ミズキの実力
昼休憩を終え、ミミカの訓練の為テミルが加わった一行は再び各々の訓練の持ち場に戻る。
「アンナ、ジーニャ、御屋敷のお仕事とバラン様の事は一時任せますね?」
「かしこまったっす!」
「承知致しました……その前に少しだけお時間を頂いても構いませんか?」
アンナはテミルに了承を取り、木剣を取り、瑞希に渡す。
「ミズキ殿、軽くで構いませんのでお手合わせ願っても良いですか?」
「良いけど……当てない方が良いか?」
「いえ、ミズキ殿がいるのであれば、回復魔法もありますので、いざという時はお願いします」
「それでも女の子に怪我を負わせたくないんだが……」
瑞希はアンナに聞こえるか聞こえないかの声で、ポリポリと頭を掻きながらアンナと間合いを取り、剣を構える。
アンナはといえば、瑞希の呟きが聞こえていたのか女の子という言葉に赤面しながら剣を構える。
「さ、さぁ! ミズキ殿! 宜しくお願いします!」
「んじゃあ行くぞ?」
瑞希は右手に剣を持ち、左手は空手のままアンナに突きを放つ。
アンナは瑞希の鋭い突きに驚きながらも、単純な突きなので剣を合わせながら半身で避ける。
「ミズキさん容赦なく突いたっすね……グランが知ったら怒りそうっすね」
瑞希とアンナは何度か剣を交えるのだが、その剣戟を見ているミミカがロベルに尋ねる。
「爺や、ミズキ様は何で片手しか使わないの?」
「ほほほ。ミズキ様は剣だけを使う時はちゃんと両手で持って振る時もありますぞ? あれは多分違う事を想定して剣を交えておりますな」
「違う事?」
アンナも昔から鍛えているだけあって、力は強いが、あくまでも女としてだ。
瑞希はたまに左手に剣を持ち替えたりしながらも手数を増やしていく。
相手が男の……それこそ競技会に出る様な兵士が相手では剣を弾き飛ばされてしまうだろう。
「(……水球。……ぬかるみ)」
瑞希はアンナの相手をしながら別の事を考える。
アンナも瑞希が何を考えているか徐々に気付いて来たのか、焦りが生まれ始める。
「(片手だから剣自体はそこまで重くはないが……やり辛いっ! おまけにミズキ殿が片手を空けているのは……)」
両者とも相手の剣を捌くのに疲れが見えてきたが、余計な考えが頭をよぎったアンナの足元にわずかな隙が生まれ、瑞希は急接近の際にその足元の隙を狙い、自身の足を滑り込ませながら近づくと、急な接近に焦ったアンナは咄嗟に足を引いてしまい、瑞希の滑り込ませた足が引っかかり、後方に倒れそうになる。
相手が男なら倒れた相手の喉元に剣を突きつけ終わるのだが、相手は剣を扱うとはいえ女性のアンナだ。
瑞希は右手に持っていた剣を手離し、倒れそうになるアンナの背中に手を回し受け止めながらしゃがみ込む。
「ふぃ~! お疲れさん。どこか痛い所とかは無いか?」
「だ、大丈夫ですっ! あの、そのっ! 重たいですよね!? すみませんっ!」
「アンナの細さで重たかったら世の女性が怒り出すだろ……起き上がれるか?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
瑞希は左手でアンナの空いている左手をしっかり握ると、自身も立ち上がりながら支えていた右手と握っている左手に力を込め立ち上がらせる。
アンナと離れた瑞希に、チサが金魚の口から水を吐き出させて顔に掛ける。
「チサ……何するんだよ?」
「……汗かいてたから。さっぱりしたやろ?」
「そりゃそうだけどさ……」
「ふんっ! さっさと顔を拭いてロベルに痛めつけられるのじゃっ!」
シャオが瑞希の顔に布を投げつける。
「えぇ~……」
びしょびしょになりながらも汗を流しさっぱりした瑞希は、ぼーっと突っ立ったままのアンナに声を掛ける。
「大丈夫かアンナ? どっか痛いのか?」
「い、いえっ! 大丈夫ですっ! さぁジーニャっ! さっさと仕事に戻るぞっ!」
我に返ったアンナは踵を返して出入口へと走って行く。
