瑞希のおむすび
兵士や使用人が朝食を取る食堂では、今年の競技会の優勝者には客人である料理人の瑞希が食べたい料理を作ってくれるという話題で持ちきりになっていた。
グランが言うには、昨晩実の妹が瑞希と就寝前に交わした話であり、瑞希本人も快く了承してくれたという話だ。
代わりと言っては何だが、料理を振る舞って貰う資格がある奴は、仮に瑞希が優勝した場合、全員自腹で砂糖を購入し、瑞希に提供するという事だ。
昨日から噂にはなっていた話が、本当の事となった事で、今年の競技会参加者は燃えに燃えていた。
自分が優勝をするのだと、周りに言い、何を作って貰おうかと悩む者まで出る始末である。
――瑞希はそんな事になっているとは露知らず、アンナに説明を受けていた。
「あぁ~……記憶ではアンナと会話した事は覚えてるんだ。そんな内容だったのか……」
「私達も悪いのですが、昨日兄からその話題が出て、内輪話で盛り上がったのですが、兄の声が大きく食堂で噂になってしまったんです……」
「それで昨日帰って来てからアンナと会話してたのか」
「快諾しておったのじゃ」
「……俺に任せとけって胸を叩いてたで」
瑞希自身は記憶になく、二人のお子様が言う言葉を聞くと、少し恥ずかしくなって来た様だ。
「ま、まぁ料理を作る事は全然苦じゃないし構わないけど、それって俺が勝ってしまったらどうなるんだ? 料理の取り上げか?」
「いえ、ミズキ殿が勝てば砂糖が参加者全員から貰えるそうです。シャオ殿も喜ぶ物が良いという事になり、高価な砂糖を渡せば釣り合いが取れるのではないかという判断です」
「ミズキっ! 絶対に優勝するのじゃ! そしてどーなつを再び作るのじゃっ!」
「……うちはまた団子が食べたいっ!」
「俺より、お前等が食いついてんじゃねぇか……でも砂糖は嬉しいな! そろそろ買いに行こうかと思ってたし助かるよ」
「そう言って頂けると助かります……」
「じゃあ優勝するためにも今日もロベルさんとの訓練を頑張るかっ! あ、バランさん! 約束通り屋台の出店もお願いしますよ? キアラの店の近くでっ!」
「それは構わないが……ミズキ君、今のアンナとグランの申し出を受け入れるのか?」
「良いんじゃないですか? 負けても料理を作るだけですし、食材はあるものでお願いしますけどね」
「いや、そう言う事ではなく……ミズキ君が全員から狙われるんだぞ?」
瑞希がバランの言葉に首を傾げていると、バランが呆れた顔をしながら瑞希に説明する。
「ミズキ君をとりあえず倒してから、その後残った者達で勝敗を決すれば確実に料理は食べられるだろ? それに砂糖を買う必要もなくなる」
「本当だっ! ……いや、それならこっちも条件を一つ加えましょう! 俺達が勝ったら砂糖は貰いますよ! アンナ、グランにもそう伝えといてくれ!」
「えっと? わかりました?」
「なるほど……それなら妥当だな……」
瑞希が悪そうな顔をしていると、シャオとチサも瑞希の意図を察し悪そうな顔をしている。
「なんか悪巧みを考えてる顔っすね……それにしてもチサちゃんには悪影響な気がするっす……」
「くふふふ! そうと決まればミズキの特訓なのじゃっ! チサも今日の訓練もしっかり頑張るのじゃぞっ!」
「……ミズキの飲み水も作らななっ!」
「良いなぁ~! テミルっ! 私も一緒に訓練したいっ!」
「ミミカ様はこれからお勉強の時間です。それに遅刻してきたお説教もありますわ」
テミルはにっこりと微笑みながら、ミミカを威圧する。
「わははは! じゃあミミカも頑張ってなっ! 御馳走様でしたっ!」
「ミズキ殿、後片付けはしておきますのでロベル様に宜しくお伝えください」
「助かるよっ! じゃあシャオ、チサ行くぞ」
瑞希達は意気揚々と部屋を出たのだが、向かう先は食堂であった――。
◇◇◇
食堂に食器を片付けに来たアンナとジーニャが、厨房で何やら料理を作っている瑞希達を見つける。
「あれ? ミズキさん、訓練に行ったんじゃないんすか?」
「訓練先で食べる弁当を作ってたんだ! アンナとジーニャもいるか? おむすびと卵焼きの簡単な
弁当だけどな」
「……ペムイはそれだけで食べても美味い!」
「くふふふ。でも甘い卵焼きはペムイには必須じゃ!」
「良いんすか? じゃあうちは欲しいっす!」
「わ、私も欲しいですっ!」
「じゃあちゃちゃっと握るから待っててくれ」
瑞希はそう言うと、土鍋からボウルにペムイを移し、中心に具材を入れると手に塩を振って握り始める。
「手で握るんすか? 変な料理っすね」
「ペムイを押し固めた料理だからな! 中の具はジーニャが好きな奴もあるぞ?」
「なんなんっすか!? どんな具なんすか!?」
「それはお楽しみって事で……チサ、ムルの葉をくれ」
チサに用意されたムルの葉の上に三つのおむすびを並べ、卵焼きを添えて紐で縛る。
瑞希はアンナとジーニャの分を作り終えると、二人に手渡す
「ほい。一つはジャルを使った甘辛い具で、もう一つは魚を使った奴だ、もう一つは具無しの塩握りだから、卵焼きをオカズに食ってくれ」
「「ありがとうございますっ!」」
「……シャオ、訓練がんばろな!」
「くふふふ! 腹を空かせてお弁当を美味しく頂くのじゃ!」
「ミズキ殿達はいつもの所で訓練するのですか?」
「ロベルさんが今日は当日の会場で訓練しようって言ってたから、あっちの建物だな」
瑞希が厨房の窓から見える建物を指差し、アンナとジーニャが頷く。
「ミズキさんだけ当日の会場を知らないのは不利っすもんね! じゃあ昼休憩の時に覗きにいくっすね! どうせお嬢が連れてけって喚くんで!」
「じゃあミミカのも一応握っとこうか? ペムイはまだあるし」
「ミミカ様がそれを聞いたら喜んで食べると思います! お願いしても宜しいですか?」
「構わないよ。これで丁度食材も使い切れるしな!」
瑞希はそのままもう一つ弁当を作り、アンナ達と別れを告げ、ロベルの待つ本日の訓練場所へと向かうのであった――。
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