競技会前半戦
大方の予想通りと言うべきか、競技会が開始すると同時に瑞希の近くに居た者は、まず瑞希を退場させてから勝ち残ろうとする者が多かった。
しかし、この競技会の前半は乱戦という事もあり、あからさまに、そして瑞希を侮り腑抜けた剣を振るった者は瑞希に避けられ、腕を打った後に腹を打たれ、審判の兵士に退場を言い渡される――。
瑞希とて攻められるのを待っているだけではなく、近くに居た兵士に斬りかかるが、瑞希の動きを見て気を引き締めた推薦兵士は、さすがにすぐには崩せず、何度か剣を交えていると、死角から気配がしたので軽く視線を向ける。
そこには乱戦特有の漁夫の利を得ようとしていた兵士が剣を突いて来ようとしていたが、突くと同時に瑞希が気付いたため、寸でで避け、相対していた兵士に突きが当たる。
瑞希はどさくさにまぎれ突いて来た兵士を打ち、両者とも退場を言い渡された。
「(今のは運が良かったな……)」
瑞希が独り言ちていると、グランが数人退場させていた。
「貴様等っ! 欲に駆られて一人を狙う等恥を知るが良いっ!」
「「「(お前が言い出した話だろっ!)」」」
瑞希以外の参加兵士は心の中で突っ込むが、徐々に瑞希の動きが良い事に気付いた者は、とりあえず落とせそうな身近に居る者を落としていく。
――残りは後五人にまで絞られた。
◇◇◇
「ミズキ様ぁ~! 後ろです、後ろ~! ……避けた! あっ、すご~い! そのまま退場させたわっ!」
ミミカは手に汗を握りながら、拳を振り回し、瑞希を一方的に応援している。
「ミズキ君は噂に聞いた通り、剣を振るっても中々強いではないか?」
「そうですね……。シャオちゃんが鍛えているのもありますが、ロベル様との訓練を見ていても楽しそうに教えておられました」
「ふっ……あの師匠は吸収の早い若者が好きだからな……それにしても筋が通ってる様な、通ってない様な不思議な剣を振るうな。……これは確かに教えてる方も楽しそうだ」
また、別の場所ではシャオ達が瑞希を応援していた。
「今のは隙だらけなのじゃっ! もっと周りを警戒するのじゃっ!」
「……勝てるでミズキー!」
「ミズキさぁん! 負けてないっすよー!」
「兄さ……ミズキ殿、頑張れぇー!」
声援が飛び交う中で、妹の声を聞き分けたグランがピクリと反応し、他の兵士の剣を捌いている瑞希に視線を向ける。
そのこめかみには薄っすらと青筋が立っていた。
「ミズキっ! そろそろ俺の相手もして貰おうかっ!」
デカい男が、デカい声を荒げながら瑞希に迫るのだから、瑞希でなくても気付く。
瑞希は相対している男と距離を空け、グランの剣を受け止める。
「何だよ急にっ! 最後で良いじゃねぇかっ!」
「うるさいっ! さっきから飛び交う声援がお前の事ばかりで耳障りなのだっ!」
「どんな理由だよっ!? 声援なんか聞こえてなかったけど、アンナだってお前を応援してるだろ!?」
瑞希のその言葉にまた青筋をくっきりと浮かべたグランが渾身の力を込め木剣を振り下ろす。
瑞希も木剣で受け止めるが、力負けを即座に感じ取り、剣で受け流す様にグランの木剣を逸らすが、グランは想定内であったのか、体勢を崩さず、ケンカキックの様に正面から繰り出された蹴りを瑞希の腹にめり込ませた。
「ぐあっ!」
瑞希は吹っ飛ばされながらも、すぐさま体勢を整えると、瑞希に追撃を行おうと思い近寄って来た兵士にそのまま詰め寄り、相手の剣を弾くと、首元に木剣を突きつける。
それを見た審判兵士が突きつけられた兵士に退場を促した。
「痛みの中でそれだけ動けるのは凄いな……」
「そりゃもう、凶悪な妹が極悪な訓練をつけてくれてるからな」
遠くの方でむっとした表情のシャオを想像できる言葉に、グランは愉快そうに笑う。
「それでも自分の妹は可愛いくてしょうがないのだろう?」
「当たり前だろ? グラン、良いのか喋ってて? 後ろから狙われてるぞ?」
