競技会後半戦 上
――休憩を終え、会場へと戻ってきた参加者達は、各々準備運動を行っていた。
「ミズキ、昼飯は食ったのか? 俺はアンナに……」
会場へ降り立ち、早々に声を掛けてきたのはグランである。
どうやらアンナに渡されたおむすびが美味しかったらしく、瑞希に自慢をしに来たようなのだが……。
「しっかり食ったぞ? ミミカがサンドイッチを作ってくれててな。サンドイッチはもうミミカのお手の物だな」
「ま、まさかミミカ様の手作りなのかっ!?」
「あ~……ほらっ! 俺はミミカの料理の師匠だからな? 定期的にミミカの料理を食べなきゃ成長が分からないだろ?」
「ぐぐぐ……」
「でもグランだってアンナのおむすびを食べたんだろ? 教えてる時も慣れない手つきだったけど、兄さんが頑張るからって一生懸命握ってたんだぞ? 中の具も旨かっただろ?」
瑞希はアンナに簡単な軽食を教えてほしいと言われた時に、一度食べさせた事のあるおむすびを教えた。
瑞希が誰に作るのかと理由を聞いたところ、兄が競技会で腹を空かせるかもしれないからと恥ずかしそうに答える一人の妹の姿が在った。
瑞希はその姿を微笑ましく思い、中の具はどうするかを相談してる時に、グランが出汁に嵌っている事を知った瑞希はそれならばと、おかかのおむすびを教えたのだ。
「羨ましいな~! 可愛い妹が作ってくれる料理なんて仲が良い兄妹しか食べれないもんな~!」
「ぬうぅ……わしだっtむぐぐっ!」
瑞希はシャオの口を押えながら、アンナの料理を食べれる事を引き合いに出し、ミミカの料理を食べた事をうやむやにしようと考えていた。
「ふふんっ! 確かにアンナの料理は美味かった! それにしてもそんなに羨ましがるとは……だが貴様に(アンナ)はやらんぞっ!」
「いや、別に今は(おむすび)いらねぇよ」
「何だとっ!? 貴様やはり(ミミカ様を)狙っているのか!?」
「当たり前だろ? あれ(砂糖)があれば何でも(料理)出来るしな」
話が噛み合っている様で噛み合ってないのだが、グランは勘違いしたまま怒りが頂点に達する。
「貴様っ! やはりそういうつもりかっ!? ミミカ様が認めてもやはり許せんっ! 俺が全身全霊を持って貴様の野望を阻止してくれるっ!」
「野望って大袈裟な……グラン、何か勘違いを……」
瑞希が弁明しようとしたところで、大きく銅鑼が鳴り、グランは怒り心頭のまま瑞希から離れて行った。
「何か盛大な勘違いをさせてしまったような……」
「むぐぐっ! ぷはっ! いつまで口を押さえてるのじゃ!」
シャオはプンプンと怒りながらも瑞希と手を繋ぎ直す。
「ごめんごめん」
瑞希がシャオに謝っている所で特別席にいるバランから声が掛けられる。
「皆の者っ! 前半は我が城が誇れる非常に素晴らしい戦いであった! 開始前に説明した通り、後半戦はミズキ・キリハラ率いる冒険者三名対若手兵士全員の戦いになる!」
会場はざわざわとしながら瑞希達に注目が集まる。
それもそのはず、瑞希は先程の戦いで健闘を見せたのだが、率いている残り二名は可愛らしい少女が二人いるだけなのだ。
それを武器を持ち、防具を着込んだ兵士達が寄ってたかって戦うのでは話にならないだろうと見当をつける。
「会場に居る者達が考えている事はわかるっ! だが、後半戦はそれでもミズキ一行が優勢である事をここに宣言しようっ! その中でどの様な活躍が出来るのかを今一度示して欲しいっ!」
会場はバランの言葉により一層ざわざわとした声が広がっていく。
「それでは東に位置するはミズキ達冒険者一行、西に位置するは我が城の兵士に別れ、準備が整った後に競技を開始するっ!」
瑞希はバランの言う東の位置が分からず、周りを見ていると、周りに居た兵士が自分達から離れていくのでここが東かと納得し、チサとシャオに話しかけた。
「バランさんは俺達が魔法を使うとは言ってなかったから、開幕早々突っ込んで来る兵士が何人かいると思うから、そこにチサの魔法当てよう」
