フレンチトーストと野菜オムレツ
アンナとジーニャに、朝食を作ったのが瑞希なら料理の説明もして欲しいから一緒に食べて欲しいと誘われ、バランとミミカが食事を取る部屋に連れられてやって来た瑞希達は、バランの待つ部屋へとやって来て、アンナが扉をノックする。
「入れ」
「失礼します」
テーブルに座りながら料理を待っていたバランと、バランの後ろに控えていたテミルが瑞希達に気付く。
「おや、ミズキ君? 朝からどうしたんだね?」
「成り行きで今日の朝食を作る事になったので、御相伴に預かろうかと思いまして」
「それは真かっ!? 今日の料理は何を作ったんだ!?」
「シャオに甘い物を作ろうと思っていたので……っと、料理の説明の前にミミカはどうしたんですか?」
「寝坊だ……」
「わははは! ミミカらしいですね! ミミカの事だからそろそろ大騒ぎしながら……「お父様! ごめんなさいっ!」」
「こうやって登場するんですよね。お早うミミカ!」
ミミカは、ボサボサ頭のまま大慌てでやって来た。
バランの他に、瑞希達が居る事を確認すると、赤面しながら固まる。
「な、な、な、何でミズキ様がここに居るんですかっ!?」
「わははは! 今日も髪の毛が決まってるな!」
「いつもの事なのじゃ! ミミカの髪などどうでも良いから早く食べたいのじゃっ!」
「……お腹空いた」
「はぁ……ミミカ、一先ず座りなさい」
「で、でも、ミズキ様がいるって知らなかったし……でも、遅れちゃいけないと思って……アンナ! ジーニャ! 何で起こしてくれないの!?」
「「起こしましたよっ!」」
「とりあえずはシャオ君達も腹ペコのようだから、先に頂くとしよう。待たせてすまなかったね」
アンナとジーニャが料理の皿を並べ、テミルは入れたお茶を並べて行く。
シャオとチサは待ってましたと言わんばかりに、早速手を合わせ、フレンチトーストを口にする。
瑞希はミミカを手招きして、横に座らせると、シャオと手を握り、ささっと手櫛で寝癖を直す。
ミミカは恥ずかしそうにしながらも、気持ち良さに身を委ねている。
「ほい。じゃあ席について朝食を食べてくれ」
「ありがとうございます! アンナ、今日の朝食はなぁに?」
「ミズキ殿が作った朝食です……何ていう料理なのですか?」
「ん? あぁ、こっちのパンを使った料理がフレンチトーストで、卵は細かく刻んだ野菜と塩漬け肉をケチャップで炒めた具に、チーズを入れてオムレツにしたんだ。シャオ、チサ、甘い物欲は満たされたか?」
「バターの香りが良いのじゃ~、柔らかくなったパンが甘くて美味しいのじゃ~」
「……にへへへへ!」
シャオは蕩ける様な顔をしながら感想を言い、チサは只々笑顔になっていた。
「お気に召した様で良かったよ。バランさんはいかがですか?」
「美味いに決まってるだろ! まだこんな美味い料理があったのか!?」
「シャオに言われるまで忘れてたんですよ。簡単に出来る朝食に合った甘い物って考えてたら思い出したんです。オムレツはチサのためですけどね。どうだチサ? モロンもこれなら食べれるだろ?」
「……これなら大丈夫。モロンの苦さより、チーズとケチャップの美味しさが先に来る」
「モロンも大人になったら美味しく感じる……って訳でもないか」
瑞希はモロンが苦手なアンナを見て苦笑する。
アンナも瑞希が覚えていた事に恥ずかしくなり、顔を伏せてしまう。
「アンナにも今度モロンを使った料理を考えなきゃな! チサと一緒に克服できる様にさ!」
アンナは嬉しい様な、悲しい様な微妙な顔をしている。
「お料理を振る舞って頂けるのは嬉しいのですが、モロン料理ですか……」
「……モロンはペムイと合わんもん」
「そんな事ないぞ? アンナには大分前に肉詰めは作っただろ? ああいう料理もペムイには合うけど、中華料理ならペムイにも合うんだ! モロンは煮込み料理とかより、揚げたり、炒めたり、油を使うと美味いからな! 酢豚とか、回鍋肉とかに入れても美味いし、青椒肉絲なんかモロンが主役でペムイとも……「ミズキ! 喋ってばかりいないで食べるのじゃっ!」」
料理の説明を始めると止まらなくなって来た瑞希をシャオが叱る。
自分が焼き上げたオムレツの感想を聞きたい様だ。
「悪い悪い! じゃあシャオが作ったオムレツを頂こうかな……」
シャオは横に座っている瑞希を覗き込むようにして、オムレツが瑞希の口に運ばれるのを眺める。
「おぉっ! 上手く焼けてるな! 破らずに美味しく焼けるなんてさすがシャオの魔法の腕前だな!」
