楽しめる機会もそうそうないだろうしな! もちろんやるからには売って売って利益も出すさ!」
「……むぅ……ペムイは使わんの?」
「今回は使えないな。まだこっちではペムイの安定供給も出来てないし、屋台って形だとどうしてもペムイは使い辛いんだ。キアラみたいに店舗を構えてたら絶対に使うけどな!」
「……にへへ。なら良い」
チサは瑞希の答えに満足したのか、ドーナツを口に運んで幸せそうに食べている。
「後は紙に絵を付けたいな。これは紙を仕入れてから自分達でやっても良いし、紙屋さんでやって貰えるなら助かるかな」
「どんな絵を付けるの?」
瑞希はポケットから書いてきた絵を出して皆に見せる。
そこには屋台で出すであろう料理と、一匹の猫と金魚の絵が描かれているのであった――。
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