競技会休憩中
瑞希に呼ばれ、二階席の手すりに掴まりながら瑞希を見下ろすシャオはチサの服を掴むとそのまま二階席から飛び降り、周りの兵士がどよめいた。
もちろん急に落下に付き合わされたチサは悲鳴を上げながら落ちていく。
「落ちるぅ~!」
チサの悲鳴に対して、すぐ近くからと、下から同時に声が掛けられた。
「「大丈夫だ(じゃ)」」
一階で大きく手を広げ受け止めようとしている瑞希の元に、ふわりと風魔法で落下速度を緩めた二人は、すっぽりと瑞希の広げた手に収まり、すぐに足元に下ろされる。
「……ちゃんと言っといてや! 恥かいたわ……」
チサはぷんぷんと怒りながら乱れた髪形や衣服を直す。
「わははは! お前等が応援してくれたけど負けちまった。とりあえず手当したいから……シャオ?」
瑞希がシャオと手を繋ぐために伸ばした手を、シャオは取らずにそっぽを向く。
「……誰が凶悪な妹じゃ?」
「あちゃあ……聞こえてたのか?」
シャオはふくれっ面をしながら再度確認をする。
「……で? 誰が凶悪な妹なのじゃ?」
「可愛くて愛おしい妹のシャオだな」
瑞希は悪びれた様子もなく、素直に答える。
「そ、そんな言葉は言ってなかったのじゃっ!」
「でも可愛くてしょうがないとは返してただろ? どうせ聞こえてるならそこもちゃんと聞いとけよ」
「ぬうぅぅ……今回は許してやるのじゃ!」
シャオは瑞希の手に思いっきり自身の手を当て、瑞希は痛がりながらも自身の負傷カ所に回復魔法をかける。
「よっしゃ! じゃあ続けて後半戦も頑張ろうかっ!」
「ふんっ! さっきみたいな無様な姿には絶対させんのじゃっ!」
「……うちもやったる!」
三人が意気揚々と後半戦に挑もうと団結した所で再び銅鑼の音が鳴る。
バランが特別席から見下ろしながら会場に大声を放つ。
「皆の者っ! 素晴らしい勝負であった! 後半戦は最初に説明した様にミズキ一行対推薦兵士で行って貰うが、一旦暫しの休憩を挟むっ! 負傷した者は名乗り出て治療をして貰う様にっ!」
その言葉に団結していた瑞希達はやり場のないやる気をどうしようかと思ったが、上からアンナとジーニャが声を掛けて来た。
「ミズキ殿~! こっちに上がって来ませんか?」
「テミルさんがお茶の用意をしてるっすよ!」
「おぉ~! じゃあ今行く~! ……っとその前に、グラン!」
「何だ急に? わぶっ! 何をするっ!?」
瑞希はグランに近寄り、振り向き様のグランの顔面に手を当て、回復魔法をかける。
「どうだ? 痛みは無くなっただろ?」
「おぉ……これが回復魔法か? 便利なものだな……」
「後半戦のためにもそこら辺の人達にもかけとくよ」
「良いのか? 痛みで多少動きの悪い奴らの方が貴様は楽だろう?」
「ダメダメ! それじゃあ実践訓練にならないだろ? 俺達も皆もある意味初めての経験になるんだから万全の状態の方が良いじゃねぇか? とりあえず行ってくる!」
瑞希はグランにそう言うと、シャオとチサを連れて痛みを訴える推薦兵士に回復魔法をかけ癒していく。
グランは瑞希のその姿を見ながら、ふっと笑みがこぼれた。
そうしながら佇んでいるグランに、二階席からアンナが話しかける。
「兄さんもこっちで休憩しないか?」
「いや、ミズキ達の作戦会議もあるだろう? 俺はこっちで休憩を取る」
「後半戦は相当気合を入れないと負けるぞ?」
「ふんっ! 魔法があろうがなかろうが俺が剣を握れば負けんっ! 後半戦も勝利してお前の事をきちんと扱って貰わないとな!」
「よ、余計な事をするなっ! 私は今のままの方が……」
アンナは赤面しながらごにょごにょと言葉尻をぼやけさせる。
妹のそんな顔を見た兄はますます怒りが湧いて来た様だ。
「ミズキめ……人の妹を垂らし込みやがって……絶対に負けんっ!」
