帰り道 ウォルカで集合
――行きとは違い、二頭引きの早さもあり、夕方前にウォルカに到着した一行は、まずコール商会に顔を出した。
ミミカの事等を説明するため、応接間にてコール商会の主、すなわちキアラの父親を待っていた。
「チサちゃん……だったよね? いきなり魔法を出してごめんなさい」
ウォルカまでの道中、頭が冷えたミミカは馬車の中で瑞希を怒らせてしまった事に後悔し、どうしたら良いかをジーニャに相談するとまずはチサに謝った方が良いと助言をされ、今この場で謝ったのだ。
「……ん。こっちもいきなり魔法を使ってごめんな」
「チサちゃんは魔法使いなんだよね? 誰かに習ったの?」
「……うちの師匠はシャオ。魔法を使える様になったのも最近」
「そうなんだ!? 私もちゃんと魔法の勉強をし始めたのは最近なんだ! お互い頑張ろうね!」
「……ん。この魔法でミズキ達を助ける」
「私もっ! もっと強くなってミズキ様を助けたいんだ!」
同じ部屋にいるからこそ、聞こえて来る二人の会話に瑞希はため息を溢す。
その姿を見て横に居たドマルがクスクスと笑い、瑞希に話しかける。
「助けてくれる人がいっぱいだね?」
「俺ってそんなに頼りないのか……?」
「まぁ傍から見れば妹に助けて貰ってるからね」
「……それは否定できないな」
「くふふふ」
シャオは瑞希に髪を弄ばれながらも、二人の会話に笑ってしまう。
また、別の場所ではアンナとジーニャがサランに話しかけている。
「それではミズキ殿とは何もないのだな?」
「無いですよ! ミズキさんの私の扱いは酷いんですよ!?」
サランは自分がされたいじられ方を二人に説明する。
「それでやった本人は面白そうに笑ってるんです! こっちも慣れて来たから先読みして回避したりもできましたけど」
「ミズキ殿が……?」
「あの人でもからかったりするんすね?」
「でも先読みしたりするとちゃんと褒めてくれました! それが癖になって嬉しかったのは事実です……」
「……え? これ惚気っすか?」
「(ちょっと羨ましい……)」
各々の会話が盛り上がっている所にドタドタと走って来る二人の足音が近づいて来る。
バタンと凄い勢いで開いた扉の先には嬉しそうな顔をしたキアラと、困り顔のクルルが現れた。
キアラはそのままの勢いでミズキとシャオが座っているソファーに飛び掛かって行くと、シャオを挟んでミズキに抱き着いた。
「お帰りなんな~!」
「むぎゅう……キアラ苦しいのじゃ」
「久々だな~? 店はどうしたんだ?」
「ミズキ達が来てるって聞いて、夜は休みにしたんな! それじゃなくても昼で殆ど売り切れたんな!」
「おぉ~流行ってるな! クルルはどうだ?」
「毎日キアラちゃんにビシバシしごかれてるよ! でも香辛料が色々使えるから面白いんだ!」
「そうかそうか……キアラ、とりあえずそろそろシャオが怒りだすから離れようか?」
「シャオも元気そうなんな!」
「お主が元気すぎるのじゃ! 良いから一旦離れるのじゃ! 周りを良く見るのじゃ!」
シャオがシャーっと猫の様に怒り出すと、キアラは一歩離れて周りの視線を感じて振り返る。
「ミ、ミズキ様に抱き着いた……!?」
「噂のキアラちゃんっすね……」
「ミズキ殿は幼子に好かれ過ぎだろ……」
ミミカ達は噂に聞いていたキアラを目の当たりにすると、そのパワフルさに茫然としている。
「サランも元気に頑張ってたんな!?」
「それはもうミズキさんからは無茶ぶりの毎日でした!」
「そんな事ないだろ?」
「いきなり領主様に給仕をさせたり、子供を押し付けたり、美味いからって魔物を食べさせたり……結構無茶苦茶してるよ?」
「でもそのおかげで勉強になった事はたくさんあります!」
ドマルが挙げた主な出来事に、サランは晴れやかな顔で返事を返す。
「ならこれからはうちの店で発揮して貰うんな!」
「はいっ!」
「あぁ……サランが居なくなるのか……」
瑞希がポツリと呟いた一言に全員の視線が集まる。
「毒見役がいなくなるな……」
「どういう事ですか!? そこは普通寂しがる所でしょう!?」
「わははは。こういうやり取りが無くなるのは寂しくなるな。キアラ、俺が旅の道中でサランに教えた事は大した事はないけど、きっとお前の力になってくれるから宜しく頼むぞ?」
「わかったんな! サランも私達に習った事を教えて欲しいんな!」
「習った事……食材とか栄養ですか?」
その答えに瑞希が思わず笑いだす。
「自覚してないならそれで良いさ! サラン、ほれっ!」
瑞希は鞄から何かを取り出すと、サランに投げる。
サランは慌てながらも何とか受取ると、何なのかを確認し、瑞希はシャオの髪の毛をいじり、サランの方を向かせる。
「カチューシャ……?」
「給仕をするなら髪の毛は束ねた方が良いからな。かといってメイドさんがつける様なホワイトブリムみたいのは、キアラの店には合わないだろ? それなら髪の毛も上げれるし、シャオともお揃いだぞ?」
「良いんですか?」
「卒業祝いみたいなもんだ! これからもしっかり頑張れよ?」
「……う~……そういう所がずるいんですよ~! ありがとうございます~!」
サランが泣きながら御礼を言ってる中、チサが歩み寄って来る。
