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魔法信仰

 チサの魔力も少なくなったので、討伐証明を取り、薬草の採集も終えた瑞希達は森を出て、帰り道の草原を歩いていた。


「うぬぬ……こういう時に限ってオークが出んのじゃ!」


「まぁオーガ騒動の時にキーリス側に逃げて来たオークを狩りつくしたって話も聞いてたからな。しょうがないさ」


「……お鍋食べたかった」


「チサもしばらくは一緒にいるんだから作る機会もまたあるって!」


 瑞希はチサを慰めるため、頭を撫でる。


「……にへへ」


「ミズキは最近チサを甘やかしすぎなのじゃっ!」


「手を繋ぎながら言われても説得力はねぇな……」


「こ、これはしょうがないのじゃ! ミズキのためじゃっ!」


 瑞希とシャオは基本的に手を繋いで歩く。

 シャオ曰く咄嗟に瑞希が魔法を使える様にという事なのだが、もちろん建前だ。


「……むぅ。うちも繋ぎたい」


「さすがに両手が塞がれるのはな……」


「そうじゃそうじゃ! この手はわしのじゃっ!」


「いや、俺のだけどな」


 傍から見れば和気あいあいとした雰囲気の中、草原を歩いていると、ストーンワームに追われているひょろひょろの男が居た。

 男は走りながら大きな声で詠唱をしている。


「わ、我望むは……ひと、ひとしゅじ! ……一筋の……ほにょお!」


 ぐだぐだな詠唱な上に、イメージも練れていないのであろう、男の手からは心細い棒切れの様な炎が現れ、ストーンワームに向けて放たれる。


「チサ、あれが失敗例じゃ。魔力もイメージも練れてないのに発動させると、見た目以上に魔力も持ってかれておる」


「……なるほど」


 炎はストーンワームに命中したのだが、当然威力も足りず甲殻に弾かれてしまう。

 ストーンワームは男に向けて糸を吐き出し、足に絡めると、男はそのまま倒れてしまいずるずると引っ張られる。


「我望むは……我望むは……だ、誰か助けてぇー!」


「シャオ」


「……本当にお人好しなのじゃ」


 シャオは瑞希が声を掛けると同時に男とストーンワームを繋げている糸に目掛けて風の刃を放ち、繋がっている糸は切れる。

 瑞希はシャオと手を繋いだまま駆け出しており、右手で剣を抜くと、そのままストーンワームに横なぎに切り払うと、何の抵抗もなくストーンワーム二つに別れた。


「えっ? えっ?」


「おぉっ! 固そうな甲殻もものともしないな!」


 瑞希は剣を眺めて確認すると、鞘に納める。


「ふふん! わしのおかげじゃ!」


 瑞希はドヤ顔のシャオを撫でると、男に話しかけた。


「大丈夫ですか?」


「す、素晴らしいっ! 貴方方も選ばれた人なんですねっ!」


「……はぁ?」


「魔法ですよ! ま・ほ・う! 凄い威力ですねっ! 風魔法ですか!?」


「いや、剣で斬りましたけど?」


「またまたぁ~! 剣なんかでストーンワームが斬れる訳ないじゃないですか! 魔法を使ったんでしょ?」


「剣、なんか?」


「おっとと。失礼、言い過ぎました! でも魔法と比べると剣はねぇ……なんてったって魔法を使えるのは一握りの人なんですからっ!」


「それを言うなら、剣をきちんと扱える人も一握りですよ? 魔法が使えたって使いこなせなければ無意味ですしね……」


「いや~! こんな所で魔法使いの同士に出会えるとは! 選ばれし魔法使い同士、仲良くしましょう!」


 男は瑞希の嫌味も聞こえていないのか、瑞希に握手を求めるが、瑞希はその手を握らなかった。


「剣を馬鹿にする人と仲良くするつもりはありませんよ。それに魔法は使えたら便利ですけど、使えなくても困りませんし。魔法に頼り切った人なんて魔力が枯渇したらただの人以下じゃないですか?」


