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帰り道 シームカ丼

 瑞希はオラグから七輪の様な簡易の焼き台を借りると、それを手に外に出て炭を熾す。

 後ろからついて来たオラグ夫妻は疑問を浮かべる。


「何故厨房で焼かないんですか?」


「さっき作ったタレをつけながら焼くと煙も上がりますし……ちょっと試したい事もありますので! この焼き台はまだありますか?」


「え、えぇ、持って来ましょうか?」


「お願いします! 良かったら一緒に焼いて行きましょう! 奥様はさっき教えた方法でペムイをもう一度炊いて貰っても良いですか?」


「任しといて!」


 瑞希はシャオとチサと一緒に炭を熾していると、よろよろとサランが現れる。


「ず、ずるいですよ……私に押し付けて……」


「いやだって、サランの弟妹だろ?」


「……サラン姉は愛されてる」


「良くやったのじゃ!」


「もっと違う事で褒めて下さいよ!」


「ところでその弟妹達はどこに行ったんだ?」


「もうっ! 他人事だと思って! 妹達はお腹が空いたって母に突撃しに行きましたっ!」


「そっかそっか! じゃあ早速焼いて行こうか!」


「一番最初は私に食べさせて下さいね!?」


「わかってるって!」


 瑞希はオラグの捌いたシームカを焼き台に乗せ焼いて行く。

 瑞希が焼き始めた所でオラグが戻って来たので、シャオとチサに炭熾しをしてもらい、瑞希は下焼きをしたシームカを壺に入ったタレにどぼんと入れる。


「えぇっ!? 何してるんですか!?」


「こうやってタレを付けたらすぐに抜き出して、もう一度焼いて行くんですよ。サラン、厨房に俺が持ってきた荷物の中に丼茶碗があるから、それに炊いたペムイを入れて持って来てくれ!」


