競技会延長戦?
会場の入り口を開けて入って来た者は、全身を鎧で覆い、顔すらも隠れていたため、誰なのか判断は付かないのだが、明確な殺気を瑞希達に対して放っていた。
周りにいる推薦兵士達はその殺気に飲まれている。
「おいおいおい……まだ何かあるのか? 誰だよあの鎧男。知り合いの兵士か?」
「いや、俺達は何も聞かされていないが……向こうは俺達とやり合うつもりみたいだな」
グランは放たれる殺気と、鎧男が剣を抜いた事で、自身も近くに落ちていた剣を拾い、構える。
「くふふふ! ミズキ、約束は守ったのじゃから、次はわしの番じゃな?」
シャオは嬉しそうに瑞希に確認すると、小手調べに鎧男に火球を放つ。
鎧男は煩わしそうに火球を斬り捨てるとそのまま三人の元に走り寄って来た。
「ふんっ! 援護は任せたぞっ!」
「了解! シャオっ!」
「くふふふふ! これでも喰らうのじゃっ!」
シャオは伝家の宝刀でもある、氷柱を浮かべるが、その数は瑞希の比ではなく、次々に鎧男に向けて放つ。
しかし、男はその氷柱を時には避け、流し、砕きながら前に進み、先頭を走っていたグランと剣を交じ合わせ、力比べになるが、じりじりとグランが押し負けていく。
「ぬ、ぐっ、ぐぐっ! ぐわっ!」
「(グランが力負けするのか……)
遂には剣を弾かれてしまうが、その隙を狙って瑞希は鎧男の腕を狙い剣を振るうが、鎧男は小手で瑞希の剣を受け、そのまま瑞希の腹に突きを放つ。
「させる訳ないのじゃっ!」
シャオの風魔法により、鎧男は一歩後退させられ、突きのタイミングがずれ、瑞希はするりと突きを躱すと、剣の柄で鎧男の顔面を打つ。
ぐらりと体勢を崩しかけた所にシャオが駄目押しの様に氷塊を放つが、男は剣を握ったまま勢いよく拳を突き出して氷塊を砕いた。
「おいおいおいっ! 固すぎるだろ!?」
「ちっ! ミズキっ! 俺が時間を稼ぐからお前達がどうにかしろっ!」
「ふふんっ! 良い心がけなのじゃ! 次は瑞希の番なのじゃ!」
シャオは走りながらも瑞希の手を取り、砂埃を巻き上げながら上空へと浮かび上がる。
グランは大声を出し、気合の入った太刀筋で鎧男に次々と剣を繰り出すが、鎧男は余裕があるかのように軽く捌き、グランに一閃が入りそうな瞬間に、瑞希は鎧男に向け、轟音と共に落雷を落とした。
「これなら固さも関係ないだろっ!」
「(くふふ。何度見ても面白い魔法の使い方なのじゃ)」
瑞希は巻き起こした砂埃を凍らせ、普段良く使うハンドブレンダーの様に風魔法でかき混ぜながら静電気を貯め込み、そのまま鎧男に向けて放った様だ。
瑞希とシャオは地上に降り立つと、動かぬ鎧男に向け走り出し、魔力を込めた剣で鎧男の胴を斬りかかろうとしたが、即座に鎧男が動き出し、剣を前に出し、瑞希の剣を受け止めた。
「何で動けるっ!?」
魔力を込めた瑞希の剣は、ピシピシとひび割れが入り……
「……大火を以て焼き払えっ! エンディードル!」
瑞希の剣が砕けたと同時に後方から渦巻いた炎が鎧男を襲うが、鎧男が両手で剣を振りかざすと、その風圧で炎が消し飛んだ。
「何をしてらっしゃいますの? お・と・う・さ・ま?」
確実に怒りが込められたその声を発するのは今し方後方から炎を放ったミミカであった。
その声に反応したのか鎧男が殺気を収め、兜を脱いだ。
「お、おぉ、ミミカか? これはその……な?」
バランは罰が悪そうに弁明を試みているが、ミミカはジトっとした目でバランを見ている。
「え~っと……今度こそ終わりで良いですよね? グランもとりあえず起きろよ?」
「ま、任せるとは言ったが、目の前に雷を落とす奴があるか!」
「悪い悪い! 電撃なら動きを止められると思ったんだよ」
瑞希はグランに手を貸し、引っ張り起こす。
「……で? どういう理由があるんですか? お父様?」
「いや、ロベルからミズキ君の上達は聞いていたからな、試してみたいと思ったのだ。ミズキ君は中々に強い男だな! グランも良い太刀筋だった! あの殺気の中動けるのだから大したものだ! わははははっ!」
「ありがとうございますっ!」
