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甘い朝食

 ――翌朝瑞希が目を覚まし、体を起こすと瑞希の上で寝ていた猫の姿のシャオがいつもの様に転がる。

 瑞希が寝起きの働かない頭で、猫のシャオを抱き上げ、撫でているとシャオも起きるのかぐぅーっと伸びをしてから、ぼふんと人間の姿に変わる。


「おはようなのじゃ~……ふわぁ~……」


「お早う……今日は軽く朝食を食べてからロベルさんと特訓か……おむすびでも作って行こうかな?」


「……ミズキ、お主約束は忘れておらんじゃろうな?」


「約束? はて?」


「昨日はブラッシングが無かったのじゃっ! 変わりに朝に甘い物を作ると言うとったじゃろうがっ!」


「そんな約束したのか……え~っと……城に帰って来たのは覚えてるんだ。その後アンナ達が何か言ってて……シャオのブラッシングをした記憶はねぇな」


「しとらんのじゃから当たり前じゃっ! 今するのじゃっ! すぐするのじゃっ!」


「はいはい……」


 瑞希は手を伸ばして鞄からシャオのブラシと櫛を取り出すといつもの様にシャオの髪を梳いて行く。

 シャオがして欲しそうな所を、絶妙な力加減で梳いて行く。


「今日はどんな髪形にする? 動きやすいようにアップにするか?」


「昨日のお詫びに少し手の込んだのが良いのじゃっ!」


「ん~……なら……」


 ミズキはシャオのサイドの髪の毛を両側から引っ張り、後頭部の辺りで紐でくくり、出来た輪の中に括った髪の毛を入れてくるっと回転させる。

 残った後ろ側の毛を二つに分けてから、先程の輪っかに一本ずつ入れた所で手を止める。


「シャオ、これでどうだ? 後ろから見たら髪の毛がリボンみたいに見えるんだ」


 瑞希は手鏡を持ち、部屋にある鏡で合わせ鏡にしてシャオに見せる。


「くふ。くふふふ。これが良いのじゃ!」


「じゃあ内側から見えない所をピンで留めてっと……この髪形はこのままアップにする事も出来るんだけど、それはまた今度にしようか!」


「楽しみなのじゃっ!」


「くっくっく……」


「何を笑っておるのじゃ?」


「いや、シャオも最初は髪の毛をいじられるのを嫌がってたのに、最近は楽しんでるみたいで嬉しいよ」


 シャオは急に恥ずかしくなったのか、顔を赤らめて反論する。


「こ、これは昨日のお詫びなのじゃから、当たり前の要求なのじゃっ! 別に嬉しくなんかないのじゃっ!」


 シャオがプイっと顔を背けると、いつの間にか起きていたボサボサ頭のチサが、櫛を用意して待っている。

 瑞希はその髪の毛が面白かったのか、笑いながら手招きしてチサを近くに寄せ、シャオの魔法を使い髪の毛を直すと、櫛で髪の毛を梳いて顔の横辺りに来る様に三つ編みを作って止める。


「ほい。チサは三つ編みな」


「……にへへへ」


「ドマルは……そういや昨日ウォルカにもう一度香辛料を仕入れに行くって言ってたか」


「ちょこの材料はちゃんと頼んだんじゃろうな!?」


「勿論だっ! いくらか知らないけどたっぷり買ってきてくれる様に頼んだよ」


 瑞希の言葉にお子様の二人が嬉しそうに喜ぶ。


「じゃあ甘い朝食でも作るか~!」


「……ほんま!?」


「シャオと約束してたらしいからな。ちゃちゃっと作るさ。いかにも朝食らしい簡単な料理を思い出したしな。お昼はロベルさんと特訓してるからおむすびでも作るけど、お前等お弁当の卵焼きは出汁巻きか甘い卵焼きかどっちが良い?」