「……ちゃんと出来るかな?」
「大丈夫だって。俺達はすごい師匠に教えて貰ってるんだぞ?」
チサはチラリと横に居るシャオを見る。
「……にへへ。一発かましたる」
「あんまり張り切り過ぎて怪我をさせない様にな?」
周りに自分達以外がいなくなった事に気付いた瑞希は、右手で剣を手に持ち、左手でシャオと手を握り、チサを隠す様にシャオと二人並んで前に立つ。
「それじゃあ頑張ろうかっ!」
瑞希が声を出すと同時に再びバランから声がかかる。
「各々準備は出来た様だなっ! ミズキの後ろに隠れている黒髪の少女は触れただけで退場とするので決して剣を当てない様にっ! それでは始めぇっ!」
バランの号令と共に大きく銅鑼が鳴り、兵士側から数名の兵士が剣を手に瑞希達に走り寄って行く。
「予想通りだなっ! チサっ!」
瑞希の号令と共にチサから金魚の様な魚が飛び出した。
その姿に飛び出してきた兵士達が立ち止まってしまう。
「……魚さん魚さん。近づいて来る人等に多くの飛礫を!」
ゆらゆらと揺れる金魚の尾から氷の飛礫がいくつも飛び出し、驚き固まっていた兵士達は為す術もなく飛礫に打たれてしまう。
――あの子あの歳で魔法使いかっ!?
――だが、魔法なら詠唱を終える前に潰せばいいっ! 行くぞっ!
――馬鹿っ! 待てっ! 近づいてもミズキがいるだろう!
氷の飛礫に打たれた者をすり抜け、第二陣の兵士達数名が瑞希に斬りかかって来る。
瑞希は最初に到達した兵士の剣を、右手で持った剣で受けようとしているが、会場の兵士達も含め瑞希の推薦兵士を侮った行動に落胆の声が漏れる。
だが、瑞希を知っている者達はにやりと笑ってしまう。
「くらえミズキっ!」
瑞希は只受けるのではなく、相手の剣を切る様にして剣を振るう。
「チサっ!」
シャオが瑞希に流した魔力によって相手の剣は切れ落ちてしまい、驚き立ちすくんだ兵士の腹にチサが氷の球を放ち絶させる。
「良くやったチサ! 次はこっちから行こうかっ!」
「守りは任せるのじゃっ! チサ、神経を張り巡らして対処するのじゃぞ!」
「……分かった!」
瑞希は兵士を吹っ飛ばした事を合図に迫り来る数名の兵士を迎え撃ち、次々に魔法と魔力を込めた剣を振るい無力化していく。
兵士達も負けてなるものかと、瑞希の背後を取り斬りかかるが、瑞希達はシャオが自衛の為に使った風の魔法で上空へと浮かび上がる。
――おいっ! 今詠唱してなかったぞ!?」
――馬鹿なっ! だが上空からでは何も出来ないだろうっ!?
「そんな事ないよなチサ?」
「……うんっ! 魚さん! 大きい飛礫をっ!」
上空に上がったチサに付いてきていた金魚は真下に居る者達数名に向け、最初の飛礫よりも少し大きくなった氷の飛礫を打ち放つ。
瑞希は地上に降り立つと風魔法を使って加速し、飛礫を当てられ怯んだ兵士達に剣を当てて行き、剣を当てられた者達は次々に退場を言い渡された。
「はっはっは! さすがはミズキだっ! だがそんな軽い魔法では俺には通用せんぞっ!」
「軽いかどうかは食らってから判断しろよ(チサ、全体的に相手の足場を濡らしておいてくれ)」
「……(わかった?) 魚さん魚さん、あの人等に大きな大きな水を!」
チサのお願いに金魚はどんどん膨らんで行き、口から大きな水球を放つ。
水球の真正面に居たグランは剣を振るい水球を真っ二つに切り分けると自身は食らわずに、足場を濡らすだけの結果となる。
そのド派手な光景の裏で、足の速い兵士がチサに忍び寄ろうとしたのだが、急に足を止めた。
訳が分からず止まった兵士に瑞希が近寄り剣を当てる。
「足元を凍らせたんだよ。おつかれさん」
瑞希は次々と動けない兵士に剣を当てていくが、グランを含めた三名は冷静に凍った足元に剣を突きたてその場から抜け出し、残るは三対三の戦いになるのであった――
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