帰り道 シャオの手作りハンバーグ
自己紹介をし終え、厨房には瑞希とシャオ、チサ、サラン、キアラ、クルル、が晩餐の料理を仕込んでいた。
ミミカも手伝いたいと言っていたのだが、さすがに城内ではないため、アンナとジーニャに引き留められ、ドマルと共に他愛のない話をモンドと交わしていた。
「なんかキアラの家に来る度に料理をしてる気がするな? まぁ泊めて貰うんだから働くけど」
「しょうがないんな! ミズキは私達に料理を教える義務があるんな!」
「そんな義務があるのかよ……まぁ良いさ! じゃあ今日はシャオと約束してた料理を作るから、色々作るぞ! まずはハンバーグのミンチを作るのは……」
「私がやるよ! キアラちゃんの店で何度も作ってるから!」
「じゃあクルルはミンチをまず作ってくれ! キアラのカレーも使いたいから、具は野菜だけでカレーを作ってくれるか?」
「肉は入れないんな?」
「肉は別で足すから大丈夫! サランはペムイを炊いてくれ! 従業員の方の分も作るから大量にな!」
「わかりました!」
「わしらはどうするのじゃ?」
「俺達はパスタを作ってみようか! まずはカパ粉と卵、塩、植物油を用意して……」
瑞希は用意した材料をボウルに入れかき混ぜて行く。
「兄ちゃんはパンでも作るのか?」
「麺料理だよ! シャオの御希望の料理にも、もう一つの料理にも必要だからな」
「へぇ~……ミンチが出来たら次はどうするんだ?」
「そうだな……シャオ、ハンバーグは任せても良いか?」
「わしが作っても良いのじゃ?」
「シャオが作ったのが食べてみたいな!」
「くふふふ! 任せるのじゃ! クルル、わしの言う通りに一緒に作るのじゃ!」
二人は仲良くハンバーグのパテを作り始めた。
「さて、上手く纏まってくれたな、チサは一緒にこれを作って行こうか」
「……任せて」
先程から混ぜていたボウルの中身だが、最初はポロポロとした状態だったが、徐々に纏まり始め、今は黄色の一塊りの団子状になっている。
瑞希とチサはそれを何個か作り、湿った布で包んでおく。
次にデザートを作ろうとした所で、厨房の扉が開く。
扉からはこそこそとした様子でミミカが厨房に入って来た。
「あれ? こっちに来て良かったのか?」
「皆が楽しそうにミズキ様と料理をしてるのに、私だけ仲間外れはずるいです!」
「いや、ミミカは一応貴族の娘だろ? こんな事してるのがバランさんかテミルさんにバレたら怒られるぞ?」
「それは……皆さん、内緒でお願いします!」
「ミズキの弟子なら一緒に料理したくなるのはわかるんな! 一緒に美味しいのを作るんな!」
「キアラちゃん! ……それで、私は何をしましょうか?」
「まぁ手伝ってくれるならデザートを頼もうかな。作り方は前に教えたプリン液で構わないけど、甘い香りのする香辛料の粉末を少し混ぜてくれ」
「ぷりんではないのですか?」
「加熱のしかたと、カラメルが違うんだ。先に石窯を温めておこうか……お~い、シャ……「それには及びません! 私にお任せ下さい!」」
ミミカは自身の胸を叩き、瑞希にドヤ顔を見せる。
「えぇ……大丈夫か? 爆発とかさせるなよ?」
「大丈夫です! これでもテミルからしっかり教えて貰ってますから!」
瑞希が石窯に薪を入れ、ミミカが短い詠唱を呟くと、薪に静かに火が灯る。
「おぉ~! 大したもんだ! じゃあ石窯はこのまま熱を溜めといて、プリン液はチサに教えながら作ってくれるか?」
「どれぐらい作りますか?」
「ん~……三……いや四十個ぐらいだろうな。出来るか?」
「ふふふ。腕が鳴ります! チサちゃん、こっちのボウルに卵の黄身を入れて、白身は別のボウルに入れといてください」
「……白身はどうするん?」
「白身は瑞希様がどうにかしてくれます!」
「えっ!? まぁ勿体無いか……パンケーキもどきにでもするか。モンドさんに渡された食材もあるし……」
瑞希はモンドに渡された香辛料を思い出す。
◇◇◇
応接間にて、本日の晩餐を作る意向になったので、厨房に移動しようとした時に瑞希はモンドに呼び止められた。
「ミズキさん、この香辛料の事で相談があるのだが……」
「香辛料の事で?」
「そうなんだ。ボアグリカ地方にあるポッカの種を乾燥させすり潰してみたのだが、これは香りは良いのだが、どうも料理には使い辛い味なんだよ」
モンドは瑞希に香辛料の入った瓶を手渡す。
瑞希はコルクを抜き、香りを嗅いでみた。
