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瑞希の偉業

 ロベルと共にやって来た飲食店はこじんまりとしており、瑞希達は四人掛けの席に腰かけていた。


「いててて。見て下さいよこれ!」


 瑞希はモモに噛まれた歯形をロベルに見せる。


「ほほほ。ミズキ様のウェリーは嫉妬深いのですな」


「ちゃんと理由は言っといたのに……」


「これに懲りたら次からはモモも連れて行く事じゃな」


「……モモは寂しがりや」


「けど、魔物を討伐するのに危ないだろ?」


「モモを守れる者はいっぱいおるんじゃ、次は連れてってやるのじゃ!」


「……モモはうちが守る」


 チサが鼻息荒く気合を入れた所で、瑞希は隣に座るシャオの手を握り、自身に回復魔法をかけ、噛まれた箇所を治す。

 そうこうしている内に、ロベルが注文していた料理が瑞希達のテーブルに到着する。


「おぉ~! これはまた豪華ですねっ!」


「と、言いましてもミズキ様の御口に合うかどうか……」


「大丈夫ですって! 現地の調理法を頭ごなしに否定するほど頭は固くないですから! それじゃあロベルさんとの出会いに乾杯っ!」


「「「乾杯っ(なのじゃ)!」」」


 瑞希は眼前に広がる料理を取り分けると、早速串焼きを口にする。


「おっ! このホロホロ鶏はちゃんと炭火で焼いてあって美味いっ! 焼き鳥ってより、バーベキューって感じだな~肉の間に挟んで焼いてるモロン(ピーマン)も美味いな」


「この卵料理には細かく切った野菜が入ってるのじゃ」


「……むぅ……モロンが……」


「こら、チサ、モロンだけを除けるな」


 チサはシャオと同じ卵料理を食べたが、苦手なモロンを匙で除ける。


「……苦いねんもん」


「ほほほ。子供はモロンの苦みが苦手ですからな」


「この間オムライスに入れた時は平気で食ってたじゃねぇか?」


「……あれはペムイと美味しさで誤魔化されたんや」


「チサはまだまだお子様じゃから仕方ないのじゃ!」


 チサはシャオの言葉に、モーム肉と野菜を辛く煮込んだであろう料理をシャオの前に寄せる。


「……うちはこれ食べれるもん」


 瑞希もシャオの苦手なトッポ(唐辛子)を使ったであろう料理は取り分けなかったのだが、チサは気付いていた様だ。


「うぬぬ……食べてやるのじゃ!」


「お、おい、無理はする……「うわ~ん! やっぱり辛いのじゃ~! ミズキ~!」」


 無理して口にしたトッポ煮込みを口にしたシャオは瑞希に泣きついた。

 瑞希はシャオの手を握り、小さな氷を作り出すと、シャオの口に入れる。


「治まったのじゃ!」


 シャオはコロコロと口の中で氷を転がし、痛みを抑えている。


「氷が無くなったら辛味を感じるだろうけど、この料理自体そこまで辛くもないからこれで大丈夫だろ? 口が落ち着いたらこの串焼きを食べてみな。しょうがない……チサもモロンは食べてやるからこっちの茸の炒め物食ってみろ。バターで炒めてるから美味いぞ」


 瑞希は茸の炒め物をチサに取り分けると、チサはお返しとばかりに、瑞希にモロンを押し付ける。

 瑞希はため息を吐くが、ロベルはそんな光景が面白かった様だ。


「ほほほ。ミズキ様は良い父になれそうですな!」


「甘やかしてばかりですけどね……チサには今度モロンが食べれる様な料理を考えます」


「……モロンを食べれんでも大きくなれる」


「そうだけど、モロンの美味さを知る前に見限るのはかわいそうだろ? 実際オムライスでは食べれたんだし、苦みが直接来なければ大丈夫なはずだしな」


 ロベルは笑顔で酒の入ったグラスを傾ける。

 次に瑞希達の前に出てきた料理は、ふつふつと熱そうなグラタンの様な料理だ。


「バターも使ってたし出て来るかなとは思ってましたけど、チーズやクリームソースもちゃんと出回ってるんですね! 中に入ってるのは……グムグム(じゃがいも)カマチ(人参)か」


