二人の御褒美
あの競技会から数日後。
ウォルカからドマルが戻っており、自身で売る商品の香辛料とは別に、瑞希に頼まれたチョコレートの原材料であるポッカの実を仕入れて来たので、瑞希は二人の為に競技会の御褒美に取り掛かっていた。
瑞希は捏ねたドーナツ生地をビタンビタンと調理台に叩きつけ、シャオとチサの二人は、瑞希に言われ、もう一つの生地を小さく千切り、小さな手で丸めていた。
ミズキ達の調理を覗いていたドマルは瑞希に声を掛けた。
「面白い調理方法だね? 生地を叩きつけたらどうなるの?」
「カパ粉の中のもちもちする食感が強くなるんだよ。まぁそれでもそっちの生地には勝てないけどな」
「こっちの生地はカパ粉じゃないの?」
ドマルはシャオが丸めている生地に指を差しながら質問をする。
「そっちはカパ粉の他にペムイの粉、上新粉が入ってるんだよ。それ以外はこっちの生地と似た様な物が入ってるけど、配合は少し変えてあるな」
「へぇ~! でも小さく丸めてるならお団子みたいに串を通して焼くのかな?」
「それだったら最初から団子を作るさ! これはこの後……「終わったのじゃ!」」
「……これで全部丸めた! 御褒美は団子!」
「うぬぬぬ、違うのじゃ! どーなつなのじゃ!」
「……でもどーなつはそっちにあるやん!」
「こらこら、喧嘩するな二人共! シャオとチサはこっちにドーナツ生地を広げたから輪になる様に切り取ってくれ。シャオ、やり方はわかるよな?」
「くふふふ! 任せるのじゃ! チサ、これを広げた生地に押し付けるのじゃ!」
シャオはチサにドーナツ生地を切り取る調理道具を渡す。
「……変わった道具やな? 押し付けんの?」
チサはシャオに言われた通りに押し付け、取る所が無くなると瑞希に頼み生地を纏め、伸ばして貰う。
「こっちの団子の生地はどうするの?」
「これはこうやってくっつけて行くんだ」
瑞希は小さな団子になっている生地の端っこに少しヨーグルトを付けて軽く揉みながらくっつける。
何個かをくっつけて輪っか状にすると、それを見たシャオのテンションが上がる。
「やっぱりどーなつなのじゃっ!」
「……むぅ。団子が食べたかった」
「チサ、団子の食感はどんなだった?」
「……もちもちしてて、ほのかに甘くて、上のタレが美味しかった!」
瑞希は頷きながら、次はシャオに質問をする。
「じゃあシャオ、お前の好きなドーナツはどんなだった?」
「さっくりと香ばしい上に、甘くて団子程ではないがもっちりもしていたのじゃ!」
「じゃあ俺が今作ってるのはどんなのだと思う? ヒントはお前等が喜ぶ甘味の、二つの良い所を合わせた様な物だぞ?」
瑞希の言葉にシャオとチサは考える。
「……もちもちはしてるやんな?」
「さっくりともしていて香ばしいのじゃ?」
「……そんで、甘いんやろ?」
「でもどーなつに団子のタレは合わなさそうなのじゃ」
「……でも団子はタレが無かったら美味ないやん?」
二人はうんうん唸りながら頭を捻っていた。
瑞希はその二人を尻目に輪っか状にした団子を油で揚げ始めた。
「ここまではやっぱりどーなつと一緒なのじゃ!」
「……でもタレはどうするん? どーなつてタレはかかってたん?」
「砂糖は振ってあったが、タレはかかっとらんかったのじゃ」
瑞希はクスクスと笑いながらも次々とドーナツを揚げていると、厨房の扉を勢いよく開けてミミカ達が入って来た。
「ミズキ様っ! 甘い物を作るなら呼んで下さい! それに今日はどーなつなのでしょう!?」
「シャオが早く作れって喚いてたんだよ。レシピはまた今度教えるから、ミミカもシャオと一緒に謎謎の答えを探して待ってろよ? 後でテミルさんも誘ってお茶にしよう」
