帰り道 ミミカの合流
ガタゴトと揺れる馬車の御者席からは、前を行く馬車の後部座席でシャオが髪を梳かされながら気持ち良さそうにしている横顔が見え、ミミカはその光景を羨ましそうに眺めていた。
「ミズキ様のバカ~! 折角迎えに来たのに~!」
「そりゃ連絡も無しに来たらこうなるっすよ……」
「それにミミカ様がミズキ殿を怒らせましたし……」
「だってだって~……あんな光景を見たらしょうがないじゃない……」
「確かに何事かとは思ったっすね」
「それにあの娘も魔法使いとは驚きましたね」
「それもまたくーやーしーいー!」
ミミカは地団太を踏む。
「それに……ミズキ様とドマル様とシャオちゃんの三人旅だと思ってたのに……」
ミミカは愚痴をこぼしながらいじけ始める。
「「はぁ……」」
アンナとジーニャはミミカの姿を見て溜め息を溢すのであった――。
◇◇◇
時は少し先のぼり、タープル村でシームカ料理を配り終えた瑞希はオラグにペムイ等の事情を説明した。
オラグ曰く、漁業以外にも仕事があるのは好ましいらしく、シームカと言えど魔物には変わりがないため、瑞希達の推測通り漁に出るのを恐れる者も少なからずいるらしい。
ペムイ事業が村で出来るのであれば願ったり叶ったりという訳だ。
「ではバランさんにはその様にお伝えしておきます。その内マリジット地方からもペムイの作り方を教えて貰える使者の方も来られると思いますので、来年からは美味しいペムイを宜しくお願いします!」
「本当に何から何まで世話をして頂きありがとうございます! 今日の料理でペムイの美味さもわかって貰えたと思うので、村長には必ず話を通します! ペムイが出来たら真っ先にミズキさんにお持ちします!」
オラグはペコペコと瑞希に頭を下げ、瑞希達は宿へと戻って行く。
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翌朝、出発直後に村長からもペムイについてお願いをされ、瑞希と握手を交わしている最中、シャオとチサは弟妹達と追いかけっことは名ばかりに、追っかけまわされていた。
「うぬぬぬ! しつこいのじゃ!」
「……この子等の体力すごいわ」
「「「「あははは! 待って~!」」」」
サランは両親と再び別れを告げ、瑞希にも親子共々御礼をしていると、シャオとチサが瑞希の後ろに隠れた。
後から追って来る弟妹達を止めようと、サランが体を張って瑞希の前に立ちはだかったのだが、弟妹達は実の姉に対してなら飛び込んでも良いと判断したのか、サランに飛び掛かった。
「こらー! 止まりなさ……キャー!」
子供と言えど四人がかりの体当たりを止める事など出来ず、サランはそのまま後ろにいる瑞希に倒れ込み、瑞希は寄りかかったサランが怪我をしない様に受け止めた。
「すみませんミズキさん!」
「サランに対しては容赦ないなこいつ等……大丈夫か?」
「大丈夫で……。あ、あの……後ろにいる方々はミズキさんのお知り合いの方ですか?」
「後ろ?」
瑞希がそのままの姿で振り返ると、馬車から降りたミミカがニコニコとした笑顔のまま、無言の圧力を放出しており、アンナとジーニャも頭を抱えていた。
「あれ? 何でミミカ達がここに?」
「ミズキ様? お迎えに上がりました……けど、誰ですかその人は!」
ミミカは瑞希の腕の中に居るサランを見て逆上したのか、ミミカの頭上には顔ぐらいの火球が生まれる。
それを見たミミカ達を知らないチサが焦り、火を消さなければと思ったのか魔力を込める。
「……水、水……魚」
チサは水の固まりより、形をイメージしやすかったのか魚を連想し、金魚の様なヒレの長い魚を浮かべ、ミミカの浮かべた火球に突撃させ蒸発させた。
ミミカもいきなり攻撃されたと思い焦ったのか、詠唱を始める。
「可憐なる妖精よ、我が前に姿を現し……」
「魚さん魚さん、火を流す水を……」
瑞希はため息を溢しながら集中しているミミカに歩み寄りデコピンをかます。
突然の衝撃にミミカはうずくまり、その姿を見てチサも詠唱らしきものを止めるが、魔力は放出された様で、くらりと立ち眩みの様な症状に見舞われる。
「あほっ! 突然なにしてんだ!」
「痛いですっ! ミズキ様こそ人前で何をしてるんですか!?」