 瑞希はグラタンを取り分けると、口にしてみる。


「あ、これ、俺のレシピだ。ちゃんと伝わってるんですね!」


「ほほほ。バラン様もグムグムのぐらたんはお気に入りでしたからな。城に近い飲食店には念入りに教えたようですな」


「へぇ~バランさんも良くこの短期間で乳製品を流通させられましたね?」


「美味いですからな。乳製品は美味いのに価格はそこまで高くない。キーリスの歴史を変えた食材ですな」


 瑞希は口に含んでいた酒をごくりと飲み込んだ。


「歴史って……そんな大それた事になってますか?」


「もちろんです。ミズキ様の作り出す料理、食材は今までに無かった物です。下手をすれば今までの食事の歴史ががらりと変わる。モーム乳も今まで見向きもされていなかった食材ですからな」


 もぐもぐと串焼きを頬張っていたシャオが飲み込むと、口を開く。


「お主……何か不満でもあるのじゃ?」


「不満ではありません。心配をしているのです」


「……心配ってなんやの?」


「ミズキ様の知識は時として奪い合いになり兼ねないのではないかと思うのです」


「えっと……それはどういう事でしょう?」


「ミズキ様の知識は食の改革にもなりますが、下手をすれば金のために独占をしたがる輩が出るやもしれません。そんな連中に目をつけられでもしたらミズキ様達に危険が及ぶやもしれません」


「ふふん! それならわしが側にいるから大丈夫じゃ!」


「では、シャオ様がミズキ様の元を離れているわずかな時に何か起きればどうします? チサ殿が誘拐されればどうでしょう?」


「それは……」


「と、まぁ心配をするという事はこういう所ですな。今回この食事の場で告げたかった事は他にもございます」


 真面目な口調から、急に明るくなった口調になったロベルは瑞希に向けて指を一本立てる。


「ミズキ様はまだまだ強くなれる。先程の不安を取り除く為にも強さを手に入れて下さい。個人の強さも勿論ですが、人としての強さもです」


「人として?」


「人の強さは武力だけに限らず、人に助けて貰えるのもその人の強さです。幸いミズキ様は色々な人に好かれておりますからな。これからもその強さを成長させて下さい」


「強さかぁ……」


 ロベルの言葉にあまり実感が湧かない瑞希だが、横から、そして前からシャオとチサが嬉しそうに視線を向けている。


「……ミズキはうちが守る」


「安心するのじゃ! ミズキに害なす馬鹿共は蹴散らしてやるのじゃ!」


「こいつらを止める強さってのも必要そうですね……」


 瑞希は苦笑交じりに言葉を紡ぐ。


「ほほほ! 時にミズキ様は魔法を一人では使えないのですかな?」


「シャオは魔力に気付けば使えるって言うんですけどね。今はシャオに触れないと無理ですね」


「ふむ……では魔法についてはどう思われますか?」


「魔法について? 便利な調理器具ですかね? これがあると料理が捗るんですよ! なくても作れますけど、時間短縮にはなりますしね!」


「ほほほほほ! ミズキ様らしい答えですな! ミズキ様みたいな方が魔法を使えるのならば何も問題はありませんな!」


「問題? 魔法至上主義みたいな問題ですか?」


「おや? どこかでその様な話を聞きましたかな?」


 瑞希は昼間の魔法使いの男を思い出す。


「昼間に三人で冒険者の依頼をこなしてた時に、魔法を信仰してる様な冒険者に出会ったんですよ。魔法が使えるから特別だ、みたいな言い方をしていたので……」


「していたので……?」


「相手の魔法を剣で切って、その後にシャオの魔法でビビらせましたね。最低でもこれぐらい魔法を使えてからそういう事を言え、という意味で」


 ロベルは瑞希の言葉に嬉しそうに頷く。


「その通りです。しかし魔法が特別だという輩がいるのは事実です。そういう輩は魔法を使えない人間を見下す。もちろん魔法使いの方でもミズキ様達の様な考えの方も少なからずおります。そこで、競技会では一つお願いがあるのです」


「お願いですか?」


「はい。うちの兵士共に魔法の怖さを思い知らせて欲しいのです」


「……思い知らせる?」


 瑞希は首を傾げながら手元の酒を一口飲み込むのであった――。



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