「カカオに似てるな……もし良かったら今日の料理に使ってみても良いですか? 新しい甘味が作れるかもしれません。ただ……」
「砂糖だね? ミズキさんが来た時ぐらい砂糖も食材も豪勢に使ってくれ! 私の楽しみなんだから!」
「そう言って貰えると助かります!」
「じゃあ今日の晩餐は任せて下さい! 皆で美味しい物を作りますよ!」
「それは楽しみだ! こちらもミミカ様には粗相の無いように気を付けるよ」
◇◇◇
瑞希は香辛料の事を考えながら一先ず置いておき、オーク肉を少し厚目に切り分けて行き、筋を切り、塩と胡椒で味を付けて行く。
キアラがカレールーを作り始める時に、今回はカパ粉を混ぜてとろみをつける様に指示を出す。
そのままシャオやミミカの様子を見るが、二人とも丁寧に教えている事に感心しながら、冷凍したエクマが溶けたのを確認して、皮を剥き、加熱しても丸まらない様に切れ目を入れる。
「皆どれぐらい食べるかわからないから、ある程度量は作ったけど、凄い量になったな」
「皆同じ料理を食べるんじゃないんですか?」
瑞希の呟きにミミカが反応する。
「今日はキアラにサランの成長を見せたいから、従業員の方々はオーダー制にしようかと思ってな。俺達は後から食べる。ミミカ達は立場もあるからな、モンドさんと一緒に食事をとる事になるんじゃないか?」
「え~! 皆で一緒に食べたいです!」
「そんな事言ってもな……とりあえず、プリン液が出来たら、そっちの陶器の小さい皿にプリン液を流していってくれ」
「わかりました! でも食事の事はわかりませんよ!」
「わかったわかった。液を流し込んだらその皿をバットに並べて半分ぐらい浸かるまで水を入れて、このまま石窯に放り込んで一時間ぐらい焼いたら一先ず完成だ」
「水を張って焼くんですか?」
「湯煎焼きって調理法だ」
「でもこれではぷりんと同じでは?」
「まぁまぁ、焼き上がってからまだ調理があるから。とりあえず石窯に入れたらミミカは一旦戻れよ?」
「仕上げは私が戻って来るまでやっちゃダメですからね!」
「了解!」
ミミカは瑞希に託すと、厨房を離れ、部屋に戻って行った。
「さて、じゃあチサは俺と一緒にフライの衣を付けて行こうか? カパ粉、溶き卵、パン粉を用意して……溶き卵にはさっき余った白身を少し足すか……」
「……このお肉と、エクマに付けていくん?」
「そうそう。カパ粉、卵、パン粉の順でな! カパ粉は全体的に付けたらしっかり叩いて余分な粉を落とす。卵はパン粉を張り付ける役割があるから全体を濡らす様に、パン粉も全体的にしっかり付けたら余分な分はこうやって落とす。ここまでを任せて良いか?」
瑞希はチサに手本を見せて、チサは楽しそうに衣を付けていく。
瑞希はチサにフライを任せ、シャオの元へ歩み寄る。
「シャオ、パテはどうだ?」
「こんな感じなのじゃ!」
シャオは瑞希にボウルを見せ、瑞希は粘り等を確認する。
「ちゃんとナツメグまで入れたんだな? えらいぞ!」
「くふふふ。はんばーぐの事なら忘れんのじゃ!」
「じゃあ丸める所までやってみるか? やり方はわかるよな?」
「うぬ……見てて欲しいのじゃ」
「良いぞ、クルルもやってみるか?」
「やってみたい!」
瑞希は自分とシャオ、クルルの手に油を塗り、一緒にパテを丸めていく。
瑞希からすればいつもより小さ目になるが、シャオとクルルの手で作るので、大きさは揃っている。
シャオはポンポンとリズム良く丸めるが、クルルは苦戦していた。
「兄ちゃん、これ難しいよ!」
「料理は慣れの部分もあるからな。丸める段階でしっかり空気を抜いとかないと後で割れるから、とりあえずはゆっくりでも良いから形を意識してな」
「くふふふ。自分で作ったはんばーぐは楽しみなのじゃ」
「じゃあ出来たパテはバットに置いて、オーダーが入ってから焼いて行こう。シャオは手が空いたら俺を手伝ってくれるか?」
「わかったのじゃ!」
「さて……後はタルタルソースを作って……グムグムの細切りを作って……キャムとリッカとポムの実で添え様の簡単なサラダを作るか」
瑞希はこれからやる仕込みを口にしながら、楽しそうに進めて行くのであった――。
いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。
本当に作者が更新する励みになっています。
宜しければ感想、レビュー、下部にある【小説家になろう勝手にランキング】ボタン等も頂けると嬉しいです!