「な、何だって!? 貴方は魔法を侮辱するのか!?」


「侮辱するつもりは無いですよ。ただ、捉え方の相違です。魔法が使えるから偉い、強い、って単純な話ではないだろ? って事です」


「そんな事はないですよ!」


「ん~……言ってもわからないか……じゃあ試しに貴方の魔法を俺に使ってみて下さい」


「良いんですね!? 後悔しても知らないですよ!?」


「大丈夫です。その代わり俺が剣で捌けたら考えを改めてみて下さい」


 男は瑞希から離れ、ぶつぶつと詠唱を始める。

 先程のストーンワームに放った物よりはマシな槍の様な火が生まれる。


「本当に良いんですね!?」


「どうぞどうぞ」


 瑞希の返答を聞いた男は、瑞希に向けて火の槍を放つが、瑞希は剣でその槍を斬り、消してしまう。


「どうですか? 落ち着いて詠唱した所でこんな物です」


「……う、嘘だっ! 僕は選ばれた人間だぞ!?」


「どちらにせよ努力が足りないですね。魔法を使うならこれぐらいは出来ないと……シャオ、頼む」


「面倒くさいのう……」


 シャオは十本ほどの氷柱を作り出し、男の周りに次々と突き刺す。


「ひ、ひいぃぃ!」


 男は近くに刺さった氷柱を見て腰を抜かし、そのまま後ずさる。


「これはおまけじゃ!」


 シャオはそう言うと、大きな火球を生み出し、刺さっていた氷柱に当て、蒸気と共に氷柱を消してしまう。


「な、な、な、なななっ!? ひぃぃぃぃぃっ!」


 男は慌ててその場から逃げ出してしまい、取り残された三人は立ち尽くしていた。


「何だったんだ?」


「ふんっ! 魔法を扱えん奴が魔法を語るでないのじゃっ!」


「チサもああいう魔法使いにはなるなよ? 魔法を使えるのが凄いんじゃないぞ? 凄い人がたまたま魔法を使えただけだからな? 剣でも、料理でも、どんな事でも凄い人はいっぱいいるんだぞ?」


「……にへへ。大丈夫! うちは身近に凄い人をいっぱい知ってるから!」


「それなら良しっ! とりあえず残されたこの魔物の剥ぎ取りをするか……」


 瑞希とチサでストーンワームの糸を回収し、再び草原を歩いて行く。


「それにしても、魔法を使える奴があんな奴ばっかりだとバランさんが魔法嫌いになるのもわかるよな~」


「……ミズキはもしさっきの魔法が当たってたらどうしたん?」


「あぁ、あいつの魔法ぐらいなら当たっても問題ないんだよ。このシャオに買って貰った革鎧のおかげでな」


 瑞希は来ているオーガの革鎧をポンポンと叩くと、チサに説明をする。


「これを着てどれぐらいの魔法に耐えられるかを知りたくてシャオとの訓練で色々試したんだよ。そしたら結構魔法に対して防御力があってな、ある程度の魔法なら弾いてくれるんだ」


「……すごいっ!」


「ただ、シャオがそれで少し魔力を込めて来てな……あの時は熱かった……」


「し、仕方ないのじゃ! 耐久訓練なのじゃからっ!」


「まぁその経験があるからこそ安心して剣で切り払う事が出来たんだよ。失敗しても大丈夫だしな!」


「あやつの魔法なんぞ、わしの足元にも及ばんのじゃ! チサも慢心せず精進するのじゃぞっ!?」


「……うんっ! でも今日はもうお腹空いたっ!」


「よしっ! じゃあキーリスに帰ってロベルさんと御飯を食べに行こうかっ!」


 三人は本日の訓練を終え、テオリス城へと歩いて行く。

 テオリス城に着いた瑞希が、食事に出る前にモモに食事を与えに行くと、置いて行かれた事に腹を立てたモモに噛まれる事になる事を知る由もないのであった――。

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