グランはバランの言葉に感涙しているが、瑞希とミミカはジト目を止めなかった。
瑞希はミミカの耳元に口元を寄せると、こそこそと耳打ちをする。
「(バランさん……笑ってごまかそうとしてるよな?)」
「ひゃわっ! (きゅ、急には困ります!)」
ミミカは瑞希の吐息を感じたのか、赤面しながらも父であるバランに詰め寄る。
「お父様っ! 例年はこんな事してなかったではないですかっ!」
「ミズキ君達が勝つとは思っていたが、我が兵があまりにも一方的にやられたのが悔しくてな! 魔法に負けたままというのも分かってはいても……な?」
「それならそうと言っといて下さいよ……本気でやって通じなかった時はどうしようかと思いましたよ……」
「グランもミズキ君も私相手では遠慮が出てしまうだろ? 君達の本気と戦って見たかったんだよ。それにシャオ君は気付いてたみたいだぞ?」
「そうなのかシャオ?」
「当たり前じゃ。わしが本気ならこの会場が跡形もなくなるのじゃ」
シャオは愉快そうに笑っていると、会場の兵士からざわざわと言葉が飛び交っていた。
――魔法は確かに凄いが、バラン様の戦いを見ると剣の方が凄くないか?
――剣が魔法に負ける訳ないだろ?
――ミズキの最後の魔法も凄かったが、その後は劣勢だったしな。
「自身に害が無いと分かると好い気なもんじゃな……」
シャオは会場の誰も居ない位置で爆発を起こすと、爆心地に注目が集まる。
会場の兵士達が視線を戻すと、目の前には今にも突き刺さりそうな細い氷柱が一人一人の前に浮かんでいた。
しんと、静まり返った会場にシャオは愉快そうに言葉を残す。
「お主等……あまり戯けた事を抜かすでないのじゃ? わしがその気ならお主等は気付かぬまま死んでおるのじゃ……」
シャオの迫力と目の前の氷柱に、会場が恐怖に包まれていると、瑞希は恐怖を煽っているシャオの頭を軽く叩いた。
「止めろあほっ! わざわざ怖がらせる事ないだろ!」
「ぐぬぬぬっ! だからってぶたんでも良いのじゃっ! あやつらが舐めた口を聞いてたのが悪いのじゃっ!」
シャオが瑞希とわちゃわちゃと騒ぎだすと、兵士の目の前に現れていた氷柱は溶けて無くなっていた。
衝撃的な出来事に再びざわざわとする会場にバランが大声を出す。
「皆の者っ! 今年の競技会は長らく私が嫌っていた魔法を体感してもらうために、ミズキ達に参加をして貰った! 自慢の兵士達が束になっても勝てなかったのは悔しい事だが、剣が負けた訳ではないっ! グランの様に剣の才能に愛される者もいるっ! 我が娘ミミカの様に魔法の才能に愛される者もいるっ! そして、ミズキの様に両方の才能に愛される者もいるっ! 大事なのは才能の生かし方だとここに居る才ある兄妹に私は教えられたっ! もしも魔法を使える者がいるのであれば最早隠す事はないっ! その魔法という才能を開花させ、才能に溺れることなくこれからもテオリス家に仕えてくれる事を切に願うっ!」
バランが放ったその言葉に大歓声が沸き、歓声の中バランは一人会場を後にした――。
◇◇◇
会場の通路をバランが歩いていると、張っていた気が抜けたのか、がくりと倒れそうになるが、一人の男によって支えられた。
「ほほほっ。中々に効いた様ですな」
「二人の時は敬語を止めてくれないか……師匠」
「ほほほ。もう癖になってしまいました。それよりその剣で応対して良かったですな」
「ええ……この剣でなければ最後の一撃は受けきれてなかった」
「それにこの鎧は魔法を軽減するのでしょう?」
「それでもこの有様ですがね……若者が育っているのを目の当たりにすると己の老いを感じますな」
「時代は移り変わっていくものですよ。ミミカ様の才能も相当な物でしたし、これからのテオリス家もますます安泰ですな」
「だと良いんですが……」
「ほほほほほ」
ロベルはバランを支えながら愉快そうにこの先のテオリス家を見据える。
バランもまた才ある若者達と剣を交わし、未来のテオリス家が繁栄する事を祈るのであった――。
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