「ちょっと待つっすよっ! ……あぁ~行っちゃったっすね……それじゃあうち等は仕事に戻るんで、お嬢の事は宜しく頼んだっす! ミズキさん強かったっす! うちとも今度稽古して欲しいっす! んじゃまたっ!」
ジーニャはアンナを追いかける様にその場から離れて行った。
残されたミミカはロベルに尋ねていた内容を瑞希に直接聞く事にした。
「ミズキ様、何で片手だけで剣を振るってたんですか? 爺やとの時は両手で振るってましたよね? アンナが相手だからですか?」
「あぁそれか。あれはシャオと一緒に戦う事を想定してたんだよ。合間合間に魔法をどう使うか考えながらな」
「シャオちゃんと……あぁ! 手を繋ぎながら戦ってたアレですねっ! じゃあ魔法を使えてたらもっと早く終わってたんですか?」
「えっと……」
瑞希がアンナの名誉のために口ごもっていると、シャオが得意気な顔で胸を張りながら答える。
「くふふふ! そんなもんミズキの最初の突きで終わってたのじゃっ!」
「へぇっ!? だってアンナはちゃんと躱してたじゃない!?」
「魔法が自由に使えてるなら、足元の土を柔らかくして体勢を崩せたし、単純に氷塊を先に出して突きを避けられない様にも出来たし、水を使って目くらましにも出来たんだ……」
「その通りなのじゃっ! それにミズキは打ち合いながらも魔法を使う場面を想定しておったのじゃっ! 無論わしと手を繋いでおる想定ならミズキが使わずともわしが手助けしたのじゃ」
「ず、ずるい~!」
ミミカが憤慨してる横から、テミルが口を挟む。
「でもそんな戦い方が出来るのはミズキ様達だけよ? 普通なら魔法使いは剣士に距離を詰められたらそれで終わりなのよ」
「……詠唱せんかったらええやん?」
「それだと魔力がすぐに枯渇するでしょ? 貴方はショウレイを使うのね。それでも詠唱みたいなのはあるでしょ?」
「……ショウレイってこれ?」
チサは自身の周りをふわふわと浮かぶ金魚を指差す。
「そう。自身の想像した物を呼び出して魔法を使う事をショウレイと言うのよ。呼び出すのに時間はかかるけど、魔力を抑える事もできるわ。その辺りは実感があるでしょう?」
「……ある。この子がいない時に魔法を使うのはしんどい」
「(ショウレイって言うのか……ショウレイ……召霊か? 霊とか魂を呼ぶのかな?)」
瑞希はテミルの言葉を聞きながら一人考えていた。
「私もショウレイを使える魔法使いは初めて会ったわ。何かの本で読んだだけだから知識も曖昧だけど、魔法の基礎は教えられるから、今日はミミカと一緒に頑張りましょうね」
「……わかった! うちもシャオみたいに使える様になるっ!」
「私もなるわっ!」
「ならまずは二人共魔力の循環をさせるわよ」
「「はいっ!」」
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チサの先生役を取られたシャオは瑞希と手を繋ぎ、ロベルと共に場を離れ相対する。
「くふふ。ならわし等はロベルと戦ってみるのじゃ! 偶にはわしの力を見せてやるのじゃっ!」
「ほほほっ! ミズキ様の本来の戦い方ですなっ! いつでも構いませんぞ?」
「じゃあお言葉に甘えて……氷柱っ!」
瑞希が繰り出した先が丸くしてある殺傷能力の低そうな氷柱をロベルが躱しながら、瑞希と剣を交える。
「くらうのじゃっ!」
ロベルは足でシャオの魔法である風球を蹴り上げ、そのまま瑞希と繋いでる手を狙うと、それを感じ取った瑞希は手を離し、シャオは瑞希の背中目掛けて氷柱を放つ。
瑞希はそれがわかっていたのかしゃがんだ勢いで転がり、氷柱を避けると、ロベルは嬉しそうに氷柱を木剣で叩き割った。
「くふふふっ! 良い練習台なのじゃっ!」
「ほほほほっ! 偶には本気を出せそうですなっ!」
「いやいやいやっ! 二人共怪我しない様にしようなっ!?」
瑞希はシャオに手を繋ぎ直されると、引っ張られるより前に、ロベルへと駆けて行くのであった――。
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