「……うちのは?」
「チサはまだ卒業してないだろ? それに師匠はシャオだろ? 卒業したらシャオから何か貰えよ」
「……残念」
「くふふふ。チサはまだまだなのじゃ」
「……むぅ」
「まぁでもチサも頑張ってるからな、この髪留めを付けてやろう……」
瑞希はチサの前髪を持ち上げ、頭の上でピンを止める。
「……にへへ。視界が広い」
「兄ちゃん! 私達にはお土産はないのかよ~?」
「食材じゃ駄目か? ペムイとかもあるし、カレーにも使えるぞ?」
「そうじゃなくてさ~……」
「ミズキ、ミーテルであれを買ってたでしょ?」
「あぁ! そうだそうだ! ……はい、これ。ミミカ達にもあるぞ?」
会話に入れてなかったミミカが瑞希に名前を呼ばれた事で満面の笑みで応える。
瑞希から手渡されたのは、美しい装飾が施された二本の棒であった。
「二本の棒? 髪留めですか?」
「違う違う。箸だよ。マリジット地方の一部では食事で箸を使う文化があるんだよ。慣れない内は使い辛いけど、慣れたら食べやすいんだ。シャオもサランも使える様になったもんな?」
「くふふふ! むかごだろうがトーチャだろうが何でも掴めるのじゃ!」
「俺も料理を作る時に菜箸を使ってるだろ? これは食事をする時に使う箸なんだよ。良かったら使ってみてくれ」
瑞希はキアラやクルルはもちろん、アンナ、ジーニャにも手渡す。
「うちらも貰って良いんすか?」
「……? 当たり前だろ?」
「うふふふふ……」
アンナは初めての瑞希からの貰い物に嬉しくなり、思わず笑ってしまう。
「喜んで貰えて良かったよ」
瑞希の言葉にハッと我に返ったアンナが恥ずかしさで顔を赤くするが、箸を渡された各々も箸を眺めていたので、アンナの反応は誰にも気付かれなかったのが不幸中の幸いであった。
扉の外から大きな咳払いが聞こえた後にノックをされ、キアラの親父が現れた。
「わっはっは! どうも入るタイミングが難しかったよ! ――これはこれはミミカ様! 狭い部屋で申し訳ございませんな」
「とんでもございません! 勝手に押し掛けたのは私達の方です!」
「テオリス家の方が来られていると聞いた時は驚きました……申し遅れました。私はコール商会代表のモンド・コールと申します。いつもうちの香辛料を購入頂き誠にありがとうございます」
キアラの親父改め、モンドは恭しく頭を下げる。
「……ミミカって偉い人やったん?」
「そうだな……ミミカはカエラさんと同じ位は偉いぞ? 呼び捨てにしてたら怒られるかもな」
瑞希はくすくすと笑いながらチサに説明をする。
「……え~……うちそんな人に魔法向けたんや」
「不味いなぁ……チサは捕まっちゃうかもなぁ?」
チサが不安そうにしていると、ドマルが瑞希の頭を軽く叩く。
「止めてあげなって。チサちゃんが可哀想でしょ?」
「……ドマル、うち捕まらへん?」
「大丈夫だよ。ミミカ様はミズキと仲が良いからね」
ドマルはにっこりと微笑み、チサはほっと胸を撫でおろす。
「ミミカの噂は聞いてるんな! ミズキの弟子で私の姉弟子なんな! ミズキからは甘い物を作るのが上手いって聞いてるんな!」
お次はキアラがミミカを呼び捨てにしてしまった事にモンドが冷や汗を流す。
しかし、ミミカがキアラの言葉に引っかかったのは別の部分だ。
ミミカはキアラの手を掴み、目を合わせ確認する。
「本当に!? ミズキ様がそう言ってたの!?」
「言ってたんな!」
「ミミカ様が作ったふるーつさんども旅の途中で褒めてましたよ!」
「そうそう! 私達も食べま……したけど、すっげぇ美味かった! ……です!」
「本当に!? 良かったぁ!」
ミミカはきゃっきゃと喜び、先程迄の雰囲気は消し飛んでいた。
「あの~……ミミカ様?」
モンドの言葉にハッと我に返ったミミカは一つ咳払いをして、返事をする。
「申し訳ございません。勝手に押し掛けてからの唐突な願いなのですが、本日私達を泊めて頂く事は可能でしょうか?」
「え、えぇ、それは構わないのですが……本当にうちで宜しいのですか? 後で叱られたりとかしませんか?」
「大丈夫です! お父様は何とかします!」
「じゃあミズキ達も泊るんな!?」
「そうさせて貰えると助かるな!」
「良いんな! 部屋ならいっぱいあるんな! シャオ、今日は一緒に寝るんな! 旅の話を聞かせて欲しいんな!」
「くふふ。構わんのじゃ!」
「私も! 私も聞きたい!」
「じゃあサラン殿は私達と同じ部屋にして貰いましょうか?」
「き、貴族の方と同じ部屋に私が!?」
「なら大人組と子供組で部屋を分けるんな! ミズキ達はどの部屋にするんな?」
じっと視線を集める瑞希とドマルはモンドに助けを求めて視線を流す。
「わっはっは! 今夜は賑やかになりますな! ミズキさんとドマルさんは私の晩酌の相手をしてくれるかな?」
「「喜んでっ!」」
こうして、瑞希の教え子達が集まった晩餐が始まろうとしているのであった――。
いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。
本当に作者が更新する励みになっています。
宜しければ感想、レビュー、下部にある【小説家になろう勝手にランキング】ボタン等も頂けると嬉しいです!