瑞希は笑顔でシャオの頭を撫でながら料理を褒める。
「ふふんっ! 当たり前なのじゃっ! 瑞希の仕込んだ食材で不味く作る方が難しいのじゃっ!」
口では強がってもシャオはにやけ顔を抑える事が出来ないでいる。
「……めっちゃ嬉しそう」
「だ、誰がじゃ!? わしにかかればオムレツを上手く焼く等他愛もないのじゃっ!」
「プレーンオムレツならすぐ出来たもんなっ! 次は何を教えようかな……」
瑞希がシャオに教える料理を考えながら食事をしていると、フレンチトーストを食べていたミミカが話しかけて来た。
「ミズキ様、このふれんちとーすとというのはこのままでも勿論美味しいのですが、ちょこソースをかけても美味しいんじゃないでしょうか?」
「その通りなのじゃミミカっ!」
「確かにチョコをかけても美味いんだけど、実はもうチョコの材料が無いから無理なんだよ」
「あれ? モンド様に頂いてませんでしたか?」
「いや~……あれはな~……」
口ごもる瑞希に何かを察したミミカが矛先を変える。
「シャオちゃん、チサちゃん、最近ミズキ様に美味しいお菓子か何かを食べさせて貰った?」
「しらんのじゃ」
「……し、知らないっ!」
長年生きて来たであろうシャオはすまし顔で誤魔化すが、お子様なチサの目が泳ぐ。
「そうですか……ミズキ様っ! 何で私に秘密にしてたんですかぁ!」
ミミカはチサの誤魔化しを見破り、口止めをしていたであろう瑞希に詰め寄る。
「わははは! バレたのなら仕方無い。元々そんなに量が取れなかったからこの前の魔物討伐のおやつにしたんだよ……こうやってな」
瑞希に手渡されたミミカは想像していた形とは違うチョコレートに頭を捻る。
「液体じゃないんですか?」
「冷やして固めるとこんな形になるんだよ。魔法使いにとっても効果のあるお菓子になったよ」
「魔法使いにとって? 食べても良いですか?」
ミミカは包み紙を嬉しそうに開いていると、シャオとチサが唸りながら瑞希を見る。
「まだあったのじゃ!?」
「……ずるい」
「ミミカにあげたのは俺の分だ。シャオとチサにもちゃんと分けただろ? 全部食べたのか?」
「もう無いのじゃ!」
「……あと一つしかない」
シャオがチサを見ると、チサは慌てて顔を背ける。
「チサよ……師匠に譲るのじゃ」
「……嫌や」
「うぬぬぬぬっ!」
チサに横暴を働くシャオを瑞希が叱っていると、チョコを食べたミミカから質問をされる。
「美味しい~っ! ミズキ様! このお菓子は大変美味しいのですが、魔法使いに、と言うのはどういう事ですか!?」
瑞希は瑞希に叱られ凹んでいるシャオの頭を撫でつつ慰めながらミミカに答える。
「シャオに言わせると魔力が少し回復するらしいんだ。ポッカの実って魔力薬の材料なのか? これはポッカの実の種から作るんだけどな」
ゴホンと、バランが一つ咳払いをする。
「ミズキ君、……そのちょこれーとというのは私の分は無いのか?」
バランは照れながらもミミカが絶賛するチョコレートを瑞希に強請る。
「すみません、さっきミミカに渡した分で最後なんです。ドマルに頼んでコール商会に仕入に行って貰ってますから、手に入ったらたっぷり作りますよ! バランさんはお酒も飲みますよね? お酒入りのも作ろうと思っていたので楽しみにしてて下さい!」
「甘い物と酒を……いや、ミズキ君の事だ、心待ちにしていよう。テミル、ポッカの実から魔力薬は作れるのか?」
バランの食べ終わった皿を下げようとしていたテミルが皿を片付け、答える。
「確かにポッカの実も使われるはずです。ただ、それ以外にも様々な薬草や実を使うらしいのですが、詳しい作り方までは私も存じ上げません」
「へぇー! でもこれなら魔力が無くなっても魔力薬みたいに苦い思いしなくても良いんだ!」
「回復量は少ないから、急いでる時はやっぱり魔力薬の方が良いと思うぞ? チサも魔法使いなら飲める様にならないとな?」
「……それならちょこを大量にたべる」
「私もそっちの方が良いなぁ! ミズキ様のお菓子は美味しいし! あっ! そういえば今度の競技会の優勝者にはミズキ様が好きな料理を作るんですよね!? 私も食べたいです!」
「んん? なんの話だ?」
瑞希は惚ける訳でもなく、純粋に知らないと言った風に返事をし、それを聞いたアンナとジーニャも驚きの顔をするのであった――。
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