「わかりました~!」


 サランは駆け足で家に戻ると、瑞希は再び焼き台にシームカを乗せ焼いて行く。

 すると、垂れ落ちたタレが炭にかかり、煙と共に香ばしい香りが辺り一面に広がっていく。


「いかんのじゃ! お腹が空いたのじゃ!」


「……匂いだけでわかる。これは美味い奴や」


 その匂いに誘われて、弟妹達も急いでやって来てはぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。

 そんな中、ペムイを入れた丼茶碗と箸、おまけにお玉を持ってサランが戻って来る。


「お主等煩いのじゃ! サランは何でお玉なんぞ持ってきたのじゃ!?」


「丼ならペムイにタレをかけるかと思ったんですけど……」


 瑞希はサランから丼茶碗とお玉を受け取る。


「正解っ! すっかり忘れてた。じゃあこのお玉でこのタレを軽くかけて……シームカの蒲焼きを乗せてっと……ほら、これが鰻丼改め、シームカ丼だ!」


 瑞希はサランに丼を手渡すと、サランはごくりと唾を飲み込む。


「い、頂きますっ!」


 サランは箸を持ち直し、シームカに箸を入れると、表面はパリッと焼けているのにふっくらとして柔らかな手応えを感じながら切り分け、ペムイと一緒に切り分けた身を頬張る。

 ふわふわとした身に、シームカの脂の旨味と焦げたジャルの香ばしさが口に広がり、そこにペムイのもちもちとした食感と甘みが加わり、驚きのまま飲み込んでしまう。

 サランは黙ったまま二口目を口に運び、今度はゆっくりと咀嚼し、シームカ丼の味を楽しむ。


「……ミズキさん……これ、店で食べるならいくらぐらいですか?」


「売値か? ん~……シームカは安くても砂糖とジャルがどうしても高くなりそうだからな……売るとしたら三千コル以上になるんじゃないか?」


「買いますっ! だからもっと作って下さい! 私はその値段でも絶対食べたいです!」


「わははは! 美味いだろ?」


「美味しいです! ミズキさんが作った料理は色々食べましたけど、一番好きです!」


 サランは瑞希にそう断言すると、そのまま丼を食べ進めて行く。


「お姉ちゃんばっかりずるい~!」


「兄ちゃん! 俺のも~!」


「私も~!」


「ぼ、僕もっ!」


「じゃあどんどん焼いて行くから、お前等は母ちゃんからペムイを入れた丼茶碗を持ってこい! 早く持って来た奴から順番な!」


 瑞希が言い終わる前に既にシャオとチサが走って厨房へと向かう。


「次はわしのなのじゃ!」


「……ペムイ料理はうちからや」


「あいつらなぁ……」


 出遅れた弟妹達も慌てて走って行くのだが、オラグ迄ペムイを取りに行こうとしていた。


「オラグさん? 貴方は一緒に焼くんですよ?」


「そんな殺生な……」


 にっこりと微笑む瑞希に行く手を阻まれたオラグは、諦めながらシームカを焼いて行く。

 すぐに戻って来たシャオとチサは瑞希の前に丼を突き出し、シームカ丼を催促する。


「わしの方が早かったのじゃ!」


「……絶対にうちや」


「喧嘩すんなあほ。今三匹焼いてるから同時に出来るって」


 瑞希とオラグはせっせとシームカを焼き、弟妹達が遅れてやって来る頃には、ざわざわと匂いに釣られて村人達も集まって来る。

 その中には遅れてやって来たドマルも居た。


「ミズキ! すごい良い香りがするから何かと思えば、外で調理してたの?」


「おう! シームカの蒲焼を作ってたんだ! それより茶碗は持って来てくれたか?」


「たっぷり持ってきたけどどうするの?」


「そりゃあ集まって貰って食べさせないのは悪いだろ?」


 瑞希が悪そうな顔で発した言葉に村人達がざわざわとし始める。


「オラグさん、シームカは買いますから村の方々にも食べて貰っても良いですか?」


「金なんか要らないですが、まさかこの人数分焼くんですか?」


「まぁまぁ……ちょっとずつ配るだけですから……シャオ、チサ、食べ終わったら手伝えよ?」


「「はぁい(なのじゃ)!」」


 二人は嬉々としてシームカ丼を頬張り、辺りに広がる香しい香りと、目の前で幸せそうに食べる美少女達を見ると、村人達もごくりと唾を飲み込む。


「すいませーん! 今からシームカの料理を御馳走するので、この焼き台を持ってる人は貸して貰えませんか? その方が皆が早く食べれるのでー!」


 瑞希の言葉に村人達が急いで家に戻り、瑞希はその隙にシームカを次々に捌いて行く。


「サラン」


「はいっ! 食べ終わったのでお母さんとペムイを炊いてきます!」


「ちゃんと後でお代わりを作ってやるから頑張ろうな!」


「はいっ!」


「あの~……私も食べたいのですが……」


「俺達は我慢しましょう! その代わりとっておきの食べ方で御馳走しますから」


 オラグは瑞希の言葉にやる気を漲らせ、瑞希と共にシームカを捌いて行く。

 弟妹達に丼を手渡すと各々歓声を上げながらシームカ丼を頬張る。

 少しして、家に戻った村人達は七輪の様な焼き台を手にして戻って来る。


「よし、じゃあシャオとチサは手分けして炭を熾してくれ」


「わかったのじゃ!」


「ドマルは捌いたシームカの串打ちを頼んで良いか?」


「了解。後でちゃんと食べさせてよ?」


「わかってるって。がきんちょ達も食べ終わったら手伝えよ~?」


「「「「はぁい!」」」」


 瑞希が指示を出していると、サランが鍋を抱えて戻って来た。


「どうせならもうこっちでペムイを炊きましょう! そっちの方が早いです!」


