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ロベルの願いと噂話

 シャオとチサが野菜グラタンの取り合いをしている横で、瑞希は首を傾げながら、ロベルの願い出を考えていた。


「えっと……魔法を使っても良いんですか?」


「正確に言えば先程申し上げた様に、魔法の怖さを教えて頂きたいのです」


「怖さですか?」


「当主がバラン様に変わり、奥方を亡くされてからはますます魔法を遠ざける様になってしまい、今の世代の兵士達は魔法の怖さを知りません。中には親しい冒険者が居る者はその限りではありませんが争い事になると剣が最強だと思っているのがテオリス城の兵士です」


 瑞希はだんだんとロベルの言いたい事が分かって来た。


「魔法至上主義の逆ですね」


「その通りです。剣にしろ魔法にしろ、適材適所で輝く物です。長年のバラン様の魔法嫌いにより城内から魔法が失われ、今城内で魔法が使えるのはテミルとミミカ様のみです。剣も極めれば魔法に負けないと思いますが、魔法を侮るのは間違いなのです」


 シャオとチサはグラタンを食べ切ったのか、串焼きを手にしながら会話に混ざる。


「その通りなのじゃ! 魔法は便利じゃが絶対ではないのじゃ。だからこそミズキが剣も使える様に訓練しておるのじゃ!」


「それはまぁ……てことは競技会ではシャオと二人で出て良いのですか?」


「半分正解です。今年の競技会は二つのルールでやろうと思っております」


「二つ?」


「一つは例年通り、魔法禁止の木剣による乱戦。もう一つは刃を潰した剣による、ミズキ様とシャオ様対全員の競技です」


「ぜ、全員!? 参加する兵士さんは全員若手の代表ですよね!?」


「その通りです。それでも魔法を使える御二方の方が圧勝すると思います。しかし、それでも経験の少ない魔法に対してうちの若手兵士がどのような対応をするのかが見たいのです」


「やるのじゃ! くふふふ。魔法の怖さをとくと思い知らせてやるのじゃ!」


「お前はどこの大魔王だよ」


 瑞希はシャオの頭を軽く叩き、少し考える。


「その競技会ってチサは出ちゃ駄目ですか?」


「……うちも出てええの!?」


 瑞希の発言にチサは驚き、ロベルは眉を顰める。


「ミズキ様とシャオ様だけでは心許ないと?」


「そういう訳じゃなく、チサの実戦経験になるかと思って。なので、チサの敗北条件は触れられる事。まぁこれはチサだけの特殊敗北条件で良いです」


「ではミズキ様の敗北条件は?」


「それは元々在ったルールで構いませんよ。ただ、こちらの魔法は当てても良いんですか?」


「出来れば致命傷は避けて頂きたいですな。もしも深い傷を負った場合は治療をお願いしたいのですが」


「それはもちろん構いませんよ。じゃあ俺の魔力は抑え目にしていこうか……あ、競技の順番はどっちが先でしょうか?」


「木剣での乱戦を行い、その後にミズキ様達の魔法対剣を行ってもらうつもりです」


「あれ? 俺は木剣での乱戦は出なくても良いんですか?」


「どちらでも構いませんよ?」


「あ、なら……「出るのじゃっ!」」


 どうせ出るなら乱戦は良いかと思った瑞希の言葉に被せて、シャオが宣言する。


「ミズキが今どれぐらい剣を扱えるのかわかるのじゃ! それにミズキも実戦経験は大事なのじゃ!」


「え~……まぁ折角ロベルさんに鍛えて貰ってるしな……じゃあ乱戦の方も出ます」


「ほほほ! なら明日も私とみっちり訓練をしましょうか!」


「……お手柔らかにお願いします」


 瑞希とロベルが再びグラスを鳴らすと、シャオとチサも果実を絞ったジュースが入ったグラスを合わせる。それからはミミカの話題になり、今の楽しそうなミミカの事をロベルに深々と御礼を言われたりしたりと、恙無くこじんまりとした宴会を終えて行った――。


