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ミミカのわがまま

 マリジット地方の仕事を終えた瑞希達は、キーリスに戻り、バランに説明を終えた。

 瑞希の提案もあり、タープル村周辺で田を作る計画が練られ、マリジット地方のカエラにはバランから一通の手紙が送られた。

 そこには感謝の言葉と、瑞希達の処遇についてだ。

 事情を知ったカエラはバランの言葉に承諾し、恩もある瑞希達に何かがあった時はお互い協力が出来る様に約束を取り付ける。

 

 そんな事は露知らず、瑞希はテオリス城の者と共に木剣を振っていた。

 側ではシャオに見られながらチサが魔力を循環させている。

 ここ数日のテオリス城での光景だった。


「ふっ! ふっ!」


「良いですなっ! ただあまり大振りになりますと……」


「ぐえっ!」


 大きく振りかぶった瑞希の脇腹に老人の木剣が打ち込まれる。

 本日通算十回目の衝撃に瑞希は脇腹を抑え座り込む。


「痛たたた……シャオ、そろそろ限界なんだが……」


「仕方ないのう……ほれ」


 瑞希は差し出されたシャオの手を掴み、自身に回復魔法をかける。

 痛みが消え、息が整った瑞希は再び老人に向かい木剣を構える。


「じゃあもう一度お願いします!」


「いつでも構いませんぞ」

 

 瑞希は老人に言われるがままに何度目になるか分からない突撃を繰り出していく――。



◇◇◇


 瑞希達がキーリスに、そしてテオリス城に戻って来た時にバランとテミル、そしてテオリス城に仕える兵士達が出迎えたのだが、兵士達がざわつく。


「長旅ご苦労だった……のだが、ミズキ君、その状態はどういう事なんだ?」


「ミミカに聞いて下さいよ……」


「うふふ。うふふふふふ……」

 事の発端は数分前に遡る――。

 キーリスからテオリス城へと続く道を走らせていた二台の馬車は、テオリス城に着き、各々馬車から降りていたのだが、そこで誤ってミミカが足を滑らせたのだ。

 幸い軽く足を挫いた程度なのと、すぐに瑞希が回復魔法をかけようとした時にミミカから待ったがかかった。


「なんだよ? 回復魔法はいらないのか?」


「いえ、痛いです!」


「ならさっさとかけるぞ?」


「痛いのでおぶって下さい!」


「……シャオ~」


「すぐそこじゃないですか! シャオちゃんはわかりますけど、キアラちゃんやチサちゃんもおぶったりしてたじゃないですか!」


 ウォルカを出立するまでの間、シャオがいつもの様に瑞希の膝の上や、肩車を楽しんだりしていると、キアラとチサがまだ残っている童心がくすぐられたのか、シャオが下りた時を見計らい飛びついた。