「「甘いの(じゃ)っ!」」


 綺麗に声を揃えて二人は甘い卵焼きを所望する。


「じゃあ顔を洗って厨房を借りようかっ!」


 三人は朝の準備を済ませて、厨房へと移動するのであった――。


◇◇◇


 朝食時の厨房は料理番の者達が忙しそうにしている。

 瑞希の姿を見かけた料理番の一人が瑞希に声を掛けて来る。


「お早うございますミズキさん! ちょっとお時間頂けませんか!?」


「お早うございます! どうしました?」


「今日私がバラン様達の朝食当番なんですが、お知恵を貸して頂けませんか?」


 料理番の女性は前日にミミカから甘い物が食べたいとお願いされていたらしく、何を作って良いのか悩んだ結果、何も思いつかず時間だけが迫って来ていた様だ。


「それなら俺達の朝食のついでに作りましょうか? 妹に甘い物を食わせろってせがまれたので、朝食に用意しようと思ってた料理があるんですよ!」


「是非っ!」


「じゃあパンを少し分厚い目に切って下さい。シャオとチサはモーム乳と卵黄と砂糖をボウルに入れて混ぜ合わせようか」


「わかったのじゃ!」


 瑞希は料理番の女性にパンの厚みを教えつつ、シャオとチサの混ぜ合わせる分量を調整する。


「じゃあシャオ達が作った液をバットに移して、切ったパンに染み込ませる。パンが液を吸うから多い目に作った方が良い。しばらく染みこませておく間に、ペムイを炊こうか」


 瑞希はボウルにペムイを用意し、シャオに魔法を頼もうと思ったところでチサから待ったがかかる。


「……うちに任せて! 魚さん……」


 チサが魔力を込め、金魚の様な魚を浮かべると、口からちょろちょろと水を出す。

 瑞希は両手でその水を受け止め味見をして問題なく使えそうなのを確認し、ペムイを研いでいく。


「……むぅ。何で一回味見したん?」


「魔法で出した水ってシャオのしか飲んだ事ないからな。念のためだよ」


「……で、どうやった?」


「心なしかシャオの水の方が美味い気がする……けど、問題なく美味い水だよ」


「……むぅー!」


「くふふ。まだまだじゃな」


「いや、本当に気持ち程度の差だから気にするなって。今日の訓練中はチサが出した水を楽しみにしとくからさ」


「……にへへ」


 瑞希はペムイを研ぎ終え、水に浸けると、次の料理に取り掛かる。


「後は朝食用に、昨日食べた卵料理を少しアレンジしてみようか!」


 瑞希はモーム肉の塩漬け肉を切り出し、パルマン(玉ねぎ)モロン(ピーマン)を微塵切りにしてから、瑞希を見計らったシャオが竃に魔法で火を熾し、瑞希が植物油を引いた鉄鍋で炒めて行く。


「……モロン使うんや……」


「緑黄色野菜は入れたいからな。今日はチーズも使うし、中はケチャップで味付けるから苦みも薄まるし大丈夫だって!」


 瑞希は塩漬け肉を混ぜた具の塩加減を確認し、胡椒と作り置きしていたケチャップで味を付ける。


「じゃあシャオにオムレツは任せても良いか? 俺は横でパンを焼いて行くから」


「ふふん。任せると良いのじゃ!」


 シャオは卵を割り、モーム乳と塩、胡椒を混ぜる。

 瑞希は具をバットに入れ、新しい鉄鍋を二つ用意して、どちらの鉄鍋にもバターを入れる。


「シャオ、こっちの竃の火は弱めてくれ。バターは焦げやすいからな。オムレツはいつもみたいに鉄鍋の中で混ぜてから、巻き上げる前に細かくしたチーズを乗せて、炒めた具を入れてから巻くんだ。こんな感じだな……」


 瑞希は自分の鉄鍋を弱火で放置しておき、シャオの作るオムレツを一つ作って見本を見せる。


「わかったのじゃ!」


 シャオは再びバターを入れ、瑞希の作ったように具を乗せると、風魔法を使って卵を綺麗に丸める。


「……器用やなぁ」


「むしろ、ミズキみたいに魔法を使わず作る方が難しいのじゃ!」


「下手したら竃をぶっ壊しかねないからチサは真似するなよ? こっちも焼けたかな……チサ、皿を取ってくれ」


「……こっち置いとくで?」


 瑞希は自身の料理と、シャオが焼き上げたオムレツを皿に乗せ、櫛切りにしたポムの実(トマト)を添える。


「チサ、そっちの瓶に粉砂糖があるから、茶こしで振るってパンの上だけにかけてくれ」


「……わかった。オムレツには何もかけへんの?」


「中の具に味を付けてるから大丈夫だ。好みでケチャップをかけても良いけど、今日は味の無いパンと食べたり、ペムイと食べたりはしないからな。あまり味を濃くする必要はないよ」


 チサは瑞希の焼いた軽く焦げ目の付いたパンに粉砂糖を振るう。


「どうでしょう? こんな感じに一皿に纏めても良かったですか?」


 料理番の女性は拍手をしながら瑞希の皿を眺める。


「すごいすごいっ! こっちのパンを使った料理は何という料理なんですか!?」


「これはフレンチトーストって言う料理です。砂糖が高価なのであんまり作れませんけどね。そこに味見用に小さく切ったのがあるので料理番の皆さんで食べて下さい」


「い、良いんですか!?」


「自前の調味料を使ってますからね、味見位大丈夫でしょう? パンとか卵は貰いましたけど、まぁ朝食を作った手間賃と調味料で相殺って事で……」


 瑞希は口の前で指を立て、笑顔で誤魔化す。

 料理番の女性もつられて笑い、他の料理番に声を掛ける。


「皆~! ミズキさんが、作ったふれんちとーすとの味見して良いって~!」


「「「「「キャー!」」」」」


 料理番の者達から歓声が上がっている所に、朝食を取りに来たアンナとジーニャが現れる。


「何の騒ぎっすか!? あれ? ミズキさん?」


「お早うございますミズキ殿。何の騒ぎですか?」


「あぁ、今日のバランさん達の朝食を作る事になったから、その料理の味見用を渡したらこんな事になった。朝食はこれを持って行ってくれ」


 瑞希はフレンチトーストとオムレツの乗った皿と、お茶用のお湯を入れたポットを一緒に手渡す。


「えぇっ!? 今日はミズキさんが作ったんすか!? しかもめちゃくちゃ美味しそうっす!」


「(ミミカ様良いなぁ……)」


「成り行きでな~。一口食べるか? テミルさんに食べさせたのがバレたら怒られそうだから内緒な?」


「「もちろんっ!」」


 瑞希は自分の分のフレンチトーストを切り分けアンナとジーニャに食べさせる。

 二人の口の中にフレンチトーストの甘みが広がり、今日は良い日だと噛み締めながら料理を運ぶのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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