「でかい声で変な事を言うなっ! ミズキ殿に教えて貰って作ったから兄さんはこれを食べて静かに休憩してろっ!」
アンナはムルの葉で包んだ物をグランの顔面に投げつける。
顔面で受け止めたグランは、ムルの葉を手に収め、控室へと歩いて行くのであった――。
◇◇◇
治療を終え、特別席の近くの部屋へと招かれた瑞希はミミカにぐいぐいとサンドイッチを押し付けられていた。
「さささっ! ミズキ様っ! こっちのさんどいっちも食べてみて下さい!」
「わかったわかった! ちゃんと食べるから落ち着けっ! 何でミミカはこんなにテンションが高いんだよ……」
「ミズキ様の応援に力が入ってましたからね……それにしても惜しかったですね?」
テミルは瑞希にお茶を差し出し、先程の前半戦を振り返る。
瑞希はミミカの作ったサンドイッチを一口齧り質問に答える。
「いや~……全然でしたよ。審判の当たり判定と、乱戦というのに助けられただけでした。真っ向勝負したグランにはすぐに負けましたからね……おっ! これはグムグムを潰してマヨネーズと和えたのか? ポテサラサンドだな」
「ぽてさらって言うんですか? お父様に軽食を作る時に、グムグムをまよねーずと和えてさんどいっちにしてみたら美味しかったんです!」
「うん確かに美味い。次はこれにリッカを薄く切って塩もみしてからしっかりと握って水分を抜いた奴を混ぜても美味いぞ? ゆで卵を混ぜても美味いし、塩漬けのオーク肉を混ぜても良いな。ポテサラは応用が効くし、自分の好みが出やすいからな」
「覚えておきますっ! ミズキ様っ! 次はこっちを食べてみて下さいっ!」
「おいおい……ゆっくり食べさせてくれよ……」
瑞希はため息をつきながらもミミカの作った新作サンドイッチを口に運ぶ。
勿論シャオも食べているのだが、チサは後半戦への緊張で食が進まない様だ。
「チサ、食べないのならわしが貰うのじゃ!」
「……何でシャオは緊張してへんの?」
「あんな小童共にわしが負ける訳ないのじゃ。それに瑞希を痛めつけた奴らには痛い目に遭って貰うのじゃ!」
シャオはサンドイッチを片手に意気込みを語るのだが、それを耳にした瑞希がシャオを止める。
「あ~シャオ、それだけどな、今回はシャオは自衛の時だけ魔法を使ってくれ」
「何でじゃっ! わしもやってやるのじゃっ!」
「お前この前のロベルさんとの訓練でやり過ぎただろっ! 回復魔法があったから良いけど死にかけたわっ!」
「あ、あれはロベルが中々やりおるものじゃったから、カッとなったのじゃ……」
「ロベルさんだったから捌けたけど、若手兵士じゃ絶対に無理だ。それにシャオは弟子の育成をしなきゃ駄目なんだろ?」
シャオはチラリと横にいるもそもそとサンドイッチを口にするチサを見やる。
「ぬうぅぅっ! わしもやりたいのじゃっ!」
「だから、俺達が危なくなった時は助けてくれよ。俺達の師匠なんだからどんと構えて弟子二人の成長を見てろって! なぁチサ? 俺達の師匠はすごいって見せられるよな?」
瑞希はチサに、ニッと笑顔を見せると、チサも笑顔を返し答える。
「……にへへ。すごい師匠は堂々としとくべき」
「そこまで言うのじゃったらお主等がしっかりやるのじゃっ!」
シャオは二人の言葉に煽てられ、照れながらも瑞希の言葉を承諾する。
「そうと決まればしっかり食べて後半戦に備えようか! ミミカ、甘いのもあるのか?」
「勿論ですっ! 今日のふるーつさんどはジラを使ってみました!」
オレンジに似た果実のジラと生クリームが挟まれたフルーツサンドにチサが喜びながらパクついている。
ミミカのサンドイッチの美味しさもあり、どうやらチサの緊張は解れた様だ。
瑞希は自身の弟子の成長にも感謝しながら、後半戦へ意気込むのであった――。
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