 シャオはしまったと思ったのだが、片や姉妹扱いをされるキアラ、片や自分の弟子になりたいと言って魔法を教えている教え子。

 シャオの中で許される人物という事で我慢をした……まぁすぐに怒り出したのだが。


「……ミズキの背中はあったかい」


「わしの場所じゃっ!」


「……偶にはええやん」


「ほらっ! ほらぁ! 私だけおぶって貰ってないんですよ!? 怪我したのに! ず~る~い~!」


「お前なぁ……もう成人したレディなんだろ? おんぶぐらい我慢しろよ……」


「そんな事言ったらアンナだってあの時おぶられてたじゃないですか! 私はシャオちゃんの魔法で運ばれたのにっ!」


 急に話題を振られたアンナは慌てながらも反論する。


「ミ、ミミカ様! あれは私も気を失ってましたので!」


「それでも私は見てたもん!」


 瑞希はギャアギャアと言い合いをする二人に溜め息を吐く。


「あははは……ミズキ、良いんじゃない? すぐそこまでだし」


「ここで甘やかしたら負けな気がするけど……あ~もうわかった! 城の入り口までだぞ!」


 瑞希はミミカの腕を掴み、引っ張りながら背負う。


「き、急には困ります!」


「聞こえません。さっさと運ぶぞ」


「物じゃないんですから丁寧にっ! あっ! ミズキ様、このまま中庭の方に花を見に行きましょう!」


「わがままばっかり言ってたらもう料理を教えないからな?」


「それは困りますっ!」


「なら黙っておぶられてろ。ドマル、荷物は任せて良いか?」


「大丈夫だよ……とりあえずミズキは後でシャオちゃん達に甘い物でも御馳走した方が良いかもね……」


「何で俺が作るんだよ……」


 瑞希が再び溜め息を吐く後ろではシャオが睨み、チサがじとっとした目でミミカを見ていた。


「うぬぬ……ミミカめ……後で覚えておくのじゃ……」


「……後でしばく」


 貴族の令嬢に対して遠慮のないお子様達が何やら怖い事を呟いているが、ミミカの耳には入らない。


「うふふ。うふふふふ」


 ミミカの幸せそうな顔とは裏腹に、瑞希は疲れた顔をしており、シャオとチサは怒った顔をしているという混沌とした空気の中、瑞希は城の入り口へと歩いて行った――。


「――という訳です……」


 瑞希がバラン達に説明をしている中、シャオは瑞希と手を繋ぎ、瑞希はこっそりミミカの足に回復魔法をかける。


「はぁ……ミミカ。降りなさい」


「ミミカ様? 今すぐミズキさんから降りないと後でわかってますね?」


 バランの言葉と、テミルの脅しに我に返ったミミカだが、慌てて反論する。


「……で、でもっ! 足を挫いたのは本当よ!? いたたた。足が痛いなぁ~?」


「ミミカ。もう足は治したぞ?」


「何で治すんですかっ!?」


「お前がいつまでも下りないからだよっ!」


 瑞希がミミカを支えていた手を離し、背筋を伸ばすと、ミミカは瑞希からずり落ち尻餅をつく。


「貴族の令嬢がいつまでもあほな事をやってないで早く親父さんに帰還の報告をしろ」


「はぁい……お父様、ミズキ様の御迎えを終え、只今戻りました」


 さっきまでの駄々を捏ねていたミミカはどこに行ったのか、貴族の令嬢にふさわしい気品を見せる。


「出来るなら最初からやれよ……」


 瑞希が半ば呆れながら言葉を溢すと、兵士の集団の中から声が上がる。


「貴様っ! 今までは黙っていたがもう我慢出来ん! お嬢様に対して言動も行動も慎めっ!」


 大きく響いたその声に鼓動するかの様に、集団が割れ、声を発したであろう人物に注目が集まる。

 兜と鎧で姿は分からないが、瑞希と同じぐらいの背格好の兵士は開いた道を歩き、瑞希の元へ歩いて来ると瑞希の胸元を掴む。


「止めんかっ!」


 バランがその兵士を諫めるが、兵士も瑞希のミミカに対する扱いに憤慨しているのか、バランの制止を振り切ろうと言葉を発する。


「バラン様の前で失礼かとは思いますがさすがに許せません! この男はミミカ様を救ったと聞きましたがにわかには信じられません!」


「お主……さっさとミズキから手を離すのじゃ」


「……離せ」


 瑞希に害をなそうとする兵士に対し、瑞希と手を握っているシャオとチサが低い声でゆっくりと言葉にする。


「止めろお前等。悪いのはどちらかと言えば俺だ」


「うぬぬ……」


「ミズキ様は悪くありませんわっ! 私がそう扱う様にお願いしてるのですからっ!」


「ミミカ様……ぬぐぐっ! ますます許せんっ!」


「(なんでやねん……)」


 瑞希は心の中で思わず関西弁で突っ込んでしまう。


「いい加減にこの手を離すのじゃっ!」


 シャオがぺちぺちと兵士の手を叩くと、兵士は思わずシャオの手を払ってしまう。

 当然そんな事をすれば……。


「人の妹の手に何してんだ手前ぇっ!」


 親馬鹿ならぬ兄馬鹿な瑞希の無慈悲な魔法により、兵士の頭に球状の風がげんこつの様に落ちる。

 兵士はその衝撃に気を失いバタリと倒れてしまった。


「大丈夫かシャオ!? 痛くなかったか!?」


 瑞希はシャオの払われた手を掴み確認する。


「くふふふ! 大丈夫なのじゃっ!」


「それなら良かった……あっ!」


 気を失い倒れた兵士と、急な事とはいえ止められなかったバランを始めとした瑞希の周りの面々が驚き固まっているのと、傍から見れば過保護に映る瑞希の行動に兵士達からひそひそと声が聞こえる。


「誰かこの者を医務室へ連れて行け」


 バランの言葉に周りに居た兵士が倒れている兵士を担ぎ去っていく。


「ミズキ君……」


「ミズキさん……」


「ミズキ様……」


 居たたまれない雰囲気の中、荷物を下ろし終えたドマルと、それを手伝っていたアンナとジーニャが瑞希達に合流するのであった――。

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