帰り道 瑞希の戦場
コール商会では商会の代表も含め、仕事終わりに全員で夕食を取る事になっている。
いつもなら料理番の者が、全員分の料理を用意し、配膳した状態で夕食を開始するのだが、本日は瑞希の計らいで、まるで飲食店の様な形で食事をする事となった。
サランとクルルが手作りの簡単なメニューを何枚か作り、それを見た従業員が注文をする形だ。
メニューにはこう記されている。
『とるこらいす(男性向)』
『ミニおむらいすセット(女性向)』
『なぽりたん』
『おむらいす』
どれを注文しても良いし、何度お代わりをしても構わない。
最初はトルコライスとミニオムライスセットを注文して貰うという旨をサランが説明し、性別の通りの注文数が入る。
その場にはミミカたっての希望で、ミミカ達の姿は無く、キアラを除くコール商会の従業員しか居なかった。
最初の注文をしてから程なくして、次々と運ばれてくる皿に、ある者は驚き、ある者は喜び、またある者はサランとクルルに説明を求めた。
一つ一つの料理の説明を終えた二人は、役割を決め、サランが食堂に残り、クルルが伝達役になる事で決まり、モンドの号令を以て食事を開始した――。
◇◇◇
厨房内では最初の調理を終えた面々が一息をついていた。
「ふぅ~。第一陣はこれで終わりだな。直ぐに第二陣の注文が来るから準備しとけよ?」
「かれーをあんな風に使うのは面白いんな~!」
「ペムイがあってこそだけどな! それにどっちの皿も見た目が楽しいだろ?」
「でもこれは作るのが大変なんな」
「店で出すならあらかじめ仕込みはしておけるし、皿に乗ってる料理は単品で出しても良い。この皿だけの為に作るなら大変だけど、仕込みをしたものをちょっとずつ使うだけならそうでもないさ。そろそろ第二陣が来るからサラダの用意と、皿の用意をしておいてくれ」
シャオは自分のハンバーグがどう思われているのかが気になるのか、そわそわした様子でいる。
そんなシャオの頭に手を乗せ、瑞希は声をかける。
「大丈夫だって。俺もお前も味見したし、実際美味かっただろ?」
「そうなのじゃが、気になるのじゃ!」
「とりあえず、竃は俺達がやってるんだ、次のオーダーが通ったらすぐにハンバーグを焼いてくれよ?」
「わかったのじゃ!」
食堂と隣接する厨房に戻って来たクルルがオーダーを読み上げる。
「兄ちゃん! とるこらいすを四つ、ミニおむらいすセットを四つ、おむらいすを三つ、なぽりたんが二つ入った!」
「あいよ! じゃあシャオはハンバーグを、キアラは揚げ物を揚げてからカレーを、チサはパスタが茹で上がったらこっちに回してくれ!」
瑞希は各々に指示を出し、自身はオムライスに取り掛かる。
次々と出来上がっていく料理と、調理をする瑞希を邪魔にならない所から見つめる四人の姿があった。
「ミズキの営業する店ってこんな感じなんだろうね」
ドマルは感心しながら感想を述べる。
「素敵……ミズキ様素敵です……」
「やっぱり料理をしているミズキさんは生き生きしてるっすね~」
「楽しそうだな」
オムライス用のチキンライスの鍋を振るっている瑞希は笑顔であり、合間合間に他の者に声を掛け、連携を取っていた。
瑞希達は素早く出来上がった皿を並べていくと、丁度良いタイミングで空いた皿を下げて戻って来たサランが厨房に入ってきた。
「シャオちゃんのはんばーぐが美味しいって声が上がってますよ!」
その言葉にシャオはぴくりと反応し、嬉しいのを必死に隠そうとしているが、にやにやと笑みが溢れ始めた。
「おぉ~! 良かったなシャオ! サラン、他に何かあるか?」
「そうですね、男性の方は食べるのが早いので、もう一度注文がありそうです!」
「了解! じゃあそっちも頑張れ! 次のオーダーまで時間があるからキアラも一緒に運んでくれるか?」
「ん? わかったんな?」
サラン、キアラ、クルルは出来上がった料理を持ち、食堂へと移動していった。
「……何でキアラまで運ばせたん?」
「そりゃあサランの仕事を見て貰いたいからな。それに、二回目のオーダーが終わったら三回目はもっと少なくなるからな! 俺達はデザートの準備をしていこう」
瑞希の放った言葉にミミカが反応した。
「ミズキ様! 私も手伝いたいです!」
「おうっ! 元々そのつもりだよ! じゃあ冷やしてるブリュレに砂糖をかけて……」
瑞希の指示の元、ミミカがデザートの仕上げを施していく。
◇◇◇
食堂ではサランを先頭に、料理を配膳し、従業員達は美味い美味いと言いながら次々と食事を平らげる。
サランはさりげなく少なくなった飲み物を補充したり、邪魔にならぬ様に空いた皿を下げたりしており、またその間も軽く従業員と話したりもしていた。
「お食事はいかがですか?」
サランに尋ねられたモンドが微笑みながら答える。
「どれもこれも美味い! うちの従業員はミズキさんが来るとわくわくするんだ! なぁ皆!」
モンドが従業員に大きな声で声を掛けると、方々から元気の良い返事が返って来る。
「それにこの後には甘味もあるんだろう?」
「はいっ! くれーむぶりゅれとぱんけーきって言ってましたが、どんな料理なんでしょうね? ぶりゅれはモンドさんの好みに合わせたらしいですけど……」