◇◇◇


 瑞希達が飲食店で食事をしている同刻。

 兵士達と使用人達が食堂で食事をしていた。


「――くそっ!」


「グラン、食事中は静かにするっすよ」


「そうだぞ兄さん」


「お前等は何故我慢できるんだっ!」


 三人の前には見慣れた夕食の献立が並んでいる。

 パン、ポムの実、野菜の入ったスープ、鶏を焼いた物……最近ではバターやチーズ、飲み物にはモーム乳も追加されている。


「前より全然美味しいじゃないっすか?」


「そうだぞ? このスープだってきちんとミズキ殿が料理番の者に鶏ガラの扱い方を教えたから美味くなっただろ? それに今日はばたーもあるしな」


「それでもミズキの料理と比べればっ……!」


 グランは己のつい口から出てしまった言葉を、瑞希を認めたくないという気持ちで押し止める。


「グラン、それは禁句っすよ? それにうち等は昨日うどんを食べれたんだからまだ良いじゃないっすか? 」


「何故あいつが作った物は初めて食べた物でも美味いと思ってしまうんだ……思い返せばここの食堂もミズキが手伝っている時は……」


「だからそういう風にミズキ殿の料理を思い出させるな!」


 アンナはグランの脇腹を殴る。


「ぐっ! ……しかし、ミズキが作ったうどんを思い出すと……お前等がミズキの料理を始めて食べた時はどうだったんだ!?」


「私達も初めてくれーぷとよーぐるとを食べた時は思わず泣いたぞ?」


 ジーニャはその時の事を思い返して笑いだす。


「それはアンナだけっす! そう言えばよーぐるとの時に泣いてたっすよね!」


「そ、そういうお前はドマル殿に怒って詰め寄ってただろうがっ!」


 二人がいつもの様にじゃれ合っていると、グランがぽつりと呟く。


「出汁が……俺はあの出汁を使った料理が食べたい……」


「じゃあうちはまよねーずを使った料理が食べたいっす!」


「私はチサ殿に聞いたみたらし団子が食べてみたい」


 三人がああでもない、こうでもないと瑞希の料理を語っていると、グランが何かを閃く。


「そうだっ! 次の競技会で勝利した者にミズキが望み通りの料理を作ってくれるっていうのはどうだっ!?」


 グランはそう大声で騒ぐ。


「馬鹿な事を言うな。大体ミズキ殿にメリットが無いだろ?」


「そうっすよ。それにそれだとうち等に関係ないじゃないっすか!」


「それはお前等がミズキの料理を手伝えば良いのではないか?」


「えぇ~でも自分の食べたい料理じゃないっすもん……美味しいだろうけど……」


「兄さん、ミズキ殿が勝った場合はどうするんだ? 負けた時は料理を作らされて、勝っても何もないという訳にはいかないだろ?」


「それは……じゃあミズキが勝った時は……いやいや! 待てっ! 俺がミズキに負ける訳ないだろっ!?」


「それでも、勝った時の褒美が無いとその条件は意味ないだろ?」


「ぐむむむ……ミズキが勝った時は……」


「ミズキさんなら食材とか喜びそうっすよね。砂糖を大量に貰ったら、シャオちゃんも喜ぶんじゃないっすか?」


「それだっ! 負けた奴全員で砂糖を渡すのはどうだ!? それならミズキも料理を作ってくれるんじゃないか!?」


 グランは熱が入り、再び大きな声で騒ぐ。

 当然その声は周りの兵士にも聞こえており……。


――グランの奴何を騒いでるんだ?


――何でも次の競技会で勝った奴はミズキに好きな料理を作って貰えるんだと。


 また違う箇所の集団から、


――おい、次の競技会で勝ったらミズキの料理を好きなだけ食えるらしいぞ!


――ミズキってあれだろ? たまに妹達と料理番に交じって料理する男だろ? でも確かにその日の食事はめちゃくちゃ美味いよな。


 グランが適当に言った話が、伝言されて行く内に、何故か本当の事の様に伝播していく。

 当の瑞希本人は酒も入り気持ち良くなりながら、シャオとチサと手を繋ぎ鼻歌交じりで帰路に着くのであった――。


いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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