ミミカがおでこを両手で抑えながら、不毛な言い争いをしていると、アンナとジーニャが間に入り、言い争いを止める。
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「つまり、ミミカ様は私がミーテルから出した旅の行程予定を見て、今日辺りにタープル村に寄ると思って迎えに来てくれたんだ?」
ドマルがアンナから事情を聞き、確認をする。
「はい。村に着いたら……その……ミズキ殿がその女性と抱き合ってるのを見て……ミミカ様が……」
「あははは……抱き合ってた訳ではないんだけどね……」
オラグを始め、瑞希を送ろうとしていた村人達は、連絡も無しに突然現れたテオリス家の娘であるミミカに驚き固まっている。
「うちらから見たらそう見えたんすよ……」
「ん~……とりあえずミズキ、もう許してあげなよ?」
「そりゃ迎えに来てもらえたのはありがたいけど、魔法使いが人に向かっていきなり魔法をぶっ放そうとするな!」
「だって……だってー!」
「だってじゃないだろ? ほら、チサにも謝れって」
ミミカはチラリとチサを見やると、悔しそうにし、ぷいっと顔を背ける。
「私があの子に先に魔法を使われたんです!」
「それはお前がいきなり火球を出すからだろ……? 知らない奴が攻撃しそうになってたら迎撃もするだろ?」
「……それでもミズキ様とずっと旅をしてたなんてずるいです!」
「それとこれとは話が違うだろ……」
ミミカは瑞希のお叱りに釈然としない気持ちになり、駄々をこねる。
そんな中シャオはチサの肩に手を置き、チサを褒める。
「良くやったのじゃ! 何故あの魚を想像したのじゃ?」
「……何でやろ? 水と言えば魚。普段から食べてたからかな?」
「想像しやすいという事も大事じゃからな。まずはあの魚をイメージしていくのじゃ。詠唱はどういう言葉にしたのじゃ?」
「……魚さんにお願いしてみた」
「多少は魔力の放出が抑えられておったのじゃ。わし等みたいに魔法を使うのはまだ無理じゃろうから、今は短くても良いから詠唱をするのじゃな。でないと今みたいに魔力が欠乏して倒れるのじゃ」
「……にへへ」
チサはシャオに褒められたのが嬉しかったのか、恥ずかしそうに笑顔を見せた。
瑞希もチサの成長に繋がったならそれはそれで良いかと怒りを鎮める。
「はぁ……すみませんオラグさん。お騒がせしまして……」
「い、いえいえ! それよりミズキさん……テオリス様に何てことを……大丈夫なのですか?」
「あれはミミカが悪いから仕方ないですよ。このまま一緒に帰りますので、また何かあれば連絡します」
「(ミズキさんはどういう人なんだ……?)」
瑞希は村人達に頭を下げ、馬車に乗り込む。
「あ、あのミズキ殿? こちらの馬車に乗らないのですか?」
「モモもいるからこっちに乗るよ。手紙を見て来たならわかってると思うけど、俺達はこの後ウォルカにも寄って、一泊するからな?」
「キュー!」
モモは嬉しそうに一鳴きする。
「それはわかってるっす。けど、宿とかはどうするんすか?」
「あ~……「キアラの所に泊れば良いのじゃ!」」
「……誰なん?」
「ミズキの弟子じゃよ。美味いかれーを作る奴なのじゃ」
「私の雇い主なんだよ」
「……サラン姉の……会いたい!」
「まぁ元々サランを送らなきゃならなかったし、シャオには約束の物も作らなきゃならないしな」
「くふふふ。待ちに待ったお子様ランチなのじゃ!」
シャオが嬉しそうに念願の料理の名前を口にすると、それを聞いたミミカが手を上げる。
「ミズキ様! 私も食べたいですっ!」
「……ミミカから反省が感じられたらな?」
「そんな~……」
瑞希の口ぶりにアンナとジーニャは内心焦っていた。
ミミカに巻き込まれ自分達も瑞希の料理を食べれないのではないかと。
「アンナとジーニャには作ってやるから安心しろよ?」
「それなら良かったっす!」
「えっと……」
「ミズキ様ー!」
瑞希は久々に会った三人と共に、ウォルカで待つキアラの元に馬車を進めるのであった――。
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