「ふんっ!」
振り向き様に力任せに振るったグランの木剣は、受け止めた兵士の木剣をへし折り、そのままの勢いで胴に一閃を入れ退場させる。
「そんな無茶苦茶な……っと、危ない危ない」
瑞希が話していると後一人残っていた兵士が瑞希に斬りかかるが、気配に反応した瑞希は避け、グランが瑞希もろとも吹き飛ばす勢いで剣を振るうが、当たったのは瑞希ではなくもう一人の兵士であり、そのまま気絶する。
「残りはミズキだけだな……貴様に勝って俺はミミカ様の護衛を受けさせて貰う! そして妹はお前にやらんっ!」
遠くの方からミズキ様に勝っちゃ駄目という言葉や、馬鹿兄貴等と言う野次は他の兵士からの声援にかき消される。
「何を言ってるかわからんけど、砂糖は絶対に貰うからな!」
「なら俺は貴様に勝って美味い物を作って貰おうかっ!」
二人はお互い距離を詰め、牽制の様に軽い剣で様子を見ていたが、グランが力を込め仕掛けた。
「力強すぎるだろっ!?」
「貴様と違って毎日鍛錬をしているからなっ!」
瑞希は両手でグランの剣を受け、流そうかと思ったが、グランの力の強さでは木剣を弾き飛ばされると同時に、体勢を崩されると思い、手から剣を離した。
勿論想定していなかったのはグランの方だ。
なぜなら剣技のやり取りで自ら剣を離す者などいないからだ。
グランは手応えのなくなった剣を弾き飛ばすが、瑞希はグランの懐に潜り込み、顎を目掛けて掌底を放つ。
「(これは貰ったっ!)」
瑞希は勝ちを確信したのか、ふっと笑うと、自身の掌底から衝撃が返って来た――。
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「気を抜くでないのじゃっ!」
「これは兄さんの勝ちだな……」
グランは瑞希の掌底を受けた……顎ではなく顔面でだ。
意識外からの顎への一撃ならば、瑞希の勝ちだったと言えるかもしれないだろうが、グランは何度か瑞希とロベルの訓練を見ていた。
その時に相手を倒すのに剣を持ち替えたり、時には剣を手離したりしていた瑞希をかろうじて見ていた。
ロベルは一歩引き瑞希の掌底を避けた所で打ち込んでいたが、グランは見た事はあったものの、実際にやられた事は無かった。
また、ロベル程敏感に相手の呼吸を読む事も出来なかった。
そこでグランは避けるよりも我慢を選んだ。
咄嗟に下を向き、歯を食いしばり、来るであろう衝撃を覚悟して受け止めた。
「――俺の勝ちだ」
掌底の衝撃を耐えきったグランは瑞希の胴に木剣を打ち込み、そこで審判により勝ち名乗りが挙げられると同時に歓声が上がる。
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グランが瑞希に手を伸ばし、瑞希はその手を取りながら、空いている手は腹に当て、よろよろと立ち上がる。
「いてててて……お前、良く下から掌底が来るって分かったな?」
「ふんっ! 貴様とロベル様の訓練を何度か見ていたからなっ!」
「わははは! グラン、鼻血が出てるぞ?」
「ちっ! ロベル様と違って不細工に受けるしか出来なかったからな……」
グランは鼻血を飛ばし、二階席からは様々な歓声が沸く。
――だぁー! やっぱりグランが勝ったかー!
――ミズキー! 強かったぞー! 兵士になっちまえー!
――俺達にも美味い物食わせろグランー!
――グラーン! 何で勝つのよぉー!
勝者であるグランには勿論、瑞希にもかけられる言葉もあり、瑞希とグランは握手を交わし、二階席に手を振る。
「でも負けっぱなしも悔しいからな……後半は本気でやらせて貰うからな?」
「はっ! 魔法なんぞに俺の剣は負けんっ!」
瑞希はにやりと笑いながら、シャオが座っている近くまで歩いて行くのであった――。
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