「謎謎ですか? シャオちゃ〜ん……」
ミミカもシャオに加わりあぁでもないこうでもないと、御褒美の甘い物を予想していく。
「ミズキさん、何か手伝いはないっすか?」
「ミズキ殿、私も手伝いますよ?」
「おぉ〜、じゃあジーニャはそっちのバットを取ってくれ、アンナはあの三人にバレない様にこそこそっとドマルが隠してるのを持って来てくれ」
「何で隠させるかと思ったらコレがタレ代わりなんだ?」
ドマルは三人にバレない様にアンナにタレが入ったボウルを手渡した。
瑞希はジーニャからバットを受け取り、油を切りながら揚がったドーナツを順に並べていく。
「まぁタレっていう表現もどうかと思うんだけど、シャオもチサもこれは好きだし、俺の故郷にもこういうドーナツはたくさんあったんだ。ジーニャ、今揚がった分には粉砂糖をまぶしてくれるか? アンナは今揚げてるのが出来たら少し冷ましてからそのボウルにドーナツを突っ込んで上半分が浸かるぐらい付けて、乾かしてくれ」
「「了解です(っす)!」」
瑞希が調理を進める中、お子様達は答えが出たのか、瑞希に解答した。
「わかったのじゃ! ぱんけーきの時みたくあいすくりーむを乗せるのじゃ!」
「ぶっぶー! それだと手に持って食べられないだろ? 不正解なので答えは完成まで見せません! 三人共後ろを向いて目を閉じて待ってな! もうすぐ完成するから!」
瑞希にそう言われた三人は素直に言葉に従い目を閉じた。
「……やっぱタレはないんやない?」
「それじゃと団子の良さが合わさってないのじゃ……」
「ん〜……二人の御褒美なんだよね? 二人が共通する好きな甘い物とかはないの?」
三人は後ろを向き、目を瞑りながらも引き続き御褒美クイズを悩んでいる。
瑞希は全てのドーナツを揚げ終わり、アンナが付けた物を乾かす為に、シャオと手を繋ぎ魔法を使って冷たい風を起こした。
「魔法を使う必要があるのじゃ?」
「その方が早く固まるからな……」
「……固まる……うちらが共通して好きな甘い物……」
「あー! はい! はいっ! 私は分かりましたっ!」
「わしも分かったのじゃ!」
「……え? え? なんなん? どういうのなん?」
一人答えが分からず焦るチサの前に、瑞希は香りだけチサに漂う様に風を起こした。
「……あ! うちもわかった!」
「じゃあ三人でせぇのでタレの名前を言ってから目を開けてみな?」
三人は大きく息を吸い、声を合わせた。
「「「せぇの……ちょこれーと!」」」
「正解! 御褒美はもっちりチョコドーナツだ!」
瑞希が手に持つ皿の上には綺麗に並べられた四種類のドーナツがあった。
以前も食べた粉糖をかけたドーナツとチョコレートを付けたドーナツ。
今回の新作である、上新粉を使ったドーナツに粉糖とチョコレートを付けた物だ。
三人には光り輝いて見えるその皿の上のドーナツに自身の目も輝かせていた。
「凄いのじゃっ! これは凄い事なのじゃっ! どーなつがいっぱいなのじゃ!」
「……ちょこれーと!」
「私もっ! 私も食べたいですっ!」
「じゃあアンナとジーニャがお茶の用意をしてくれたしいつもの部屋で食べようか? あそこなら皆一緒に食べても怒られないしな!」
「私すぐにお母様を呼んできます!」
ミミカがテミルを母と呼ぶのは二人きりか、事情を知ってる者達だけしかいない時だけなのだが、テンションが上がり切ったミミカは、城の中を叫びながら走り、捕まえたテミルにこっぴどく叱られるのであった――。
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