「という事はぷりんの一種なのか!?」
「どうなんでしょう? 石窯を使って調理はしていましたけど……皆さんのお食事が終わりましたらお持ちしますね?」
「よろしく頼む! 待ち遠しいが今はこの料理だ! しかし、この料理はどれも美味いが、色々食べれて楽しいな! 全てミズキさんが作ったのか?」
「いえ、ミズキさんが全て作った訳ではありません。かれーはキアラちゃんが、はんばーぐはシャオちゃんとクルルちゃんが、オーク肉やエクマの揚げ物はチサちゃんが、ミズキさんはおむらいすやなぽりたんを作ってましたね。もちろん指示はその都度出しておられましたが……」
「すると、今回はミズキさんのお店に食べに来た様なものなんだな……。いや、しかしこんなに美味いのだからすぐに行列が出来る飲食店になると思うのだがな……」
「ミズキさんはまず食材探しがしたいそうですよ? 珍しい食材や見向きもされてない食材もミズキさんの手にかかったら美味しくなりますからね! うちの村もそのおかげで助かりました!」
「私もミズキさんならどうにかしてくれるかと香辛料を託したが、どんな調理をするのか楽しみだよ」
二人が会話をしていると、再び従業員からお代わりの声がかかる。
サランはモンドに一礼をし、オーダーを取り、クルルに伝えた――。
◇◇◇
――従業員達の食事も終わり、瑞希はクレームブリュレの余りを使ったパンケーキを作成していた。
「よし、メレンゲはこれで良いな、後は溶かしたバターと砂糖を加えて、カパ粉混ぜたら、生地の完成!」
「ミズキ様、こっちのぷりんはどうするんですか?」
「あぁ、それはクレームブリュレって言って、上に砂糖をどさっとかけて、表面を炙るんだ。シャオ、ちょっとお手を拝借……」
瑞希はシャオと手を繋ぎ、ガスバーナーの様な炎を魔法で作り出し、砂糖を乗せたブリュレを炙っていく。
砂糖は溶けて透明な液体に変わった後に、次は黒く焦げ始める。
瑞希が焦げ尽きてしまう前に火を止めると、砂糖の焦げた甘く香ばしい香りが周りに広がる。
「こういう感じで表面を焦がさなきゃ出せないデザートだから、魔法が必須になるんだ……どうしたお前等?」
「お腹が空いてるのにこの香りは駄目なのじゃ!」
「ミズキ様……そろそろ私達も食事がしたいです……」
「わははは。じゃあシャオとミミカの魔法で後は任せても良いか? 俺はパンケーキを焼いて行くから……」
「任されたのじゃ! 早く終わらせてわし達も食事にするのじゃ!」
「じゃあシャオちゃんどっちが早く焼けるか勝負しよ!」
「望む所なのじゃ!」
「ふっふっふ。私だってテミルといっぱい魔法の特訓したんだから」
シャオとミミカがブリュレのキャラメリゼ勝負をし始めると、チサが湯煎をしながら混ぜていた物を瑞希に見せる。
「……こんな感じ」
「ちょいと味見……おぉ~! やっぱりカカオと一緒かな? じゃあ後はここに生クリームと粉糖を混ぜてさらに練ってくれるか?」
チサは瑞希が味見をしたのが、気になったので、指先に付けて一舐めしてみる。
「……苦がっ! なんやこれ」
「なぁ~? これを食べようとした人の知恵って凄いだろ? とりあえず粉糖と生クリームを入れて練ってからまた味見をしてみな。きっとその時には好きな味になってるから」
「……ほんまに?」
チサは瑞希が用意した分量の粉糖と、生クリームを入れ、さらに練り練りと練っていく。
瑞希は植物油を鉄鍋に塗り、混ぜ合わせた生地を垂らし、小さ目のパンケーキを次々に焼いていく。
「終わったのじゃ!」
「シャオちゃんの足元にも及ばなかった……」
二人の手元にはキャラメリゼが終わったクレームブリュレがあるのだが、殆どはシャオの手元に置いてあるので、結果は歴然の様だ。
瑞希は焼き上がったパンケーキを大き目な平皿に乗せ、焼き上がったブリュレとホイップクリームを添え、チサが作ったソースをパンケーキの上に、細く網状に垂らす。
「ほい。これでデザートの完成!」
瑞希自身も綺麗に出来上がったと誇らしげに皿を完成させたが、周りの反応は瑞希以上だった。
「すごいすごーい! 何ですかこれ!?」
「クレームブリュレとパンケーキのチョコレートソースがけ。食事の後には少し重たいけど、コール商会の人は皆甘い物好きだからちょうど良いだろ? チサ、さっきのチョコを味見してみな」
チサは指先にチョコを付け、もう一度味見をしてみた。
「……にへへへ」
「チサちゃん! 私も舐めたい!」
「わしも舐めたいのじゃ!」
近くにいたシャオとミミカも指に付け舐めてみる。
「うふふふ」
「くふふふ」
よほど美味しかったのか、三人共味の感想ではなく、ただただ笑ってしまう。
瑞希はもう一度味見をされる前にチョコを取り上げる。
「これ以上は駄目だぞ。後でこのデザートも作ってやるし、このチョコレートはデザートとは別に使うからな」
三人が不服そうにしている中、食堂に行っていた三人が戻って来る。
瑞希は次々とデザートの皿を作り上げ、その綺麗さと豪華さにキアラ達も感嘆の声を漏らしながら、食堂へとデザートを運ぶのであった――。
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