「良い提案だっ! シャオ! ちょっと手を貸してくれ!」


 シャオは瑞希の元に駆け寄ると、瑞希はシャオと手を繋ぎ、足元の土に触れ、土で出来た簡易的な竃を作り出す。

 サランも慣れたもので、そこに持ってきた大きな鍋を乗せると、シャオが魔法で火を点ける。

 何度も野営をしてきたので、手慣れたものだ。


「水加減もばっちりだ! 成長したなぁサラン」


「爺やさんに鍛えられましたからね! じゃあ私は先に炊いてたペムイを茶碗に盛り付けて行きますね?」


「頼む! そろそろ他の台も焼き始められるかな……シャオ、チサ、焼き方は見てたよな? 何台か任せても良いか?」


「くふふ。任せるのじゃ! わしが美味く焼いてやるのじゃ!」


「……任せて」


「本当に頼もしい限りだよ! じゃあ今からどんどん焼いて行くので順番に配りますね~!」


 瑞希達は一丸となってシームカ丼を作り、配って行った。

 シームカ丼を食べた村人達は恍惚の表情を浮かべ、この料理はどこで食べられるのかと瑞希に詰め寄ったが、瑞希は後日オラグから説明すると伝え、村人達はその場を後にした。

 瑞希達はある程度の後片付けを終え、残った焼き台で自分達の丼を作ろうとシームカを焼いている。


「いや~大盛況だったな! 久々に現場を思い出したよ!」


「ミズキさん……早く私達にもシームカ丼を食べさせて下さい」


「わかってますって!」


 瑞希は丼に少しだけペムイを入れる。


「大盛りでお願いします!」


「まだまだ続きがあるんですよ!」


 瑞希はペムイを入れた丼に蒲焼を乗せ、更にペムイを重ねて、タレをかけ、その上に再び蒲焼を乗せる。


「はい、お待たせしました。シームカのまむしです。本来は上には乗せないんですけど、御褒美って事で!」


 オラグ夫婦は瑞希から丼を受け取ると、匙を手に、念願のシームカ丼をかき込む。


「おほー! 甘辛いタレと、シームカが香ばしくて美味しいですね! ペムイも初めて食べましたけど、シームカと合ってて美味いっ!」


「本当に美味しいわっ!」


 オラグ夫婦は丼を食べ進めるとペムイの間からもう一枚の蒲焼が姿を現す。

 ペムイの中でふっくらと蒸された蒲焼は、ペムイと馴染んでおりまた違う食感を生み出していた。


「これは何故ペムイの間に挟むんですか?」


「由来は諸説あるんですが、飯、つまりペムイの間で蒸されるからまんまむし。その言葉が略されてまむしと呼ばれたりしてたんですよ。熱いペムイに蒲焼が挟まれると冷めにくいですし、蒸されて柔らかくなって馴染むでしょ? 今回は両方味わって貰うために上にも乗せて豪勢にしましたけどね」


 オラグ夫婦に説明をしている瑞希の服を二人の少女が引っ張る。


「わしにも特別な丼を作って欲しいのじゃ!」


「……うちにも」


「私も食べたいです!」


「そうだな……じゃあもう一仕事しようか! チサは荷物の中にある出汁を温めてくれるか? シャオは自然薯の皮を剥いて擦り下ろしてくれ。サランは卵とスズの葉を持って来てくれるか?」


 瑞希は指示を出し、三枚のシームカを焼いていると、サランが卵を持って戻って来る。

 サランが持ってきた卵をボウルに割り、塩を少し加え混ぜると、土で作った竃に鉄鍋を乗せ、薄く焼いて行く。

 焼きあがった卵と、スズの葉を細く切り、焼き上がったシームカも細かく刻みペムイを入れた丼に乗せる。


「食べやすくするために細かくするんですか?」


「それもあるけど……チサ、出汁は温まったか?」


「……大丈夫」


「こっちも擦り下ろせたのじゃ!」


「じゃあ約束通り、シームカ丼とはまた違った食べ方の、ひつまぶしだ! と言っても薬味が少し違うけどな!」


 瑞希は三人の前に細かく刻んだシームカを乗せた丼を手渡す。


「そのまま食べても良いし、錦糸卵を乗せたり、スズの葉を乗せたり、とろろをかけたりしても良い。最後は三分の一ぐらい残しておいて、チサが温めてくれた出汁をかけて茶漬けにして食べてくれ」


 瑞希はそう伝えると、再び卵を割って行く。


「じゃあ、わしは卵を乗せるのじゃ!」


「……うちはとろろをかける」


「私はスズの葉を乗せようかな」


 三者三様に薬味を乗せひつまぶしを頬張る。


「味が優しくなって美味いのじゃ!」


「……とろろもシームカの味の濃さと合ってて美味しい」


「スズの葉は風味が変わってさっぱりしますね!」


 三人が薬味を変え、味の変化を楽しんでいると、瑞希が弟妹達に声を掛ける。


「お~い、がきんちょ達、これならまだ食べれるだろ?」


「「「「なになにー!?」」」」


 瑞希はシームカを刻んで、出汁を入れた卵で包んだう巻きを差し出す。

 弟妹達は瑞希から皿を受け取ると我先にと口に運ぶ。


「「「「美味しいぃ!」」」」


「わははは! 子供は卵料理大好きだな! シャオ達も食べるか?」


「「「もちろん(じゃ)!」」」


 瑞希は結局人数分のう巻きを作り終え、漸く自分とドマルの分の丼を作り、ドマルと並んで腰かける。


「ほい、待たせて悪かったな」


「あはは。まずはお客さんからだからね、仕方ないよ」


「まぁ客じゃない奴から先に食べてたけどな」


 二人は手を合わせ、同時に食事の言葉を発する。


「「頂きます!」」


 瑞希は久々のうな丼の味に舌鼓を打つのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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